Episode16【掟破りな四人組】

【掟破りな四人組】

 暫くして、バイクはある倉庫の前で停まる。栗原と丸島は、バイクを下りた。

 その倉庫にはもちろん、先程追っていた車もある。


丸「明日、乗り込むつもりだったのは、この倉庫だ」


栗「やはり、ソイツらの仕業か……─―」


 ……と、そこに、一台のバイクがやって来て、目の前で停まった。上柳と柳だ。

 栗原と丸島は、驚いた表情をする。


栗「お前ら! どうして……」


上「目の前を、お前らが駆け抜けていった。だから追った」


柳「それで、何があったんだ?」


丸「栗原の天然女が、目の前で連れ去られた」


 上柳と柳も、すぐに事態を把握する。

 そして四人、目の前の倉庫を睨み付ける。


柳「予定より、少々早まったが……構わねぇ――四人で“此処”、ブッ潰すぞ」


 ブラック オーシャン、黄凰、白麟、紫王、4チームの総長が、勢揃いした。それは今宵限りの、掟破りな無茶苦茶四人組だ。


 倉庫の入り口は、閉めきられている……


上「他に、入れる場所はないか?」


丸「それか、このシャッターを壊せる物ないか?」


栗「窓とかないのか?」


柳「あ? 面倒だ! こうしちまえ!」


 すると、柳が思い切り、シャッターを蹴り壊しに掛かる……―――

 〝ガシャン!〟と、この場には物凄い音が、響き渡った。


「「「「…………」」」」


 すると倉庫のシャッターは壊れて、倉庫の内側に倒れる。

 夜の空気に、砂煙が舞い上がる……


栗「さすが柳。-0.5、取り消してやるよ」


柳「あッたりめぇーだ!」


 栗原と柳が顔を見合せて、フッと笑った。


 四人は倉庫の奥へと、目を凝らす……――すると倉庫の中には、何人かの男たちがいた。


 倉庫にいる男たちは皆、驚き顔で、壊れたシャッターの方へと注目している。

 舞い上がった砂煙が、地へ戻ってゆく。すると徐々に、視界が晴れていく……──

 倉庫の中から壊れたシャッターの方へと目を向けていた男たちは、次第に顔色を悪くする。


―「コッコイツらはッ……――」


 倉庫の中にいる者たちは、冷や汗をかくのを感じた。この場へと乗り込んできた者たちが、何者であるのか、一目で分かったのだ。


 そして栗原、丸島、上柳、柳、四人は敵を見定めるように、倉庫の中全体へと、目を通す……──


丸「1、2、3、4、5、6――……」


 丸島が呑気に、相手の数を数える。


丸「20!」


栗「20÷4!」


上「5……」


柳「1人5人倒せばいいのか? 楽勝だな」


 四人は得意気に、笑みを作った。そして一気に、相手へ向かって走り出す──


「喜べ! 四人で殴り込みに来てやったぜ!!」


 四人で優雅に、大暴れするのであった。


 1、2、3、4、5、――……


 四人はあっという間に、ノルマの5人を倒した。だがなぜか、あと1人、残っている。


栗「お~い。丸島ぁ? 数、数え間違ったな!」


丸「悪かったな!」


 そして……


柳「6人目はもらった!!」


丸「あぁ~! 俺の6人目が~!?」


 6人目に向かって駆け出す柳を、少し遅れて追いかけ始める丸島。

 〝紫王と黄凰の総長が、張り合うように向かってくる?!〟と、顔を真っ青にさせる最後の6人目。男は絶体絶命の叫びを上げる──

 そうして6人目争奪戦の末、柳が6人目を倒したのだった。


 その場にいた全員を倒し、倉庫には沈黙が広がる。


栗「藍はどこだ……――」


 四人は、藍を探し始めた。 広い倉庫を見渡し、探して駆け回った。

 ……そして、しばらく捜し続けた頃……


栗「?!! こんな所に、階段が……!」


丸「なんだと?!!」


「「「「…………」」」」


 すぐに階段の周りへと、全員が集まった。

 階段は、、分かりやすい場所に、堂々とある。


柳「どうして、誰も気が付かなかった!!? 俺含め、馬鹿か?!!」


 最もなことを、柳が言った。


丸「いつもなら、上柳がクールに気が付くところだろうが!!」


栗「どうした! 上柳?! 不調か!?」


上「おい、気が付くの、俺の役割か?」


 根拠のない役割を押し付けられ、なぜか責められる上柳。


 何はともあれ、四人は急いで階段を駆け上がった。

 階段を登り終えると、開けたスペースに出る。そこには、この集団のリーダー格と思われる男たちが、5人。そして……──


「藍ッ! ――」


 正面、部屋の奥に置かれた長ソファーに、藍は寝かされていた。

 一番近くにいる男へと、栗原が掴みかかる。


「藍に何をした!!」


 するとその男は、目を泳がせた後に、他の仲間に言う。


「おい! 栗原 聡と松村 藍の仲は、引き裂いたんじゃなかったのか? コイツ、来ちまったぞ?」


「質問に答えろ! 藍に何をした!?」


 男が再び、栗原の方を向く……


「熱くなってんなよ? 安心しろ。お前の女は、眠らせてあるだけだ」


 栗原の中に、微かな安堵が沸く。だが、安心しきるのはまだ早い。


上「なぜ、ソノ女を捕らえた? ─―」


 男は舌を打ってから答える。


「仲間が警察に捕まった。コノ女は人質だ。コイツを人質に、仲間の解放を求める!」


栗「そんな事はさせねぇー! 藍は返してもらう!」


「誰がさせるか! アノ女は渡さない!」


 話し合いの解決は難しそうだ。柳と丸島が、口角をつり上げた。


丸「どうやら、和解は難しそうだ――」


柳「なら、拳でやり合うのが、一番手っ取り早い」


丸「その通りだ!」


 丸島と柳は、拳を構えて走り出す。──こうして一足先に、丸島と柳が暴れ始めた。


上「栗原は早く、あの女を助けろ」


栗「言われなくても、そのつもりだ」


 栗原は藍の方へ、走り出す。

 上柳は、栗原が藍の元へと進めるようにと、その道を阻む男たちへと、拳を構えて駆けて行く。──上柳は柳、丸島同様に、拳を飛ばし、蹴りを繰り出しと、暴れ始める。


 そうして栗原は、藍の元へと向かう。──だがその前へと、男が現れる。


「あ? 退け!」


「そう簡単に、あの女を渡す訳にはいかない」


 〝仕方がねぇ〟と、栗原も構える。

 栗原も、その男と拳を交え始めた。


 倉庫には、乱闘の音が響き渡る――……


 ガラスが割れる音……殴り飛ばされた相手が、壁へと叩きつけられる音……様々な音が、倉庫の中に響いている。

 奇声、物音、打撃音、そして、そんな騒がしさにうっすらと、藍が目を開いた……――

 ソファーで起き上がった藍の目には、目の前の乱闘が、しっかりと映る……――


「……――」


 当然、こんな光景など見たこともなく、藍の体は、強張ったように固まった。そして……


「聡……――」


 藍の瞳が、栗原の姿を映す。

 栗原も、起き上がった藍の様子に気が付く。


「藍!!」


 状況に気が付いた男が、舌を打つ。


「あの女、目を覚ましやがったか……」


 すると男は、他の仲間に叫ぶ。


「女が起きた! 逃げねぇように、捕らえろ!!」


 その言葉に、とっさに藍が立ち上がり、ビクリと肩を震わせた。

 一人の男が藍の方に走って行く……


「藍!! 逃げろッ!!」


 栗原が思い切り叫ぶが、男は簡単に、藍を捕らえる。


「ヤダッ! はなしてよッ……!」


「静かにしろ! 逃がしてたまるものかッ……お前は人質だ!」


「人……質……? ――」


 困惑する藍。


「そうだ! お前は人質だッ!! ……――ちくしょう!! せっかく栗原とお前の仲を引き裂いたのにッ……――アイツ、助けに来やがって!!」


 栗原の方を見ながら、男がそう叫んだ。


 男の言葉を聞き、藍の中で、全てが繋がる……――


 勝手に傷付いて……勝手に傷付けられた気になって……信じてあげられなくて、冷たく接したことを、後悔した……


「聡……」


 藍の中に、抑えきれない感情が、溢れ出す……


 そして栗原は目の前の男をどうにか倒して、藍の元へと走った。


「はなせよッ!!」


 栗原は藍を捕らえている男を、思い切り殴る。

 その男は床へと倒れた。

 栗原はすぐに、藍へと駆け寄った。


「藍……! ケガ、ねぇか? ……」


 心配そうに、藍の瞳を覗き込みながら、栗原が問いかける。


「……ないよ……――」


「良かった……」


 栗原は安心したように笑った。

 藍は辛そうに、表情を歪める。


「聡……私、何も知らないで……ごめんね……聡のこと、傷付けた……」


 栗原は藍の頭を、くしゃっと撫でる。


「その話、後でいくらでも聞いてやるから……今はとりあえず、逃げるぞ」


 藍は涙の溜まった歪んだ表情のまま、頷いた。

 そして二人は微かに、笑顔になる。


 その時、倒れていた男が、起き上がる……――


「栗原ッ! 後ろだ!」


 柳が思い切り、栗原に向かって叫んだ。


 栗原が後ろを振り返る。


 ──すると男が、ナイフを振り上げた……──


 藍の体が大きく震える。

 栗原は藍を庇うように、抱き締めた……――


「栗原ッ!!」


 柳、丸島、上柳の三人が、顔色を悪くしながら思い切り叫んだ。


 栗原の左肩に、後ろから、ナイフが突き刺さる―─……




━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 貴女が泣くなら、僕は君の傍にいて、震えるその肩を抱く。


 そして、優しく口付けるだろう。


 僕の世界の中心は、君であって、それ以外のモノは、望まない。


 僕の全てを、君に捧げよう――


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━




 ──それは、一瞬のことだった。


「聡……? ……」


 庇われ抱き締められたまま、藍がその名を呟く。


 左肩に突き刺さったナイフ……──


 事態を把握した藍は、顔を青くしながら、震え始める……


 男は栗原の肩へと、ナイフを突き立てている。


 咄嗟に上柳が叫ぶ──


……!! 」


 だが男は、突き立てていたナイフを、引き抜いた……──


 一気に血液が流れ出す……


 同時に栗原が、床に膝をつく。


 上柳がすぐに、栗原へと駆け寄った。


 刺した男は、平然とした顔をしながら、鼻で笑った。──それを聞いた瞬間、上柳の目が血走る。上柳は血走った目をしながら振り返ると、勢い任せに、男を思い切り殴り飛ばした──

 

 上柳から凄まじい拳をお見舞いされた男が、床へと倒れる。これで、相手側は全員、床へと倒れた状態になった。


 そして丸島と柳も、栗原へと駆け寄る。


 藍は困惑したように、泣き崩れる。


 丸島がとっさに、肩の傷口を両手で押さえた。

 傷口を押さえる両手が、一気に真っ赤になる。


丸「おい! どうすりゃいいんだよ!!」


 全員、混乱状態だった。


柳「血、止めろ! 縛れ!」


丸「肩の傷だぞ! どこを縛ればいいんだ!?」


 すると、“とりあえず止血しよう”と、柳がシャツを脱いだ。


丸「それでどこを縛るんだ!!」


柳「……――分からねぇー! とりあえず押さえる!」


 縛るために服を脱いだが、肩の傷であった為、どこを縛ればいいのかが、分からない。なのでとりあえず、脱いだ服で傷口を押さえた。


 傷に押し当てている柳の服が、真っ赤になっていく。すると混乱したまま丸島、上柳もシャツを脱いだ。

 季節は春、服は薄手だった。薄手の服三枚だけでは、すぐに真っ赤になっていく……


上「誰かスマホ持ってないのか! 救急車……」


 だが、乱闘にスマートフォンなど邪魔なだけであったので、持っている筈もなく……

 上柳は部屋に電話がないか、探し始めた。


 そして、傷口を押さえる丸島は……


丸「他に押さえるものねぇのか!」


 血液を吸いすぎた服。押さえているだけで、あまり意味をなさない。

 すると柳が転がっているナイフを使って、栗原のシャツを裂いた。


柳「本人の服使え!」


 傷口に、栗原の服も押し当てる……――

 だがそこで、丸島と柳は、目を見開く。栗原の左側の、鎖骨の下……――そこに刻まれた、使を、見てしまったから――


丸「赤い、天使の紋章……」


柳「 ……――」


 その呟きを聞き、上柳も思わず振り返った。そして上柳も、栗原の身体に刻まれた、赤い天使の紋章に、釘付けになる――……


 その時、閉まっていた扉が開いた。

 丸島、柳、上柳、藍、全員が開いた扉を見る。

 部屋に入ってきたのは、騒ぎの通報を受けた、警察だった。 そしてその警察の中心にいるのは、松村だった。


 事態を把握した松村が、すぐに駆け寄る。そして松村は冷静に、指示を出した。


「救急車を呼べ!急げ!」


 父親を目の前にすると、元から泣いていた藍が、涙を止められなくなって、ワンワンと泣き始める。


「お父さんッ……! ……聡を助けて! ――」


「落ち着け、藍。大丈夫だ」


 父親の冷静な言葉に、藍は少しだけ、落ち着いたように見える。


 ──そうして無事、救急車が到着する――


 丸島、柳、上柳、藍、四人も、病院へと向かった。


 丸島、柳、上柳は、病院の廊下へと座り込んで、栗原の処置が終わるのを待っていた。

 無言のまま、ただ待った。

 丸島は何かを思うように、両手についた血の痕を、深刻な表情で眺めていた……──


 そこに、足音を響かせながら、松村が現れる。


「おい、半裸三人組」


 三人が顔を上げる。

 松村の隣には、泣き腫らした目をした藍も立っていた。

 松村は気難しい表情で、三人を見る。


「事情は、藍から全て聞いた。 礼を言う……――娘を守ってくれて、ありがとう」


 三人に頭を下げる松村。

 松村は、隣にいる藍の頭も、下げさせるように押す。 すると藍も、ペコリと頭を下げた。


「ありがとう……」


 礼を言われることになど慣れていない三人は、戸惑ったように、視線を反らした。


 するとその時、閉ざされていた扉が開き。中から、執刀医が出てきた。

 その医者がマスクを外して言う。


「処置は無事、終r……――」


 医者が『終了した』と、言おうとした瞬間――


柳「オイコラ、医者!」


 柳が、医者の言葉を遮った。

 そして三人は立ち上がると、喧嘩相手へとにじり寄るヤンキーのような雰囲気で、医者へと詰め寄る。

 医者は、反射的に身構える……


上「それでだ、どうなんだ? ……――答えろ!!」


柳「アイツまた、元気になれるんだろうなぁ!? なれねーッつったら、容赦しねぇぞ!!」


丸「答えろ!!命に別状はぁ!? ──」


 生粋の暴走族たちを前に、思わず身構え、後退りをする医者。

 そんな様子を、呆れたように眺めている松村。

 カツアゲさながらの勢いで問い詰められた医者が、必死の返答をする。


「いっ命に、別状……ないです……」


「「「……――」」」


 それを聞くと、三人はスッと医者から離れた。


 丸島が、強がったように言う。


丸「心配して損したぜ! ……――俺はもう帰る……」


 すると上柳と柳も、それに頷いた。


丸「じゃ、お疲れさん。サンキュ……医者……」


柳「ありがとよ! じゃあな」


上「世話になったな」


 口々に、礼儀ゼロの礼を言い、三人は立ち去る。


 医者は呆然と三人の背中を眺めてから、松村の方へ向く。


「せっかく待っていたのに……彼らは、会わなくてもいいのですか? (栗原に)」


 松村は、微かに笑みを作った。


「……アイツらは、そういう奴等なんですよ」


 ──そう彼らは、目が覚めるまで付き添ったりなんて、しないのだ。──彼らには、ライバル同士としての、プライドがあるから。


****


 藍は、栗原の目が覚めるまで、傍にいた。


 するとやがて、栗原が、うっすらと目を開く……──


「聡っ…」


 目を開いた栗原の視界には、一番に、藍が飛び込んできた。

 藍の泣き腫らした目が、真っ赤になっている。


「藍……?」


「うん……藍だよ……分かる?!」


 藍の言葉に、栗原が頷く。

 そして栗原は、右手で、藍の頬に触れた。


「お前、泣いたのか?」


 するとまた、藍の目から、ポロポロと涙が溢れた。──それを栗原が拭う。

 栗原は一度その手を引っ込めて、口についた酸素マスクに触れる。それを、取ろうとした。


「さっ聡! 取っちゃだめだよ!!」


 藍が慌てたように、マスクを押さえた。


「「…………」」


「自分で息、出来るから大丈夫だ……」


「?!」


 そう言うと、栗原はマスクを外した。そして、穏やかに笑った。


「藍が無事で、良かった」


 またワァっと、藍の涙が溢れ出す。


「聡……ごめんね? ……――ありがとう……」


 藍は傷口には触れないようにしながら、そっと、栗原に抱き付いた。


「そんなに泣くなよ……――俺、意外に元気だぞ?」


 すると藍が、顔を上げた。 その瞬間、栗原が右腕で、藍を抱き寄せる……──そして、キスした。


 しんと、静かな病室……――


 お互いの気持ちに正直になって、二人は、キスに酔いしれた……──



 ──そして松村は、病室に入るも入れず……病室の側の廊下側で、困ったように、腕組みをしていたのだった。

 そして松村の頭に、浮かんだ――松村も、見てしまったのだ。 栗原の身体に刻まれた、赤い天使の紋章を……――


「……――」


 松村はその紋章が何なのかを、知っていた。だからこそその紋章を思い出して、気難しい表情を作っていた……――


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