【BLACK PARTY ROUND3 2/2 】

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 ──その時突如、窓から強い光が差し込んだ。それは決して、自然光ではなかった。……――何か、人工的な光だろう。


響「今度は何の騒ぎだ? ……」


 光の眩しさに目を細めながら、響が怪訝そうに窓の外を見た。

 すると、窓の外を覗いた響が、驚きの表情に変わる。


響「……どうなってんだ?!」


 響に続いて、瑠璃も外を覗き込む。すると瑠璃の心臓が、ドクンと脈打つ………―――


****


 ──そして時を同じくして、誓の残った場所での事……──


 ――ウルフが口を押さえて、一瞬だけよろめいたように見えた。

 誓にはその一瞬の怯みの意味が、分からなかった。〝何だ?〟と一瞬、疑問が浮かぶ。


 ──だがするとその時、窓の外から光が差し込む──

 ウルフと対峙しながらも、誓は一瞬、窓の外へと視線を向ける。……窓の外を見た誓は、驚きを隠せない……――そして思わず、呟く──


「…………――」


 窓の向こう、屋敷の外には、大勢の部下たちを引き連れた松村がいたのだ。……――大きなライトが、こちらを向いている。


 誓は嫌な胸騒ぎを感じている……──


 ─―そして依然、気分が悪そうに口を押さえながら、ウルフも窓の外へと視線を向けた。


「警察か……邪魔をしてくれるな……」


「冷静なこと言いやがって、どうするつもりだ? ……――おそらく、この屋敷は既に、包囲されているだろうな」


「フン――冷静なふりをしているのは、お前じゃないのか? ……」


 よろめく体で口を押さえながらも、ウルフが挑発的な目を誓へ向ける……―─


「あ? 俺は一応警察だ。焦る必要なんてない」


「……――どうだかな。……他の奴ら警官に来られたら困るだろうが? ……─―何故ならお前にとって、オーシャンをアイツらに受け渡す事は、本望では無いのだからな……」


 確かにウルフの言う通りだった。誓は警察としてではなく、あくまでも個人的に、此処へと瑠璃を助けに来たのだから。そして当然、聖たちのことも……――


 そしてウルフはその体調とは裏腹に、やはり焦ってはいないようであった。


「“包囲”か……――包囲したのなら、そのうち突入もするんだろう? ……―─こんな広い屋敷だ。突入したところで、俺の元までたどり着けるものか。この屋敷の構造は、一部の者しか把握していないんだ──……」


 ──そう、この広い豪邸の中……――そう簡単にたどり着けるものか。

 ウルフは悠長に言ってみせた。……――捕まる気はしないのだろう。

 ……――だが、誓も負けじと返す。


「たどり着けるかだと? そんな事は関係ない。─―何故なら、“ここに俺がいる”からだ」


 ……――“たどり着けないから捕まらない”? ──何を悠長な事を……――突入して来る警官など、誓からしたら関係ないのだ。──そう、ウルフを捕らえる事の出来る、“自分と言う警官”が此処にいるのだから。


 ――それに気が付かされ、表情をしかめながら、ウルフが小さく舌を打つ……


「……――どうやら、そのようだね」


 ――〝さぁならば、どう動こうか? 〟──


 どっちにしろ、警察が突入するまでは、出口のない追いかけっこを繰り返す事になるのだ。

 警察側が突入した時初めて、此方は出口を求める追いかけっこへと変わる。

 屋敷へとあちらが突入すれば、それと引き替えに、完全包囲の状態ではなくなるのだから……──


****


 ――そして乱闘中のメンバーも、この異変に気が付き始めていた。


百「なぜ警察が……マズイ」


 窓の外を眺めながら、百合乃が呟く。


陽「百合乃、何が起こってるんだ?」


 顔に生傷をつけた陽介が百合乃に問い掛け、同じように窓の外を覗き込む。


百「警察よ。それも、結構な数。……どうしてこの場所が……」


陽「は?! ……とりあえず逃げるか?!」


百「まだよ。見て。包囲されている……」


 窓からは、屋敷を取り囲む警官たちが見える。

 百合乃と陽介は、固唾を呑みながらこの状況を見守る。

 ……――するとその時、警察側に動きがあった。彼らは歩を進め始めた。……――屋敷の入り口の方へと……

 すると、同じように外を見ていた響が言う……―─


響「見ろ。……そろそろ、突入するぞ。……なら、お前らは懸命に逃げるしかない」


百「お前らって? ……」


響「お前らはお前らだ。“五人”。瑠璃と絵梨は俺が預かる。……――俺の立場を使い、上手く保護をしよう。事実、瑠璃と絵梨は巻き込まれただけだ」


 この時点で逃げる必要があるのは、裏組織と関わりを持ち、尚且つ乱闘に参戦した、百合乃、聖、雪哉、純、陽介だろう。

 瑠璃と絵梨の事は、響が警察の立場を上手く使い、“保護をした”という事にすればいい。

 そして次に響は、純を見た。


響「おい高橋、その女の子ドールは何者だ? その子も俺が保護をしよう」


 響は、まさかドールがRED ANGEL側だとは思わなかったのだろう。だからと言って、BLACK MERMAIDのメンバーの訳もない。響からしたら、ドールは保護する対象にしか見えなかったのだ。

 だが実際は、ドールはRED ANGEL側だ。……――純は言葉を詰まらせる。承諾する事を躊躇う純……――


響「どうした? ……早くしろ」


純「…………」


 “離れたくない”と言うように、ドールが、純の服をキュッと掴む。


 ……――その時、ついに警察側が屋敷へと突入する。


 ──【PM9時32分、警察側が屋敷へ突入】──


陽「突入した! さっさと逃げるぞ!」


 警察の登場で、この場は全員、乱闘どころではなくなっていく。


聖「ぁんだと?! ……それって逃げれるのか?!」


雪「慌てるな。俺に任せろ」


「「……はい??」」


 すると雪哉が、優越感たっぷりに笑みを浮かべながら、ある物を取り出した。


聖「なんだそれ?」


雪「。抜け道もしっかりと書いてある」


聖「……お前がどうして、そんなもんを持ってるんだ?!」


雪「ネコから貰った盗んだ


陽「さすがユキ様! ちゃっかりしてる!!」


 ──【PM9時35分、BLACK OCEAN側が逃走開始】──


 警察が突入。――オーシャン側は出口を求めて、逃走開始だ。


 立ち去るオーシャン側の背中を眺めてから、響は瑠璃たちへと向き直った。

 ……――この時、警察側の突入を受け、“ドールを保護する”と言う話が、あやふやになってしまっていたままだった──


****


 ──そして此方は、黄凰側だ。


 ――窓の外を眺めていた東藤が、不機嫌そうに舌を打つ。


丸「どうなってんだ? ……――引くしかねぇ。お前ら、逃げるぞ」


花「あ~い」


 こんな状況でさえ、花巻からはトーンの低い、やる気なさげな返事が返ってきた。


吉「動ける奴は怪我人に手ェ貸せ!」


 吉河瀬は怪我人に手を貸すように指示。その指示で動ける者たちが、怪我人に手を貸し始めた。

 一方で、逃げる者は逃げた。

 全員が手を貸せば、全員を連れて逃げる事だって出来ただろう。だがこれでは、明らかに人手不足だ。


花「吉河瀬、分かってんだろ? 全員連れて行くのは無理だ」


吉「だからって! 何や! なら、どうしたらええんや!!」


 ――“置いていくしかない”――


 花巻の目がそう言っている。


花「仕方ないだろ? ……全員は連れて行けないのに、他に何か選択肢があるか? ──」


 言い返す言葉が見つからなかった。唇を噛み締める……――


 取り敢えず、丸島、東藤、花巻、吉河瀬で、意識が飛んだ状態の者の腕を、肩にかけて運ぶ。


花「東藤さぁ~ん、男って重いッスね……」


東「黙って運べ」


花「あ~い」


 吉河瀬は浮かない表情だ。そんな吉河瀬の事を、丸島が気に掛けるように眺めていた。


 ──【PM9時38分、黄凰側も逃走開始】──


****


 そして誓とウルフは……――


 逃げるウルフを、誓が追う。

 ウルフは体調があまり優れないのだろう。その状態で誓から逃げ切るのは、難しいだろう。


 荒い呼吸が響く……


 そしてついに、誓がウルフの腕を掴んだ。


 だが誓が掴むと、ウルフの体が“グラッ”と揺れた……――


「?!……」


 誓は目を見張っている。……ウルフは荒い呼吸のまま、誓を睨みつける──

 ……――ウルフの呼吸が荒いのは、走ったからだけではない。

 ウルフの顔色の悪さに、誓は戸惑う。


誓「お前……」


 ──その時、誓は不意に、誰かの視線を感じた。……


 ──〝殺気? ……〟──


 ウルフからも注意を反らし過ぎないようにしながら、誓は横目でその方向を確認する……──

 すると柱の陰から、此方を狙う銃口が向いていた……――


 ──それを認識してから、刹那の一瞬の事だった。


  何者かによって、引き金が引かれる――


 銃声が響く……──


 ……銃弾は誓の肩をかすめた。──一瞬の事。“バン”と言う鋭い音が響いたと思ったら、既に腕から血が滲んでいるのだ……


 ボタボタと、床に血が落ちる……


 反射だ。〝撃たれた〟と頭で理解した頃には、誓は片手で傷口を押さえていた。 ウルフを捕らえていた筈の、その手で……――


 一瞬の隙に、ウルフは逃走する……


 ……そして、暗がりから此方に向いていた銃口が、スッと闇に溶けるように、見えなくなった──


 銃を撃った何者かも、立ち去って行くのだろう……――暗がりで、どんな奴が撃ったのかは分からない。


誓「待てッ!! ……」


 誓は銃を撃った何者かを追おうとする……

 ……――だが、肩に痛みが走る。傷口が異常に熱く感じた。


 滴る血……──


 足元に垂れ広がっていく血溜まりを、呼吸を整えながら、睨むように眺める……


「……畜生ッ……」


 腕を押さえながら視線を上げて、銃口の消えていった闇を睨み付けた。


 血が止まらない……舌を打ってから、一度冷静になり、止血を始めた……──


 ──一体、何者だったのだろうか? ……――それは逃げたウルフにも、分かっていなかった。


****


 そして屋敷の外で指揮をとっている松村は、既にこの勝負に勝ったつもりでいた。


「ようやくだな。覚悟しろ……――」


 夜空を背景に佇む屋敷を前に、口元に笑みを浮かべた。

 だがその時、こちらでも予想外な事が起こったのだ。

 何処からかスッと目の前に、何かが放り投げられた……──


「…………」


 ――“何だ? ”……――


 松村も他の警察も、一瞬、それをじっと見てしまった。

 ……そして、それが何なのかを一番に認識した一人の男が、顔を真っ青にしながら叫んだ──


「時限……爆弾?! ……」


 警察側が、一気に混乱状態に陥る……――

 だが松村が、冷静に指示を出す。


「慌てるな! 早急に処理班を呼べ!」


「はっはい!」


 冷静に指示を出したが、松村も内心では、この事態に焦りを感じていた。


「一体、どうなっているんだ……」


 ため息混じりに呟いた。

 ──その時、再び混乱の声が上がった。


「むっ無理です! 爆発までもう時間がありません!」


「なんだと?! ……」


 松村が急いで時間を確認する。 すると……――


「…………」


 ──3……2……1…………――


 ──緊張が走る……――〝逃げる時間さえ、与えられはしなかった〟と、全員が、覚悟をした……


 ──時限爆弾のカウントが、“0”になる。


 瞬間、大きな爆発音が響き渡った……――


 ……爆風で砂けむりが舞い上がる……――


 ……――そして全員が、脱力して座り込んだ。


 この爆弾は目眩まし程度の物。威力は無い物だったのだ。

 そして安堵したのも束の間。その後も、目眩ましの爆発が立て続けに、他の場所でも5回起こった。


「今のはただの目眩ましだが、全てが目眩ましとも限らない……状況が分からぬまま、此処へ滞在し続けるのは危険だ……」


 してやられたものだ。警察側の計画が崩れ始めた。

 ──その間にも、火薬の臭いが鼻をかすめる……――


「一時撤退だ! ……」


 火薬の臭いにヒヤヒヤとしながら、警察側は撤退を開始する。


 ──バーーーーン!!


「……?!」


 撤退中の彼らは、ヒヤヒヤとしながら、振り返る。すると……──


 ──空に光が舞う。


「……花火?!」


「一体何なんだー!」


 今度こそ爆破されたと、そう思ったが、違っていた。何故か今度は、夜空へと花火が上がったのだ──


 “ますます意味が分からない”と、混乱する警察側。


 ……―そして混乱に陥る警察たちとは反対に、冷静な顔をした男が一人。……その男はそっと、夜の暗がりの方へと立ち去って行った……


****


 そして屋敷の中では、誓から逃げたウルフと、アクアが何とか落ち合ったところであった。

 アクアは眠ったままのキャットを抱えている。

 二人にも混乱が広がっていた。


「ドールがいない」


 第一に、ドールがいない事。


「ドールは行方不明……そしてこの爆発に、この花火……」


「こんな事が得意な仲間が……確か、いましたね……」


 アクアが苦笑いでウルフを見る。二人はその面持ちで顔を見合わせた。


「……


 ウルフは顔色が優れないというのに、その名を呟きながら、壁を思い切り殴った……

 

「面倒な奴が帰ってきた……」


 そうそれが、混乱が広がっている第二の理由だ──


****


 そしてその頃、聖たちは……──


 例の屋敷内の構造を記した地図のお陰で屋敷からの脱出に成功し、夜の街を歩いていた。

 

 そうして屋敷から少し離れた場所の、街角まで差し掛かった頃──


 ──ヒュ~~~――……――─―


「あ? なんだよ?!」


 突然響いた謎の音に、全員が夜空を見上げた。


 ──バァーーーーン……――


 すると今宵の夜空に、華が咲く……―─


「花火?」


 花火の上がった夏の夜空を見上げながら、皆呆気に取られている。


 街角の街灯に寄り掛かりながら、雪哉がタバコに火をつける。


雪「またどうして花火だよ?」


聖「知らねぇー」


 興味なさげに答えながらも、聖は何気なく花火を眺めている。

 陽介は脱力するように、ぼんやりと花火を眺めながら、しゃがみこむ。


陽「体がガタガタだ。酷い目にあった~……」


「「「「…………」」」」


 全員同感である。そのせいだ。この夜空の華を前にも、皆テンションがやたらに低いのだ。


 ──バァーーーーーン……


 全員、夜空に開く華を、ボ~っとただ、脱力をしながら眺めている。ボンヤリとする思考の中で、“綺麗だな~……”と、確かにしみじみと感じながら。

 だが、百合乃だけは、四人とは違う心情で夜空を見ていた。百合乃が見ていたのは、花火ではなかった。虚ろな瞳で、意味もなく夜空の一点を見つめていた。ひどく、思い詰めたような表情で……──

 その百合乃の異変に、誰も気が付いていなかったのだ──


 ──バァーーーーーーン……


雪「また上がった」


陽「悪くねぇけど、いきなりどうして花火だ? っつー問題だな」


聖「夏の終わりの花火……」


 脱力しながらも、それぞれ、思い思いに花火を見ていた。すると……


「わぁー! 純くん、綺麗だねぇ」


聖雪陽「「「?!!」」」


百「……?」


 〝へっ?! この声は?!〟と、聖、雪哉、陽介、百合乃が一斉に振り返る。

 すると、建物に寄り掛かり座っていた純の隣から、ドールがヒョコッと顔を出していた。

 純以外の四人は唖然とする。皆、ドールの存在に気が付いていなかったのだ。


聖「いたのかよ?!」


陽「どさくさに紛れて、どうして連れて来てんだよ?!」


雪「誘拐だな」


百「誰??」


 すると、皆からの視線から逃れるように、ドールは純の影に隠れた。


聖「隠れたぞ?!」


陽「小動物的な……」


雪「よく懐いてるな」


百「甘えたいのね」


純「なんだかうるせーな……」


 そう〝視線も言葉もうるせー〟のだ。〝共に来てしまったのだから、仕方がない〟。


 ──さておき、ウルフたちが捜していたドールは、純たちと共にいたのだった……──


 ……――突如起こった爆発と花火。それが起こった事に、どういう意味が隠されていると言うのか……――

 ここからどう、未来が変わっていくのか……〝〟のか……──まだ誰も、知る由もなかった。


 ──バァーーーーーン……


 夜空にまた光が放たれて、また、釘付けになる。


 ドールも純の隣で、じっと花火を見ていた。


 そして、上がった光が散り散りになって、夜空に溶ける頃、彼らは自然と、帰る方へと歩を進め始めた。……――もちろん、ドールも一緒にだ。


「嫌になるほど、愉快な夜だったぜ」


 矛盾する言葉を吐きながら、それでも平気なふりをして、笑ってみた──



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―――――



  ◤ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄◥

  

    【 Ⅱ VOLUME COM 【 Ⅱ巻完結❇️ 】PLETE ❇️】


    【 CONTINUED TO VO【 Ⅲ巻へ続く 🌙】LUME Ⅲ 🌙】


  ◣_________________◢

 ※次のページに【あとがき】あります。


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