【頂点争いとすれ違い 4/4 ─翌日─】
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──そして翌日。太陽が昇れば、再び、住人たちの平凡な日常が訪れる。
昨夜の乱闘が、まるで嘘に思えるほど、街は賑わい、活気に満ちる。
そんな日の、ある家庭でのこと……──
「昨夜もまんまと、奴等にやられた……!」
コーヒーを片手に、不満を漏らす男が一人。
そんな光景を、洗い終わった食器を拭きながら、苦笑いで見ているのは、この男の妻。
「アナタ、そんなに怒らないのよ?」
「怒らずにいられるか! ……――昨夜、4チームの頂点が決まった。 勝ったのは、ブラック オーシャンだ! なんとしても、ブラック オーシャンの拡大を防ぐ! そうでないと、この街に平和は訪れない!」
「熱弁されてもねー? ……私には、何も出来ませんけど?」
呆れた態度を取る妻。
するとそこに、階段から娘が下りてくる。
妻は娘に話し掛ける。
「“藍”、聞いてちょうだい。あの人ったら、また私に熱弁してくるのよ? 私に、どうしてほしいのかしら?」
「えー? もしかしてお父さん、また、逃げられたの? あの、何とかと何とかと、何とかと何とかと……とか言う、四人の総長に……」
『そうなのよ~』と言って、母親は困った表情をする。
そうこの家庭では、“そんな話が日常茶飯事”なのだった。
「じゃあ私、大学に行ってくるね」
藍はにこやかに、玄関へと向かう。玄関へと向かう途中、藍は父親と鉢合わせる。
「藍、どこへ行くんだ?」
「あっお父さん! 大学に行って来るね?」
何が嬉しいのか、藍はニコニコと笑っている。
そんな娘を、じっと見る父親。
「やけに嬉しそうだな。何か、良いことでもあったのか?」
すると、藍は答える。
「大学でね、素敵なお友達に出会ったのよ? 今日も会えると思うと、嬉しくて……」
父親は、快い優しい表情を作った。
「そうか。良いことだ。なんて人だ?」
すると……
「うん。“聡”って言うのよ」
藍はテヘッと笑う。
父親は、一瞬……停止する。
「聡だと?! ソイツ、男なのか?!」
「あれ? 女の子だと思ったぁ?」
「そう言うことじゃない! 大丈夫なのか?! 藍、お前は純粋すぎる! 男なんて皆、ろくな奴じゃない! 騙されているんじゃ……」
「え? 『男は皆』って……お父さんも男でしょう??」
「父さんは別だ!」
首を傾げる藍。
父親は、過剰に心配してくる。
……そしてこの後、父親に追い討ちがかかる……
「何処のドイツだ! 何をしている奴だ! 名字は何だ!」
「そんな詳しくは分からないよ~……けど名前は、“栗原 聡ぅ”……」
「くくく……栗原 聡っ?! ……」
父親の耳に聞こえてきたのは、トドメ的、名前だ。
凍りつく父親。
藍は呑気に、思い出すように、話し出す……
「う~ん。何をしてる人だろう? 運動神経がすごくいいからぁ~、スポーツ関係かなぁ? 面白いのよぉ? 聡ったら、よく、お友達と追い掛けっこしているの。その聡の友達は、たしかぁ……丸島くんと、柳くんと、上柳くん!」
最後まで、にこやかな笑顔で喋り終えた藍。
父親は、呆然とするばかりだ。
「その三人まで、出てきたらもう……――同姓同名なんて……ものじゃない。 ほっ本物……」
やはり藍は、首を傾げている。
父親は、真剣な表情をする……
「いいか、藍? しっかりと聞け! そいつらは……──」
ある日のこと、父親に聞かされた内容は、衝撃的なものだった……――
****
そしてその頃、栗原は……──
「また夜に会おうぜ? 俺、出掛けてくる」
「あっ! 総長、どこに行くんですか?」
出掛けようとした栗原を、部下が呼び止めた。
「どこって……――また、大学に遊びに行く」
するとその部下の表情が、曇った。
「もしかして総長、また、あの“写真の子”と会うんですか?」
『写真の子』というのは、藍のことだ。前に藍のカメラで、二人で一緒に撮った写真。その写真を、栗原は何人かの部下に、見せたことがあった。
「そうだけど? 何か不満か?」
「いや、実は……――」
「なんだよ? ……」
すると部下は、言いづらそうに、話し始める。
「実は、あの写真の子を、間接的に知っている奴がいて……ソイツの話しによると、あの子……──」
「……──」
「あの子の父親、警察官らしいですよ? しかも、毎回、俺らを追ってくる奴……」
その言葉に、栗原は不意に、ドキっとする……
昨夜、“松村”と名乗ったあの警察を、思い出したから。
「総長……あの子には、会わない方がいい……もしかしたら、騙されてるんじゃ……」
──だがその時、栗原は思い切り、壁を殴った。
その部下は、肩を震わして、喋るのを途中で止める。
栗原はその部下へと、鋭い目を向けた。
「藍が、俺を騙すわけないだろう!」
栗原は感情的にそう言い張る。そして、外へと出る。
「……――」
いつも通り大学へと向かうが、なぜだか、心がモヤモヤとしていた。
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そしてその日、栗原と藍は、いつも通りの裏庭で会っていた。
「「……─―」」
なぜだか会話も弾まず、この日は沈黙することが多い。空気が、いつもより重い。
無言で二人はただ、桜の木の下に座っていた。
藍は栗原の方を向く。栗原の横顔を、眺めた。
「ねぇ、聡……」
藍に呼ばれて、栗原も藍の方を向く。すると、藍は悲しげな顔をしていた。
「お前……どうしたんだよ? そんな顔して……――」
「ううん。……ねぇ、聡に聞きたいの……」
「……――」
一呼吸置くと、藍は言った。
「聡、そのキズ……どうしたの? ……」
藍は悲しそうに、栗原の頬の傷に触れた。
父親に、全て聞いてしまった。ブラック オーシャンのことも、昨夜の乱闘のことも。“乱闘”だなんて、信じたくなかったのに、栗原の頬には、傷がある。
違う答えを言ってほしくて、聞いたのだ。
「このキズは……――」
栗原は藍に、答えられなかった。
藍は悲しそうに、視線を反らす……
「聡には……――私に言えない、秘密があるんだね……――けどね、私にも、秘密が出来た。本来なら、秘密にするようなことじゃ、ないけど……――」
藍は下を向いたまま、そう、呟いていた。そして、悲しげな表情のまま藍は顔を上げ、栗原を見ながら、言ったのだ……――
『アナタに言えない、秘密があるの…』
( アナタは言った。
“知ってるよ”
アナタの表情は、
ひどく、哀しそうだった……―― )
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これは王座の始まりと、すれ違いの、始まりだった……――
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