第16話

「え?ちょっと、増えてない…?」


店員は 、ハンガーから黄色のワンピースを外し、タグなどを確認しながら、バーコードの値札を外していく。


黄色のワンピース。

ラベンダー色のワンピースとカーディガンのセット。

白地にピンクの小さな花柄プリントのパジャマ。


「後、欲しいのある?」


「え?もう、ない、かな」


「んじゃ。買い物終わり」


「は?」


そうして、何故か坂井さんが支払いを始めた。カードでもなく、現金で払っている。私は驚いて坂井さんの腕を掴んで、


「え?いいよ。自分で払うわ」


「いい。払う。大丈夫」


「買ってもらうなんて、そんなつもりで来た訳じゃ」


私がそう言って坂井さんの腕を掴むけれど、構わずに坂井さんは支払いを済ませてしまった。大きな紙バッグを肩に抱えると、坂井さんは私の手を繋いでショップを出て、


「さて。タバコタバコ…」


と言ってキョロキョロして喫煙所を探し始めた。


「なんでそんなに買ってくれたの?何か頼み事があるとか」


「そんな疑うなよ。付き合う直前に、お前の誕生日、過ぎちゃったじゃん。なにも出来なかったから、せめてこれくらいさせろ」

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