【何が本当? どれが嘘…… 2/2 】
──日は完全に沈んだ。辺りは暗くなる。
二人は帰る為、丘の手摺から離れ、バイクへと向かう。
バイクへと乗る前に、雪哉はキャットへと視線を向ける。
なぜ見られたのか分からず、キャットは不思議そうな表情をした。
やはり雪哉はじっと、キャットの全身を眺めている。
「なに??」
「お前それ、寒くないか? ……」
雪哉が言っているのは、キャットの服装のことだ。キャットはワンピースに、薄手のカーディガンジャケットを羽織っている。
「別に寒くないよ。上着きてるし」
「今はな……日が沈んだのもあるし、バイクで風切るから、寒いと思う」
「…………」
そんなことを言われても、キャットは今更、どうしようもない。 黙るしかなかった。
「うーん……大丈夫よ。仕方ないし」
キャットはそのまま、バイクへ向かう。
「待てよ……」
すると雪哉が後ろからスッと、キャットの肩に自分の上着をかけた。
驚いて、キャットは雪哉の方を振り返る。
「それ、貸してやる。しっかり着てろ」
「?! ……いや、私大丈夫だよ」
上着を脱いだ雪哉は、わりと薄手で、寒そうに見える。 キャットは上着を返そうとした。
「いいから! 着てろよ!」
「?! ……」
〝なんだか怒られた〟と、キャットは目を丸くしている。
「……ありがとう」
怒られてしまった事だし、何より、本当は嬉しかったので、キャットは上着を借りることにした。
上着を着たキャットを見て、雪哉は満足そうに笑う。
「それでいいんだ。俺は男だから、風邪なんて引かねーしな」
「……??」
“男は風邪を引かない”という原理は、明らかに間違っている。だがキャットは、無駄なツッコミは入れずに、黙っているのだった。
──バイクが走り出す。
雪哉から借りた上着を着ていても、少しだけ肌寒さを感じた。
なのでキャットは、貸してもらって良かったと思っている。けれど、“雪哉は寒いんだろうなぁ”……と、同時にそんなことを思っていた。そう思ったから余計、キャットは強く、雪哉を抱き締めるように、しがみつくのだった。
そしてバイクは、信号待ちで止まった。
その際、雪哉がキャットに問いかけた。バイクのエンジン音があるので、少し大きめの声で言った。
「なぁ、どこに送ればいい?」
「待ち合わせた場所と、同じでいいよ」
「バカか? もう夜だ。しっかり送らせろ」
だがこの親切な言葉に、キャットは焦った。自分の帰るところと言ったら、組織の本拠地であるから──
「いいよ! 大丈夫。待ち合わせた時計台の前で……」
実際、雪哉は瑠璃を送り込む為に、本拠地の場所を突き止めた。だから本当は、隠しても意味がないのだが、キャットはまさか、雪哉が本拠地の場所を知っているとは思っていない。だから必死に、『時計台の前』と言い張った。
「駄目だって言ってる。危ねぇだろうが。送る」
だが雪哉も、譲る気はない。
「駄目よ! ……――」
そして、キャットも必死だ。
「そんなに送られたくねぇか?」
「……うん」
すると雪哉が後ろを振り返って、キャットを見た。二人の目が合う。
「そんなに送られたくねぇなら、朝まで一緒にいるか?」
「え?」
その言葉を聞いて、キャットはカァッと、顔が熱くなるのを感じた。
信号は青になり、再びバイクが走り出す。
今更、何をそんなに赤くなるのか、
そうなるのは、キャットの雪哉へ対する気持ちの変化が原因だったのだろう──
信号が青になって会話が途切れたので、返事はしていない。だが、着いたのはホテルだった。
やはりなぜだか、キャットはドキドキとしている。〝こんなにドキドキするなんて、自分らしくない〟と、キャットはそう思っている。
バイクから下りて、雪哉はキャットの肩を抱く。そして耳元で、囁いた。
「朝まで一緒にいよう」
そんな甘い言葉を、断れる筈もなかった。
****
キャットは結局、断りはしなかった。
二人はホテルで時間を共にする。
〝二人で確かめ合う〟。
偽りから始まった二人の関係で、何を確かめ合うと言うのか――……確かめ合うことなど、なかった筈なのに、二人は何かを確かめ合うように、何度も何度も、キスをした。
何度も何度も……抱き締め合って、何度も何度も、身体を撫でる。
「入れてもいいか?」
しっかりと目を見て言われて、その瞳から、目を離せなくなる――
頭の中が真っ白になって…… まるで、夢の中にいるような感覚だった。
「入れて」
──徐々に迫る絶頂……
いつもとは違う何かを、感じた気がした。……ならいつもなら、どうであった? ……──
──娯楽、快感、優越感、愛欲、遊び、気休め、欲求、ゲーム──
出会った頃は、ただ、最上級の遊びが欲しかった。気休めに、ときめきたかった──……
****
━━━━【〝
そう、雪哉は、最上級の気休めと娯楽だった。
いつだって、魅了してくれる。期待を裏切らない……
そしてまるで、自分を映した鏡のようだった。
私たちは共鳴し合う……──
私たちは似ているの……──
潰した心が、その証拠。
──恋愛ゲームをしながら、本当は、もっともっと、虜にしてほしかった。
どんどん虜にして……虜にされて、最高の恋愛ゲームだったのに……私はきっと、貴方の虜になりすぎた――
──娯楽、快感、優越感、愛欲、そんなもの、もういらない――……
いつもとは、違う何かを感じた……
感じた何かと言うのは、きっと――
──その時、二人で絶頂に達した。
雪哉が荒い呼吸をしながら、身体の力を抜いて、私の上に覆い被さるようになる。
私も呼吸を乱しながら、雪哉の耳元で、囁いた……
「私……雪哉が好きだよ……──」
───────────
──────
キャットのその言葉が聞こえたからか、雪哉の荒い呼吸は、一瞬、聞こえなくなる。それは、息を吸うことさえ一瞬、忘れたからだった。
その一瞬がすぎて、再び、呼吸の音が響く……──
雪哉はその言葉に応えるように……
どちらも呼吸が乱れたままなので、キスの最中も、呼吸する声が漏れる。
唇を離して、至近距離で視線を絡ました。
「もう一度、やるか? ……」
呼吸を整えながら、雪哉はそう言った。
雪哉の目は綺麗だけど、その綺麗な瞳の奥が、やたらと冷静に見えた。瞳の奥の真意が、読めなかった……──
「まだいけるの?」
「当たり前だろう。俺のこと、誰だと思ってるんだ?」
「……元ブラック オーシャン。西の頂点の……――貪欲女たらし」
「「……――」」
「……まぁな! だいたいは当たってる」
「そこ、否定しようか?」
可笑しくて、二人は笑った。
「今度は、私が上になる」
そう言うと、二人の位置は逆になる。
キャットはスッと、雪哉の首筋に唇を近付けた。
「痕、付けてもいい?」
「……別に構わねぇ」
雪哉の首筋に、吸い付いた。女性の吸い付く力は弱いけれど、しっかりと痕が残るように、強く吸い付いた。
首筋から唇を離すと、薄紫の痕が残った。
キャットは、自分でつけた痕に触れる。
「前は、痕を残されるの、嫌がってたよね」
「そうだったか?」
「うん。雪哉、嫌がってたよ」
キャットが言っているのは、パーティーの夜のこと。 あの時雪哉は、吸い付いたキャットを、止めた。
「どうして今日は、嫌じゃなかった?」
「……俺に向かって言葉攻めか? お前、やるな……」
雪哉は困って視線を反らした。
「あのパーティーの夜、雪哉が“印”を嫌ったのは、人魚姫を想っていたからでしょう? 人魚姫を想うから、“印”になってしまうモノを、嫌った……」
「“人魚姫”……絵梨のことか? ――……」
雪哉の瞳は、微かに揺れていた。
「そう。その子のこと……――」
キャットは痕を触れていた手を、雪哉の心臓の位置に置き換えた。
「どうして印を受け入れたの? その印をつけたまま、他の女の元へは行けない。そうでしょう? ──」
たかが印一つに、人の真意が見え隠れする……──
「つまり、私が言いたいのは……」
──〝印を受け入れたのは、
「そんな深読み、意味ねぇーよ……」
雪哉はキャットを引き寄せて、抱き締めた。
──そうしてその後も二人は、再び身体と身体で、確かめ合うのだった。
──やがて疲れ果てた二人は、深い眠りに落ちる。
雪哉がキャットを抱き締めたまま、向かい合う形で、二人は眠っていた。
二人の寝顔はとても穏やかで、恋人同士にしか、見えない程だった――……
****
そして次の日の夜。
緑の家でのこと、陽介は雪哉へと、厳しい眼差しを向けている。
「ユキ! 昨日の夜、ずっといなかっただろう?! 連絡くらいしろよ?! 心配したぞ!」
「保護者みたいなセリフだな」
「そりゃ、保護者並みに心配にもなるさ!」
純と聖の件があったので、陽介は帰って来ない雪哉のことを、とても心配したのだ。
「……確かにな。悪かった」
それを理解した雪哉は、素直にそう謝った。
「昨日は、ネコと一緒にいたんだ」
すると陽介は納得したのか、笑みを作った。
「なぁユキ! それで? ……揚げ足、取れそうか?」
「…………」
「………ユキ??」
「昨日は、ネコに誘われて会ってた。だから俺は、未計画だった。昨日は、一緒にいただけだ」
そして雪哉は陽介の横を、スッと通り抜けた。
「……――」
雪哉の態度について、何かに引っ掛かったのか、陽介は不思議そうに、雪哉を見ていた。
雪哉はPCの前に座って、また、何か調べ事をし始めた……──
──そして暫くして、雪哉が呟いた。
「……突き止めた」
それをしっかりと聞いていた陽介は、すぐに雪哉へと駆け寄る。そして、陽介もPCを眺めた。
PCの画面には、ある家の住所が載っていた。
「さすがユキー! なんだか知らねぇーけど、この住所が鍵なわけだな!」
ハイテンションな陽介。けれど反対に、雪哉は冷めたテンションだった。
「まぁな――……そんなところだ……」
調べていたことを、突き止めたと言うのに、雪哉はまったく嬉しくなさそうだった。
そうして雪哉は、PC前の椅子から立ち上がる。
「……俺、行って来る」
雪哉は玄関へと向かう。
「あ?! ユキ! どこに行くんだ?!」
「ん? ……そこ」
雪哉は、PCに表示された住所を指差した──
****
雪哉はバイクをとばして、PCの住所へと向かう。
何かに動揺するように、鼓動が速くなっていた……
──住所どおりの町に行き。住所どおりに、進む……そして、目的地へと辿り着いた。
目的地を前に、雪哉は暫くの間、立ち尽くしていた……
──鼓動は早くなる一方。ここへ来て、ある真実に、近づいたのだから――
─────────────
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