第3話
藍は多分、忘れられない子がいる。
そしてそれは、恐らく───春ちゃんなんじゃないかと。
人の波をボーッと眺めて考えていると、「…ひかりっ!」とどこからか声が聞こえた気がして。
周りを少し見渡して視線を向けると、そこにいたのは先程、藍に喧嘩っ早いなどとテキトーなことを言われていた見知った顔がいて……。
「薫くん……」
人の波を掻き分けて、私のところまで来た薫くんが不思議そうな顔で見ていて。
「どうしたの?ひとり?」
聞きながら周りを見るので、それに頷く。
「もしかして、はぐれた?」
そう聞かれるので首を振る。
「ううん、そうじゃなくて……」
そこまで言うと、薫くんが少しバツの悪そうな顔をして。
「……まさか、喧嘩?」
言いづらそうにわたしの顔を見るので、それにも首を振る。
「ううん、違うよ。急用ができたんだって」
わたしがありのままを話すと、ホッとした表情で頷く薫くんが「そっか、なんだ……よかった」と小さくつぶやく。
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