ネットショッピングで無双だ! え?異世界じゃないんですか。現代ダンジョンを添えて

コンビニ

第1話 勝利確定演出のはずだった

「危ない!」


 体中が痛い。


 それが俺の最後の感想だった。犬を助けるために道路に飛び出したことは覚えている。

 31なのに素人童貞のままだったな、まともな恋愛をしてみたかった。


「諦めるのは早いぞい!」

「誰だ、爺さん?」

「我は異世界の神じゃ!」

「まさか……これは異世界転生なんですか!」

「日本人は話が早くてよいなー。その通りじゃ!」


 ああ、俺の人生はこれからみたいだ。

 待て待て、焦るなどんな条件の転生かによるぞ。


「大国の王子でイケメンへの転生じゃ!」

「キタコレ!」

「お前さんは可哀想すぎるし、30にもなって素人童貞とかワロスじゃし」


 この神様、地球のサブカルに毒されすぎだろ。


「それでスキルはどんなのが貰えるんですか?」

「そうじゃな。ネットショッピングなんてどうじゃ? スローライフ物が大好きなんじゃ」

「俺もです神様! だったら王子じゃなくてもいい気がするけど、権力なんてあるに越したことないし! お願いします!」

「おk、おk、それじゃあ行っちゃう? −−ちょっと待ってちょ。しもしも?」


 スマホ取り出して電話を始めてしまった。早く転生させてくれないかな。異世界知識とネットショッピングで無双してやるぜ!


「マジでメンゴなのじゃ。君、死ななかったみたいだから今の話は無しで」

「ええええええええええええええぇ!」

「ワシだって残念じゃよ。それじゃあ元気でな」

「待って、下さい! ちゃんと死んだらまたここに来れますか?」

「それはいかんぞー。自殺は地獄行きじゃ」



「待ってよ神様! 痛いぃぃ! 何これ!」


 身体中が包帯とかギブスで固定されている。本当に戻ってきちゃったのか。

 俺が起きたことに気がついて看護師さんが慌てて、お医者さんを呼び行ってくれた。また元の生活に戻るのか。



「どんだけ休んでるんだよ。クビに決まってるだろ? アホなの? 保険? 何それ美味しいの?」

「保険に入ってなかったですか。それでは4ヶ月の医療費は150万になります」

「テメェが飛び出してきたんだろがぁ! 請求してもいいけど、金なんてないからな」

「家賃の滞納分に清掃費用、ゴミの処分費用、80万になるからね」




 元の生活ってなんだっけ?

 ブラックな会社だと思ってたけど、保険証が偽造だったとは。俺が払ってた保険料ってどこにいってたんだろう。どうりで風邪を引いても出社させるわけだ。

 同僚にだけはリークしておこう。潰れてしまえ! あとはお前のトラック、パンクさせとくからな!


 安月給で碌な貯金なんてしてなかったし、実家ももうないし、これからどうしよう。

 日雇いを探すしかないか。それかダンジョンに行くしかないか? 武器もないのに無理に決まってるか。

 住み込みで働かせてくれるとこを探そう。


「わん!」

「お前、もしかしてあの時の?」

「わん」


 雑種の小汚い柴犬系の中型犬が擦り寄ってくる。可愛いのうー、可愛いのー。なんかもう一匹出てきただけど。


「わん」

「彼女か?」

「わん!」


 犬も彼女がいるっていうのに俺ときたら……でもモフモフに癒されるぅ。


「俺も仕事探さないといけないし、お前らはお前らで頑張れよ」


 

 んで、なんでついてくるんだよ。

 新聞配達もホテルの住み込みも全部断られた。犬連れはダメだとさ。そりゃそうだ、でもついてくるし見捨てられないし。日雇も住所不定だと今は規制が厳しくてダメだと言われた。


 疲れた。ベンチで項垂れていると、二匹の雑種が励ましてくれる。仕事決まんなかったのは半分はお前らのせいだけどな。

 あとは支援団体とか探すか? ネットもスマホなくてどうすればいい。役所に行けばなんとかなるのかな?


 あれ。涙が止まんねぇ。前より状況悪くなってるじゃねーか。30にもなってこんなにガチ泣きするとは思わなかった。


「おじさん、泣いてる? ガチ泣きじゃん。ウケる」


 黒ギャルJK? 話しかけてくんな。俺が捕まるだろうが。


「マジ可愛いね、お前ら!」


 俺もギャルに撫でてもらいてぇ。そんな汚い犬撫でてたら汚れちゃうぞ。

 犬達と戯れるとどこかに行って、何故かまた戻ってきた。


「ちょい待ちね」


 水を買ってきてくれたみたいで、手を皿にして水を与えてくれる。今は公園でも好きに水を出せたりしないから助かる。ガブガブ飲んでる、JKの手から。羨ましい。


「おじさんにも、はい」


 あ、手からじゃないんですね。


「もしかして激キモなこと考えた?」

「いえいえ、ありがとう」


 水が体に染み渡る。マジで助かった。


「おじさんの犬なん?」

「まぁ、助けた時の恩を感じてるのか離れないんだよね。恩を返されるどころか、おかげで困ってるけど」

「どしたん? 話きこか私が!」


 黒ギャル金髪、白い歯にでかい瞳。可愛らしい子だ。


「やっとこっちちゃんと見たじゃん。夏美ちゃんが相談乗っちゃうよ?」


 一回りは年下の子供相手に俺は泣きながら話た。

 通り過ぎる人がどんな顔をしているのかわからないけど、異常な光景に見えたと思う。


「大変だったじゃん。それでもこの子らのこと見捨てないのは偉いよ」

「うぅぅ、見捨てるも何もないよ。俺は何もできてないんだから」

「私もまだ駆け出しだけどさ。行っちゃう? ダンジョン。低階層でいいならキャリーしちゃうよ」


 神様には捨てられたけど、天使が迎えにきてくれたみたいだ。

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