Episode 13 【夜明け】

【夜明け】

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 夜明けの訪れ。──この二人、キャットとアクアは、ベッドの中で素肌同士のまま、向かい合う形で眠っている。


 ──アクアはうっすらと、瞳をひらく。そうして彼はぼやけた思考のまま、呟くように、問い掛ける……


「どうでしたか? 俺との夜……――」


 キャットもまだ眠そうにしながら、呟いた。


「悪くなかったわよ? ……」


 するとそっと、アクアがキャットの頬に触れた。


「何かと強情で、やっかいな女だと思っていました……けれど、ベッドの中のキャットは、嫌いじゃない……」


「何かと突っ掛かってきて、口うるさい男だと思ってた……でも、悪くないわ……」


 寝起きのぼやけた思考のまま、悪口のような褒め合いをする二人。 お互いに、褒めているつもりである。──どうやらぼんやりとした寝起きという事もあり、和やかであるようだ。


「俺でも悪くないなら、白谷とは切って下さい」


「……なんでそうなるの?」


「何を言っているのですか? 俺はその為に、アナタを抱いたというのに……」


「昨日は私を引き止める事に成功した、ってだけの話しでしょ?」


「話しが違う……」


「は? あんたが『抱く』って言ってきたんじゃない? 話の食い違いなんてない筈よ」


 こうして和やかだった二人は、またピリピリとし始める。


「どうしてアクアは、そんなに私の邪魔をするのよ?」


「キャットのように迂闊な奴が、ヘマをやらかさないように手を打つ……──それが俺の役目です」


「ちょっと! ……何よその言い方?」


「事実なのだから、仕方がないではありませんか? ウルフが体調不良で本調子でない現在、俺に責任があります。その間に、キャットとドールが敵の手に落ちたなど言ったら……」


 あまりにも現実的なアクアの物言い。キャットは衝撃を受けた。昨夜、そんなに淡々とした理由で、『抱く』と言ってきたのかと……


「なによ!その現実的な理由!! 最悪!」


「いきなり何ですか?! 事実を言っただけです!」


「最悪よ! アクアは強がっているだけで、本当は私にベタ惚れなんだと思っていたのに!! 裏切られた気分だわ!」


 そうしてアクアもアクアで、キャットの思い込みに衝撃を受けるのだった。


「アナタはまだ、そんな事を思っていたのですか?!」


「思ってたわよ!! 最悪!!」


「なぜそんなに怒るのですか?! キャット……もしかして、一夜で俺に惚れましたか……?」


「うるさい! そんな筈ないでしょ! 優越感を感じていたかっただけよ! 所詮都合の良い男だと思ってたのに!」


「相変わらず酷い思考ですね?! 信じられません!! それとも強がりですか?! 有り得ますよね? 昨日、俺の腕の中で、あんなに甘い声を出していたのですから……」


「なっ何ですって?! アクアこそ! もしかして、また強がったの?! 有り得るわよね! 昨日、あんなに気持ち良さそうに、私のこと突き上げてたんだもんね!」


 さておき言い合いながらも、とりあえず二人はベッドから出た。 ……バチバチと睨み合いをしながら、部屋の中を歩く……──


「だいたい! 私と雪哉の事はウルフだって知っているんだから!」


「ウルフはまだ良いとして、もしもが帰って来たら、どうするのですか!」


「あんな奴どうせ帰って来ないでしょ!」


 並んで言い合いをしながら、やはり、同じ方向へと歩いていく二人。そして……


 ─―ガチャ


 扉を開け……


「いつ帰って来るかなど、分からないではありませんか! ……」


「どうせ! すぐに帰ってなんて! …………」


「「…………」」


「……俺が先に来ましたけど?」


「同時よ! 何ついて来てるのよ!」


「キャットがついて来たんじゃないですか!」


「出ていきなさい!」


 どうやら二人、向かっている場所が同じだったらしい。現在、二人でシャワールームだ。


「出てって!」


 シャワーをアクアへとぶっかけるキャット。


「冷たっ?! まだ水ですけど!?」


「あら? ごめんなさいね!」


 キャットは再び、アクアの顔面にシャワーをぶっかけた。


「やりましたね!? ……」


 するとシャワーをキャットから奪って、アクアもキャットの顔面にシャワーを浴びせた。


「ぅぶっ?! いやっ……最悪~!!」


 お互いに『『出ていけ』』と引かない二人。結局二人でシャワータイムだ。


「もう! 散々な朝だわーー~~!!」


*****

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─────


 空が光に照らされて、星は姿を隠した。三日目の朝。

 ここは、昨夜みんなで飲んだテラスだ。朝の風景を眺めながら、ハーブティーを口にした。陽介はおもむろに、スマートフォンを取り出す。

 ──メッセージが受信してある。

 メッセージを見て、返信の替わりに通話のコールを鳴らし始める。すると……──


「ぅわ……出るの早ぇな!」


 通話の相手はすぐに電話に出た。だ。


―「そうか? ……電話してくるとは思わなかった」


「メッセージ返せなくてごめんな? 昨日の夜のメッセージだよな? 皆で飲んでたから、気が付かなかった」


―「いいんだ。電話してくれたしな」


「悪りぃ。……──何か用あってメッセージくれたのか?」


―「……話したかっただけだ」


「相変わらずだな?! どれだけ俺のこと好きなんだよ?!」


─「話したかっただけだ! ……」


「怒るなって! 冗談に決まってんだろ!」


─「…………。二日も、顔出さないじゃないか? 何かあったか?」


「……別になんもねぇーよ? またすぐに、そっちに行くからさ」


─「……ならいいけどな」


「そんなことより、この間くれたハーブティー、これ美味いな? 結構気に入ってる……」


─「本当か? ……」


「嘘ついてどーすんだよ! 本当だ! 今飲んでる」


─「ありがと……」


 こうして少しの間、二人は電話で会話をした。陽介と南、どちらも楽しそうに会話をしていた。


「じゃあ、またな」


 会話を終えて、スマートフォンをしまう。そしてそれは、電話を終えて、すぐの事だった……──


「……少し、話しを聞きてぇんだけど、いいか?」


「お前誰だ?」


 陽介は突然、見知らぬ男に話しかけられたのだ。

 陽介は怪訝そうに、男を見る……──


「話しを聞きたい。一緒に来てくれ」


「どこへだよ?! つーかお前誰だよ?!」


 いきなり来てくれと言われても、何故なのか、全く理解が出来ない。当然、この男について行く気にもならない。ついて行く理由もない。


「名乗らねー。名乗ったら、お前は絶対に逃げそうだしな」


「なんだそれ?! 怪しすぎるぞ?!」


 明らかに怪しい発言をする男に、さらに警戒する陽介。〝裏組織主催のパーティーで、ついに可笑しな奴が……〟と、嫌な胸騒ぎがする。……


「いいから、来てくれ」


 怪しい男が、陽介の肩へと片手を置いた。──その手を叩き落とす陽介。


「「…………」」


 すると、怪しい男が舌を打つ。

 すると、舌打ちされた事に対して、陽介も舌を打つ。


「舌打ちするとはいい度胸だな?! 俺を舐めるなよ! 俺様がいい人オーラ全開だからって、舐められたら困るぜ!」


 ちゃっかりと自分を良く言っている陽介である。


「は? いい人オーラ? ……へー、おっかしいな! そんな奴、どこにいるって?」


 挑発的な態度を取る、例の不審な男。


「……んだと?! この野郎っ!!」


「あぁん? 何だよ! オレンジ頭!!」


 ──ゴツン!!


 そうして二人は、額と額をぶつけ合いながら、睨み合いを始めた。さらに、お互いの胸倉を掴む……──


「オレンジで悪りぃか?! この!!」


「銀髪舐めんな!! 世界中のどこを捜しても、俺より銀髪の似合う男なんて存在しねー!!」


「この野郎ー! でかい口叩きやがって! 笑顔が素敵なCOOLBOY、BLACK OCEANの“星 陽介”様とは俺の事だぜ!! 舐めんなよ?!」


 陽介は何故か、自分のキャッチフレーズのような事を口走っている。だがすると、この不審な男も負けていないようであり……──


「笑顔が素敵なCOOLBOY? あ~! 自称の話か? お前こそ俺を舐めるなよ!! 言わずと知れたイケメン銀髪王子、 とは俺の事だ!!」


「言わずと知れただと?! テメーなんて知らねーよ!!」


 〝朝から突っ掛かってきやがって! どこのヤンキーだコラァァ~~!!〞と、陽介は響へと殴り掛かった。だがその拳を……──響の顔面直前で止める。 そうだ。

 響は冷静な表情をしたまま、再び舌を打つ。

 陽介は響を小馬鹿にするように、口元に笑みを浮かべる。


「へー? ……よく腰抜かさないで耐えたな!」


「調子乗るなよな!? クソガキが!?」


 すると次は、響が動いた。──宙に曲線を描くように、綺麗に動く脚……──その脚が、陽介の首の右隣りで止まった。こちらも〝フェイント〞。


「へー? 雑魚じゃねーのは認めてやるよ」


 瞳の在り方は冷静なまま、陽介は口元だけを愉しそうに吊り上げる。……──そうして朝から、取っ組み合いになる。


「知らないとは失礼だぜ? ……BLACK OCEAN、昔は毎夜毎夜、全面対決してたっていうのによ!」


 ガツン!!


 取っ組み合いをしながら、響は陽介を壁に押しあてた。


「あぁ?! 全面対決だと!? テメーどこのチームだ?!」


 響の言っている対決とは、当然、警察とBLACK OCEANの事だ。だか、まさか響が警察だとは微塵も思わない陽介は、“どこのチーム”だかを尋ねている。


「知らねーのも無理ねーか? ……あれはちょうど、四代目総長が姿をくらました頃だ。五代目の座を争い、治安を最悪な状態に陥れるお前らを、毎夜毎夜、追ってた……──」


 ガツン!!


 取っ組み合いをするうちに、体勢が反対になった。今度は陽介が、響を壁に押し当てる。


「なんだと? ……栗原総長が、いなくなった頃……──」


 を、陽介は必死に思い返す──


「……総長がいなくなった頃、俺、ユッキー、聖、純、四人で争ってた頃って事か? ……」


 ──〝総長がいなくなった〟。そう、BLACK OCEAN四代目総長、栗原 聡は、何も告げずに、いなくなった……――


「お前、真面目に考え込みすぎだ。隙だらけだぞ? ……」


 ゴギッ!!


「い゛っでェェぇェー~~~ッ!!!」


 そうして思い耽っているうちに、隙を突かれて腕を背中側にひねられた陽介だった。


「ぅっるせ~男だな?! つーかお前……体相当固いだろ?」


「いってぇ~ーっ……! なんて事しやがる?! 今の鈍い効果音聞いたか?! この銀髪!! 真っ黒に染めてやるぅ~……っ!」


「いじけるなよ……! 大丈夫だ、折れてねーから! お前、考え込みすぎて、隙だらけだったぞ? 馬鹿だろ? ……」


「黙れ!! テメーが“総長”とか言うからだ!」


「四代目の話題はタブーってことか? ……まぁ、だろうな……──」


 一番信頼していた筈の、陽介たち四人に何も告げずにいなくなった総長。信頼していた総長を、突然失った四人……──


「このッ……はなせ?!」


「暴れんな! ……俺は話しを聞きたいだけだ!」


「お前に話す事なんてねー!!」


「なら、仕方ない……お前が逃げねーようにしとかないとな!」


 ジャラ……


「……はぁ?!! 待てよ……?! お前っ……」


 陽介は困惑した。響の手には、手錠が輝いている。


「なんだそれ?! て……手錠?! 警察みたいな真似しやがって!!」


「真似じゃねー!」


 そう決して、警察の真似ではない。彼は本物の警察官だ。


「真似じゃねーだと?! だったら何のっ……!? ……――」


「「…………」」


 陽介は一瞬静まる。顔色が悪い。そうして何かに、思い至ったらしい。

 ──ハッ! として、再び抵抗を始める陽介。


「……マ……マヂか? ……なぁ待てよ?!」


「ダメだ! お前逃げるから……」


「待てって?! なぁ!!」


「コラ?! 逃げんな!」


「……逃げる!! 絶ッてぇ! 逃げる!!」


「それをさせない為に、手錠があんだよ!」


 ガシャン!!


 こうして陽介の手へと、手錠がかかった。


「……はぅ?! ……俺……おっ男とはしたことねー……まさかこんな日がっ?! その前に俺の話しも聞いてくれ!! 俺が好きなのは!! 〝女だぁ~~~ーーー!!!〞」


 〝へぇっ?!〟と、響、唖然。彼は気が付いた。〝俺すげぇ変質者扱いされてんじゃんか?!〞と。


「はぁ?! んな訳があるか?! 誰が野郎なんかとっ……! 俺だって!! 〝女が好きだぁーーーー~~~~!!!〞」


 お互いに心の内を叫び合い、静まる二人……


「「…………」」


「……女が好き?」


「女が好きだ!」


「俺も……女が好きだ!」


「「…………」」


 ──こうして可笑しな誤解が解けたところで、再び闘志が戻る。だが、腕には手錠……──


「外せ!! 俺の事どーするつもりだ!」


「う~ん……とりあえず、誓にぃ……──」


 〝捕まえた〟と安堵していた響だったが、そこで、両手が塞がったままの陽介が、回し蹴りを繰り出してくる……──

 そして響は、とっさに腕で回し蹴りを受け止めた。


「……手錠かけても、威勢は変わらねーみたいだな?」


「当たり前だっ……でも、これじゃ上手く喧嘩も出来ねぇから……」


 ジャランッ!!


 ──手錠の揺れる音が響く。

 

「……っ……こりねー奴だな?!」


 陽介は手錠がかかったまま、走り出した──

 そうしてとりあえず、テラスから屋敷の中へ。──更に、それを追う響──


「待て!! オレンジ頭ぁー~!!」


「誰が待つか~ーー!!」


 ──ダダダダダダダダダダ……――ッッ!!

 ──ジャランジャランジャランッ!!――……


 屋敷に響く足音。そして同時に、音を発する手錠の揺れる音……──


「ユッキ~~! 純ーー! 聖ぃーー~! 俺ピンチだぁ~~~ー!!」


 〝誰か俺を助けろ!!〞と、名前を呼んでみる。だがやはり、都合よく誰かがいたりはしない。


 そして響は陽介の叫びを聞きながら、〝やっぱり聖も一緒か〟と、そう静かに思った。


 ──ダダダダダダダダダダダダ……――!!


 早朝の屋敷の中を、駆けずり回る二人──


 ……と、その時ついに、偶然にも陽介の加勢が登場する。


 ──ダダダダダダダダダダダダ…………!!


 先の道に見えるのは、雪哉だ。


 道の真ん中で雪哉が振り返る。猛スピードで走ってくる陽介の存在に、雪哉も気が付いた。


「!! ユッキーーー~~!!」


 すると何を思ったか、雪哉は澄ました面持ちのまま、走ってくる陽介に向かって、手を伸ばす。そして陽介とのすれ違い際、その襟ぐりを、鷲掴みにする。


 ──バッ!!グッシャ~~ン!!


「はぅわ゛ッ?! ぅへッッ!!」


「何してんだ?」


 こうして猛スピードで走っていくところの襟ぐりを〝バッ!!〞っと掴まれ、服が〝グッシャ~~ン!!〞となり首に食い込み、〝ぅへッッ!!〞と……危うく吐くところである。


 手荒い呼び止められ方をし散々ではあるが、その事よりも今は、加勢になりうる雪哉に会えた事に喜ぶ陽介であった。


「ユッユッキ~~ーー!!」


 〝陽介感激〞。いつも通り、ふざけて抱き着こうとする……──


 ジャランッッ!!


 だが手錠のせいで、腕を広げられなかった。そうして考えた結果、腕と腕の間に雪哉の頭を入れながらはしゃぐ陽介だった。

 そして雪哉は、目をパチパチさせている。そう、陽介の手首には


「手錠??」


 今この状況を全く分かっていない雪哉は、手錠を見ながらきょとんとしている。

 そして陽介は、雪哉に会えて、とりあえず安堵したようだ。

 ──陽介は、肩で呼吸をしている。


「手錠……なんだ陽介? “拘束プレイ”でもしてたのか?」


 肩で呼吸をしていた陽介が、あんぐりと口を開けながら顔を上げた。


「手錠を見て、いきなりその考えが浮かぶのか?! ……さっさすがユッキー……場数踏んでるな! ……変態王子……」


「……変態王子?! ……」


 と、そこに、響が追い付いてやって来た。


響「……っと……やっと止まった」


雪「コイツ誰だ?」


 目をパチパチさせながら、陽介に問う雪哉。


陽「よく分からねー! “インチキ王子”・川原 響って言ってた!」


響「“王子”だ!」


陽「は? インチキ王子だろう?!」


響「〝イケメンだ!〞」


陽「お前みたいな悪役はインチキ王子で十分だ!! 覚悟しやがれ! インチキ野郎!! ウチの変態王子が相手だ!!」


響「変態王子? その呼び名、インチキ王子より酷いぞ?!」


 響、失笑である。


陽「何笑ってんだあの銀髪!! ユッキー! コイツやっちまってくれ!!」


雪「任せろ。掛かってこいよ? 銀髪男!!」


響「……(笑)ッ……お前が変態王子? (笑)……」


 響はまだ、失笑中であった。


雪「わっ笑うな!! 陽介! お前のせいだぞ!!」


陽「だってユッキー……いきなりあんな発想を!!」


 そうして次第に、響の笑いもおさまってきた。


響「……で? 変態、お前は確か──……」


雪「あ? 俺のこと知らねーって言うのか? BLACK OCEAN1の美男子、白谷 雪哉だ!!」


陽「ユッキー! やっぱり内心、自分が1番カッコイイと思ってたんだな!?」


 〝コイツらいろいろと、隼人たちの先輩なだけあるな〟と、響、再び失笑だ。


雪「何笑ってんだって?! 気味悪いぞ?!」


響「だってよ、お前ら、普通に名乗ってくれるから……──正体を突き止める手間が省けて楽だけどな? 自己主張の激しい連中だな(笑)」


「「……?!」」


 どうやら響からしたら、その点についても失笑しているポイントであったらしい。

 そうして陽介と雪哉は、自分たちの失態に今、気が付いた……──


響「“元BLACK OCEAN”……なら、お前にも話を聞きたい。俺はお前らと喧嘩をしに来た訳じゃない」


雪「喧嘩じゃねーなら? ……なんだって言うんだ?」


「……仕方ねぇか。答える。俺はだ!」


雪「は?!」


陽「冗談きつっ……」


「「…………」」


 やはり、陽介と雪哉にも信じられないようである。


響「ホラ! 見ろよ? ……身分証明だ」


 響の警察手帳を、じっと食い入るように見る二人。


「「…………」」


 そして次第に目を丸くし、口をあんぐりを開き、顔色を悪くする……


「「警察だぁ~~~ーーー~ーーッ!!?」」


 二人、絶叫である。


響「うるさっ……コイツらのテンション、やはり、馬鹿な知り合い五人組に似ている……」


 〝お前らもあの五人組も、どんな高校通ってたんだか……〟と、呆れている感じの響であった。


陽「ユッキー!! 俺の手に手錠が?!」


雪「お前?! 逮捕されるのか?!」


陽「えぇ゛?! ……」


響「──という事だ。お前らに話しを聞きたい」


 だがそこで、考え直した陽介が、難しそうな顔をしながら、首を傾げた。


陽「……でもよ……説得力がねぇ! あの身分証明、偽造か?!」


 やはり、なかなか納得が出来ない二人であった。警察手帳偽造疑惑が浮上している。

 そして悩んだ結果、二人はだと判断したらしいのだ。

 ──川原 響とは、そのチャラチャラとした見た目故に、本来ならば警察手帳を見せる事で得られる〝抑制力というもの〞を無効にしてしまう、類を見ない警察官である。そう唯一〝類〞がいるとするならば、それは稲葉 誓であろう。

 ……──さぁ、チャラチャラとした見た目のせいで、警察手帳の抑制力を無効にしてしまい、何か、得があるのだろうか? ……──


雪「オイ銀髪、いたぶられたくなければ、さっさと手錠の鍵をよこせ」


響「断る」


雪「なら、仕方ねーな……」


 ──こうして、制止を無視するピンチラたち雪哉と陽介に、同じ目線で絡まれる。そう〝得などない〞のだ。


 ──緊迫した空気での睨み合いが続いている。

 先に雪哉が動いた。次々に繰り出される拳や脚を、響はかわしたり受け止めたりする。


雪「……どうしてお前、やり返さねーんだ?」


 響は警察だ。殴り合いの喧嘩など、する筈がない。

 そうしてずっとかわしていた響だったが、雪哉の拳を少しだけかすってしまう──


響「……痛ッ……」


 響が怯んだ隙に、雪哉は馬乗りになる。


雪「何なんだよ? ったく! つまらねぇ……お前も殴り掛かってこいよ! こっちだって、殴るのに気が引けるんだよ!!」


響「殴り合いなんて出来るかよ? ……警察だ! つっても今回は、勝手に動いてるんだけどな……」


雪「は? 意味分からねーこと言ってんなよ! はっきりしろ!」


 響は馬乗りにされたまま、話し始めた。

 雪哉も殴ったりはせずに、それを聞いた。


響「俺の友人がいなくなった。女友達ってやつだ。

……ちなみに、俺の同僚の女なんだけどよ……」


雪「それと俺らが何の関係があるんだよ? ……誘拐犯って言いてーのか?」


響「違ぇ~よ……俺と同僚二人で、どうにかしてその女を捜し出そうとしてた時だ……──ちょうど、頼まれた……」


雪「何をだ?」


響「知り合いに馬鹿な五人組がいてな、そいつらに頼まれたんだ。『瑠璃さんを助けてくれ』ってな……──そのっていう女が他でもない、俺たちが捜していた女だったっていう話しだ」


 ──“瑠璃”その名を聞き、雪哉と陽介も誰の事だかが分かった。

 彼らの反応を確認し、響が微かに笑う。


響「ホラな? ……その顔、“瑠璃の事を知ってる”って顔だ」


雪「……よくこのパーティーの事でを知ってたな? ……」


響「それも五人の知り合いから聞いたんだ。まぁそいつらも、違う奴から聞いたらしいけどな……──もともと、“瑠璃を助けるように”言ったのはその五人じゃねー。最初にそう言って、パーティーの事を教えてくれたのは、瑠璃の妹、“”」



雪「……絵梨に、頼まれたってことか? ……」


響「あぁ、そうだ。瑠璃を相当信頼してる妹だ。瑠璃がいなくなって、ずっと元気がなかったみてぇーだ……絵梨の気持ち、痛ぇくらい分かる気がするし……俺らも瑠璃を捜していた。……──そんな事で! 俺と同僚の二人で、パーティーに乗り込んだって訳だ!」


雪「絵梨が……へー、俺、そんなこと知らねぇ……」


 雪哉の様子は、明らかに先ほどとは変わった。〝なんだ?〟と、それを不思議に思う響。


陽「なっなぁー?! ユッキー!!」


 とっさに陽介が雪哉を呼んだが……


響「ま! つー事だから、さっさと退け!! ……」


 ──ガシャン!!


雪「ガシャン?!」


陽「ガシャンだと?! ユッキ~~!! マヂかよマヂかよ?! 有り得ねぇーー……」


 思い耽っているうちに、雪哉の手にも“手錠”が掛かった。


雪「やらかしたぁーー~~!!」


 雪哉を退かして、響は立ち上がる。


響「何なんだよ? ……いきなり考え込みすぎだろ?! 隙だらけだった。馬鹿だな? ……あのオレンジと同じパターンだぞ?」


 陽介が悔しそうに響を睨みつける。


陽「うるせー~!! テメーが“絵梨”とか言うからだ!! 無神経な銀髪め! ユッキーはな! 絵梨に”アンタなんて大きrっ”……──」


雪「だだだっ黙れ陽介?! 余計なこと言うな!」


 手錠が掛かったままの手で、なんとか陽介の口を押えた雪哉であった。


響「何なんだよ?! ……まぁ、お前の事情はなんとなく分かった気がする。瑠璃の妹、男嫌いだもんな」


陽「ぅわ~、ユッキー! なんとなくバレたな!」


雪「……お前は余計な事ばっかし……」


 手錠が掛かったまま、何故かちょっぴり談笑が始まっている。だが、こんな談笑をし続けるつもりはない。

 そうして雪哉と陽介は……──!!


響「あっ?! コラ待て!! ……手錠の鍵はここだぞ? 逃げてどうするんだ?」


 鍵を見せびらかしながら、ニッコリと笑う響。

 雪哉と陽介は、脚を止めて響を見た。二人で舌を打つ──


*****


 ──そうしてパーティーの三日目、最終日が始まった。

 この朝も瑠璃、絵梨、百合乃、聖、純は、広いダイニングで朝食を取っている。

 ダイニングには人は大勢集まっているので、周りの人たちが談笑する声が聞こえてくるのだが、瑠璃たちの周りはどこか、いつもよりも静かであるようだった……


瑠「……なんだか静かだね」


 そう明らかに、静かであろう。この静けさは一体? そして皆、ハッとする──


聖「陽介と雪哉がいない」


純「雪哉がいないのは珍しくないとして、陽介がいないのは、変だよな?」


聖「いつもなら絶対にいるもんな」


 〝可笑しいわね〟と、百合乃は辺りを見渡し始めた。

 瑠璃も何気なく、辺りを見渡す。

 絵梨もソワソワと、落ち着かない様子だ。

 ……だが純と聖は〝いないな〟とは話しながらも、あまり気にしていないようであった。純、聖、雪哉、陽介の四人は、いつでもなコミュニケーションで成り立っているのだ。そして四人は口にこそは出さないが、互いを認めている。そのせいか、簡単に心配なども、しないのだろう。


*****


 そして同じダイニングの中を、キャットもキョロキョロと辺りを見渡しながら歩いていた。

 するとその時、キャットは後ろから肩を掴まれた。キャットは笑顔で、振り返る──


「「…………」」


「何ですかその笑顔?!」


「……うるさい!! どうしてアンタなのよ!?」


 振り返った先にいたのは、アクアである。


「酷いですね?! 誰だと思ったのですか?」


「雪哉を捜してるのよ!」


 ……──するとアクアは、“頭が痛い”とでも言うように、自分の額を押える。


「キャット…! 白谷とはただの勝負ではなかったのですか?! 先程の笑顔は明らかに可笑しい……」


「変な疑惑を抱かないで! 私に何の用?」


。キャットも来て下さい──」


「招集? ──」


 聞き返すと、アクアは真剣な面持ちで頷いた──


*****

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