Episode 17 【BLACK PARTY ROUND3】

【BLACK PARTY ROUND3 1/2 】


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 『どうして泣いてるんだ?』


 『分からないよ……』



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 『怖ぇときは怖ぇんだ……』



 あの時、訳も分からずに泣いていたドールの事を、思い出した……──



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 純は分からなかった。目の前にいるコイツらに、恨みがある訳ではない。言うなら、道を阻む“敵”、そのくらいだろう。


 自分でも、分からなくなる……――


 まるで、“コイツらに恨みがあるんじゃないか? ”って思うくらいに、感情は壊れて、それが相手に牙を向くのだ。


 自分でもよく分からない。 けれどそれは、毎回の事だった。


 喧嘩になると自分が壊れる。 喧嘩をしていて、だんだんに気が立つわけじゃない。 “喧嘩が出来る”。そう思うと、自分が変わる。


 ……――そうなるのはきっと、元からそれを望んでいるから。


 抱えたままの、どうにもならない感情。その感情が、喧嘩をする相手に向けられる。抱えるものの分だけ、壊れる。自分の制御が上手く出来ない。


 ──目の前の敵は、そんな純に脅えた。〝戦意喪失〟……

 周りには既に、倒れている男が何人もいる。

 残っている男たちの一番後ろの方で、丸島も息を呑んだ……――


「つまらねぇ……」


 胸倉を掴んでいた手を放す。

 放された男は、床へと沈んだ。


「次は誰だ?」


 自分たちの方に向けられる目に、全員、肩を震わす。

 始めは何人かで一気に純に襲い掛かるような形であった。だが既に、ほとんどの者が戦意を喪失をしている。その為今では、純が一人ずつ呼び出すような形になっていたのだ。


 純の服に、自分のモノではない血のシミが増えていく。更には、頬に血がはねている。……──黒い髪と茶に近い赤色、毒々しい色合いが、余計に恐怖を煽る。


「次はお前だ」


 純にそう言われた男の顔が、青ざめた。

 周りの者たちは、一瞬だけ安心する……――

 選ばれた男が震えながら言葉を発っする。


「すみません……でした……見逃してくれ……――」


 純は、冷たい表情をしたまま……──


「俺は、その言葉が嫌いだ」


 ──〝見逃すつもりはない〟。


 冷たい表情とその言葉に、男がまた震える……──だがその時、純の肩を響が掴んだ。

 純は振り返り、響を見る。


「やめろ。そいつは戦意を喪失している。もういいだろう……?」


 響は男を掴んでいる純の手を掴むと、少々手荒に、純に男の胸ぐらを放させた。


「邪魔するな」


「は? 邪魔をしたつもりはない。……――目の前に狂った無茶苦茶な奴がいれば、止めるのは当然だろう?」


 純が響へと舌を打つ。〝この空虚も絶望も、衝動も……──何も知らない者に、なぜそんな事を、言われなくてはいけない〟──


「癇に障ったか? ……仕方がねぇだろう。客観的に見たら、そうとしか言えない」


 響はそのまま言葉を続ける。 ──


「まぁあくまでも、客観的に見た話だ。俺がお前をどう思っているかじゃねぇ」


 “自分はそうは思っていない”、そうとも取れる響の言い方に、純は居心地が悪くて、視線を反らした。──理解されない事も、庇われるような発言をされる事も、どちらも居心地が悪いのだ。


「喧嘩をしてる時のお前の目、ブッ飛んでる。現状の喧嘩を見てる目じゃねぇ……」


「なんだよそれ……?」


「他の何かを見ながら、それを喧嘩にぶつけている」


 核心を突いた響の言葉に、純の心臓が“ドクン”と脈打つ……――


「図星だろう? ……さっき舌打ちしてたしな。理由があるのを本当は自分で分かってるから、“狂ってる”と言われるのは気に食わない」


「何なんだよ、コイツ……」


 やはり居心地が悪くて、純は視線を反らした。


「とにかく……戦意を喪失している相手を、これ以上追い詰めるな」


 純は少しの間黙って、じっと何かを考えていた……

 念を押すように、真っ直ぐに純を見ながら、響は言い聞かせる……


「〝アイツらを殴る必要はない〟……――」


「…………」


「取り敢えず、お前はもう、大人しくしてろ……」


「…………まだだ……――」


「……あ? ……」


 いくらか落ち着いてきていたように見えたが、純はそう呟いた。

 ――再び男たちの方へと、純が歩き始める……―─


「おい!? ……」


 向かおうとする純の肩を、響が再び掴む……――


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 ──そして、聖たち四人もようやく、この場へとたどり着いたところだった。


 通路を染める、血の痕……そこに倒れている者たち……――目の前の光景に、思わず絵梨が口を押さえる……


聖「やっぱりな……」


 聖と陽介からしたら、この光景は意外でもなんでもなかった。


陽「とりあえず、今回はもう、純には暴れさせない方がいい……」


百「そうみたいね……」


****


 更に、雪哉と瑠璃もここへたどり着いた。……──雪哉と瑠璃も、聖たちが見たのと同じ光景を目にしている。


雪「あーあ……今回も派手に暴れたな」


 雪哉が転がっている男を軽く蹴る……――

 この光景を前にも、雪哉は平然とした様子だ。


瑠「ちょっと……大丈夫なの? ……」


 瑠璃が純の服を染めている血を見て言った。


雪「心配ない。あれは、純の血じゃねぇ」


瑠「え? ……」


 それを理解した瑠璃は、絵梨と同様、驚きを隠せなかった。

 瞳を見開き、目を反らせない……――そこに争いの爪痕を見たから……――

 瑠璃の知らなかった世界だった。……──元暴走族、彼は……は何故、こんなにも心を壊していて、他者を、そして自らを、傷付けるのか……──


 だがやはり瑠璃とは反対に、雪哉は取り乱す事もなく、平然としながら陽介と聖の方へと向き直った。


雪「よぉ聖、陽介」


陽「ユッキー!」


聖「お前らも、今たどり着いたところか」


 陽介も聖も、雪哉と同じように、動揺などしていない。彼らからしたら、珍しい光景でもなかったのだろう。

 ……――さておき、これで誓以外の全員が、この場へと集まった。


****


 ──通路の先から靴の音を響かせて、男がこちらへと向かって歩いてくる。

 男は澄ました面持ちのまま、通路に倒れている者たちを器用に避けて進む。──そうしてその足を、丸島の傍らで止めた。黄凰の東藤だ。


東「酷いな。何があった?」


丸「高橋 純だ。アイツ狂ってる」


東「……噂には聞いていたけどな」


 黄凰の総長、副総長が揃う。するとそこへ……──


「俺らが揃えば、オーシャンなんて敵やないで!」


「「…………」」


 どこからか現れた吉河瀬が、東藤の後ろからひょこっと顔を出した。


東「お前いつからいた?」


吉「さっき!」


丸「なんだ、そのずぶ濡れ……」


花「水浴びでもしたんじゃないスか?」


「「…………」」


吉「何やその動物的な言い方?!」


東「お前花巻も、いつからいた? ……」


花「東藤さぁーん、〝さっきです!〞」


「「…………」」


 こうしていつの間にか、吉河瀬と花巻も合流を果たしている。

 花巻はキャットに言われた通り、吉河瀬を地下牢から助け出して来たのだ。

 ちなみに地下空間の湖へと落ちた吉河瀬が、未だにずぶ濡れ状態である。


 ──さておきこうして、黄凰の主力メンバー四人も揃い、前線へと出た。

 すると、聖、陽介、雪哉も前へ。


聖「純、お前は下がってろ」


純「あ? 相手もちょうど四人だ。俺も……」


陽「馬鹿か! 今回はこれ以上の喧嘩は許さねぇーぞ! 純!」


 〝聖と陽介の言う通りだ〟と、雪哉も頷く。

 それでも純はまだ、前線から退く事を躊躇している。……だがすると、純の事は一先ず、響が強制的に後ろへと下がらせた。


 そして、喧嘩の届かなそうな後ろの方には、瑠璃たちがいる。 純を連れて後ろへと下がった響へと、瑠璃が駆け寄る。


瑠「響! ……響は大丈夫? 怪我とかしてないよね?!」


響「瑠璃、元気そうで良かった。俺も元気だ。怪我一つない」


 瑠璃は一先ず、安堵の表情を浮かべる。


響「誓とは会わなかったか? ……──」


瑠「会ったよ。さっきまで一緒にいたの……でも、誓は違う場所に残った……」


 瑠璃の話を聞くと、響は一瞬、目を丸くした。〝アイツ、一人で何をしてやがる……〟と、響は困ったように、頭を掻く。……──だがすぐに、諦めたように、ため息をついた。


響「アイツらしいな……まぁ、誓なら平気だろうけどな……」


 そうは答えるが、響も誓の事が心配なのだろう。どこか浮かない面持ちだ。響の横顔を眺めてから、瑠璃も不安げに俯いた……


 そして百合乃は、純を心配して駆け寄る。


百「純、平気? ……休みな……」


純「大丈夫だから……」


 純は百合乃の顔を見ようとしない。視線を反らすと、片手で駆け寄る百合乃を制止させた。


百「純……」


 そうして純は、皆の輪から一歩離れた。……――そしてじっと、何かに思い耽るようにしながら、喧嘩を眺めていた。


 繰り広げられる乱闘。


 巨大な窓ガラスが割れて、夜の風が屋敷に入り込む──


***


━━━━【〝JYUNジュン〟Point of v視点iew 】━━━━


 ……夜はより一層、深く濃く姿を変えてゆく。


 夜の音が、乱闘の音に掻き消される。


 広がる満天の星空……


 星はまるで僕らを嘲笑うかのように、美しすぎる光を発する……──


 きっとあの場所から見たなら、こんな争いなど、ちっぽけなものだろう……


 ……けれど僕らは、この地球で呼吸をしている。


 ──地上で残酷さを感じながら、生きている。


 そこで生きる当人たちは、空から見た地上を知らない。どんなにちっぽけなのかを、知らない……──


 もがき苦しみ、必死に呼吸をする僕らを、あの星は笑うだろうか? ……─―


 ……―─そう、笑われている気がするのは、他でもない、自分のせい。


 痛みを知った、この心臓のせい……──



****

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━━━━【〝HIJIRIヒジリ〟Point of v視点iew 】━━━━


 “誰かを殴ってもいい”だなんて、誰が言った……?


 誰かを殴っていいって、誰かに教わったか……?


 違う。誰もそんな事は言っていない。誰にも教わってなんかない。


 それなら俺は、いつから人を殴れるようになった?


 いつから、平気な顔をして、殴れるようになった?


 みんな変わってゆく……──


 誰でもある日突然、頭痛くなるほどの、黒い感情に襲われるんだ。


 それで、“こんな事を考える奴”が自分なのだろうか? ……とか思って、自分に絶望する。


 ……けど、そんなのが自分なんだ。


 いつしか知った黒い感情を背負ったまま、生きている。


 ──知っちまったら仕方がないさ。

 俺ら全員、綺麗でなんかいられねぇんだ。


 叫びながら、振り切りながら、自分の中の黒を消し去ろうとしながら、生きてる。


 何も気にせずに、落ちぶれられたら楽だろうな。


 けど結局、その選択肢は選ばねぇ。


 逃げたくなる日もある。


 何年間か、寝てやり過ごしたいと思った事もある。


 けど、死にたいと思った事は、一度もねぇ。


 一生かけて、納得するまでがむしゃらに生き抜いてみてぇ。


 ……俺らは全員、人間になり損ねた鬼のよう……──


****


━━━━【〝YOUSUKEヨウスケ〟Point of v視点iew 】━━━━


 俺らの海は今日も黒い。


 綺麗な青には戻れない。


 BLACK OCEANは、居場所のない奴らの集いさ……


 俺らの海には、俺らの黒い感情が沈んでる……──


 人の悲しみを抱いて、海は黒く染まった。



 ──〝BLACK OCEAN〟……あの居場所が忘れられない……


 無くなる事はないと思っていた。


 あの居場所に依存していた。


 行き場のない俺らの、家だった。


 もう、自分が何に拘っていたのかも分からない。


 ──何に拘っていた? ……──


 結局、“BLACK OCEAN”、その名を忘れたくなかった──


 本当に求めたのは、その名じゃない……


 〝あの居場所だ〟。


 ──馬鹿な俺らは、『居場所がない』と……また、BLACK OCEANを探している。


 新たな場所を上手く探せなくて、また叫んでいる……──


 〝叫んでいる〟……──


 自分の中に、諦めの悪いのがいるんだ……


 このままじゃ終われねぇ……


 叫び続けるだけじゃ、終われねぇ……


 俺らは、何かを掴み取るその時を、生まれたその瞬間から、ずっと待ち望んでいたんだ……──



****


━━━━【〝YUKIYAユキヤ〟Point of v視点iew 】━━━━



 鳥は自由の象徴


 阻むモノのない、あの空を飛ぶ


 海に癒されながら、空を見る


 海に身を委ねながら、本当は空に憧れていた


 欲しかったのは、何にも縛られる事のない自由



 けれど、求めていても、俺らは簡単に自由を見失う……──


 憧れるだけ憧れて、結局足を取られて、がんじがらめになる。


 ──自由に生きるって、どうすればいい? ──


 答えが出ないから、ただ、この身が沈まぬように、何度でも這い上がって、また空を見る。


 〝消えたくない〟。ここに生きているって、実感したい……



 泥まみれの騙し合い


 偽りばかりの関係


 口から出る嘘の数


 踏みにじる情


 もう綺麗には戻れない



 ──自由を求めながら、実際は自分で自分の首を絞めている。


 罪に呑まれて、自由をなくす……


 〝空は憧れのまま〟……──


 〝受け入れられない感情〟……──


 〝本当は自分を叫びたい〟……──


 そんなこと出来ずに、結局今日まで生きてきた──


 明日を待つ、満天の星空の、現在いままで生きてきた──



****

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 ──口元が切れて、血が滲んだ。怯んだりはしない。少し早いテンポで呼吸をする──……


 ……獣のような、ギラギラとした瞳……──


 ─―この乱闘の中にいても、頭の中は案外冷静だった。


 そう、関係の無い事ばかり……――いや、“自分の心との対話ばかり”を……ずっと繰り返しながら、拳を振るっていた……――


 ──だが果たして本当に、それは“関係のない対話”であったか? ……──いいや。きっと、“関係なくなど、なかった”のだ。

 そう彼ら自身に、その自覚がないだけだ。──その〝心の痛み〟が、拳を振るわせるのだから……──



 ──この乱闘を、月がひっそりと照らす。


 ……――月明かりの当たらない場所で、純は傍観を続けていた。

 好き勝手に暴れた後の後味は、決して良いものではない。自分への不甲斐なさに、俯いた……──


 その時……──


「……純くん……! ……」


 知った“その声”を聞き、純は目を見張る。──声の方へ、視線を向ける。

 月明かりの中に、ドールが立っていた。

 ドールは息を切らして、肩で呼吸をしている。


「ドール……」


 ドールは純を見つけて、嬉しそうに笑った。

 そうして、急いで純へと駆け寄る。……──今までどれだけ、純の事を探して走り回っていたのか、ドールはフラフラとしていた。それでも、嬉しそうに笑いながら、純へと駆け寄って行く──


 ──ドテッ!


「……ドール?! ……」


 けれど駆け寄ろうと走り出したら、ドールはさっそく転んでしまった。

 転んだドールを見て、今度は純が駆け寄った。まるで反射のように……

 ──二人は落ち合い、月明かりに照らされた。


「お前……さっそく転ぶなよ」


「うぅ~……イテテ……」


 痛みに顔を歪めながら、ドールは顔を上げる。だが、顔を上げて純を見ると、またすぐに笑顔になる。

 嬉しそうな表情で、ドールは純の背に腕を回した。


「純くん……無事で良かった……ドールは、ずっと純くんが心配で……」


「……ありがとな」


 ドールが純から一旦体を離し、再び純を見た。


 純の体から離れたドールの服には、小さな血のシミが出来た。……――更にドールの頬にも、血がつく。……

 ドールは自分の手についた血を、首を傾げながら見ていた。

 純は慌てて、ドールの頬についた血を拭う。


「…………」


 けれど拭ったら、もっとたくさんの血が、ドールの頬へとついた。

 自分を見ると、他人の血がところどころについている……

 好き勝手に暴れたのは自分だと言うのに、我に返った後に、それを見るのは憂鬱なのだ……―─


 純はもう、ドールに触れなかった。触れてはいけない気がした。

 だが純のそんな気持ちとは裏腹に、ドールは純に寄っていく。


「“つく”から寄るな……」


「つくって何が?」


 “つく”というのは、当然“血がつく”という意味だった。


「分からないのか? ……」


 何も言わずに、ドールが自分の事を、どんな人間なのかを理解してくれたなら、楽だと思った。

 他人の血の跡だらけの姿を見て、何も言わずに気が付いてほしい。……――自分から言うのは、気が引ける……


 ──“分からないのか? ”その言葉に、ドールは首を傾げる。


「…………」


「分かるだろう? だから、寄るな……」


 純はドールから離れて、距離を取った。

 ──そう、何も言わずとも気が付き、そしてもう、寄ってこないでほしい……──


 ドールは寂しそうに、純を見る……


「…………」


 寂しそうに表情を歪めるドールを見て、純も心苦しさを感じる。


「そんな顔したって、何も変わんねぇーよ……仲間のところに戻れって言っただろう? ……」


「……純くん……」


「なんだよ? ……」


「ドールは……分かってるよ」


「…………」


「分かってるよ。……それ“血”でしょ? 全部、他の人の……」


「…………分かってんなら、尚更だろ。俺はこんな奴なんだよ」


 ドールは涙目になりながら、必死に首を横に振って否定した。


「ち、違うもん……」


「何も違わねぇーよ……」


「違わなくない! ……純くんは優しい……」


 ドールが何を根拠に“優しい”などと言うのか、分からなかった。


「……見ろよ。俺は見た通りの人間だ……」


 他人の血の跡だらけの自分を指した言葉だ。だがやはりドールはまた、首を横に振って否定した。


「……それでも、もし純くんが言った通りだったとしても、ドールは何も変わらない……」


「…………」


「ドールはただ、純くんが無事ならそれだけでいい……」


 月明かりに照らされるドールの瞳には、偽りなどなかった……──


 澄んだ瞳が純を見据える──


 ドールはそっと、純へと近寄った。


 そして純の前まで来て、不安な表情で顔を上げる……―─


「「…………」」


 純も戸惑う様に、ドールを見る……──けれどそっと、ドールに手を伸ばした。


「馬鹿な奴……」


 純はドールを抱き締めた。

 抱き締めるのは、いつものようにドールの為でもあって、けれど今宵は、自分の為にも──……

 ドールはいつものように、安心して、瞳をとじた──


****


━━━━【〝JYUNジュン〟Point of v視点iew 】━━━━



 分からねぇ……


 ……違う。分からないようで、分かっている。疼くんだ……


 ……本当はBLACK OCEANの頂きなどに、それ程こだわる必要はなかった。


 だが、ソレを掴み取れなかった事が、自分を変える 。


 そこまで変わるのは、他でもない……――


 それが、と目指した頂点だったからだ……


 目指した頂点だけ追っていれば、救われる気がしていた……


 ……──逃げ道をなくした弱い心が、行き場を探して狂気に変わる……



 自分が普通だとは思えねぇ。……――けれど、案外周りの奴らも“普通じゃねぇ”って事も、知っている……


 みんな古傷だらけ……傷が癒えなくて、き叫ぶ──……



 ──腕の中が温かい。


 傷痕が痛くて、コイツが泣いていた。


 コイツだって、傷を抱えている。


 お前だって、苦しい筈だ。


 けれど、お前はいつも、綺麗な白色……



 コイツの全てが新鮮だった──……


 か弱くて儚くて、純粋すぎる……


 素直に、抱きしめてあげたくなった。


 守ってやりたかった……――



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