【瑠璃の試み 2/2 ─極秘ファイル─】

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 ──私の回想は、ここで終わる。


 そう、これは“復讐”なんだ……

 つまりエンジェルとオーシャンの間には、必ず何かの、しがらみがある筈なのだ。

 この扉の奥に、その謎の答えが、きっとある……──


 私は呼吸を整えてから、ポケットから鍵を取り出した。この鍵は、この為に、手間をかけて入手した合鍵。


 この部屋の扉は、いつも鍵がかけてある。だから、どうしても鍵が必要だ。だが、こっそりと鍵を持ち出すのは、難しそうだった。──だから、合鍵の作成を試みた。


 この部屋の鍵を持っているのは、リュウだ。2日前、私はこっそりとリュウの部屋へと忍び込んだ。そして、この鍵を探し出し、粘土で鍵の型を取ったのだ。 もちろん、両面、側面……とにかく、様々な角度から型を取った。──そうしてその型を、こっそりと松村さんに送った。


 そして今日、私の元にこっそりと、型をもとに作成した合鍵が届いたのだ。


 合鍵の出来は上出来。こんなに上手くいくなんて……驚きだ。……だが、果たしてこの合鍵で、本当にこの扉を開けることが、出来るのだろうか? 上出来と言うのは、開けられてからにしよう。


 ──緊張しながら、合鍵を差し込んだ……


 ─―ガチャン……


 差し込んだ鍵は、きれいに回った。


 開いた……かな? ……


 鍵を抜いて、私はドアノブに手をかけた。だが……


「……―─――」


 開かない?! ……


 落胆しながら、もう一度、鍵を差し込んでみた。


 ─―ガチャン


 再び、きれいに回った。……

 再度、ドアノブに手をかける……すると、何故か開いた。


「…………――」


 二回目は開くというのは、一本どういうこと? 扉の気まぐれかしら? ………そんなことは、ない筈。となると、考えられるのは……〝もとから、鍵が開いていた〟。と、言うことになる。

 一回目は、鍵をかけてしまったってこと?

 何故鍵が開いていた?

 この部屋でいつも、リュウは仕事をしている。リュウがこの部屋から出て行くのは、見計らった。だから中には誰もいない筈。なのに、鍵が開いていた……

 ま、まさかの、リュウ……施錠し忘れ??

 手間をかけて合鍵を作成したというのに、もとから鍵が開いているなんて……私が馬鹿みたいだ。

 リュウが施錠し忘れるとか、予想外にも程がある……


 ──私は少し不貞腐れながら、部屋へと入った。


 すると、窓が開けっぱなしだ。

 鍵といい、窓といい、不用心だ。

 リュウは、きっちりとしているイメージがあったんだけど……急いでいたのかな?


 ──さておき、大きな棚に、ズラリと並べられたファイル。これだ……──けれど、かなりの量だ。

 どれから見ればいいか、分からない。

 昔の物から、近代の物、順番に並んだファイル。あまり昔の物はファイルではなく、分厚く黄ばんだ本のような物だった。

 どれから見ればいいかな……けれど、ブラック オーシャンとの関わりなら、近代の筈……──そう思ったから、私は一番新しいファイルから、順番に見ていくことにした。


「……――――」


 言わばこれは、レッド エンジェルの極秘ファイルのような物。

 そんな物を見ているのだから、私の心臓は、バクンバクンと言って、落ち着かない。


「……――――」


 始めのファイルには、私の欲しい情報はなさそうだった。

 ──次に、2番目のファイルを手に取る。

 絶対に、オーシャン関係の記録がある筈……

 早く探し出さないと……


 私がレッド エンジェルのもとに来る前に、オーシャンの四人には聞いた。『どうして、レッド エンジェルに狙われているの?』って、そう、聞いたのだ。けれど彼らの返答は、全て一緒だった。 覚えはない』……──

 ウルフは『復讐』と言うけど、オーシャンは『知らない』と言う。

 両者の発言は、食い違っていた。

 オーシャンには自覚がない。それなら何故、復讐? ……オーシャンは、無自覚にエンジェルに恨みをかっているっていうこと? 一体レッド エンジェルに、何があったって言うの?


「……――──」


 2番目のファイルを閉じて、棚へと戻す。


 “見付からない”。


 私は、三番目のファイルへ手を伸ばす……──だがその時、廊下を歩く足音が聞こえた……


 一気に冷や汗をかく。


 咄嗟に、伸ばしていた手を引っ込めた。


 足音の人物が、この部屋に来るとは限らないのに、すごく動揺した。


 怖い……――一応、隠れたい……辺りを見渡すけど、隠れられそうな場所は、見当たらない。


 私は一度、深呼吸をした。

 落ち着かなきゃ……忍び込んで、極秘ファイルを漁ってなんているから、動揺してしまうだけ……

 廊下を人が歩くのは、当然……廊下を歩くたった一人の人が、深夜にこの部屋に来る確率なんて、ごく僅か……

 足音の主であるこの人が、この部屋の前を通り過ぎるまで、私は息を潜めていればいい。ただ、それだけのこと。


 もう一度、深呼吸……──


 だんだんと、自分に落ち着きが戻ってきた。

 だが、落ち着いたところで、ごく僅かな確率に当たってしまったらしく、部屋の扉が、のだった――……


 部屋の扉を開けた人物が、ドアノブを握った状態のまま、私を見て、止まった。

 私は、止まるなんてものじゃない……完全に、硬直状態になった。

 しかも一番、見付かってはマズそうな人が、そこにはいる……部屋に来たのは、だった。


 なんて、言い訳をしたらいいだろう? ……

 最悪な状態。

 けれど、ファイルから手を引っ込めておいたことを思うと、まだ、最悪ではないのかもしれない。“ファイルを見ていた”、なんて知られたら、本気でマズイ気がするから……


「君は確か、ウルフが連れていた女だな?」


「えっ……いえ……はい。――……」


 もう、動揺を隠せない。


「何を慌てている? お前も、俺が恐ろしいのか?」


「慌ててなんか……ないですよ……」


 本当は慌てているけどね…… この状況……絶対に、ピンチだ。


 ……と言うか、リュウ、今なんて言った? 『お前も、俺が恐ろしいのか?』って、言ったの? 『お前』って、何? 誰かに言われたのかな……──慌てながらも、そんなことを思っていた。


 もう最悪だ……私、どうなっちゃうの? “スパイ”って、バレたら……どうなる?


 だいたい、どうしてリュウがまた来るのよ……仕事を終えて、この部屋を出て行ったのを見計らったっていうのに……

 リュウは部屋着だ。寝室に行ったんじゃなかったの? 今頃、寝ていると思っていたのに……


「何故お前は、ここにいる?」


 やっぱし、聞かれるよね? なんて答えればいい?


 その時、自分が調度、開いた窓の前に立っていることに、気が付いた。

 私は咄嗟に、適当な言い訳を並べる……──


「この廊下の前を通ったの……そうしたら、開いた扉の隙間から、風が吹いていた。だから、部屋に入ってみた……そうしたら、窓が開いていて……今、窓を閉めるところ」


 私はリュウにニッコリと笑いながら、ガッと窓を閉める。

 ──結構、いい言い訳だと思わない?

 こんなにスラリと、嘘を言う自分も恐ろしい。 けど、仕方がない。


「「……―─――」」


「そうか――……それはご苦労だったな」


 懸命な言い訳は、どうやら通用したらしい。


「えぇ。リュウは、何故ここに?」


 笑顔のまま、愛想よく言ってみた。


 するとリュウは、ポケットから鍵を取り出して言った。


「鍵をかけ忘れた」


 やっぱし、施錠し忘れ。忘れたのを思い出して、戻ってきたんだ。〝鍵が開いていたなら、閉めにくるかもしれない〟。その危険性に、気が付いていなかった。


「この部屋は立ち入り禁止だ。早く出ろ」


「…………――」


「早くしろ」


「……はい」


 促されるまま、私は部屋から出る。まだ、調べられてないのに……

 また後日、こっそりと来るしかない。


 私が部屋から出ると、リュウは、“ガチャリ”と部屋に鍵をかけたのだった……──


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