Episode 16 【BLACK PARTY ROUND2】
【BLACK PARTY ROUND2 1/3 】
雪哉と絵梨、聖、陽介、誓、瑠璃、百合乃、七人が合流を果たす。純と響を除く七人だ。
そして、雪哉の手錠もようやく外れた。
瑠「ぅわ……痛そう……」
雪哉の手首を見て、瑠璃が表情を強張らせた。
上からパイプを力任せに押し付けられ続けて、手錠がかかっていた手首の部分が傷になっている。
絵梨は自分を責めた。俯いた表情が沈んでいる……
絵梨を励まそうと、百合乃が絵梨の肩を抱く。
百「絵梨のせいじゃない……絵梨の元に行ったのも、全て雪哉の意志。そしてその選択は正しかった」
絵「でも……」
百「でもじゃない。絵梨も雪哉も無事で良かった」
百合乃に慰められ、絵梨の表情も少しだけ元気になった様に見える。
陽「……ユキの手、どうなったら、そんなんになるんだ?」
雪哉の手首に残った、痛々しい傷。陽介は雪哉の手首をまじまじと見る。
雪「鉄の棒、鎖で受け止めた。それを、力任せに押し付けられた」
陽「あくどいな?! どこの悪役野郎だ?」
雪「花巻と東藤」
聖「やっぱり
百「やっぱりって?」
聖「純が暴れている場所には、たしか丸島がいた──」
絵梨と瑠璃には全く黄凰の知識がない。誓は黄凰と面識はないが、知識ならある。
〝自分たちを襲ってきた者たちの情報の話〟だ。全員、真剣に話に耳を傾けている。
雪「東藤と花巻の狙いは絵梨だった」
聖「人質にでもするつもりだったのか?」
雪「違う。元から絵梨を狙ってた」
聖「何の為にだ?」
雪「『幹部から直々に頼まれた別件』……そう言ってた」
陽「幹部ってどの幹部だよ?! それだけじゃ分からねー!」
あの時、花巻と東藤を止めたのはアクアだ。その時点で、例の幹部がアクアではない事は明白だ。そして“幹部”と言ったら、そう大勢いるものでもないだろう。そう何人かしか、いないだろう……
小さくため息を付きながら、雪哉はキャットのスマートフォンへと、視線を落とす……
雪「何となく、誰の仕業だかは分かった気がする…」
──現在七人は、物置になっている小部屋に身を隠している状態だ。ここに隠れながら、これからどう動くのかを話し合う事になる。
雪「まず、女は絶対に一人にしない。力も体力も男には敵わない。捕まって人質にされる可能性が高い……」
まずここで禁止事項だ。〝女は絶対に一人にしない〟。身の危険はもちろん、人質にされたなら、全てが悪循環になり得る。
百合乃は喧嘩の経験が豊富だ。男との無茶な喧嘩もしてきた。だが、この禁止事項は当然、百合乃も当てはまる。百合乃にも一人での行動を禁止した。
雪「ここで、どう動くか……」
全員、深刻な面持ちで考え込む。
聖「まず俺は、純のところに戻りてぇ」
瑠「そこには響もいるんでしょう? 私も聖の意見に賛成。〝みんな一緒の方がいい〟」
陽「妥当な判断だ」
そうしてこの場は、取り敢えず〝全員で純と響の元へ向かう〟と言う事で話がまとまる。
雪「俺は別行動でいいか?」
百「どういうつもり?」
全員の視線が雪哉へと向く。
雪哉は既に別行動をする気満々のようで、早々と一人立ち上がった。
雪「何のつもりでもない。仕事が増えただけだ」
……そうとだけ言って、雪哉は一人で部屋を出て行った。
雪哉が出ていった扉を、聖はため息混じりで眺めている。
聖「雪哉があぁ言うなら良いだろう。仕事らしいしな。一人で行動したところで、雪哉なら問題ない」
陽「ユッキーって何気に一番、単独行動が多いよな? いつもの事だし、俺も別に気にしねーや」
『問題ない』『気にしない』と、聖と陽介は言う。確かにそう思ってもいるのだが、そこには〝諦めのような感情〟もある。聖と陽介は、このような時の雪哉の行動を、よく知っているからこそ。──そう分かっているのだ。〝“単独行動をするな”など雪哉に話したところで、アイツは言うことを聞きやしねぇ〟と──
こうして雪哉は単独行動になった。──そして他のメンバーは全員、純と響の元へ向かう事に。
そして聖、陽介、誓、瑠璃、絵梨、百合乃も行動を開始する。〝純と響の元へ〟――
聖「出来るだけ、敵との遭遇は避けたい……」
最もな事を言いながら、聖が小部屋の扉を開く。
──ガチャ……
──バコン!!☆
聖「あ? 何かにぶつかった!」
一同「「「…………」」」
──バタン!!
速やかに、再び扉を閉める。
一呼吸置いて……──
──ガチャ!
“再び扉を開く”……
聖「やっぱり、幻じゃねー!!」
扉を開いたら、鬼の形相の男が立っていた。男の額が赤い……
なぜ“鬼の形相”なのか……――そう、最初に扉を開いた時、扉がコイツの額を直撃したらしいのだ。
さらにコイツの後ろにも何人かの男たちがいる。
―「幻やと?! 舐めとんのか! コラ!!」
聖「舐めてません……」
陽「開けた瞬間、敵と遭遇したな!」
こうして早々と、敵と遭遇した。
例の男はやはり、鬼の形相だ。……──だがそう思っていると、途端、男の表情が変わった。何か、ハッとしたかのような表情へと──
「敵やと? ……ぅおわ! ブラック オーシャンやないか!!? ありえへん! 扉開けたらご機嫌よう?! て! どんなオチや!!」
この男、関西弁オーバーリアクションである。身振りと素振りまで、しっかりとついている。
一同、オーバーリアクション男の身振りと素振り、表情の豊かさを、つい眺める。そして、気が付く……
聖「コイツ、黄凰の幹部の……」
聖の言葉に陽介も頷いた。
「
──吉河瀬・花巻と同様、黄凰の幹部だ。
すると何やら瑠璃は、困ったような顔で、目をパチパチとさせている。またまた“幹部”だとか、何たらとか……暴走族に免疫のない瑠璃の頭は、パンク気味なのである。そして、『黄凰の吉河瀬??』と、小声で復唱しながら、思う事があるのだ……
瑠「ヨシカワセ?? 何だか言いずらいな……」
そうこれは、暴走族の知識を覚えように必死な瑠璃からしたら〝大問題〞である。覚えずらく、口が回りにくい。──そうして呑気に、ため息をついている瑠璃であった。
吉「ぅわぅわ!ブラック オーシャンや! サイン貰うとこうかな?! サイン貰うてから敵対しよか?! そうしよか?! まず握手でもしよか?!」
そうして何故か、聖と陽介の手を掴んで、ブンブンと振る吉河瀬。記念の握手である。
──聖と陽介、〝悪い気はしない〞。
誓「馬鹿か?!」
陽「悪い気しねぇー! 俺らやっぱり有名人だな?! マヂで?! マヂかよ?! お前もしかして、俺らに憧れてた?!」
吉「ちゃうちゃう! ブラック オーシャン有名人やから、握手したかっただけや! 出来る握手はしとかな損や!!」
聖「違うのかよ?!」
吉「自慢話してなんぼやからな! 人生得出来ることは得しとく! 楽観主義やから!! でもな、言っとくわ! 俺、お前らの〝敵やで!!〞」
──〝敵やで!!〞──
一同「「「…………」」」
〝へっ??〟と、一瞬、目が点になる一同。
一同「「「…………!!?」」」
頭の中でリピートされる言葉。『敵やで!!』〝敵やで!!〞……“敵”?!……――
〝敵やで〞とは、その友好的な笑顔とノリに相反する言葉である。視覚と聴覚から得る情報に、こんなにもズレがあるとは……──危うく脳が、誤認識してしまうところである。
そうして吉河瀬が、自分の後ろに控えている男たちの方へと、笑顔で振り返った。 そして幹部として、申し付ける──
吉「お前らちゃんと働けや? オーシャン狩り、スタートや!!」
にっこりと笑いながら、吉河瀬がスタート宣言を出した。
一同「「「えぇ゛~~ーー?!!」」」
陽聖「「嘘だろぉーー~?!!」」
やはり、敵であるらしい。──一同はとにかく、逃げ始める。
吉「ほ~ら! 逃がしたらアカン! ボケ!! 追うで!!」
──吉河瀬と他の男たちも追ってくる。
百合乃が絵梨の手を引いて走る。同じように、誓が瑠璃の手を引いている。……――そして陽介と聖は、逃げ足が〝相当速かった〞。
誓「聖! 誰の手も引いてないなら、足止めでもしやがれ!」
百「コラ! 陽介! あのオーバーリアクションの奴をどうにかして!」
後ろを振り返る聖と陽介。
聖「あ! ヤバい。俺ら速い……」
陽「昔からしょっちゅう、逃げてたもんな!」
そして、誓と百合乃が言ったように、聖と陽介が足を止めた。そう、吉河瀬たちの足止めだ──
****
そしてその頃、キャットとアクアは──……
「アンタふざけてるの? 眼鏡の左レンズに、ヒビが入ってるわよ?」
「誰かが投げたせいですけど? ……」
再びアクアと会ったと思ったら、眼鏡にヒビが入っているのだ。
「あらそう? きっと、投げられるような事をしたのよ」
わざとらしく笑うキャット。東藤への命令を勝手に取り消された事を、根に持っているようだ。
現在二人がいるのはモニター室だ。ここには、屋敷の全ての部屋が映し出されている。更にはこの屋敷のほとんどの操作は、この部屋で出来る造りである。
「だいたい、何よコノ部屋? こんなに便利な部屋があるなんて、聞いてないけど?」
「教えてませんから」
「ちょっと酷いじゃない!!」
キャットはアクアの発言が気に食わなかったらしく、毎度の事ながら騒ぎ始める……―─
だがアクアは、真剣な表情でモニターを眺めてばかりだ。
「もう! 聞いてるの?!」
「……“聞いていません”。俺はキャットと違って忙しいんですから、大人しくしていて下さい」
その物言いに、キャットは口を尖らせた。
アクアは何か真剣な面持ちで、モニターを眺めている……
「忙しいって、何がよ?」
「捜しているんですよ。だからモニター室へと来た」
アクアがモニターを眺めながら捜しているのは、ある人物だった。……――そして、その目当ての人物をモニターの中で見つけた。
アクアはゆっくりと、口角をつり上げる──
そしてアクアは〝ここへ来た目的は果たした〟と言わんばかりに、そのまま出口の扉へと向かう──
「ちょっと! 何なに? どこに行くのよ?!」
何も言わずに部屋から出て行こうとするアクアを、キャットが呼び止めた。
「そんなに俺の行く先が、気になりますか?」
「は?! 気になんてならないわよ!!」
「なら、そこら辺で大人しくしていて下さい」
──バタン!
音を立てながら、アクアが出て行った扉が閉まった。
キャットは閉まった扉を眺めながら、目を丸くしている。
「そこら辺? ……テキトーな物言い……なんかムカつく……」
〝退屈だ〟。モニター室の椅子に、何気なく座ってみる。
全ての部屋が、沢山の画面に映し出されていた。
──そうしてキャットは、気まぐれに、よく分からないボタンを押してみる……すると、押したボタンの上に映っていた部屋の、電気が消えた。
「……――」
〝あ~、なるほどね……〟と、好奇心が湧き、更に隣のボタンを押してみる。すると、ある部屋の壁が動いて、大きな部屋へと変わる……――
「………!」
〝このモニター室って、操作室みたいな?? ……〟と、わくわくと何か感動するキャットであった。そう、このモニター室の面白さに、気が付いてきた。
キャットはじっと、モニターを眺める……――そのうちに、眺めていたモニターに、聖や陽介、吉河瀬が映った。
「……あ!」
キャットは好奇心で、そのモニターを眺め始めた──
*****
誓と百合乃が瑠璃、絵梨を連れて、先に純と響の元へと向かう。 そして聖と陽介は、吉河瀬たちの足止めだ。
馬乗りにして、馬乗りにされて、体勢が定まらないまま、ゴロゴロと転がる陽介と吉河瀬──……
──ゴロン!!
現在、陽介が上、吉河瀬が下。陽介が吉河瀬の胸倉を掴む──
「コノお調子オーバーリアクション野郎! 覚悟しやがれ!」
「はい? 何言い張っとんのか分からんわ!! オーバーリアクションはお前もやろ! お前のこと嫌いや~! 〝ベーー!!!〞」
馬鹿にした調子で舌を出して“ベー”ってやっている吉河瀬。──さらに、〝あっかんべー! のベロベロバー!〞
「ぅっっわ! 腹立つー!!」
「ベー!!」
「黙れ!」
──ガツン!!
陽介の拳が吉河瀬の顔面へと入った。
「いったいわぁーー!!? 何すんねん!! 今喧嘩中?! いや、知っとる! 知っとるけど、痛いもんは痛いわ! 何てことすんねん!!!」
──ゴロン!!
掴み合いの結果、再び体勢が逆になる。お次は吉河瀬が上、陽介が下だ。
「上は勝ちとったで! 泣いて靴を舐めても許してやらん! 舐めてもえぇけど許してやらん!!」
「誰が舐めるか!! 舐めて良くても舐めねー!! 言っとくが俺の靴も舐めるな! 舐めたくても舐めるな! だって汚ぇーー!!」
「ノリで舐めてもえぇやん! 舐めてまえ! 服従しぃーや!! コラ!!」
吉河瀬が陽介に向かって、拳を振りあげる……―─すると陽介は、ハッとしながら言う。
「あ! UFO!」
「え! ホンマに?! どこどこ?!」
いきなり、上を見上げ始める吉河瀬。そして陽介の方へと、再び視線を戻す……――
「って! ココは室内やぞ!! ……何ツッコミ入れさせてんねん! ツッコまなアカン空気にしよって! イジメや!」
陽介、失笑。
再び、吉河瀬が拳を振りあげる……―─
「〝あっち向いてホイ!〞」
〝ホイ!!☆〞──陽介の思った通り、まんまと横を向いた吉河瀬。
「イジメやぁ~~ーー!! 許さんわ! ボケ!」
ガツン!!
「いっッて゛ぇェェーー~!!」
こうして、陽介も顔面に一発貰ったのだった。
──バコン!!
するとその時、聖が吉河瀬の頭を、丸めた新聞でぶっ叩いた。
吉「いたいわ?! いきなり後ろから何やねん?!」
頭を押さえて振り返る吉河瀬。
その隙に逃れて、陽介が立ち上がる。
聖「見苦しいから、さすがに助けた」
陽「ひどっ!」
聖は新聞を投げ捨てる。
吉河瀬の元にも、他の黄凰の男たちが集まる。
一番初めの状況へと戻り、睨み合いだ。
──振り出しに戻って、掴み合い、殴り合いが始まる。
この場は乱闘騒ぎだ。
荒々しい声に、狂った言葉が飛び交う。
壁に誰かが思い切り背を打ち付けられて、壁が小さく軋む……──
──バコン!
──バコン!
聖「ぇて?!」
陽「ぃて!?」
聖が投げ捨てた新聞を誰かが拾って、聖と陽介の頭をぶっ叩く……――
そして、そんなドタバタ騒ぎの乱闘をしていると……
─―ギィィ……―――
鈍い音がどこからか響いた。その音に気が付き、全員が一度、動きを止める。
「何の音だ? ……」
──ギィィ……
「……?!」
全員が目を丸くして、見入る。
鈍い音の正体……――何故か、一部の床が開いたのだ。覗いてみると、その下には薄気味悪い地下空間が広がっている……
「地下……?」
「地下?!」
「〝地下!〞」
聖と陽介、吉河瀬が、一番に地下を覗き込んだ。その後に、他の男たちもザワザワとしながら、三人の後ろから地下空間を覗き込む……
地下の出現に、全員が呆気に取られ、喧嘩する手を止めている。
──突如床が開いたのは、実はキャットがモニター室で、好奇心から可笑しなボタンを押したからであった。
そんな事も知らず、不思議そうに全員が地下を覗き込む。
……そして、後ろから覗き込んでいる男たちが、こっそりと顔を見合わせて、合図を送り合った。
男たちが、口角を吊り上げる……聖と陽介の背中へと、ゆっくりと手を伸ばす……――
そして、そんな事にも気が付かず、呑気な二人は……──
陽「……っと危ねー?! 落ちそうになった……」
吉「何俺に掴まっとるん?!」
陽介が一瞬、落ちそうになり、とっさに隣にいる吉河瀬を掴んだ。
そして黄凰の男たちは、そんな事も知らず──そっと二人の背中に手を……──
──バン!!
「……っ?!」
こうして聖と陽介は、地下へと突き飛ばされた。
聖「……?! ぅおわっっ~~ーーー!!」
陽「押したの誰だぁぁぁ~~~ーー!!!」
叫びながら、地下へと落ちていく二人──
そして……──
吉「ちょい待ちーー~!! 何で俺まで落ちてんねーー~んッ!!」
“吉河瀬が、巻き添いで落ちた”。
一同「「……!?」」
一同「「よよよッ吉河瀬さん!?」」
吉河瀬の部下一同、パニックである。
一体何の不手際であったか? 吉河瀬まで地下に落ちてしまった。
「〝吉河瀬さんまで押した奴は誰だー!? バカヤロー!!〞」
正確には、吉河瀬は押されたのではなく、陽介に掴まれていたから、巻き添えで落ちたのだ。
そしてやはり、吉河瀬の部下一同は、ソワソワオロオロと、パニックである。
「吉河瀬さぁぁ~ん?!」
「どうするんだよ! どうするんだよ?! ……」
落ち着かない一同。開いた床の周りで、オロオロとしていた。薄気味悪い地下空間を、見下ろして眺めてみる……──
そして意を決した彼らも結局、自ら地下へと下り始めたのだった──
****
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