第12話

ギロッと坂井さんを睨むと、坂井さんは笑って誤魔化している。この色の服は持っていないけど、坂井さんが気に入ってくれたなら、買おうかな。私はそう思って、そのワンピースを持って、


「試着する。試着室前にいてよ」


と言って坂井さんの腕を掴んで、ショップの奥の試着室コーナーに向かった。結構混み合っているけど、ちょうど一番奥が空いている。私はパンプスを脱いで試着室に上がると、坂井さんが一緒に入ってきそうになって、


「ちょ、ちょっと!こら。何入ろうとしてんの」


と私が振り向いて慌てて言うと、坂井さんはキョトンとして首を傾げた。


「手伝おうかと」


「こんな狭いとこで?!」


「脱がしてあげよう」


ニコッと微笑んで坂井さんが言うと、私は思わず坂井さんを睨みつけて、


「邪・魔!」


と冷たく言い放ち、坂井さんの手前で試着室のカーテンを一気にシャッと閉めた。カーテンの向こうで「チッ」と舌打ちが聞こえる。


プフフっ。


楽しい。


試着室に入ってきちゃったら、何するかわかんないもんね。隙あらば触ろうとしてくるんだから。本当にエロオヤジ。朝も濃厚だったし…。


思い出して、赤面してしまう。


とりあえず、ジャケットを脱いでハンガーにかけると、ブラウス、スカートも脱いでいき、ワンピースを着てみた。モコモコのワンピースは、着てみるとまた可愛らしい。

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