第3話 ネットショッピング

「職業がネットショッピングでした」

「ウケる。聞いたことないし、ユニークであることは確かだけど……それってスマホで事足りるよね」


 そうなのだ。異世界ならまだしもここは現代ファンタジーの世界なんだぞ。

 でも考えてみれば俺は今、スマホも持ってないし便利は便利なんだろうか。


 スキルをイメージすると、ネットで見慣れたショッピングサイトの画面が出てくる。

 既にアカウントも作成されているようで俺の名前が表示されていた。

 水を検索してみると、普通に出てきた。基本は箱買いなので、試しに水を購入しようとするがお金がないんだった。


【お金、又は魔石を投入して下さい】 


 魔石でもいいんだな。

 うさぴょんの魔石を入れると300円と表示が出て、【OK】【キャンセル】が出てくるので、OKを選択すると300円の表示がされる。

 なんか試しに購入できる物ないかな。割り箸はいけそう。


「割り箸だね」

「はい。即日配送どころか瞬時の配送なので、便利は便利ですね」

「あはは」


 微妙だ! せっかく夏美様に連れてきてもらったのに!


「でもさ、ダンジョンから帰るなら一階から出るか、先に進んで5階ごとに出てくるチェックポイントから帰るかだし、階層が下に行くごとに探索の時間もかかるから、中間地点で商売すれば儲かるんじゃない?」

「でも転売みたいで気が引けます」

「だってそこまで行くための労力は払ってるんだし! 山小屋でのご飯が高いのと一緒!」

「そういうもんなんですかね?」

「そそ、試しにやってみよ! 狙い目としては7階から8階に下がるとこなんてどうよ!」

「やってみます!」

「それじゃあ、そこまでキャリーしちゃうからついて来て」


【パーティー申請】

 なんか目の前に出てきた。


「これで経験値も入るから、許可しちゃって! レベルが付与されて解放されるんだよ」

「わかりました! お願いします」


 一つ下がるごとに適性のレベルが一つ上がっていく。

 夏美様が10レベルとはいえ、元々はご友人とパーティーを組んでいるらしくお荷物を抱えてのダンジョン攻略は思った以上に進まなかった。俺もせめてまともな武器があれば。


「思ったよりもキッツ!」

「申し訳ありません」

「おじさんに言ったんじゃないから気にしないで、ここからで販売してみてもいいかもね」


 3階から4階に下がる階段の体育館くらいの安全地帯。

 冒険者が数組集まっていて、情報交換や武器の整備を請け負ってる人もちらほら居る。

 道中、運用資金として夏美様に貸してもらった討伐した今日の稼ぎ。魔石を15000円分もらった。


 画用紙とペンを購入して、『物資販売中! お菓子から水からなんでもござれ! お支払いは現金、魔石、電子決済OK !!』ポップな文字で夏美様が描いてくださった。これは一生大事にしよう。

 電子決済はスマホがないため、夏美様に代行してもらうことになる。


 定番の二リットルの水とコーラを箱買いし並べてみると、直ぐに数人の若者が近寄ってきた。


「いくら?」

「コーラも水も300だよん!」

「高くないか?」

「こっちも労力かかってるの! わかるでしょ?」


 夏美様が可愛く怒ると、男も了承してくれたようで魔石などでお支払いをしてくれた。

 水が一本、コーラが二本売れてしまった。数百円の儲けではあるけどこれは塵も積もるかもしれない。


 午後になると客足が増えてくる。

 突然現れる水などに俺の職業やスキルを聞いてくる人もいた。


「冒険者としてはマナー違反! 職業やスキルを簡単に答えるわけないし、詮索はパーティー組んでも失礼なのわかってるよね?」

「ご、ごめん!」


 黒ギャルに怒られて、退散してしまう者がほとんどだった。プリプリする夏美様もまた天使なのである。

 

「軍資金が増えてきたよね? 少し提案があるんだけど」

「夏美様のおっしゃる通りにいたします!」

「おじさん、目がガンキマってるんだけど大丈夫?」


 夏美様が所望されたのは、簡易ガスコンロとレトルトカレーとご飯、鍋に水に紙皿。

 なるほど。周りをみればパンやおにぎりなど携帯できる範囲のものを食べてる人が多い、仮にいたとしてもこんな大荷物を持ってダンジョンに入るのは企業勢や高ランカーくらいとネットで昔読んだことがある。


「うまー! おじさんの分も直ぐに用意できるからね!」

「それ、俺達にも売ってくれるか?」

「味噌汁も作れる?」

「はいはい、私らもお昼休憩だから待ってねー! カレーは800円、味噌汁は250円! セットなら1000円でいいからね!」


 流石は夏美様だ。冒険者の人達とも軽快なコミニュケーションを図って販売を進めていく。

 今日だけで差し引きの売り上げは30000円となってしまった。

 16時くらいには店じまいをして、下ではなく上の一階に戻ってダンジョンを後にする。ゴミなんかはダンジョンが食べてくれるらしいの心配はないそうだ。少し心苦しいけどそういうもんならいいだろう。


 夏美様に代わって自転車を漕ぐと言ったが、丁重にお断りされたので、また夏美様の激走で家路に着く。


「夏美様、本日の売り上げ分です」

「はいよ!」


 夏美様がお金を受け取ると、15000円を渡された。これはなんだろうか?


「軍資金として貸したお釣りだよ?」

「何をおしゃっているんですか! 夏美様のおかげで稼げて金額なんです、これは夏美様の物ですよ!」

「おじさんのスキルじゃん? もし護衛費を払いたいなら次からでいいからさ。また元手は必要なんだか。ほら」

「夏美様……ううぅぅ、一生崇拝しております」

「おじさんのノリって面白いよね」

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