第11話

命が終わるまでにやることが増えた。初めて話したクラスメイトから借りた小説を読むこと。これは最後の小説になる。穂苅君が救われたという一冊の本は、僕になんらかの影響を与えてくれるだろうか。


自分の命を終わらせてと願った、いわば罪人の僕にとっては、ずしりと聖書のように重く感じてしまう。


「命が終わるって、どんな感じなんだろう?」


少し距離を開けてソファに並んで座る祈さんに唐突な質問を投げかけた。


彼女は深夜番組でやっているアニマル特集に釘付けでこっちを見なかったが、無視せずしっかりと答えてくれた。


「私も死んだことがないからわからない。叶崎君は6月28日午前0時に眠るように最期を迎える希望だったね」


「祈さんもその時消滅するの?」


「そうだよ」


子犬の群れが出演者に群がっている。和む光景に祈さんの口元が緩んだ。自分が消えて無くなることがさも当たり前で、これっぽっちも問題視していない。


恐ろしくないのか、僕の都合で生まれて、面倒を見終えたら消えてしまう運命なのに。


「叶崎君、最初に会った時より顔色がいいみたい」


「そうかな?」


確かに健康的に3食食べているし、自分の身なりを気にする余裕はできていた。女の子はやって来て、恩師は心配して来てくれて、クラスメイトからは大切な本を借りた。


怖いくらい上手くいっている。僕は今調子に乗っていて、限られた残り少ない時間何でもできるんじゃないかと気持ちが大きくなっている。


現状、特別な人にしか体験できないことを体験している。


だからと言って世界は僕を中心に回っている! と傲慢になるほどではないけれど。


ただ、悩みはなかなか眠れないことだ。祈さんがいることには慣れたからこれは彼女のせいじゃない。余計なことを考えて落ち着きがなく、何度も寝返りを打って、朝方やっと眠れるが3時間ほどで目が覚める。眠れても夢を見るから睡眠が浅く、脳と体が疲れるばかりで辛い。


今夜はこの眠れない時間を利用して穂苅君から借りた小説を読むことにした。すると、不思議なことにいつの間にか眠っていて翌朝を迎えていた。

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