【BLACK PARTY ROUND2 2/3 】
じめじめとしていて、薄暗い地下空間……──明かりは、落ちてきた床の穴から差し込む照明の光のみ。……けれど、その照明の光さえも、上手く届き切りはしない。それだけ、そこそこ深い地下空間であったのだ……
――そして地下へと落ちた、聖、陽介、吉河瀬は……──
聖「ぅわ?! 死ぬかと思った……」
人間の手は加わっているのだろうが、半分が天然物の洞窟のようになっている地下だった。 落ちた先は、水が溜まった場所。まるで、
陽「酷い目にあった~最悪だ……」
吉「何で俺まで……」
なんとか三人は、水の中から這い出る。
そうして辺りを見渡していると、すぐに、吉河瀬を追って来て他の男たちも、この地下の洞窟へとやって来た。
水から這い上がった先には、道に沿うように、不気味な地下牢が広がっている。その光景に、全員が表情を強張らせた。……さすがは、裏組織の所持している屋敷なだけあるだろう。ゾッとする……
吉「……悪趣味や?!」
だが、牢は全て空の状態だ。その点だけには、全員が安堵したようだった。
するとその時、聖が何かを見付けたようであった。
聖「牢の鍵……」
一同「……?!」
牢から少し離れた場所に、牢の鍵がかかっていた。
……──鍵の存在に気が付いてしまった彼らは皆、血の気が引いたようであった。全員の脳裏に浮かぶ……――〝相手側に鍵を取られたら危険〟だと。
──直ぐ様、聖と陽介が鍵に向かって全力疾走だ。
吉「取られちゃアカン!!」
直ぐ様、吉河瀬も二人を追う。その後に続く一同。
聖は鍵へと、手を伸ばす──
聖「取った!」
陽「さすが聖!」
聖が鍵を取った。この人数差で相手側に牢の鍵など取られでもしたら……――どうなるかなど、簡単に予想がつく。
鍵を手に持ち、つかの間の安堵だ。だが……
吉「渡さんわ!」
吉河瀬が聖へと飛び掛かる。
聖「……?!」
聖は体勢を崩して、馬乗り状態にされる。……すると倒れ際、鍵が聖の手から、すり抜ける──
──〝ピョーー~~➰ン!!〞
倒されたその衝撃で、鍵は吹っ飛んだ。
それに気が付いた陽介は、ハッとして、一先ず聖を放っておいて、鍵の方へと走った──
吉「よぉコラ! 鍵を渡さんか!」
吉河瀬はまだ、鍵が飛んでいった事に気が付いていないようだ。
聖「鍵なんてねぇーよ!」
馬乗りにされたまま両手をあげて、持っていない事をアピールする聖。
吉「何やて?!」
するとそこで……
「吉河瀬さん! 鍵が向こうに……!」
一人の男が叫んだ。
吉河瀬は口をあんぐりと開けて、振り返る。
吉「向こうか?! やられたわー!!」
吉河瀬は即刻、聖を手放して鍵の方へ……──
だがその頃、既に陽介が鍵を取った頃である。
陽「よっしゃ! 貰い!」
「待てコノオレンジ野郎!」
「鍵は俺らが貰う!」
陽「絶対あげねー! バーカ!!」
「貰うんじゃなくて“力ずくで奪う”!!」
陽「コノ人数差、卑怯だっ! 畜生ーー!!」
『力ずくで奪う』と宣言して、男たちは陽介へと殴り掛かる。
避けて避けて避けて……―― 反撃して──
──バッシャーン!!
殴り合いの末、誰かが吹っ飛び、水へと突っ込む──
水しぶきが舞う……――
依然、陽介は鍵を守りながら応戦する。
陽「集団リンチだぁっ!! 誰か俺を助けろ! ヒーロー助けてー! 正義のヒーローはヒロインのピンチにしか現れねぇーのか!?」
「うるせー黙れ! セリフが長い!」
両腕を掴まれている陽介。“助けて宣言”をするが、誰も来ない。
陽「マヂでマヂでヒーロー来ない。もしかしてヒロインのピンチを救い中? あ~俺は後回しか! 妥当な判断だ……つーかヒーローいない! 聖く~~~ん! 助けてーー!!」
「うるせー奴だな?!」
──ガツン!!
殴られた陽介の体が、投げ出される。そして……
──〝ピョー~~➰➰ーン!!!〞
陽「痛い゛ーー~~っ!!」
その衝撃で、再び飛んでいった〝鍵〞。
「?! しまった鍵が?! ……」
男たちが飛んで行く鍵の方を向く……――そして陽介がその隙に、掴まれているのを振りほどく……――
──ガツン! ガツン! ガツン!
陽介はお返しと言わんばかりに、右から順番に、男たちの顔面を殴った。そして、即刻疾走……――
「アノ野郎っ?!」
「鍵に気を取られているうちに……」
殴られた鼻を押さえながら、疾走中の陽介を睨みつける男たちであった。
──そうして陽介は、一先ず聖の方へと走った。
〝ピョョョー~~~ー➰ン!!〞
鍵が飛んで、飛んで……――――
吉「鍵や?! ……」
吉河瀬のいる場所へと、鍵が飛んできた。
吉河瀬の後ろで焦る聖……――前方から走って来る陽介も、焦りの表情だ。
──そして吉河瀬が、〝鍵を取った〞。
吉「鍵は貰った! お前ら! あの二人を捕まえるんや! 牢にブチ込んだる!」
吉河瀬の命令で、陽介と聖は取り囲まれた。大ピンチである。
……――そして、一斉に飛び掛かられて、取り押さえられるのだった。
陽「犯人逮捕みたいに捕まえやがってぇ~~!!」
リンチを受けているのは聖と陽介なのに、まるで、犯人逮捕のような光景だ。
その後二人は、捕まって牢まで連れていかれる。
一人の男が、牢の扉を開いた。
吉「残念やったな、オーシャン! お前らが最初の牢の住人や!」
吉河瀬が二人の事を、牢の中へと押し込む。──だが、“押し込”……もうとした、その時――
聖と陽介が、〝アイコンタクトを取る〞。
聖陽「「〝コイツ貰った〞!!」」
──グイッ!!
「なんだよ?! 放せッ! ……」
吉「何する気や?! 待ち!」
一瞬の瞬間に、聖と陽介が近くにいた男を捕まえる。その男を連れて、自ら牢の一番奥へと行った。
そして聖と陽介、二人が、愉しそうに笑う……――
鍵を持ったまま、牢の前で焦りをみせる吉河瀬……
聖「どうした! 牢の鍵、閉めたらどーだ?」
陽「ま! コイツも巻き添いだけどな!」
「はっ放せ! 放せ!! ……」
聖と陽介に捕まったまま、ジタバタと暴れる男。
他の男たちも、吉河瀬の後ろで生唾をのみ込む。
「吉河瀬さんっ……」
捕まっている男が、不安げな表情で吉河瀬を見る。他の男たちも、チラチラと吉河瀬の顔色をうかがっていた。
──……聖と陽介と一緒に仲間を閉じ込めて鍵を掛けたなら、黄凰側からして、人質を取られているのと同じだ。残酷な話、隔離された牢という空間の中で、仲間が暴行を受けない保証はない。
聖と陽介も賭けだ。人質がいるからと言って、吉河瀬が鍵をかけないとも限らない。
──仲間もろとも閉じ込めて、鍵を掛けてしまえば、吉河瀬は標的であるブラック オーシャンを二人捕らえる事が出来る。だがそれは同時に、仲間の一人を、鮫の泳ぐプールへと入れておくようなもの。──吉河瀬の答えは……──
吉「アカン! ……何てことすんねん! 俺の部下を早う返せ! ……」
吉河瀬に鍵を閉める気など、微塵もない。
陽介と聖は、〝ハッとする〞。
陽「なっなんてイイ奴なんだ?! 聞いたか聖?! 『アカン!』だってよ! 〝アカン!〞 アイツ少しカッコイイぞ?!」
聖「『何してんだマヌケ! 後で助けてやっから、大人しく待っていやがれ!!』……とは言わないんだな! 感動した!」
陽「あ? 聖、それ誰のセリフだ?」
聖「純が言いそうなセリフ!」
陽「〝納得!!〞」
吉河瀬の言葉に、不意に感動しまくる二人であった。
更に、捕まっている男も、じーん……と感動中だ。そしてそして更に、他の男たちも感動中である。実は吉河瀬は、部下からの信頼度が相当高いのである。
陽「俺らが悪い奴みたいなこの空気はなんだ?!」
吉河瀬は部下が中にいる限り、牢の鍵をかけない。
吉河瀬の部下を一番後ろにして掴んだ状態で、聖と陽介が牢の扉の方へ……――
牢の中から一先ず外へと出た。……――こうしてこの場は、振り出しに戻る。
吉「しぶとい奴らやな! 観念し!」
聖「そんな簡単にやられてたまるかよ……」
──再び、鍵の争奪戦勃発だ。
〝ピョーー~~ン!!〞
争奪戦の末、またまた吹っ飛んだ鍵を──
──パシ!
聖がキャッチした。
陽「聖ナイス!」
吉「しもうたっ!」
だが聖は、自ら思い切り鍵をある方向へ投げる……──
──〝ピョョョ~~~ー➰ン!! 〞
聖「陽介! 絶対に一番先に取ってこい!!」
陽「?! 何だと?!オイッ!!」
いきなり聖からの無茶ぶりだ。意図が分からないまま、取り敢えず鍵を追う陽介──
投げられた鍵は、牢の一番奥に落ちた。
吉「何や?! どういう意味や?!」
吉河瀬も意図が分からないまま、取り敢えず鍵を取りに牢の中へ……
陽「聖! どういうつもりだ!!」
陽介が鍵を手に取り、牢の外にいる聖の方を振り返る。
……すると、鍵が陽介の手にある事に気が付いた他の男たちも、鍵を取り返しに向かう……――それを確認してから、聖が叫んだ。
聖「鍵持ったまま一番先に出ろ!!」
聖の考えを瞬時に理解した吉河瀬も、部下に叫ぶ。
吉「全員来たらアカン!!」
…………――だが、時、既に遅し。全員が牢の中へとたどり着いてしまった。
聖以外が全員、現在牢の中だ。
そして、叫んだのも一瞬。その一瞬に陽介が鍵を持ったまま、牢の外へ転げ出る……――
吉河瀬も全力で、牢の外へと続く扉へと向かう──
吉「思い通りにはさせへんわ!!」
──ガツン!!
だが、扉まで走ってきた吉河瀬の顔面を、一発殴ってやったのだった。
「吉河瀬さんっ?!」
殴られ身が投げ出された吉河瀬の事を、部下が受け止める。
そして──
──ガチャン!!
聖と陽介は、手早く牢の扉を閉めた。そして、鍵をかける。──施錠完了だ。
鍵の掛かった音を聞き、ハッと吉河瀬は体勢を整え、顔を上げる。
吉「?! ……待てや!! 許さへん! 絶対許さへんっ!!」
慌てた様子で走ってきて、吉河瀬が牢の中から鉄格子を掴む。
陽「聖! やったぞ! お前賢いな!」
聖「陽介、よく一番先に出て来た! さすがだ!」
──パチン!
上げた片手と片手を叩き合い、喜ぶ二人。──ニッと笑いながら、牢へと向き直る。
陽「じゃあ、またな吉河瀬!」
聖「安心しろ。全部片付いた頃に、鍵、開けに来てやるから」
吉「信用できるかボケ! ……許さへーー~ん!!」
牢に収まり無害の者の事など、構っている暇などない。悔しそうに叫んでいる吉河瀬の事は、もう無視だ。
元々あった場所へと、鍵を戻す。
そして聖と陽介は、出口を探し始めた。……――だが見たところ、落ちてきた床の穴くらいしか、出口に繋がる場所はなさそうだ……
聖「階段もねぇーし……」
問題が浮上した。階段がない。“地下から出られない”。……再び二人は、頭を抱える事になるのだった──
*****
キャットはずっとモニター越しに、聖、陽介、吉河瀬の事を傍観していた。
頬杖を突きながらモニターを眺めていたキャットは、ポカンと口を開けている。
「
悪ふざけで地下牢への入り口を開いたところ、協力関係にある吉河瀬が、地下牢へと閉じ込められた。……キャットは苦笑いで焦りつつも、気を取り直し、また他のモニターを眺め始める……──一通り、全てのモニターを見てみた。
「…………」
だがやはり、キャットはキョロキョロといろいろなモニターを見ている。
「……いない……」
一体、何を捜しているのか、更にキョロキョロと……──
「…………」
「誰を捜しているんだ?」
「?!」
突然声を掛けられ、キャットは驚いて後ろを向いた。モニターに夢中で、誰かが近くに来ていた事に、全く気が付いていなかったのだ。
「……雪哉っ?!」
振り返った先には、雪哉がいた。
そして実は、先程キャットが捜していたのは雪哉だったのだ。
「雪哉……いないと思ったら、ここにいたのね?! 驚いたわ……」
「来たばっかしだけどな。つーか俺の事を捜してたのか?」
「…………」
「俺もお前の事を捜していた」
雪哉の言葉を聞いて、キャットの表情が明るく変わった。喜んで、キャットは雪哉に抱きつこうとする。だが──
「なに喜んでんだ? バカが……」
抱きつこうとしたキャットの事を、雪哉が止めた。
キャットが見上げると、雪哉は険しい面持ちをしていた。
「ちょっと雪哉! ……会いに来てくれたんじゃなかったの?」
「勘違いだ。お前をしつけに来た」
「しつけ?! 犬じゃないんだから、しつけって何よ?!」
「知ってる。お前は猫だもんな」
「そういう意味じゃないわよ?!」
「うるさいぞクロネコ。しつけだ」
「嫌よ!」
キャットはスッと身を引いて、雪哉と距離を取った。
「逃げるな……」
雪哉が、身を引いたキャットの両腕を掴む……――
「だいたい、私がしつけられなきゃいけないような事、何かした? ──」
雪哉との距離が近いので、キャットは何気なく視線を反らす……──
「……お前、もしかして東藤に、何か頼んだんじゃないか? ──」
雪哉が言っているのは、東藤が言っていた『幹部から直々に頼まれた別件』、その事についてだ。
「何よそれ? ……」
キャットは雪哉と、目を合わせようとしない。
「ちゃんとコッチ見ろ……」
雪哉がキャットに、正面を向かせる。
「ちょっとヤダからッ……」
雪哉の言葉が図星なので、キャットは雪哉と目を合わせたくない。また横を向く。……──だが、雪哉がすぐに前を向かせる。
「ヤダッて……」
腕は掴まれているけれど、雪哉と距離を取りたくて、キャットは逃げようとする。
「どうしたヤダんだよ?」
雪哉はキャットを逃がさない。追い詰め、問い詰めるように……──
──ガタッ……
追いやられ、壁にキャットの背がつく……
「っ……」
「……言っておくけどな、あのブロンドの女は、俺には何の関係もない」
「……ブロンド……何の話よ……」
ブロンドの女というのは、もちろん絵梨の事。キャットも分かっているが、分からないふりだ。
「あのブロンドの女は、百合乃を初め、女たちに可愛がられている。だから今回も一緒にいるだけだ」
キャットは納得のいかない表情をしている。
「聖、陽介、純とも仲がいい。けどな、俺との関係だけ、最悪だ」
「え? ……」
予想もしなかった言葉で、つい声がもれた。
「どうせお前はあの女に嫉妬でもしたんだろう? アイツはお前の嫉妬する相手じゃねぇ。俺とアイツの関係は、最悪だからな──」
“キャットが嫉妬をした”と、その解釈で話しが進んでいる。……――キャットの中で、雪哉のその解釈の仕方が引っ掛かる。
「嫉妬ですって? ……」
「嫉妬だろう?」
「どうして嫉妬するのよ?」
「は? お前が俺に惚れてるからだ」
……――キャットは目を丸くして、言葉を失う。
「違うのか? 違うとは言わせねぇ……」
雪哉が顔を近づけ、流し目でキャットに迫る──
「なぁ、惚れてるだろう? ……――」
掴まれたままの手……――その手に、雪哉が指を絡めてくる……
キャットは、絶対に目を合わせないように必死だ。だが……――やはり、正面を向かされた。
「ダメ! ……危ない! ……」
「何がだよ?!」
どうしても直視すると、顔がほてるのだ。認めたくはない事実なので、無理に顔を背けた。そしてキャットは──
「ダメダメ! ……ハナちゃんハナちゃん! マキちゃん! 助けてっ!! ……」
「誰だよ?!」
部屋の外へと、必死に助けを求めるキャット。すると、扉が開いた……──
「あ~い……呼びましたか~?」
そうして、だるそうに部屋へと入ってきたのは、花巻だ。
雪「花巻の事かよ?! てっきり、二人来るかと思った……」
C「ハナちゃん助けて! 雪哉が誘惑してくる!」
花「え~……だりぃ~。誘惑に乗っちゃったらどうスか?」
C「ハナはホントやる気ないわね! だいたい、あんた見張りでしょう? 雪哉に堂々と入られてるじゃない!」
花「知りませんよ~。寝てる隙にソイツが勝手に入ったんですから~」
C「何寝てるのよ!」
雪「クロネコ、あんな奴ほっとけ。俺と遊ばねーか?」
──キャットが期待の目をしながら、雪哉を見た。──
花「ネコちゃん超嬉しそうじゃないスか? 敵っスよね? 敵~……昼ドラになっちゃいますよ~?」
花巻の言葉で、キャットがハッとした。そして再び、誘惑から逃れようとする。
C「ハナちゃん助けて! 私は雪哉に惚れちゃいけないの!! ……」
花「へー、俺に何をしろと?」
C「ハナ! こっちへおいで!」
キャットに手招きされて、仕方なく歩き出す花巻。
雪哉と花巻の視線がぶつかる……――
渡り廊下の時の事もあり、二人の間に火花が散る。
二人が火花を散らしているうちに、キャットは何とか、雪哉の手から逃れた。
雪哉は花巻を睨み付ける事に夢中だ。……――逃れたキャットを、わざわざ再び捕まえる事はしなかった。
雪哉と花巻は、さらにバチバチ………―――
……――するとその時、何の前触れもなく、キャットが花巻に抱きついた……
花「何スか? ……」
雪「クロネコ?! ……何のつもりだ!」
C「だって雪哉が誘惑するんだもん。でも私は、誘惑に乗る訳にはいかないの! だから考えた! 〝ハナで気を紛らわす!〞」
行き当たりばったりなキャットの発言に、言葉を失う二人。
そしてキャットは口元を綻ばせながら、花巻を見上げる。
C「ねー? ハナも嬉しいでしょう? 私のこと好きぃ?」
キャットは花巻に、ピッタリとくっついている。
花「ふつう~。もっと清楚な子が好き~」
全く空気を読まない花巻。“ふつう”というどうでもいい返答に、“清楚な子が好き”という、つまり、“キャットは清楚でない”という失言だ。
C雪「「…………」」
C「ハナのバカ! 酷~い! ハナは私の味方でしょうが!」
雪「クロネコ、俺の方に来い」
雪哉がキャットを手招き、さらに両手を広げて準備万端。キャットは迷わず、雪哉の元へ……―─
花「ネコちゃ~ん? ソイツ敵だろ~? ……」
C「雪哉~」
キャットは花巻を無視して、雪哉の元へとやって来た。だが雪哉は、抱きしめそうで、抱きしめない……
C「どうかしたの雪哉~?」
抱きしめそうで抱きしめない雪哉に問う。すると……
雪「痛ってぇー……マジいてぇー。手首が超いて~……」
花巻の鉄パイプ事件で負った“手首の傷”を、いきなり大袈裟に痛がる雪哉。……
雪「手首が痛くて抱きしめられねぇ~イテテ……」(嘘)
明らかにわざとらしい痛がり方だ。
だが、抱きしめてもらえなくて、キャットがしょんぼりとしている。そしてキャットの目に、例の手首の傷が映った。
C「?! 雪哉っその手首どーしたの?!」
雪「アイツにやられた~」
C「?!」
雪哉がわざとらしく、花巻を指差した。
C「ハナのバカァー!」
──パチン!
花巻の頬に、平手打ちをお見舞いしたキャットであった。
花「痛って~。ネコちゃん俺の味方なのに~……」
〝ざまぁ見やがれ!〞と、雪哉が小さくガッツポーズを作っている。
C「もういいもん! ハナはどこかに行って!」
花「は~い」
花巻は言われた通り、まただるそうに部屋から出て行く。
だがその時に、キャットはある事を思い出し……―急いで花巻を呼び止めた。
C「そうだ! ハナは一階の西広間に行って!」
花「西広間……どうしてスか?」
するとバッと、キャットはモニターを指差した。
C「その広間から地下に下りられるわ。地下牢にヨッシーたちがいるから、鍵を開けてあげて」
花「吉可瀬が? またどうしてそんな事に……」
C「オーシャンの聖と陽介の仕業よ」
“聖と陽介”、その名前に雪哉が反応する。……
――
それからキャットは、花巻だけに何かを耳打ちした……──
花「あ~い。了解。……──ネコちゃんの言う通りに吉河瀬を助けたら、何が褒美くれますか?」
C「……えぇ。勿論よ」
〝絵梨を泣かして〟と頼んだ時、あの時も、東藤に同じような事を言われた。
あの約束はアクアが止めた事によって、無かった事になった。
あの時アクアに怒られる羽目になったので、多少、花巻の言葉に躊躇いはした。………――だが、結局承諾をしてしまった。
花「アイスおごって下さ~い。チョコがコーティングしてある、パリパリするやつね~?」
「「…………」」
それだけを言って、部屋を出ていく花巻だった。
「アイス? ありえない。ハナって可愛いすぎだわ?!」
雪哉は、先程キャットが指差していたモニターを見ていた。聖と陽介が映っているモニターだ。
モニターの中の二人は、何故かドタバタとしているのだ……――
――〝一体、どうしたんだ?〟――雪哉には分からなかった。
そしてキャットは、雪哉がモニターを見ている事に気が付くと、嫌味に言う。
「雪哉の仲間がドタバタとしているね~? その二人には、しばらく地下で大人しくしていてもらうつもりよ」
意地悪にキャットが笑った。……―それから話し続ける。
「ハナにはこっそりと出口を教えたわ。……―─頑張ってヨッシーたちを牢に閉じ込めたらしいけど、結局、雪哉の仲間は地下に閉じ込められる……」
キャットの発言を聞いて、雪哉は理解した。聖と陽介がドタバタとしているのは、“出口がない”からだという事を。
「そういう事か」
キャットに挑発されても、雪哉はいたって冷静だった。──そして雪哉は一通りモニターや電子機器へと目を通した後に、モニターの近くのボタンを押した。
「ちょっと?! 何を押したの?!」
「あ? 出口がないみたいだから、階段」
「階段?!」
キャットがモニターを見ると、地下と地上を繋ぐ階段が出現していた。
「あぁ~!! 雪哉なんて事をするのよ~!」
それに気が付いたキャットが、階段を引っ込めようと、そのボタンを押そうとする。
「バーカ。誰がさせるか」
「雪哉ぁー!!」
ボタンを押そうとするキャットを、雪哉が簡単に捕まえた。……──キャットはバタバタと、逃れようとするけれど……
「大人しくしてろ」
「せっかく閉じ込めたのに! ……」
キャットがモニターを見ると、聖と陽介は階段を駆け上がっていた。
キャットはがっかりと、肩を落とす……──
……――するとそのとき偶然、キャットの視界に、隣のモニターが入った。その部屋は、ドールを一人で残してきた部屋だった。
キャットは目を、丸くする。
「……ドール……?」
キャットは真剣な眼差しで、モニターをじっと見ている。……いる筈の部屋に、ドールはいなかった。
キャットは雪哉に捕まった状態のまま、他のモニターへと視線を移していく……――ドールを捜しているのだ。だが……
「クロネコ……」
雪哉がキャットを、自分の方へと引き寄せた。
「……ドールがいない……」
キャットはやはり、焦燥感を感じながら、ドールを捜し続けている。
「クロネコ、お前少しの間、眠っててくれ」
雪哉の言葉の意味が理解出来ずに、キャットが雪哉の方を振り返った。
──振り返ったキャットへと、雪哉がキスをする。キャットもそれに身を委ねた。
……――だがその時、雪哉の片手が何かを取り出した。──ブルーの瓶の香水。それはまるで香水のようで、実は全く別の物だ……
キスをしながら、キャットに横からソレを、一振り浴びせた。――液状の眠り薬だ。
……しばらくすると、自然と唇が離れる。
力が抜けてふらつくキャットは、雪哉の肩に額をくっつけて寄り掛かった。そしてゆっくりと、そのまま、眠りに落ちていく……――─―――
雪哉はキャットの事を、そっとソファーへと寝かした。
「……悪く思うなよ? いたずらばっかりするから、こうなるんだ……」
寝ているキャットに語りかけてから、雪哉は部屋を出ていった──
****
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