Chapter 2 【冬までに】

Episode 4 【それぞれの決断】

【それぞれの決断】


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 黄凰との乱闘を繰り広げ、妥当な判断で、撤退した。

 あの時、目の前に現れた集団は“白麟”。

 上柳は、ブラック オーシャンら8人を、制止させなかった。そのお陰で、なんとか逃げ切れたのだ。


 あの後、すぐに聖と高野は手当てを受けた。

 二人の怪我も、決して軽くはなかった――……


 またしても、仲間が傷付けられた。

 彼らの怒りや苦しみは、募る一方だった──


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雪「聖はどうだ? ……――」


緑「眠っているわ。……無理をしたのね……」


 緑も悲しそうに眉をひそめる。


緑「ドールまでいなくなってしまった……何がなんなのか、分からないわ。……ドールが消えたことと、この現状は、何か関係があるの?」


雪「緑に言ってなかったけど、実はドールは……元はレッド エンジェル側にいたんだ……」


 緑は何も言わない。“つまりそれは、どういう事であるのか”、それをじっと、考えているかのような。

 黙り込んだ緑を見て、慌てて陽介が言葉を付け加える。


陽「だからって、ドールは手を汚してない……それは言われなくても……何だか分かる」


緑「……大丈夫よ。ドールを疑うつもりはない。分かるわ……――あの子は素直ないい子。何より、純と一緒にいた時のドールの嬉しそうな顔……嘘なんかじゃないもの」


 雪哉と陽介も、納得したように頷く。

 もしも“ドールが手を汚していない根拠は?”と問われたなら、そんなものは答えられないだろう。だがそう、のだ。“ドールには、あの子には、人を陥れるような事など、出来ない”と。


雪「おそらく、ドールは連れ戻されたんだ……」


 雪哉の仮説に緑と陽介も頷く。


 そして椅子に座りながら、緑は何かを考え込んでいた。

 次第に、テーブルの上の緑の右手が、小さく震え出した……

 それに気がついた雪哉は、じっと、緑の右手を見ている。


緑「ドールは今……――とても辛いでしょうね。大好きな人の、傍にいられないから……」


 顔を上げた緑は、悲しそうな表情を雪哉に向けた。

 そんな表情を見ると、雪哉まで悲しい気持ちになった。


雪「緑……――何も思い出すな。大丈夫だから……」


 緑を落ち着かせるように、雪哉は緑の右手に、自分の手を乗せる……

 事情を知らない陽介は、ただ、雪哉と緑のことを眺めていた。


雪「……――そうだ、もうこんな時間だ。鳩のエサやりの時間だろう?」


 緑の思考を反らすように、雪哉は違う話を緑に持ちかけたのだ。

 すると雪哉の言葉を聞いて、緑もハッとして、時計を見た。


緑「……本当だわ。こんな時間――……」


 雪哉は優しく、口元に笑みを作った。


雪「行ってこいよ。鳥の翼――……見ると落ち着くだろう?」


緑「えぇ。そうね―─……」


 緑の手の震えは、いつの間にかおさまっていた。

 緑は雪哉に言われた通り、部屋を出て行く。もちろん、鳩にエサやりをする為に──


 ──緑が出ていった部屋。雪哉と陽介、二人だけになる。


「相変わらず……つーかさすが、ユキは女の扱いが上手い」


 少し口を尖らせながら、そう言った陽介。


「なんだよその顔?」


「別にー! ……少し“いいなぁ”って、思うだけだし!」


「フーン」


「「……――」」


 軽く流した雪哉。

 少しの間、沈黙する部屋。


「ま! そんなこと、別にいいけどな。……――それでだ、ユキ──」


 陽介は真剣な顔つきへと変わった。

 雪哉へそう話を切り出した陽介は、元から話すタイミングを見計らっていたかのようだ。

 〝重要な話だろう〟と、それを察して、雪哉も真剣な表情へと変わる。

 そうして陽介は、切り出す──


「この事態、もう俺……――黙って見てられねぇーから」


 そう口にした陽介には、いつもの陽気さは、まったくなかった。目が、表情が、いつもとはまったく違う。


「その目を最後に見たのは、いつだっただろうな? ……ブラック オーシャン以来なのは、確かだがな……」


 雪哉もそんな陽介の目を、冷静に見ていた。

 ……──いくら本来の陽介が陽気な人柄であったとしても、彼にも空虚があるからこそ、自らの存在意義の証明として、ブラック オーシャンとして族をやっていたのだ。そう彼だって、をする時がある。……仲間を傷付けた相手に対して“容赦なく無慈悲に、叩き潰してやろう”という、仲間を想う故にする、冷たい目だ──

 そして陽介は、“その目”のまま話す。


「なぁユキ……――マーメイドは解散させた。 それは、マーメイドは、百合乃への忠誠が強すぎるからだ。……だから、オーシャンの問題に巻き込む訳にはいかなかった。だから、巻き込む訳にもいかず、解散させた。けど、もしそれが――……」


 雪哉は陽介の目を見ないまま、羽根のシルバーネックレスを、おもむろに弄りながら、話を聞いている。

 そして陽介が、言葉を続けて話す……


「もしそれが――……… ……」


 雪哉のネックレスを弄る手は、ピタリと止まる。雪哉の眼差しは、再び陽介に向く。

 陽介の目は、依然、“その目のまま”……──


「ブラック オーシャンだったなら、俺らへの忠誠はどうだ? ……――」


 雪哉は陽介の言いたいことを理解したが、じっと、陽介が次の言葉を言うのを待つ。


「もう俺、黙ってられねぇーよ。元ブラック オーシャンのメンバーに、呼び掛けたい。“ブラック オーシャンを、再来させる”……──」


 陽介の言葉を聞いて、雪哉は微かに、目だけで笑った。


「なぁ、ユキはどう思うんだ! ……」


 雪哉に同意を求めるように、陽介は雪哉を見た。


する。お前がそう言うなら――……」


 雪哉の言葉に安心したように、陽介の表情が、ようやく柔らかくなる。


「良かった……決まりだ。 ──冬までを目安に、メンバーを集めたい。冬になれば、聖も高野も、回復するだろうしな。そんで、純も……――」


「了解……」


「俺は冬までに、メンバーを招集してみせる。ユキは、西のメンバーにだけ呼び掛けてくれ。他は俺が呼び掛けておく。 代わりにユキには、頼みたいことがあるから……──」


 “頼みたいこと”・陽介は何か言いづらいのか、言葉につまる。


「言いたいことは、だいたい分かる」


「なら、はっきり言わせてくれ」


「あぁ。遠慮せずに言え」


 陽介はまた、いつもと違う表情をした。いつもの陽介からは想像できないような、冷たい瞳。


「黒幕は結局、黄凰でも白麟でも、紫王でもねぇんだ。黒幕は“レッド エンジェル”……──“あの女”使って、揚げ足取ってくれねぇか?」


 雪哉は一度、窓の外を見た。

 窓の外では、たくさんの鳩が、空へと飛び立つ……──

 窓の外を眺めながら、雪哉は呟いた。


「可愛い“クロネコ”を手懐けた……──」


 雪哉が何て呟いたのかよく聞き取れずに、陽介は表情をしかめながら、雪哉を見る。

 それから雪哉は、ようやく陽介の方を向いた。


「任せろ。“あの女”は、俺に惚れてるからな――……」


 陽介がフッと、可笑しそうに笑う。


「……ホント、ユキは相変わらずだな。少しだけ……少しだけだからな! やっぱり少しだけ……“いいなぁ”って思う……!」


「どういたしまして……」


 それからまた、雪哉は窓の外を眺めていた。何かを、考え込むように――……


「ユキ……ありがとな」


 陽介は雪哉の、絵梨に対する想いを知っている。

 雪哉が絵梨に出会ってからは、“役目”を躊躇うようになったこと……──それも陽介は知っている。

 だからこそ、雪哉に今回こんな頼み事をするのが、申し訳なかった。


「……──だが、あの女は素直じゃねぇ。だから、あの女を素直にさせる為のネタがほしい」


「ネタ……――例えば?」


「アイツが俺に従いやすいように、脅す為のネタだ。まずは、そこから探すさ……」


「さすがユキ、頼んだぞ」


 ──二人は今日此処に、“ブラック オーシャンの再来”を決断したのだった。

 ──冬に向けて、二人は行動を開始する。



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━━━━━【 〝黄凰コウオウSIDEサイド〟 】━━━━━


 そして暫くして、そのブラック オーシャンの動きは当然、他のチームの耳にも入る。


 長ソファーの上で、あぐらをかく丸島。その傍らには、百合乃がいた。

 東藤や花巻、吉河瀬、他のメンバーは全員、座らずに立った状態だ。

 百合乃は視線を下へと向けたまま、丸島の肩に凭れている。

 

「お前ら覚悟しておけ。――ブラック オーシャンの再来だ」


 丸島はメンバーに語りかけて話し続ける。


「あのブラック オーシャンが再来すれば、紫王と合わせても、数で負ける。 俺らも他の奴らを、仲間へと引きずり込まなきゃならねぇ」


 するとそこで、一人が口を開いた。


「『紫王と合わせても』か……総長、“白麟”は……─―」


 その問いに、丸島は鼻で笑った。


「さぁな。――……上柳はどうも、信用ならねぇ……」


 “上柳”の名を出し、丸島は表情をしかめた。

 不機嫌そうな丸島の表情を見て、もう誰も、その話題には触れなくなる。

 ──そうしてまた、話は戻る。


「冬だ―─。冬までに、メンバーを増やす。 やり方としては、潰して従わせるのが一番早い。今日から、“族潰し”だ。そしてメンバーに引き込む」


 かつてのブラック オーシャンの再来に備えて、黄凰も動き始める……──



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━━━━━【 〝紫王シオウSIDEサイド〟 】━━━━━


 ──月の光が、背中の紫の竜を照らす。


 濃厚な夜に浮かび上がる竜……


 周りには大勢の人が倒れていて、それらの者たちは皆、痛みに悶える……


 今宵、他チームに喧嘩を挑んだ紫王は、狙い通り、相手チームを壊滅状態へと追い込んだ。


 一人の男が、フラフラと片足を引きずりながら、歩を進める……

 脚を引きずり顔には生傷だらけ、だがその男は、まだ闘志を灯した目をしていた。

 この男は、壊滅状態へと追い込まれたチームの総長だった。

 その男の行き先は、柳の元だ。

 そしてそれに、冷たい目を向ける柳──


「柳ッ……お前の狙いはなんだ! ――……」


 どうにか柳の前まで辿り着いたその男が、必死に言葉を発した。

 それを嘲笑うかのように、柳は不気味な笑みを作る……──


「あ゛? ――……何か言ったか?」


「だからッテメーの狙いは何だ!!」


 その男は今度は思い切り、叫ぶように問うた。

 柳はゆっくりと、その男へと近づく。そして、その男の胸ぐらを掴んで引き寄せる……

 するとその拍子に、立っている事も限界であった、その男の身体の力は抜けた。 だが目だけは、依然、柳を睨み付けている。


「フラフラとしながら、何を言いに来たのかと思えば……そんなことか――……いいだろう。教えてやる――」


 柳はその男を睨み付けながら、話す。


「狙いは、“ブラック オーシャン”。冬までを目安に、メンバーを集めている最中だ」


 掴まれている男が、朦朧とする意識の中、呟く……──


「……――――ブラック オーシャン……」


「そうだ。“ブラック オーシャン”……──答えろ。テメーは、俺ら紫王とブラック オーシャン、どっちの味方につく? ……――言っておくが、オーシャンにつくのなら、こんなもんじゃ済まさねぇぞ? ──」


 朦朧とする意識の中、微かに聞こえるのは……悪魔の囁きと言うよりは、魔王様からの囁き……──

 けれどそこで、その男の意識は遠退いた……――

 そして、柳が呟いた──


「……――答えなくても、答えは決まっている。お前も明日からは、だ――」



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━━━━━【 〝白麟ハクリンSIDEサイド〟 】━━━━━


 窓から月が覗く。

 酒の入ったグラスに、月の光が当たって、青白く光っている。それを飲み干す上柳──


 この日上柳は知人と二人で、バーにいた。

 話題は当然、“ブラック オーシャン”だ……──

 

「ブラック オーシャンが再来する。それに合わせて、黄凰と紫王は族潰しを始めた」


 すると知人は、上柳に尋ねる……


「どちらも戦力をつける訳か……黄凰と紫王が動いたなら、上柳、お前はどうなんだ?」


 上柳は考え込むように、グラスとにらめっこを始めた。


「さぁな。どうだか――……」


 そう言った上柳の表情は、どこか曇っている。


「……本当は、どうしたいんだ?」


「……――俺は昔、ブラック オーシャンの仲間になるべきかを、迷っていた」


 その言葉を聞いて、知人は驚きの表情へと変わる。思わず飲むのを忘れて、上柳のことを見た。


「そんなに驚くことか? ……白麟、オーシャン、黄凰、紫王……昔は総長同士でいがみ合ったさ。けれどブラック オーシャンのことは、信用していた。──俺は、ブラック オーシャンを嫌いじゃないんだ」


「「……――」」


 すると少しの沈黙の後、再び上柳が口を開く。


「それに、だいたいのことは、“読めているつもり”だ……――この争いには、“裏がある”。だからこそ、自分がどう動くべきなのかを、検討していた」


 そう言って、上柳は得意気に笑った―─……

 知人はスッと、上柳から視線を反らす。そしてやはり、知人は何も言わなかった。

 そして上柳は、答える──


「だが、決めた――……俺はとしよう」


 知人が上柳へと、視線を戻す。上柳の瞳をじっと眺めて、その覚悟を確かめるかのように――……


「お前は相変わらず、愛想が悪い。もう少し、嬉しそうにしたらどうだ? それとも、俺が信用出来ないか? 正直に言え。――……」


 上柳の知人、“栗原”は、ソッと口元へ、笑みを浮かべたのだった――



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━━━【〝BLACK MERMAIDブラック マーメイドSIDEサイド〟】━━━


 解散にはなったものの、今宵、元ブラック マーメイドのメンバーたちは、いつも通りの溜まり場へと集まっていた。

 溜まり場には、言い争うような声が響いている……


「ふざけるな!! お前ら、どうかしてる!!」


「何がよ!! どうかしてるのはソッチじゃない!!」


 男メンバーと女メンバーに分かれて、酷く言い争っていた。

 男たちも女たちも、怒鳴り散らしており、怒りで顔を真っ赤にしている。


「どうかしてるのはお前らだ!! テメーら、聖さんたちを裏切る気か?! ……」


「アンタたちこそ、百合乃さんを裏切る気じゃないか!!」


 そう、百合乃は黄凰の仲間になってしまった。元黒人魚であった女たちは、黒人魚の総長であった百合乃へついて行くつもりなのだ。

 そして元ブラック オーシャンである男たちは、当然、ブラック オーシャンの四頂点であった聖たちについて行くつもりでいる。

 それが原因で、酷く言い争っていた。

 男たちは必死に、女たちに呼び掛けている。

 この場は元ブラック オーシャンと元黒人魚、男と女で綺麗に割れて、それぞれ先頭にいる二人が激しく言い争っている。

 女の両肩を掴んで、揺さぶるようにして、男は必死に呼び掛ける……──


「テメーら全員、恩知らずの大馬鹿女だ!! 誰が今まで、百合乃さんを守ってきたと思ってんだよ!! 総長の座を奪われても、あの人たちは、百合乃さんのことを一度だって、悪く言ったことはねぇんだ……!! 悪く言うどころか、必死に百合乃さんを守ってきたっつーのに……──」


 女も、懸命に呼び掛けてくる男を見ているのが心苦しくて、辛そうな表情をしながら、視線を反らす。


「いつだって俺らは、あの人たちに助けられてきた……白麟との喧嘩の時だってそうだ……マーメイドを解散させた理由だって、今なら分かる――……それが、俺らの為の決断だったってな……──そんな人たちが、今危険にさらされてるッつーのに、あろうことかテメーらは、敵対する“黄凰”に味方するっていうのか? ──ふざけるなよ……!!」


 女はギュッと固く、目をとじた……

 怒鳴った男の声が響いていた。

 ──そして沈黙する――……

 ──しばらくして、女が固くとじていた瞳を、ソッとひらいた──


「知ってる……――そんなこと、言われなくても分かってるんだよ!! アイツらは、いい奴らだ……何より、感謝してる――……」


「なら、どうしてだ!! ……」


 女は困惑する瞳を、しっかりと男へと向けた。


「“感謝してる”。……だってアイツらは、いつだって、百合乃さんを守ってくれたから!! ……アタシらの総長を、守ってくれたから……百合乃さんが大切なんだ。……百合乃さんがいるからこそ、アイツらへの忠誠が生まれた。……──百合乃さんがアイツらに背くなら、アタシらもアイツらへの忠誠を捨てる……アタシらの絶対的存在は、やっぱり百合乃さんなんだよ!!」


 元ブラック オーシャンの男たちへと言い捨てて、女たちは溜まり場を出て行く。

 彼女たちも、苦渋の決断であっただろう。彼女たちの瞳は、悲しそうに揺れていたのだから──


 女たちが出ていき、男は拳を握り締めた。元ブラック オーシャンである男たち、皆、こんな屈辱と裏切りを味わう事となるとは、思ってもいなかっただろう。


 だが、女たちの言い分は分かった。確かに彼女たちは、百合乃の存在を差し置いてまで、ブラック オーシャンの味方はしないのだろう。彼女たちは、元黒人魚なのだから。百合乃の為ならば、恩人でさえも切り捨てる……──


 『ちくしょう……』と、言い争っていた男は小さく呟いて、溜まり場の奥へと向き直る。

 ──だがそこで彼は、目を丸くした。何故だかまだこの溜まり場に、女が二人だけ残っていたのだから──


「……――南、明美……」


 去らずに溜まり場へと残っていたのは、南と明美だった。


「お前らは、行かなくていいのか……?」


 もう、止めるつもりもない。男は声を荒げることもせず、落ち着いて問いかけた。

 南と明美は暗い表情をしたまま、所在無さげに俯いていた。


明「……――私は、南がここに残るなら、残る」


 明美は心配そうな面持ちで、南の顔を覗き見た。

 南は下を向いている。


「南、どうなんだ?」


 明美の言葉を聞いた男たちも、南へと問いかける。

 南は思い詰めたように俯いたまま、目を泳がせた。


南「私……――」


 南は顔を上げる。やはり辛そうに、表情を歪めたまま。


南「私は、百合乃さんが好き。けど――……」


 南の言葉はまた、途切れた。

 次第に、南の表情が崩れ始める。南はそのまま崩れるように、床へと座り込んだ……──

 そうして南は、嗚咽まじりに言った。


南「けどアタシは……――陽介のことが、“大好きだ”――……」


 明美は南の前へとしゃがみ込んで、南の頭を撫でた。


明「そうだよ。南はそうでいい……その決断は、間違ってない」


 明美は優しく、南に微笑んだ。

 男たちも、南のことを優しく見守っていた。


南「ありがとう……明美……」


 泣いていて赤くなった目を、南は明美に向けた。


南「けど明美は、本当にここでいいの……?」


 明美は、優しい笑顔を浮かべたまま──


明「馬鹿だね? 私の百合乃さんへの忠誠は、南がいてこそ、成り立つ。南がいなかったら、意味なんてない」


 その言葉を聞いて、南の嗚咽はもっと大きくなった。 そのまま南は明美に、強く抱き付いた。



 ──マーメイドはそれぞれ、忠誠を尽くすべき人を見極め、それによって、チームは二分されたのだった。



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 ――〝それぞれの決断が、下された〟――

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