これはO型吸血鬼だ

「⋯⋯ここはどこじゃぁぁぁぁあーーー」


飛行すること何分か、ゴンゾウは地上から30m程の高さにある空中に浮かぶ城の中にいた。


「うるさいぞ人間、ここは天空の館⋯⋯我が先祖より代々引き継がれし吸血鬼の館だ」


巨大な男は淡々とそう呟くがゴンゾウには理解出来ない。

なぜこんな状況になっているのか、どういう理屈でこの家は浮いているのか、それ以前に目の前に立つ男は誰なのか。


「お主はなんなのじゃ!まず誰なのか名を名乗れ!」


余りの状況に逆に高圧的態度となったゴンゾウがそんなことをいう。


「⋯⋯我はソナタに名乗っていなかったか?それはすまなかった。我が名はアロン・アルファ吸血鬼最後の生き残りだ」

「⋯⋯吸血鬼じゃと?まさかワシを喰うのか!?」


普段のゴンゾウであれば巨大な男改め、アルファの吸血鬼という言葉を信じなかったであろうが状況が状況のために簡単に受け入れてしまった。


「安心しろ、我らは人間に友好的だ。現にかつては人間と共に共存していたのだからな」

「だがお主は⋯⋯先程人間を殺しておったでは無いか」


そう、アルファは1人の男の首を吹き飛ばしていた。


「⋯⋯あれは人間などでは無い。人間だったもの⋯⋯我はあれを心を廃棄された人間、略して廃人と呼んでいる」

「廃人⋯⋯訳がわからん」

「あれは人ですらない。ただの機械だ。その証拠に血が出ていなかったであろう⋯⋯」


そう、あの時に首を飛ばしたにも関わらず男は血を1滴も流していなかった。


「確かにおかしいのぉ⋯⋯なぁアルファとやら、一体この世界はなんなのじゃ?」

「⋯⋯まさか人間、お前はこの世界の者ですらないと言うのか?」

「人間では分かりにくい!ゴンゾウ呼べい」

「ふむ⋯⋯そうか、それならば久しぶりに人間の反応を感じ取れたのも納得できる」


アルファは1人で納得したかのような仕草を見せる。


「人間⋯⋯いや、ゴンゾウお前に頼みがある」

「⋯⋯?」

「廃人となった者を救うのを手伝って欲しいのだ」


アルファは真剣な表情となるとゴンゾウに頭を下げてそう告げた。


「⋯⋯その前にまずその廃人とやらがなんなのかを教えてくれぬか?それと掃除をしてもいいかの?」


ゴンゾウは真剣に話すアルファを見て承諾しようという考えのもと、まずは話を聞くことにした。そして掃除をしたいことも告げた。

理由は単純、とにかく汚い。

部屋に置かれた小物などが何十年、下手すれば何百年と放置されていたのではないかという程に埃まみれなのだ。

一応1人で暮らしていた時もゴンゾウは埃を吸うのは良くないという理由で最低限の掃除はしていたのでこの状況に我慢ならなかった。


「⋯⋯我は掃除をしない性分だからな⋯⋯以前に掃除したのはベータ姉さんがいた頃―――111年前か」


111年前⋯⋯その言葉に耳を疑いたくもなるがゴンゾウに吸血鬼の基準なんてものは分からないので触れないことにした。

血液型でO型は掃除嫌いなんて話はあるが、仮に吸血鬼にも同じく血液型があるのならきっとアルファは偏見だがO型の可能性が高そうだ。


「ところでベータとはお主の姉弟なのか?」

「あぁ、111年前、1500歳の短命で死んでしまったのだ⋯⋯これも人間が太陽を閉ざしたせいで⋯⋯」

「⋯⋯太陽を閉ざしたとは?」


そのワードが気になったゴンゾウは以前住んでいた家のリビングの3倍はあろう部屋を掃除をしながらそんなことを聞く。


「それには最初から話す必要がありそうだ⋯⋯なぜ今のようになったのか全てを―――

あれは今からおよそ200年前、我ら吸血鬼一族がまだ人間と共存していた頃のことだ。

とある研究者が我ら吸血鬼一族の血を採取したのが原因だった。

その研究者は我ら吸血鬼一族の長寿という点に目を付け不老不死の研究という人間⋯いや生物の禁忌に触れた。

そして研究の末、不老不死の実験を成功させてしまったのだ。

だが、この時点では1つのとある欠点があった。

吸血鬼に備わる太陽に浴びると灰になるという能力が⋯⋯まぁ、その太陽が存在しなければ自然は破壊されるのことに繋がる訳だが。⋯⋯この自然破壊が我らの寿命を縮めることになった原因だ。今この世界に満ちる 人口酸素は人間に対しての害は無くとも植物と吸血鬼には合わなくてな」


「⋯⋯いや待て、なぜ人口酸素などという物がある?不老不死ならば酸素も必要無いのではないのか?」


ふと湧いた疑問をぶつける


「まぁ待て、それも時期に分かる。

不老不死についての話に戻すが⋯⋯さっきも話した通り最初の段階では欠点があったのだ。太陽を浴びれば灰になるというな。

吸血鬼の細胞を入れるのだからそのような事が起こるのは当たり前であろうに⋯⋯

これによって不老不死という甘言に惑わされまだ試作の段階の物を試した1つ前の王は灰となった。この時点で我々は不老不死を諦めろと言ったが既に戻れぬ段階となった研究者共はあろう事か王の死因を我らに押し付けた。⋯⋯この時点で吸血鬼の細胞の繁殖に成功し用済みだったこともあり我らは用済みとなり偽りの噂話で人間達に糾弾され198年前に人間と直接の関わりを辞めることとなったか⋯⋯

それでも人間の様子を心配した父様や母様は定期的に様子を見に行っていたが。

そしてあれから8年ほどが経った頃に実験は終わりを迎えた。

身体のほとんどを機械とすることでな⋯⋯

今では全ての国民は吸血鬼の細胞を摂取し不死身の肉体を手に入れた後に人間のままでは100%命を落とすような強引な機械化をすることで解決させなのだ。

あいつらは不老不死のために人間すら辞めたのだ⋯⋯まぁそんな国に反乱する物も少なくはなかったが今ではそれも居ない。

―――『I will be slave』奴隷にする呪いによって。

王の側近であり不老不死の実験を始めた張本人は機械の化した脳に『I will be slave』という単語を植え付ける事で国民達を操り人形にしたのだ。

⋯⋯まぁ、これは父様から聞いたことで真偽は不明だがな。

そして次が最後になるが先程不老不死は『完成した』と言ったが1つ、『太陽の克服』のみ出来なかった事で今のように太陽は閉じざされたのだが、現王世代の人間は当時まだ幼く、その状態で不老不死にしては労働力として不便だからと成長するまでの間は人口酸素で補ったのだ。

⋯⋯そして最悪なことに人口酸素が満たされた期間に父上と母上の両方が命を落としたのだが、これをキッカケに我々の毒となると人間にバレて今も尚、我の命を縮めるためにここは人口酸素で満たされているのだ」


「なんと⋯⋯なんと惨たらしい内容じゃ⋯⋯」


アルファの口より語られた余りの内容にゴンゾウもつい掃除をする手が止まってしまう。


「でもそうなるとワシは一体何をすればいいのじゃ?」

「花⋯⋯この世界のほとんどは今や人口物に変わっているが1輪の天然の花がまだあるらしい⋯⋯それをゴンゾウに見つけるのを手伝ってくれ」







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