第2話 マジ教祖

 今日は遅いからとりま、家においでよ! って何このJKもしかしておじさん好きなのかな?

 連れてこられたのは一昔前のボロボロの平家、この子の家もお金持ちってわけではないんだな。


「おねぇ、また変なの拾ってきたの?」

「あはは! 手厳しいなぁ、秋乃は」


 そう言って夏美ちゃんはボブカットの小学生を抱きしめる。

 とりま臭いから風呂と案内されて体を洗っていると、二匹の犬もいつの間にバリカンで刈られたのかサマーカットになっており、一緒に洗うように指示をされる。

 犬がいる気配はなかったのに、なんでバリカンも犬のシャンプーがあるんだろうか。



「おねぇは色々拾ってくるの。犬、猫、家出娘に今度はおじさん」


 お風呂上がりに秋乃ちゃんがご飯をよそいながら説明してくれる。この服は前にもおじさんがいたのかな? それともお父さんのか、仏壇に写真もあるし。

 犬のご飯もシャンプーもあったのは前にも拾ってきたからなのかもしれない。


 出されたおかずはもやしが多めの野菜炒め。何これうまぁ! 味付けなのかな。こんな美味い野菜炒め初めてだ。


「めちゃくちゃ美味いです!」

「そうでしょ。私が作ったんだから」

「スーパー小学生?」

「まぁね」


 お風呂から上がってきた夏美ちゃんが、ショーパンにTシャツとラフな格好で現れてあぐらをかいて、ご飯を豪快に食べ進める。目のやり場に困るけど、恩人に変な目を向けるわけにはいかない。


「明日は早いから! しっかり休んでねおじさん」

「はい」

「敬語じゃなくてもいいのに!」

「恩人にそんな、軽薄には話せないよ」

「大袈裟すぎぃ!」



 早朝には乗りなっと言われて、ナイフを渡されるとママチャリの後ろに乗せられる。JKの後ろに乗るおじさん。シュールである前に警察にでも見つかったら逮捕案件だ。

 そこそこの体重の俺を乗せて、軽々と激坂を登っていく。


「夏美ちゃんはレベル幾つくらいなの?」

「まだ10くらいかなー」


 ダンジョンは危険だ。絶対に成功するわけではないけど、一攫千金も狙えるし、レベルが上がれば強靭な肉体も手に入る。

 そもそもレベルを得るのが大変で、初心者という枠の前に一般人というと言われる枠があるくらいだ。

 一般人はいい装備をするか、冒険者にキャリーをしてもらいレベルを得るか、という方法になってくるけど、高いお金を払ったりと、無料で手伝ってくれる人なんて稀な話だし、他の冒険者からも良い顔はされないだろう。


「凄いね。本当に俺を連れて行ってもいいの?」

「いいの! あたしが好きでやってることだし、ただ暗黙の了解? があるから誰にも見られないこの時間にひっそりといくわけ! あ、死んでも恨まないでね!」

「俺はきっと、いや何があっても夏美ちゃんを恨むことはないよ」

「あはは! 言い過ぎじゃない!」


 激坂からの降り坂をママチャリが激走する。こわぁ! 早すぎでしょ!

 俺はこの先の人生で尊敬する人は? と聞かれれば夏美ちゃんと言うくらいには今は夏美教にどっぷりと入信している。


 車でも三十分かかるような距離をチャリで激走して四十分で到着をしてしまった。

 冒険者ってすげぇ。

 入場券を夏美様に買っていただき、俺も初のダンジョンに入る。

 ここのダンジョンはランクで言えばDらしく初心者向けとのことだ。俺達が向かうのは低階層なのでさほど関係はないけど。


「最初はあたしの前に出ないでね」


 ママチャリの後ろに差しているのは傘かと思ったら剣だった。

 冒険者はレベルを得ることができれば職業が手に入り、一定のレベルでそれが進化していく。

 夏美様は戦士らしく、片手剣だけで盾はなしのスタイルらしい。


「盾? お金がないから!」


 お金がない中、俺のような人間に……この御恩は必ず返します!

 ここのダンジョンの中は石造りの通路になっていて、先が見えそうで見えない、一定の距離を進むと視界がクリアになっていく。

 少し進むと暗闇からキノコのようなモンスターが現れる。


「こいつは足も遅いし、柔らかいけど一撃でも入ると一般人なら骨が折れるからね!」


 また入院となったらいくらになってしまうのか。考えただけでゾッとする。

 夏美様はキノコを惑わすようなステップで近寄ると一撃で葬ってしまった。見てるだけなら簡単そう。


「これで400円ってとこかな」


 夏美様が小さな宝石のような、いわゆる魔石を片手に眩い笑顔を見せる。

 一般人からすれば骨を折るリスクを考えて400円は安すぎる。

 そこからはキノコとか子鬼、なんかが出てくるけど、基本的には夏美様が倒してくれる。俺は持たされたリュックに魔石を入れていくお仕事。


「お! おじさん、初心者の定番がやっと出てきたよ」


 うさちゃんだ。可愛い! あれを倒さないといけないとか良心が痛むのですが。


「突進に当たれば、青あざになったり、最悪骨にヒビが入ったりするからね! でも動きも単調で早くはないから!」

「はい! 頑張ります!」


 夏美様が前線で盾役を買って出てくれる。

 レベルを得るためにもある程度の戦闘参加が必須であることはわかってるけど、その基準は曖昧だ。

 心がぴょんぴょんするんじゃ、と跳ね回っているウサギを夏美様が剣を使っていなす。俺はタイミングを見計らう。


「今! いけるよ!」

「はい!」


 剣で跳ね飛ばされて、着地に失敗し弱ったところにナイフを突き立てる。嫌な感触が手に伝わってくる。

 

「怖がったら逆に怪我をするよ! 一思いにやって!」

「はい!」


 もう一歩踏ん張り更に奥に差し込むと、ウサギが光の粒子になって消える。

 なんだか体に活力が湧いた気がする。


「ナイス、おじさん! どうだった?」

「はい、ちょっと待ってください」


 心の中でステータスと念じると、職業やスキルなどが見れるようになっている。俺はレベルを手に入れた!


「それでどんな職業だった?」

「えっとですね−−」


 −−ネットショッピングってなんでやねん! ここは異世界じゃねーよ!



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