機械世界を変えるもの達
―――色々あって捕らえられたゴンゾウとアルファはマルシアの前で縛られていた。
「⋯⋯ちょっと縄を緩めてくれないかのぉ?この体制は腰が痛くて⋯⋯」
「⋯⋯マルシア!目を覚ますのだ!人間の心を支配するなどやるべきでは無い!」
縛られた2人はマルシアに必死の弁論をする。
「⋯⋯この老人は知りませんがアルファ、あなたは私がこの手で始末します!
⋯⋯本当によくノコノコと姿を現しましたね」
マルシアの表情は怒りに満ちている。
それも当然の事であり、マルシアもまたマッドにより父の死因はアルファ達、吸血鬼によるものだと話を聞いていたのだ。
そんな父の仇を目の前にマルシアは200年の間に一度も利用することのなかった処刑用の道具を手にしていた。
「⋯⋯やめるんしゃ!お主はアルファの事を勘違いしておる!」
「⋯⋯可哀想に、名も知らぬ老人、貴方は
事情を知っているゴンゾウは何とか弁明しようとするがマルシアは聞く耳を持たない。
「民を救うだと?マルシア、ではなぜお前は今も尚、民の心を支配しているのだ!
本当に民の事を思うのなら終わりなき労働、そして永遠の命から解放するべきでは無いのか!」
「―――っ、何を知ったような事を!貴方さえ⋯⋯吸血鬼さえ居なければ命を落とす心配もなければ不老不死となる必要も無かったのに⋯⋯!!」
マルシアはマッドに人間が不老不死となった偽りの経緯を聞いていた。
本来は欲に塗れたマッドの狂気じみたその行動故の不老不死だが、『父の時のように吸血鬼が手を出した時に誰も死ぬことがないようにする』というのがマルシアのにとっての理由なのだ。
「そうです、吸血鬼の言葉などに耳を傾ける必要はありません⋯⋯」
そんな言葉と共に姿を現したのはマッドだった。
「マッド貴様!⋯⋯マルシアに何を植えた?」
「ははは、アルファ殿は面白いことを言いますね⋯⋯」
国民の様に直接脳には植えなくともマッドはねじ曲がった思想、間違った歴史をマルシアの意識に植え付けることで同じように操り人形としている。
「おおぉ⋯⋯腰が痛いのぉ⋯⋯」
「ふっ、貴方はまだ機械化していないようですね⋯⋯ですが機械となればそんな腰の痛み無くなりますよ?」
ゴンゾウに甘い誘惑が襲いかかる!
「なんじゃと!⋯⋯うぬぬ、だがワシは決して屈しないんじゃからな!」
「見たところ貴方は次期に命を落とすでしょう⋯⋯ですが!機械となればその心配から解放されるのです!」
「貴様ぁ⋯⋯!」
マッドの言葉にアルファは怒りを燃え上がらせる。
「⋯⋯永遠の命?腰の痛みがないだけならまだ良かったが不老不死になるじゃったな⋯⋯ならこのままの方がマシじゃな!」
「⋯⋯は?老人よ、ソナタは死が怖くないのか?機械化すれば死ぬことはないのだぞ?」
マルシアには分からなかった。
死に直面したこともなければ死の恐怖を感じることを200年の時を生きてきて今まで一度も感じたことは無かったがそれは不老不死故の思考であり、目の前にいるのは老衰した老人。
そんな老人の思考を理解することが出来なかった。
「だって永遠に生きるなんてなぁ⋯⋯そんなずっと生きていても退屈じゃろうに⋯⋯70年でもこんなに退屈なんじゃ⋯⋯永遠なんてワシには耐えられぬ」
「はっはっはっ、それでこそ人間という物だ!どうだマルシア⋯⋯お前は今までマッド以外の人間の言葉を聞いたことがなかっただろうが、これが人間の、民の考えだ!」
ゴンゾウの言葉にアルファは笑みを浮かべるとそう反論した。
「⋯⋯うぅ、だが!」
「それに民は200年もの間ずっと休むことなく労働をしている⋯⋯マルシア、お前は本当に今の状況が民の為だと思うのか?心を支配することが民の為だと」
「ダメです王よ!このモノの言葉に耳を傾けてはなりません!こいつの言葉には催眠効果が―――」
マルシアが心を動かされそうになったことでマッドは焦りの表情を見せるが⋯⋯
「そうか!マッド貴様は今までもそのように自分に都合のいい事ばかり言ってマルシアを言いくるめていたのか」
「やめろ!マッドを悪く言うな!」
育ての親を否定された事に腹を立てたアルファは半狂乱で否定する。
「⋯⋯マルシア、貴様の父である王の本当の死因を知りたくはないか?」
「―――は?お前らが殺したのだろう?」
怒涛の事実に心を揺らがせるマルシアを見てチャンスと見たアルファはついに口にした―――
「お前の父はマッドの作った不老不死という仕組みに殺されたのだ」
「⋯⋯嘘だ!お前の言葉なんて信じるものか!」
間違いなくマルシアは揺らいでいる!あと一押し。
「なぁマルシア、なぜこの国は闇に閉ざされていると思う」
「知らん!元からそうだっただけの話だろう!」
「違う、昔は太陽が国を、人を照らし元気を与えてくれた⋯⋯そして今とは違い人口の花でなく自然の花が当たりを彩っていたのだ⋯⋯」
「⋯⋯知らない⋯⋯知らないよ、だってマッドはそんな事話してくれなかった⋯⋯」
マッドは操り人形とするために必要な言葉をかけるだけで以前の世界の事は隠していた。そして恨むべき相手の言葉なのにその内容は何故か信じる事ができた。
―――それは記憶にはなくとも赤子の頃に王によって本物の花を、太陽を見たことがあったから⋯⋯
「⋯⋯ねぇマッド、私はマッドを信じていいんだよね?」
力を失うようにその場で崩れ落ちたマルシアはマッドを見つめた。
⋯⋯その瞳からは涙が零れているように見えるが機械の体に涙という不要な機能は存在しない。
涙が見えたのは今にもマルシアが泣き出しそうにしていたからだ。
「⋯⋯よーしよし、マルシア⋯⋯だったか?いい子だからそんな顔をするんじゃない」
崩れ落ちたマルシアの頭に手を置き優しく撫でたのはマッドではなくゴンゾウであった。
200歳の自分よりも生きた相手がゴンゾウの人生で初めて頭を撫でた子供となった。
その手つきはたどたどしいものたが⋯⋯目の前にいる
「やめて⋯⋯こんなことマッドにもされたことないのに⋯⋯やめてよ、やめてよ⋯⋯」
そんなことを言うがマルシアは縛られた老人の手を退けることはせず、そして初めて感じる感覚に唯一人間のままである心のどこかで安心していた―――
「くっ!お前も失敗作か!⋯⋯ならばこいディスタ!」
「なに、ディスタだと!」
唐突にマッドにより呼ばれたかつての友の名にアルファは反応する。
「⋯⋯排除する、排除、排除、排除」
久しぶりに見たマッドの姿にかつてのような明るさなど無い。
ただマッドの言われた通りに行動するだけの機械だ。
「ディスタ!この邪魔者を殺すのだ!」
そう口にした次の瞬間、首が飛んだ―――マッドの。
「ぐっ!ディスタ貴様ぁ何をして⋯⋯」
だが機械となったディスタは返事をしない。
ただ分かることはディスタにとってはマッドこそが邪魔者だったということだ。
「はっはっはっ!だが私も機械の体!たとえ首を切られたとて死ぬことはない!」
そう、マッド含め民は皆死ぬことは無い⋯⋯もちろんゴンゾウを助ける時に命を落としたように見えたあの兵士もデュラハンのようにはなったが生きている。
「⋯⋯我はたとえ廃人となったとしても元が人間である以上、完全に殺めることはしなかった、が貴様に限ってはもう許すことはできない」
アルファはそう口にしたかと思えば先程まで自分を縛っていた縄を破った。
「マッド⋯⋯アロン・アルファの名の元に貴様を我の眷属とする!」
「な、なにぃ!だがそれがどうした!私を殺すことは⋯⋯」
「吸血鬼はその眷属に命令をすることが出来るのだ⋯⋯さて、アロン・アルファの名の元に命令しよう!
―――マッド、自害しろ」
そう⋯⋯不老不死になる段階で吸血鬼の細胞を採取した事で形式上ではその始祖となるアルファには眷属とする条件が揃っていた。
―――そして不老不死であるマッドが自害を命令されたと言うことは永遠に自害し続けるマシーンの完成ということだ。
「これで終わったな⋯⋯」
「そうじゃな」
「そんな、マッド⋯⋯私はどうしたら」
今まで操り人形となっていたが故にマルシアは自分1人では何も出来ない⋯⋯
「⋯⋯マルシア、共に異世界に行かないか?」
「⋯⋯異世界?」
「あぁ、ここに海に潜ることの出来る機械があるはずだ、それを使えば平和な世界⋯⋯ゴンゾウの元いた世界に行くことが出来る」
「海に潜る機械⋯⋯?飛行艦のことか?」
「多分それだ」
海に潜れて空も飛べる機械、飛行艦は存在した。これでゴンゾウも元の世界に戻ることができる。
「おぉ!これで何とか餓死せずに済むわい」
「⋯⋯でも私は行かない、民を捨てることなんてできないから」
「確かにそうだな⋯⋯では我と共にこの世界を元に戻そう!」
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