Episode 5 【訪問者】

【訪問者 1/2 ─丸島と柳─】

 ──ある日の夜、紫王の溜まり場に、黄凰の主力メンバーが集まっていた。

 溜まり場の一室で、柳、丸島、東藤、花巻、吉河瀬の五人は話しをしている。


「お前の方、どのくらいの戦力が集まった?」


 柳が、ソファーの向かい側に座った丸島へと尋ねる。


「そこそこだ。それと……ブラック マーメイドの女共も、味方についた」


 それを聞くと、柳は乾いた笑いを溢した。


「女が戦力になるか?」


「戦力ではねぇよ」


「だろうな」


「けどいいんだ―─……」


「何がいいんだ? 戦力じゃねぇなら、必要ねぇ……」


 だがそこで丸島が、優越感たっぷりの笑みを作る……


「いいんだ。“俺の女”が喜んでたから──」


 “俺の女”という言葉を、やたらと強調する丸島。

 すると丸島からの嫌味を感じ取ってか、何処と無く、柳が不機嫌になった。

 だがまだまだ、丸島の自慢話は続く──


「それに、あれだけ女がいると、“華やぐ”しな」


 そう完全に、丸島の自慢話だ。

 やはり柳は、何処と無く不機嫌だ。


「自慢話か? うるさい奴……──」


 ソファーで向かい合って座りながら、丸島と柳は静かにバチバチと火花を散らしている。


「いいじゃねぇかよ? 紫王にも、がいるだろう」


「は? 姫だと? ……――いねぇよ。男よりも気の強い女が、一応、一人いるだけだ」


「一応だと?! ……紫王と言えば、椿だろう!」


「……――あの女が姫だと?!」


 目をパチパチさせている柳と丸島。

 その光景を、一歩離れた位置から眺めているのは、東藤、花巻、吉河瀬だ。


東「今日はやたらと、総長の自慢話が弾んでいるな……」


花「柳に負けたくないらしいッスよね?」


吉「椿さんが綺麗やからな! 今まで悔しかった分、自慢しとるんや!」


 ──〝紫王に椿〟。そう、羨ましがるグループは多い。

 周りのチームは皆、彼女を“椿姫”と呼ぶ。

 だが柳は……──


「あり得ねー……アレが姫なら、猿でも姫になれる……」


 唖然とする柳。だが柳とは違った意味で、丸島も唖然としている。


「あの椿を猿扱いか? バチ当たるぞ……」


「バチ当たりは椿だ。アイツ、俺を猿扱いしやがって……あのクソ女……」


「……――お前酷いな? だろうが。クソ女はねぇだろう……」


 すると更に、柳は唖然とした。


「は?! ……あんな女が、俺の女だと?! ……酷い噂だな?!」


「「「「……?!」」」」


 この柳の発言に、黄凰の四人も唖然としたのだった。 四人、鳩が豆鉄砲を食らったようになっている。


 さておき、話題は再び戦力の話へと戻る。丸島とが口を開く──


「冬までに、戦力を倍にしてぇ……」


「そういや、“白麟”は結局どうなんだ?」


「信用してねぇ。今日ここで、上柳には本音を吐かせる。アイツが本気で背くつもりなら、容赦はなしだ」


 そうこの日、二人は時間差で、この場所に上柳のことも呼んでいた。


「名案だな。俺の城紫王で俺に背く奴は、許しちゃおけねぇからな……」


「その通りだ。“ここ”なら、アイツ上柳に逃げ場はない」


 呼び出し場所は、紫王の溜まり場だ。

 この場所で、上柳の真意を確かめるつもりだった。

 もしもここで上柳が背いたとしても、紫王の溜まり場から逃げることなど、恐らく不可能だ。──二人の企みだった。


 ここまで話がまとまると、一段落したのか、丸島と柳はタバコに火をつけた。


「……何か飲むか? 確か、ビールがあった筈だ」


「あぁ。もらう」


 堂々とソファーに座りながら、くつろぎだした二人の総長。──それを眺める、東藤、花巻、吉河瀬。実は、三人並んで立ったままだ。すると柳が……──


「おい、舎弟トリオ!!」


 もちろん、“舎弟トリオ”とは、東藤、花巻、吉河瀬のことだ。

 若干、柳にビビる三人。三人そろって、柳にきちんと返事をした。


柳「立ったままでいいなら、お前らも飲むか? ソファーはやらねぇぞ。座りたきゃ、床に座れ」


「「「はい!!」」」


丸「……テメーら、柳に対しては、随分歯切れが良いんだな……」


 言われた通り、床へと座った三人。

 丸島は呆れたように、溜め息をつく。

 そして柳は、冷蔵庫を開ける。


柳「可笑しい。……沢山あったと思っていたが、ビールが2本しかねぇ……」


「「「「…………」」」」


 柳は仕方なくビール2本を持って、ソファーへと座り直した。


柳「舎弟トリオ!!」


「「「はい!!」」」


柳「悪い。テメーらに飲ませるビールはねぇ!」


「「「……はい」」」


 柳は丸島にだけ、ビールを1本手渡した。

 丸島は優越感たっぷりの表情をしながら、三人の方を振り返る。


丸「悪いな? 総長だけの楽しみだ!」


花「総長のバァ~カ!」


吉「総長! 柳とッ……“柳さん”と一緒やと、なんだか態度がデカイんちゃう!」


丸「やっぱりお前ら、俺には口答えするんだな!」


 ──するとその時、部屋の扉が開いた。

 全員、扉へと注目する。入って来たのは、“椿”だった。

 そうして入ってくるなり、椿は不愉快そうな顔を作った。


椿「は? アンタ、誰の席に座ってる? そのソファーは、私のだ」


柳「は? なに惚けたこと抜かしてんだ? ここは総長の席だ」


 柳と椿が睨み合う。


 そして東藤、花巻、吉河瀬は、椿を見てソワソワし始めた。コソコソと会話する三人。


東「おい……本当に椿さんは、柳の女じゃないんだよな?」


花「なら、誰の女でしょーねぇ……」


吉「もしや椿さん、フリー……」


「「「…………」」」


 やはりソワソワとしながら、三人は椿に釘付けになっている。


柳「あ?! 椿! テメー!! ……」


 柳は椿の手を、指差した。 椿の手に、デカイジョッキが握られていたから。その中には、溢れるくらいのビールが注がれている。


椿「何?」


柳「誰の許可を取って、そのビール飲んでるんだよ? 勝手に飲みやがって!!」


椿「許可なんて必要ない! さっさと退きな、柳!!」


 どうにか、ソファーから柳を退かせようとする椿。椿は柳を蹴り落とそうとする。だが柳が、退く筈もない。


丸「……隣、どうぞ」


 見かねた丸島が、横へとずれた。


椿「……あら、紳士的。柳とは大違い」


 椿はそっと、丸島の隣に座った。


柳「はぁ?! まっ待てよ!!」


 だがすると、なぜか柳が焦り始めた。


丸「なんだ?」


柳「丸島! こっちへ来い!」


 そうして柳は、ソファーの端に座り直した。そして隣に、丸島を座らせる。


丸「……お前、何がしたいんだ?」


柳「……客人を、猿の隣に座らせる訳にはいかねぇ……」


 椿はビールを飲みながら、ギロッと柳を睨み付けていた。

 さておき何とか、柳と椿の衝突もおさまった。


 ──こうして、上柳を呼び出した時間になるまで、ゆっくりと過ごすことになる。

 戦力争いの話とは、関係のない話などをして、時間を過ごす。

 相変わらず、三人は床へと座ったまま。

 そして椿は紫王の下っ端を使って、ビールを買いに行かせた。そしてやはり、デカイジョッキでビールを飲んでいる。


柳「そうだ丸島……――頼みがある」


丸「なんだ?」


柳「ブラック マーメイドの女、半分くれ」


丸「は?」


 柳はそう話を持ちかけながら、ニッと笑った。


柳「あれだけいれば、いい女もいるだろう?」


 だかその瞬間……――


 ──バッシャーン!!


「「「「?!!」」」」


 黄凰メンバーは、言葉を失った。

 椿が、柳にビールをブッかけたからだ。

 そしてこれには、柳も言葉を失った。

 柳の髪から、ビールが滴る。

 椿はやはり、不愉快そうな表情をしていた。そして、ケロッと言った。


椿「手が滑った」


柳「……?! んなわけ、ねぇーだろう?! 椿ッ!!」


 椿はそっぽを向く。


柳「お前、なんのつもりだ!!」


 椿は柳を無視している。

 ハラハラとしながら、柳と椿を見ている丸島……

 そして、東藤、花巻、吉河瀬は、懲りずにまだ、椿に見とれている……

 すると、その三人の視線に気が付いた椿。そして何を思ってか、椿は東藤に向かって、笑顔でウィンクをする。

 ──そしてそれを、見逃さなかった柳。その光景が衝撃だったらしく、少しのあいだ柳は、椿と東藤を交互に見ていた。


柳「……ふざけんなよ――……」


 柳が小さく、そう呟いた。


丸「柳、何か言ったか?」


 丸島は柳に聞き返した。

 すると、柳は丸島をギロリと睨み付ける。


柳「――……場所を移すぞ?! 紫王の溜まり場に集まることを、やめる!!」


丸「……はぁ? だからお前は、何がしてーんだ?!」


柳「今すぐ! この場から立ち去る!! 分かったな?! 分かればさっさと動け!!」


 柳に促されるまま、部屋の外へと出ていく黄凰のメンバーたち。

 だがそこで、丸島が何かを思い出したように、柳の方を振り返った。


丸「待て柳?! どこに場所を移す気だ?! 上柳を追い詰めるには、この場所が最適だって……さっきも話してただろう?!」


柳「そんな事どうでもいい!!」


丸「はい?? どうでもよくねーだろう?! 柳! お前どうかしたか?!」


 柳は不機嫌そうに視線を反らす。なにか苛立っているのか、拳を強く握っている。


柳「構わねー……――場所を移す! ……──お前に言っとく……」


丸「……」


 柳がそう言い出すものだから、丸島はいくらか緊張する。〝なにを言い出すつもりだ?〟と。ハラハラとしながら、柳の次の言葉を待った。すると柳は……


柳「この場所に二度と、東藤を連れて来るな!」


丸「はい? 東藤? ……――何の話しだよ?!」


 せっかくハラハラとしながら構えていたのに、丸島は拍子抜けをした。

 そして柳はそれだけを言うと、丸島よりも先に、スッと部屋の外へと出て行く。

 丸島も仕方なく、部屋を出た。


 男たちが部屋を出て行った後、部屋には椿一人。

 椿はジョッキを片手に、柳が座っていたソファーへと座り直す。

 椿はほんの少し、もの悲しげな表情をしたまま、ジョッキの中のビールを、一気に飲み干すのだった。



 ──そして、外へと出て行った丸島たちは……──早足でサッサと進んで行ってしまう柳の事を、仕方なく追う。

 ──それからかれこれ結局、町一つ分程、20分程は歩いてしまっただろう。


丸「ホントお前はッ何処へ行くんだよ!!」


柳「とりあえず、黄凰の溜まり場にでも……上柳にも、場所の変更を伝える!」


丸「待てよッ! ……」


 〝さっきから本当に、何を考えていやがる! 〟と、納得のいかない丸島は、ついに歩く柳を止めさせた。

 

「「…………」」


 二人の間に、沈黙が走る……

 するとその時、後ろから声がする……──


―「お前ら、こんな所で、何をしているんだ?」


 その声にハッとして、二人は後ろを振り向く……

 するとそこに立っていたのは、なんと、“上柳”だった。

 〝あ?〟と、口を開けてしまう二人。

 計画が狂い始めた。


丸「かっ上柳?!」


柳「なぜお前がココにいるんだ?!」


 二人の発言に、上柳は溜め息をついた。


上「この場所がどこだか、分からないのか? それとも見えてねーのか? ……とりあえず、眼科に行ってこい」


「「……?!」」


 二人はまた、ハッとした。 ハッとして、目の前の建物を見上げる……


「「…………」」


 言葉を失う、丸島と柳。

 この場所はちょうど、白麟の溜まり場の真ん前であった。


上「それとも何だ? わざわざ俺を、迎えに来てくれたのか?」


丸「そ……そうだ! 迎えに来た! 上柳、今から紫王の溜まり場に行くぞ!」


柳「何だと?! 丸島テメー!! 紫王の溜まり場には、絶対行かねぇ!!」


上「……どっちなんだ? ……」


 困り果てる上柳。

 事態を修復しようとして、丸島がそう言ったのだが、やはり柳が全力で否定してくる。


柳「黄凰の溜まり場に変更だ!! 行くぞ!!」


丸「だから! “距離”が遠いんだよ!! テメーの城紫王の溜まり場が一番近いだろう!!」


 その時、上柳に妥当な名案が浮かんだ。


上「なんだお前ら、“距離”の問題で争っていたのか? なら、一番近いのは、だろう?」


 当然のように、上柳は自分たちの溜まり場白麟の溜まり場を指差した。


「「……?!」」


上「なにボサッとしているんだ? 早くしろ。行くぞ」


 そう言うと上柳は、自分たちの溜まり場へと向かって、歩き始める。

 二人の計画は、完全に崩れた。この空気は、ついて行くしかないだろう。


柳「お前丸島が“距離”とか言うからだぞ!!」


丸「はぁ?! 元は柳がいきなり、場所を変えようとするからだろう!!」


 二人で文句を言い合いながら、仕方なく、白麟の溜まり場の中へ。


花「質問してもいいスか?」


「「なんだ?!」」


 苛立った形相のまま、二人揃って、花巻の方へと振り返った二人の総長。


花「この場所で、上柳の真意を聞き出すつもりスか?」


「「「「……――」」」」


 彼らは全員、気が付いた。 こんな場所で上柳と敵対したなら、どうなるのか……──そう、当初の企みが、まさかの逆パターン状態になっている。 こんな所で上柳と敵対したら、自分たちに逃げ場がない。


柳「計画が崩れた……」


丸「お前のせいでな……」


 とりあえず今回は、その話を避けるしかなくなった。

 ──そうして溜まり場の中へとやって来た。足を止めた上柳が、二人へと向き直る。


上「……――何か用があるから、今回集まったんだろう?」


丸「……いや、別に」


 この状況で、言える訳がない。丸島と柳は口をつぐんでいる。


上「そうは思えねぇーな……」


 上柳は意味深な笑みを浮かべた。


上「お前らがそう言うなら、まぁ、いいとするか……──けど俺は今日ココで、お前らに伝えることがある」


 空気が張りつめた──

 まるで暗黙の了解のように、全員が、その“伝えること”の内容を、連想していたから。

 ──そうして張りつめた沈黙を破ったのは、柳だ。


柳「用があるなら、さっさと言え」


 上柳が何を言うのか、分かっている。分かっているから、もうジラされるだけ、面倒だった。


上「なら遠慮なく言う」


 黄凰と紫王の五人は、睨むような眼差しを上柳へと向けている。


上「俺は、お前らと仲間をやるつもりはない。──俺はオーシャンにつく」


 丸島や柳が、想像していた通りの言葉だ。

 分かってはいたが、実際にそれが言葉になってみると、現実味が増すようであった。

 ──張りつめる空気は、より重く……息を詰まらせる。


丸「思った通りの言葉だ」


柳「気に入らねぇ……裏切り者が……」


 丸島と柳、二人は表情を濁した。


上「あぁ。悪いな。お前らとは、ココで終わりだ」


 丸島は溜め息をつきながら、頭を掻いた。


丸「ホント、計画が狂った……」


 上柳も『計画』と言う言葉を聞き、すぐに理解した。


上「やっぱりな? ……――そんなことだろうと思ったぜ。だから、お前らがココに来た時は、本当に驚いた。自分たちの溜まり場の方が、都合が良かったに決まっているからな……」


柳「あ? ……うるせーな……」


 柳はバツが悪そうに、視線を反らす。


丸「驚かれても仕方がねぇよ。俺も驚いたっつーの……柳の馬鹿野郎……」


柳「仕方ねぇーだろう!!」


丸「何が仕方ないんだよ?!」


柳「仕方なかったんだよ! あのとき椿が! ─―……」


 『椿が』そこまで言うと、柳は言葉を止める。


丸「椿がなんだ?」


柳「聞くな!! 何でもねーよ!!」


丸「……お前、ホント謎だな」


 このような調子で、丸島と柳はずっと言い合いをしている。

 この状況で、総長二人がこんな状態なので、東藤、花巻、吉河瀬は、困り果てる。


東「総長! 今、言い合いをする時間はありません! 見て下さいよ!」


 東藤が思わず、二人の総長にそう言った。東藤はそう言って、指を差している。

 二人の総長は、東藤の指差す方向を向いた。

 するとそこにはいつの間にかに、白と黒を掲げた集団が集まっていた。

 ──白の集団は、白麟。

 ──そして黒の集団は、“ブラック マーメイド”の男たちだった。


柳「ブラック マーメイド……―─総長を失い、上柳の下についたか」


上「柳、丸島、お前ら気を付けた方がいいぞ?」


柳「なんだよ?! テメーに心配される筋合いはねーよ!!」


上「別にいいだろう? さっきまでは仲間だったんだしな」


丸「それで、何を気を付けろって?」


 上柳はチラッと、ブラック マーメイドのメンバーたちを見た。


上「気を付けろ。“高橋と稲葉がやられてから”、マーメイドのメンバーは相当、機嫌が悪いからな」


 確かに、ブラック マーメイドの男たちから、ビンビンと殺気が飛んでくる。

 それを肌で感じ、言葉につまる丸島と柳。


丸「最悪な展開だ……!」


 丸島は無意識に、柳へと視線を向けた。


柳「見るな! 俺のせいってか?! 嫌みたらしい奴だな?!」


丸「別に……」


 曖昧な返答に、柳は余計に苛立つ。だが、やけになって開き直ってきた──


柳「確かに……俺のせいだ!! 悪かったな!? テメーらはさっさと帰ればいいだろう!? こんな奴ら、俺一人で十分だ!!」


丸「?! ……待てよ柳! ……――」


柳「うるせーよ!!」


丸「一人は無理だ……」


 丸島は、柳を一人で残して帰るつもりはない。

 だが……──


花「そんじゃ、お言葉に甘えて、帰るかぁ!」


吉「柳総長、流石やな! 頼んましたでぇー?」


東「よし! 帰るか!」


 花巻、吉河瀬、東藤、この三人は帰る気満々だ。溜まり場の出口へ向かって、歩き始めた。


丸「おいコラ!! 誰が帰っていいって言った?!」


 三人がソロ~ッと振り返る……


花「柳さんが、『帰っていい』って言った!」


丸「何がだ?! の言うこと素直に聞いてんじゃねぇよ?! 柳じゃなくて、俺の言うことを聞け!!」


「「「…………」」」


花「え~? ……はぁ~い」


 するとしぶしぶと、三人は丸島の元へと帰って来た。


柳「丸島、余計なことをするな! 帰れよ!!」


 だが柳も柳で、言うことを聞きそうにない。

 ──だがここで丸島が、最も効果的なセリフを吐く……──


丸「馬鹿か柳? お前に何かあったら、椿が悲しm……──いや、“椿が喜んじまうぞ?” いいのか?」


柳「?! ……」


丸「…………」


柳「あの女ッ! ……喜ばしてたまるものか! ぜってぇ! 無傷で帰ってやる! 丸島、手伝え!!」


丸「…………」


 “なんて単純なんだろうか”と、思っている丸島であった。

 そして丸島たちのそんなやり取りを、上柳はじっと見ていた。溜まり場には、不気味なくらいの沈黙が走る……


「「…………――」」


 ブラック マーメイドからの殺気は、肌で感じられる程だった。けれどマーメイドは、未だ動かない。


「「…………――」」


吉「なんやこの間は?! ……」


 吉河瀬が、本音の疑問を溢した。丸島、柳、東藤、花巻も、同じ疑問を抱いているだろう。


「「…………――」」


 更に続く沈黙……──


柳「上柳!! テメー舐めてるのか?! さっさと“スタート”の合図でも出したらどうだ?!」


 すると上柳は、キョトン……とした目を柳に向けた。


上「そんなにやられてーのか??」


柳「はぁ?! 俺が言ってるのは、そういう意味じゃねー! 遅いか早いかの違いなら、さっさとしろッて言っているんだ!!」


 上柳は溜め息をつく。


上「そんな卑怯な真似、する訳ねーだろう?」


丸「何だと?! ……」


柳「あ? 裏切り者が偽善者気取りか?」


花「いいじゃないスか? 俺はマジ嬉しいッス!」


 ──そう上柳は、こんな不平等な喧嘩など、するつもりがないのだ。


上「そうと分かれば、さっさと逃げたらどうだ?」


「…………」


上「……──それともなんだ? 高橋や稲葉と、同じ目に遭わされたいって言うなら、話は別だけどな」


 情けをかけられている気もして、居心地が悪い。

 ……──だが、逃げていいのなら、逃げるのが得策だ。


丸「後で後悔するなよな?」


柳「期待するなよ? 借りなんて返さねぇーからな!!」


 ──柳、丸島、東藤、花巻、吉河瀬の五人は撤退する。

 ──こうして上柳は、黄凰、紫王を逃がした。

 黄凰、紫王が去った後、元マーメイドのメンバーである男が、上柳の元へとやって来て、隣で足を止める。


「言われた通り、手は出さなかった。……本当に、黄凰、紫王と敵対する気、あるんですよね?」


「当たり前だ。俺はオーシャンにつく。卑怯な真似は、好きじゃないだけだ」


「ならいいですけど――……」


 ──こうしてこの日白麟は、正式に黄凰、紫王と手を切ったのだった。


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