Episode 3 【集会の夜】

【集会の夜】

 かつて夜を征していたブラック オーシャンたちは、表情を変えたこの夜に影を潜め、身を潜める。──そして、そんな夜のこと、元オーシャンの四人とは離れたある地で、集いを開いている者たちがいた。

 暴走族チーム、何組かの総長、副総長、幹部のみが集まった集会だった。……──その集会には黄凰、白麟ハクリンも参加している。


 一体なぜ、彼らは今宵、異なるチーム同士で集まったのか? ……同じ集会に集まったというのに、違うチーム同士・この場は決して、良い空気とは言えないだろう。言うならば、だ。


 自然と、他チームを見る目が血走る。

 張りつめた空気が崩れれば、たちまち乱闘でも起こりそうだ。

 そうして早くも、この場には挑発の言葉が飛び交い始める。──こう挑発のし合いが始まれば、喧嘩になるまでそう時間はかからないだろう……


 長いテーブルを挟んで睨み合った相手──

 テーブルに乗り上げて、正面の奴と取っ組み合いを始める者たちが続出し始める。

 集会の場は奇声で溢れかえった。

 ──その時……──


 ─―ガタンッ!


 一人の男が、長テーブルを思い切り蹴った。

 その音に、一瞬静まり返る部屋。

 するとその男が、長テーブルの上へと、堂々と立ってみせた。


「邪魔だぞ」


 ─―ガコン!


 その男が、テーブルに身を乗り出していた者を蹴り飛ばす。

 蹴られた男が、低い唸り声をあげて床へと倒れた。

 ──すると、例の蹴った男が、堂々と発言し始める。


「今回は喧嘩の為に集まった訳じゃねぇ。──どうしてチームがバラバラな俺らが、こうして集まる事になったのか……──〝考えてみろ〟」


 その男が口角を吊り上げて、歯を見せて笑みを作った。その男は〝黄凰の総長、丸島だ〟。

 丸島の近くには、副総長の東藤、幹部の花巻、吉河瀬もいた。


―「どうして集まる事になったかだと?」


 周りからは、疑問の声が上がる。


―「そんなこと知るか! でしゃばりやがって!!」


 更にあちこちから、罵声の言葉──


 だが丸島は、そんな罵声の言葉も、全くと言って良い程気にかけていないようだ。……──うるさく騒ぐ奴の頭をまた蹴ってやってから、丸島はあっけらかんとした顔で、長テーブルの上から下りた。


 何はともあれ、ひとまず喧嘩もおさまる。


―「それでだ、その集まった理由ってのを、お前は知ってんのか? 丸島」


 たくさんの人の後ろから、声がした。

 その声と同時に、前に立っている連中が自然と、その声の主の前から退く。まるでそこに、道を開けるように……──

 前の立っていた者たちが退き、声の主の姿が現れる。黒髪短髪の男だ。この男も、他のチームで総長を務めていた。


 丸島は黒髪短髪の総長へと答える。


丸「分かってるから言ったんだ」


 丸島が優越感の笑みを作る。そして、その理由を言おうとした──

 ……だがすると、丸島がそれを言う前に、一人の男が口を開いて言った。


―「理由は、ブラック オーシャン……だろう?」


 言おうとした事を先に言われてしまったので、丸島は不機嫌に、発言をしたその男を睨みつけた。

 発言をしたその男は、金を通り越したような、白銀の髪している。白麟の総長、上柳カミヤナギだ。( Ⅰ でブラック マーメイドと喧嘩をしていたチームの総長 )


 すると、先ほどの黒髪短髪の総長も口を開く。


「ブラック オーシャンの四頂点が戻って来たって話なら知ってる。……──だが、それとこの集会に、何の関わりがあるんだ?」


 すると向き直った丸島が、その目をギラつかせながら答える。


丸「〝ブラック オーシャン〟──この夜を制した、ただ一つの伝説のチームだ。……ブラック オーシャンの仕切る世ほど、俺らの記憶に残るものはない。……──オーシャンが消えてから、結局俺らは本当の越えるべき頂点が分からなくなった。違うか? ……」


 ……──ここにいる者全員、丸島の言った事が図星であった。この場の空気は、一気に張りつめる。


 ──そして丸島は、更に言葉を続ける。


丸「オーシャンが消えてから、王座は空白のまま。俺らの中で俺らを縛りつける絶対的権力は、未だにブラック オーシャンのままだ。……俺らのこの歪んだ世界にも、そろそろ王が必要だと思わないか? ──」


 ここまでの話しで、集会に集まったメンバーたちは全員、この集会の意味を理解してきた。

 ……──より一層、緊迫する空気が漂う。


丸「その為には、絶対的ブラック オーシャンの呪縛から、俺らは全員解放されなきゃならねぇ……」


―「その為に、どうするんだ? ……」


 一人の男が冷や汗をかきながら問い掛けた。──そうやって冷や汗をかいていたのは、本当はその考えを理解していたからだろう……──


丸「決まってんだろ。新しい国造りに以前の王は必要ねぇ。勝手に消えたオーシャンが、ようやく帰ってきた。今が、白黒つけるチャンスだ」


 すると今度は白麟の総長、上柳が口を開いた。


上「つまり、今回集まった理由は俺ら全員で、まずはブラック オーシャンを潰しにかかろうって事か?」


丸「そういう事だ」


 この集会の意味が明白になった。

 そうしてこの集会の場は、だんだんにざわざわと騒がしくなる。


―「無理に決まってる。邪道だ……」


―「けど、確かにチャンスだ!!」


―「後が怖いんじゃ……──」


―「俺は黄凰の意見に賛成」


 反対の声。賛成の声。不安の声。この場はそんな言葉であふれかえる。


―「『後が怖い』ってなんだ? マーメイドは解散。オーシャンは消えてる。戻ってきたのは、あくまでもあの四人だけだ。後も何もねぇだろ」


―「待てよ! ブラック オーシャンの四頂点だぞ? ……あいつらが呼び掛ければ、またかつてのメンバーが戻るんじゃ……」


 聖たち四人がブラック オーシャンから抜けた時、ほとんどの主力メンバーも身を引いた。


 ──総長を失ったブラック オーシャン。それなのに、聖たち四人までいなくなり、当時ほとんどのメンバーがそこにいる意味を見失ったのだ。……それでも、ブラック マーメイドとして残ったのは、一部のメンバーだけだった。


 ──飛び交う言葉は、更に増える一方。


―「けど、ブラック マーメイドを解散させたのは、巻き込まない為なんだろ? その選択をしたような奴らが、呼び掛けたりするか?」


―「四人じゃどうにもならねぇのにな? 腹をくくったって事じゃないか? なら、遠慮なく潰せばいい」


―「呼び掛けなくても、かつてのメンバーが集まる可能性もある」


 ──『呼びかけなくても……──』、ある一人が発したこの言葉。それを聞き、騒がしかった集会の場が、しんと静まった。


―「やっぱり無理なんじゃねーかよ!」


 皆、拍子抜けの様子で、肩を落とす。だがすると……


丸「なんだその面? 黙って聞いてりゃ……この様だ」


 呆れた丸島が、再び長テーブルの上に立った。丸島は集会のメンバーへと呼び掛ける。


丸「まったく……情けない連中だな。一番の間抜けずらには蹴りでも入れてやる。覚悟しとけ! ──落ち込むのは早ぇんだ。かつての冷酷残虐なブラック オーシャンの上をいく組織が、味方についている……」


 すると続いて、先ほどの黒髪の総長が、丸島の事を蹴り落として長テーブルの上に立った。

 丸島は体勢を崩す事なく床に着地。

 今度は黒髪の総長が発言する──


「その組織ってのが血まみれ天使、“レッド エンジェル”だろう? こりゃ面白い事になりそうだな。──テメーもそう思うだろう? あ゛? 答えろ!」


 一番近くのいた奴の胸ぐらを、テーブルの上から、屈んで掴む黒髪の総長。

 いきなり胸ぐらを掴まれて問われている人物は、緊張した様子で冷や汗をかいた。すると胸ぐらを掴まれている男が、脅えた様子で答える。


「……はい。面白いです……」


「ぁ゛ん? 聞こえねぇな。もういい、寝てろ……──」


―ガツン!!


 黒髪の総長が、気まぐれにその男を殴った。そうして『寝てろ』の言葉通り、殴られた男が床に倒れる。

 ──その光景に目を背ける幹部たち。

 ──やれやれと言いたげの副総長たち。

 ──そうして、気にも止めていなそうな総長たち……──


―「レッド エンジェルの下なんかについて、本当に大丈夫なんですか?」


 どこからか、不安の声が上がった。


「別に構わないさ。深入りはしねぇ。腹わって関わる訳でもない。まぁ、機嫌取りはしといた方が身の為だろうな」


「ごますりって事ですか?」


丸「そんなもんより、機嫌取りにちょうどいいネタがある」


 レッド エンジェルの機嫌を取っておきたいたいのは皆一緒だ。──〝一体どんなネタなのか? 〟と、皆真剣に丸島の話しを聞き始める。


丸「この間開かれたパーティーを知ってるだろう? 俺ら黄凰も、愉しく乱闘パーティーに参加したわけだが……──そのパーティーの最後の日の事だ。──あろう事か、レッド エンジェルが大切にしている可愛い可愛いお嬢様が、行方不明になった。……」


「つまりは、そのお嬢様を見つけ出せば、これ以上の機嫌取りはないって事か」


丸「その通りだ。レッド エンジェルは今、血相変えてお嬢様を探している」


 すると丸島が、長テーブルへとある写真を置いた。


「これが、そのお嬢様だ」


 全員がテーブルの写真を覗き込む。

 ……そして白麟の上柳が、スッと写真を手に取った。


上「……どこかで見た顔だ」


 次に、黒髪の総長が、上柳から写真を受け取った。


「コイツを探し出せば良いわけだな」


 トッと、黒髪の総長が再びテーブルへ写真を置く。

 次にそれを、花巻が手に取る。


花「……この子は……」


 花巻が持っている写真を、吉河瀬も覗き込む。


吉「べっぴんさんやな! !」


丸「は?」


 吉河瀬の発言に、丸島が首を傾げた。

 東藤も写真を覗き込み、それをじっと見た。……それからすぐに、呆れた様子だ。


東「……総長、こんなタイミングでボケ入れないでくれませんか? この写真は、オーシャンのだ」


丸「なんだと?!」


 〝んな訳はねー!!〟と、丸島が花巻から写真を奪い取った。だが……


丸「…………」


 正真正銘、それは絵梨の写真であった。そう、出す写真を間違えた。

 するとヘラっと、花巻が笑う。


花「うちの総長って、どこか抜けてんスよ。ね、東藤さん!」


東「まったくだ」


吉「そこが愛嬌やねん」


丸「テメーら! 俺に赤恥かかせてーのか! お前らの総長だぞ! ……」


 必死そうに言い張る丸島。顔から火が出る思いだ。そしてそんな様子で、また別の写真を長テーブルへと出した。


丸「黙れ! ……これで良いだろ! コッチが本物のレッド エンジェルのお嬢様だ!」


 再び全員が、テーブルの上の写真を覗き込む。


「お! ……かわいい!」


「これがレッド エンジェルの……──」


 ──そうそれは、化粧をして、大人の表情をしたドールの写真だった。

 この写真を見て、ドールの事を“子ども”と思う者はいない。


花「へ~……写真見る限り、けっこう小柄ですよね?」


丸「実際に会った事がないから、どうも言えないがな」


 長テーブルには、絵梨とドール、二枚の写真。……

 団結力のない集会。……ガヤガヤと騒がしく、再びいろいろ言葉が飛び交い始める……


―「レッド エンジェルは味方につけた方がいいよな?」


―「だな。早くブロンドのお嬢様を探し出さねぇと……」


―「お前、何を言ってんだ? ブロンドの女は人魚姫の方だろ?」


―「え? そうだったか?」


―「そうだろ?」


―「ホントかよ?」


―「そう言われると、自信なくなってくる……」


―「どっちがレッド エンジェルのお嬢様だ? ……」


 ……そうこんな会話が、飛び交っていたのだった。


 ──この夜、ひっそりと開かれた、別のチーム同士の集会。


 王座を争う彼らの決断……──

 彼らの中で、未だに王座に君臨するブラック オーシャン。

 ブラック オーシャンの呪縛を解く事こそが、 王座をめぐる争いに新たな王を定める為の、第一歩。


 ……──いつだって王座を掴み損ねて、彼らは争いの理由が分からなくなる。ブラック オーシャンと言う、越えるべき壁を越えないまま、争っていたからだ。


「ブラック オーシャンの残像をぶち壊せ……──王座を空席にリセットしろ。 それからが、俺らの本当の争いだ──」


 今宵ここに、夜闇を生きる者たちの決断が表明された──


***




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