Episode14【頂点争いとすれ違い】

【頂点争いとすれ違い 1/4 ─4チーム─】

 ──歪んだ世界の、腐り荒んだ街……


 そこに住む人々は、皆、“日が沈む前にと”、急いで家へと帰る。

 家へと帰り、戸締まりをし、カーテンを締め切って、轟き音と奇声が、聞こえなくなるのを待つ……──


 ──青狼と黒獅子の潰し合いから、約10年。

 青き狼と黒き獅子は、この闇夜に消え失せた……――


 そして夜を征する有力候補は、四つに絞られた。



 高き天空より、澄み渡り、その先の銀の藻くずよりも、白く高く……──その気高き誇りは、決して燃え尽きることはない――

 白の天空を駆け抜けるのは、白き麒麟……――



 蝶より華より、世界の果ての財宝よりも、煌びやかに……――その燃えるような、美しき翼を汚すことなど、誰にも出来はしない──

 今宵も大きく、翼を広げる……――黄の鳳凰―─



 清き青よりは、深く汚らわしく……――全てを飲み込み、“無”を造り出す黒よりは、もどかしき誘惑を――……全ては高貴な紫─―

 べる者は、終わることのない、楽園の王……――



 全ては深く深く……――闇に沈み、闇を沈め……己の苦しみを沈めたのは、青き海……――

 この世の“苦”を沈め続けた海は、漆黒に染まる……――

 誰もが触れることを恐れ、黒き姿を前には、誰もをひざまずかせ、絶望させる……――悲しみを沈めた黒き海――……



 白麟、黄凰、紫王、ブラック オーシャン……──


 夜の全ては、四つのチームに委ねられる時代……──


「白麟、黄凰、紫王、ブラック オーシャン……争いは激しさを増す一方……──もう、野放しには出来ない。 奴らは今宵、4チームの頂点を決めるつもりだ。 4チームが一ヶ所に集まったら、道という道を、全て封鎖する……――」


 夜の街に、ひっそりと待機するのは、無数のパトカーだった。

 警察側は、4チームが現れるのを待つ。


「……――」


 暫くすると、大量の轟き音が響いてくる……──


「……来るか――」


 その直後、無線が飛び交い出す……──

 警察は街の全体、各場所にパトカーで待機している。その各場所からの無線だ……──


―「**通り、西側から――あれは……白麟です……!」


―「南側**号線より、黄凰が現れました!」


―「北側……――紫王だ!」


 無数の音声が飛び交った。

 そして、ここは、東側の待機場。

 飛び交う音声を聞きながら、目を凝らす……──


「来たな。……――ブラック オーシャンだ」


 東側からは、ブラック オーシャンが現れる。


 東側に待機するその男は、無線を使い、指示を出していく……──


「狙いは定めろ。狙うは、総長だ……――上柳、丸島、柳、栗原、この4人が標的だ」


 そこで、隣にいた別の男が、口を開いた。


「総長狙い……――それは分かりますが、人数が多すぎる。見分けがつかない……」


 その呟きを聞き、無線での指示を付け足す。


「上柳は白銀の髪。丸島は、ひときわ目立つ金髪……“黄”の色に近い。栗原は、落ち着きのあるブラウンの……──分からなければ構わない! 似たような特徴の奴は、全員捕らえろ!」


「……柳は……?」


「紫王は……――バイクの時は、風になびく、女の長い黒髪を捜せ! 柳はいつも、椿を後ろに乗せる……──バイクから離れても、あの二人は傍にいる筈だ! 目印は、女」


「了解……――」


****


 そして4チームが、勢揃いした。

 東にブラック オーシャン、西に白麟、南に黄凰、北に紫王。

 4人の総長が、それぞれ前に出る。

 4人の総長は、冷静に、耳をすまし、辺りを見渡す……──


上「面倒なことだな……――」


丸「あぁ。邪魔くせぇ……――」


柳「まずはアイツら、どうにかするか……」


栗「警察か―─……厄介だな」


 4人は警察の存在に、気が付いている……


 すると栗原が、自分のチームの何人かに、指示を出す。


栗「お前らは、奴ら警察を撒いてきてくれ」


 同じく、上柳と丸島と柳も、自分のチームの何人かに、“警察を撒くよう”に指示をした。


 ……だが暫くすると、撒きに行かせた面子が、戻って来た。


「すべての道が、塞がれてる」


 道が封鎖されているので、戻ってきたそうだ。


丸「まぁ頑張れ。強行突破に決まってんだろう?」


 戻ってきたのだが、丸島に追い返される。


 そして柳は……──


柳「待ち時間も退屈だ。警察も一緒に、ブッ潰せばいい」


上「勝手にしろ」


栗「なら、始めるか?」


 4人全員、真剣な表情になる。


丸「王座は俺らが貰う」


上「俺もそのつもりで来た」


栗「今日で終止符だ」


柳「全員、叩き潰す」


 月に雲が覆い被さる。

 月さえも、見守ることを、したがらない……――4つの権力の衝突。


 そして4人の総長が、自分のチームに向かって、叫ぶ……──


丸「コイツら全員、ブチ壊せ!!」


上「その名に恥じぬ、勝利を勝ち取れ!」


栗「オーシャンを前に、ひざまずかせろ!!」


柳「警察もろともブッ潰せ!!」


 各総長の言葉に、各部下たちが、雄叫びを上げる。

 それが、乱闘の始まりの合図。

 4つの方向から、一直線、走っていき、4つの権力のぶつかり合いが、始まった──



━━━━━【 〝紫王シオウSIDEサイド〟 】━━━━━


「オイ、サル」


「はぁ?! サルはアンタだろう?!」


 柳が椿を呼び止めた。 

『サル』と呼ばれて、椿が不機嫌に振り向いた。


「椿、テメー……ついて来たからには、俺の足手まといに、なるんじゃねぇぞ?」


「……――」


 柳の言葉に、椿はキッと睨み返した。


「今回の戦争は、今までのとは規模が違う。本来なら、女がついて来るような、ぬるい場所じゃねぇ。──分かってんだろうが?」


 柳は容赦なく、椿を睨み付ける。

 椿は唇を噛み締めた……


「こんな時だけ、女扱いか?」


「は? 面倒だ。……――ついて来やがって、テメーなんて、ソコらに隠れてりゃいいんだ」


 柳は冷たい目をする。

 思わず、椿は言葉に詰まって、言い返せなかった。


「オラ、コレでも持ってろ。自分の身は、自分で守れ」


 柳が椿に、バットを差し出す。

 それを椿は、渋々と受け取った。

 そして柳も、乱闘へ加わっていった――……


「……――」


 椿はバットを片手に、暗がりに腰を下ろす。


「……――」


 荒れ狂い始める柳を、眺めていた……――



━━━━━【 〝黄凰コウオウSIDEサイド〟 】━━━━━


 振り落とされる脚を、丸島が利き手で受け止める……──


「あ? こんなん、全くきかねぇんだよ……――」


 思い切り、その脚を払い退ける……──

 そうして、払い退けられて、バランスを崩すソイツに……――


「手本、見せてやるよ?」


 思い切り―─……

 ──蹴りを入れ、更にかかと落とし──


 その表情は、愉しそうに笑っていた。


「……――」


 地面に倒れた相手を、じっと見る丸島。

 愉しそうにしていた表情が、無表情に変わっている。


「あ~あ、つまらねぇ」


 退屈そうに、夜空を見上げた。

 その時……──


 ──ブォン……!! ――


 一台のバイクが、目の前へと停まる。


「愉しくないのか? ……――なら気分変えるのに、後ろ、乗りますか? ──」


 そう言ってバイクを乗り回しながら現れて、悪戯に笑ったのは、副総長の東藤だ。

 そうして丸島は、東藤のバイクの後ろへ……──

 そして、バイク吹かしながら、人と人の間を縫うように、蛇行運転で挑発する。


「オラオラッ! 邪魔だ!! 死にたくねぇなら道開けろ! カス共が!!」


 嘲笑うような笑い声が、夜空に響く……──



 そして、そんな光景を、佇むビルの上で、ひっそりと傍観するのは……──


「……――四つの権力争いに、警察……――見物だわね?」


 傍観しながら笑みを作ったのは、黒人魚の総長、國丘 百合乃だ。その傍らには、数人の黒人魚のメンバーたち。


百「“黄凰”、丸島の脚技見た? アイツ、センス悪くないね」


「脚技が大得意の百合乃さんが言うなら、そうなのかもしれない」


 百合乃はフッと笑みを作る。


百「黄凰か……――総長、丸島 英……――? 名前はぁ……忘れた。まぁ、いいや」


 またまた百合乃は、可笑しそうに笑っていた。



━━━━━【 〝白麟ハクリンSIDEサイド〟 】━━━━━


―「いたぞ! 白麟の上柳だ!」


 警察の声が響いた。

 上柳は、声の方を振り返る。


「……そりゃいるさ。逃げも隠れも、してねぇ」


 慌てて走ってくる数名の警察を見ながら、澄ました面持ちまま、そう呟いた。


 上柳は、逃げる素振りもなく、冷静に、駆けてくる警察を眺める……――


「警察の相手も、悪くはねぇか……――」


 微かに笑みを作ると、自ら、警察の方へと走り出す。


 その様子に、走って来ていた警察がビクリと肩を震わし、一瞬、走ることすら忘れる……──


 上柳はそのまま走って、警察に、飛び蹴りを食らわす。


 一気に、三人程が、地面に手をつく。


 飛び蹴りから直ぐ様体勢を整えて、振り返る。そして、警察の胸ぐらを掴んだ。


「まだまだ、捕まる訳にはいかねぇんだ」


 上柳は落ち着いた様子で、穏やかな笑みを作る……――だが、その穏やかな笑みが、一瞬、冷たく変わり――……


 ─―ドスッ!


 思い切り、ソイツの腹へと殴りを入れた。

 腹を殴られた警察が、崩れるように、地面に膝をつく。


「……――」


 相変わらずの、上柳の冷静な瞳。

 そうして上柳はそのまま、何事も無かったように、元いた場所へと、歩いて行く―─……


「勝利は、誰の手の中にある……――?」


 荒れ狂う乱闘の中、ただ一人穏やかに、そう、呟いた。



━━━━【 〝BLACK OCEANブラック オーシャンSIDEサイド〟 】━━━━


 地面に倒れた相手の胸ぐらを掴み、起き上がらせる。


「なんだ……――随分、辛そうな顔するんだな? 痛いか? ──」


 ソイツに、喧嘩の最中とは思えないほど、ごく自然と問いかけた栗原。

 ソイツは脅えた目をしながら、黙り込んだまま……──


「答えねーのか? まぁいい。……──もっと、ギラギラとした、欲望の瞳を向けたらどうだ? お前の目、脅えてる……─―」


 脅えた男の目を眺めながら、栗原の表情が、無表情に変わる……


「その目、つまらねぇ」


 そう言うと栗原は、胸ぐらを掴む手を、放した。

 放された男が、地面へと倒れ込む。


 そうしてその後も、栗原は颯爽と敵を倒していく……─―


 するとその時、目の前に警察が現れた。

 その警察の男は、静かに、栗原の前で脚を止めた。


「「……――」」


 二人、冷静な対峙をする。

 先に口を開いたのは栗原だった。栗原は口元に、笑みを浮かべている──


「お前、知ってる。毎回いるよな? 担当とかなのか?」


 するとその警察の男は、静かに口を開いた。


「あぁ。そんなところだ。 俺はお前ら4チームを、毎夜、追っている」


「そりゃ気の毒にな? 無謀だ。白麟、黄凰、紫王も含め、俺らはそう簡単には、捕まらない」


「栗原 聡……――俺はお前を、捕まえる」


「俺の名前、知ってるのか? これからよろしく争っていくんだ……――アンタの名も、教えてくれよ」


 すると、その男は答えた。


だ」


 そうして挨拶を終えると、二人の追いかけっこが始まった……――


 この時はまだ、“同じ名字”……──そのくらいにしか、思っていなかった。


****


 そして、当時は名も知られていなかった無名な8人の男たちも、この乱闘に参戦していた――


「お! 栗原総長が、警察と追いかけっこしてる! ……その途中、やけに爽やかに、邪魔な奴は殴り飛ばしてるし……さすが栗原総長!」


 遠くにいる栗原を眺めているのは、師走だ。


「おい、ソウ!」


 そう師走を呼んだのは、雪哉。


「雪哉! だから、俺はもう“霜”じゃない! 霜矢ソウヤだ!」


「は? お前相変わらず、変な奴だよな。お前は正真正銘、“師走 霜”だろう?」


「俺は雪哉についていく! だから……――」


「だから?」


「だからッ! 俺もぉ……〝!〞 が欲しい!!」


 〝相変わらず、変な奴だな〟と、呆れた顔をする雪哉。


「……勝手にすれば?」


 すると師走は満足したように、ニッコリと笑ったのだった。


****


 そしてこちらは……──


「警察まで来やがって……――にだけは、会いたくねぇ……」


 高野と背中合わせで喧嘩をしながら、そう呟いたのは、聖だ。

 高野も、背中合わせで喧嘩をしながら答える。


「あぁー……そうか。聖の兄貴、警察だっけか?」


「残念ながらな? ……お願いだから、会いたくねぇ……」


 さえない表情をする聖……


 ──するとその時……聖は思わず、息を飲む……──

 目の前で一人の男が、綺麗に宙に舞い……――そのまま、凄まじい飛び蹴りを、見事に敵に命中させる。 そしてその男は、少しも体勢を崩すことなく、綺麗に地面へと着地した。


「……―――」


 聖はその光景に、つい釘付けになった……――


「聖、どうしたんだ?」


 その様子に気が付いた高野が、聖の方を振り返る。


「アイツ、すげぇ……アイツの脚力……どうなってんだよ……」


 聖は、先程の飛び蹴りの男を指差しながら言った。

 すると、高野が答える……


「『すげぇ』っつーか……聖、アイツ……黄凰の丸島だぞ……」


「あ?! アイツが?!」


 高野は頷く……


「「……――」」


 二人は少しの間、丸島を眺めていた。

 暫くして、丸島の元に東藤が来る……

 そして丸島と東藤は、息の合った喧嘩を、二人で繰り広げていた……――


「……――」


 聖は何かを考えるように、一瞬うつむく……


「聖?? ……」


 そして聖は再び、顔を上げた。

 顔を上げた聖は、愉しそうに笑っていた。


「なぁ聖? どうかしたか?」


 高野が聞いてみるが、……答えない。

 そのまま、聖は何も答えずに、一直線に走り出す……──


「おーい、聖ぃ? どこに行くんだよ……」


 そして……――


「聖!?」


 聖をずっと見ていた高野の目に映った光景は、綺麗に宙に舞い……見事に飛び蹴りをきめる、聖の姿。

 そして聖は、少し体勢を崩しつつ、着地した。

 聖が高野の方を、振り返る。


「どうだ! 花凛?! ……俺と丸島、どっちが高く跳んでた?!」


「……なるほど。お前、真似したのか」


 高野は丸島の方を見る……――するとちょうど丸島も、先程のように跳んだ……──


「残念ながら。丸島の方が上だな」


「あぁん?! んだと! ……ちくしょう……」


「丸島は黄凰の総長だぞ? やっぱり、すげぇよ。……」


 聖は強く、拳を握った。


「絶対! 〝完コピしてやる!〞 あの飛び蹴り、気に入った!!」


「……オリジナルじゃなくて、完コピ目指すのか?!」


 この日、聖は強く、そう思ったのだった。


****


 そして……――


 一人の男が、思い切り回し蹴りをする。

 その回し蹴りは見事にきまり、回し蹴りされた奴が、吹っ飛ぶ……──吹っ飛んできた奴を、今度は違う人物が、思い切り、殴った。

 ──敵が地面に倒れる……


「案外、上手くいったな?」


 そう言ったのは、狩内 皐月。


「あぁ。皐月、お前とは息が合う」


 それに答えたのは、純。

 すると皐月は、ニッと笑う……――


「それじゃあ、もう一丁、やるとするか―─……」


「今度は、俺が皐月にパスを出す」


「了解」


 悪戯に顔を見合せて、二人、得意気に笑っていた──


****


 そして、そんな無名の6人を眺めていたのは、同じく、当時無名であった、ブラック オーシャンの二人組だ。


「おいおい、この戦争でMVPを取って、栗原総長に認めてもらおうとしたのによぉ……なぁんだか、ちらほら目立つ二人組がいやがる」


 そう言って遠くを眺めているのは、オレンジ髪。陽介。


「“ライバル出現”──ッつーことだな?」


 それに答えたのは、月。


「より一層、派手に暴れねーとな?」


「その通り」


 二人は、口角をつり上げた。

 そしてより一層、派手に暴れた……──



 ──この無名の8人が、いずれ、ブラック オーシャンの頂点に、限りなく近い存在になる。この時はまだ、誰もそんなことは、知り得なかった。


****


 栗原、上柳、丸島、柳、四人はペースを乱すことなく、今のところ、四チームはほぼ互角だ。


 ──そのまま、争いは確実に、終盤へと近付いていった……――


****

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