第3話 前進

ふと、視界に映ったものに目をやる。よく見てみると人らしい。先程まで自分の世界に入っていたことが、急に恥ずかしくなった。しかし、その人は全く動く気配がない。どうやら寝ているようで安心した。自分以外にも寝過ごして、気づかれない人がいるのだと、少し親近感が湧いた。

 全く起きる気配はないが、とても苦しそうな表情をしている。悪い夢でもみているのだろうか。それよりも外部と連絡を取らなければ、私はここから出ることができない。どうせ会社には見切りをつけたし、大した予定もない。

 とはいえ、何もすることがないのは、とても退屈だ。少し深呼吸をして、頭を落ち着かせる。携帯の電源をつける。鉄道会社の電話番号を調べて、電話をかける。繋がった。私の乗っている列車は、検査の為に路線から遠く離れた場所にいるらしい。扉を開けてもらえることになったが、どうしたものか。費用は掛かるが、タクシーを使うか。

 そういえば、もう一人取り残された人がいた。あの人さえ良ければ、タクシーを同乗させてもらおう。そうすれば、費用が抑えられる。我ながら良い考えだと自画自賛していると、その人が目を覚ましていた。

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達磨落とし 東上蒼輔 @HGSNUE

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