呆気にとられた夜だった

あんちゅー

寡聞ながらも余分は無いと分かる

今ここで腕を無くせば


私は死んでしまいます


今ここで目を鼻を喉を


何より声を


無くしてしまえば


私はきっと死んでしまうのです


それは予想もつかない話で


空いた口は塞がらないようなのでした


脳裏に刻み込まなければならない言葉は


耳の隙間から溢れ落ちるのです


何も全てだったと言うつもりもありません


私はただの傍観者でしたから


けれど幸せであることを願ったのです


無くしてわかるものは私には


余りあるものなのでしょう


一度手にしてしまえば手放せないものですが


ならば手からおっことす事を厭わないそれは


あなたの覚悟だったのでしょう


あなたの届けたい想いの込められた


とびきりの覚悟だったのでしょう


私には伺い知れないものですけれど


私には掛け替えのないものでもありました


遠くの私がそうであるように


傍の誰かはきっと私よりも


強さも弱さも要らないあなたは


捨てきれないそれらを抱え続けて


疲れきったのかもしれません


酸心の届かない場所へ


欠けてしまった想いの傷は


少しずつ治っていくのでしょうけれど


女々しい今を抱き抱えながら


信じるあなたをいつまでも


残した言葉を一つ一つ呟いて


心音の聞こえるホームで待っています



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呆気にとられた夜だった あんちゅー @hisack

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