【パーティーまでの一週間 2/2 ─ DARK RUBY ─】

***


━━━━【〝RURIルリ〟Point of v視点iew 】━━━━


 ……目を見開いて、つい固まってしまった。

 階段の影に隠れて、そっと見てた。だ……


 目隠しをされて、腕を拘束された人を、何人かの男が連れてきた……そこには、怖い表情で何かを話しているアクアもいる。


 緊張で強張りながらも、私はアクアたちの会話へと、耳をすましてみた……──


A「遅かったな……?」


 その何人かの部下らしき男たちに、不機嫌に言い放ったアクア。アクアの様子に、焦りをみせる男たち……


「申し訳ありません……ですが、ご安心を。ご命令通り、連れて参りました」


 拘束された人物を、アクアの前へと突き出す男。

 アクアがその拘束されている人物の目隠しを取った……


 拘束されているその人物は、特徴の強い人。 真っ黄色の髪に黒のロングワンピース、鮮やかな色のまぶたと唇をした、マダムだった。派手で、どこか不思議な雰囲気を持ってる……


A「あなたが、“Dark Rubyダーク ルビー”で間違いありませんね? お待ちしておりました」


 ──ダーク ルビー? ……

 拘束されていたからヒヤヒヤしていたけど、どうやらアクアは、その人物を手荒に扱うつもりはないらしい。 いくらか、安心した……


A「……少々手荒で申し訳ない。怖がらせるつもりはなかったのですが……──」


 アクアが丁寧に謝ってる。 ……いっそ、私にも謝れって話だ。……

 私を連れて来たのは、ウルフだからなぁ……ウルフって……〝謝らなそうだ〞。アクアなら謝ってくれそうだったのに……! 何度も言うが、生憎、私を連れて来たのは、だ……。


 ダーク ルビーと言われたマダムは、表情を崩さないままだった。何も話さない。

 すると……


A「……こっちへ来い……。」


 アクアがまた怖い表情になって、部下の人を手招きした。手招きされた部下は、女の人だ。

 アクアって、部下には敬語を使わないらしい。……当たり前か。敬語を使う相手は、自分と同等かそれより上、そして客人……そんな感じかな。


A「この方をお連れしろ」


 ダーク ルビーを女の部下に預けるアクア。

 …………何その気遣い? 私にもそのくらいの気遣いをしろって話しだ。


 女の部下がダーク ルビーをどこかへと連れて行った。


 残った男たちを、またまた怖い表情で見るアクア。


 ……私は残った男たちの一人を見て絶句した。服にいくらか赤いシミがある……これは、返り血だ……

 アクアは機嫌が悪そうだ。


A「表情一つ変えずに、脅えていたじゃないか? ……『手荒な真似はするな』と、言った筈だ!! 何をした?!」


 アクアは返り血の男を叱り付けてる。

 返り血の男は緊張した面持ちで、モゴモゴと話し始めた。


「……周りの連中が、ガタガタ震えてたんで……緊張をほぐしてやろうと思いまして。かすり傷程度、一発……だけです」


 話を聞き、アクアが大きなため息を吐き出した。


A「警戒されては困るんだ! ……彼女に手荒な真似は、絶対に許さないからな……!」


 ……とにかく、生きてるらしくて、安心した……。けれど、ありえない……。

 あと……私のことも、『絶対に手荒な真似はしないで下さいね?』……って、アクアに言ってもらいたいものだ……!


 ハッとして、私はとっさに更に階段の影へと隠れた。アクアがこちらへ向かってくる……


「「…………」」


 無言で、アクアと目が合った。見つかりたくなかった……


「す……すみませんでした……」


「何がですか……?」


「あ……いえ……さっきの……」


「そんなことですか? 別に構いませんよ。隠すことじゃないですから」


 勝手に話しを聞いてたことを謝っておいた。でもどうやら、隠すことじゃないから気にしてないらしい。


「……さっきの女の人、どうしてここへ連れて来られたんですか?」


「彼女はと呼ばれている。“裏舞台の優れた才を持つ者”──という意味だ。それから出来たのが、彼女の通称、 。──凄腕の、だ」


 医者? ……そうか、ウルフ……──


「俺も何度か、医者にかかるようにと言っていたのですが……ウルフは“必要ない”と……断るんです。今回は、キャットとドールに頼まれたことを理由に、ウルフに黙って医者を手配しました。──君のおかげだ」


 褒められた。なんだか新鮮。


「あ……いえ、ありがとうございます」


 そして私は、ぎこちなくその場を立ち去った──


 私は実際警察側だけど、ウルフがお医者さんに見てもらえることは、良かったと思った。

 やっぱり難しいな。……体調の悪い人がいれば、それは、医者に見てもらって下さいって感じだ。なのに、そこに敵対中とか……警察側とか、ややこしい。

 でも、犯人が怪我をしていた場合、テレビとかでも病院に入院させてるし……犯人の怪我はどうでもいい……って訳じゃない。

 そう考えると、私がウルフに病院を薦めたことも、間違ってないよね? だって体調すごく悪そうだったもん、当然だよね?

 アクアもやっと医者の手配が出来て、安心しただろうし、良かったと思った。


****

 それから時間が経って、私はダーク ルビーがまた連れていかれるのを見た。多分今度は、元いた場所へと送り届けるんだと思う。

 ダーク ルビーは再び手を拘束されて、目隠しをされていた。おそらく、この場所がばれないように、移動中は目隠しされているんだ。

 ──どうやら、あの時の女の部下が、彼女を送り届けるらしい。

 そして、女の部下が彼女を連れて行こうとしたとき、アクアが現れた。


「近いうちにまた、部下にあなたを迎えに行かせます。……今度は決して、あなたとあなたの周囲の人間に、危害を加えない。約束します」


 ダーク ルビーは目隠しされたまま、声のする方を見ていた。

 しばらくすると、彼女は再び前を向いて、そしてそのまま、女部下と一緒に外へと出ていった──


 “これで一段落”……と思っていたのだが、その安堵の気持ちが掻き消されるまで、それほど時間はかからなかった──


 その日の夜の事、私が与えられている部屋に戻ろうと廊下を歩いていると、どこかの部屋から、声が聞こえてきた。それは男の声で、感情的になっているのか、声を荒げている。


 廊下を歩いて進むにつれて、その声はよく聞こえた。


 そしてその声は、の前を通過する時に、最もよく聞こえてきて、それは声の主がその部屋にいることを表しているのだけど──……


 “疑問に思いながら、私は部屋の前を通過した”。


 その部屋は、この間ドールに連れてこられた、ウルフの部屋だった。でもあの声はウルフのじゃない。喋り方も荒くて雑だった。だから初め、分からなかった。……だが、あの声は、


 何か口論している感じだったが、アクアの声しか聞こえなかった。そうなるとおそらく、感情的になっているのはアクアだけで、ウルフは冷静なんだろうな……って思った。


 医者を手配出来て、アクアも安心していた。なのになぜ、言い争いになっているのか……私はあの時、“疑問に思っていた”んだ……――


****


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「なぁ絵梨ちゃん、どうしたんだよ……?」


 元気のない絵梨。そんな絵梨を心配そうに眺めているのは、隼人、亮、光、岬、千晴の五人だ。


 ……──絵梨を発見した五人は、この間同様、当たり前のように、絵梨を一緒に連れてきた。そうして喫茶店に来たはいいが、絵梨の様子が可笑しいことに気が付いた。


岬「だっ誰だ! 絵梨ちゃんを怖がらせた奴は、誰だ!!」


 四人の顔を見ながら、岬が発言。


「何言ってんだ! 岬が怖がらせたんだろ!」


 岬を指差す千晴。


光「絵、絵梨ちゃん! ……ごめんね? 俺何かしちゃったかな? ……」


 慌てて、とりあえず謝っておく光。


岬「お前のせいか! 光!」


光「えぇ?! 俺何もやってない!」


千「なら謝るな! ややこしい!」


岬「ホントどうしたんだよ?! 絵梨ちゃん! ……可哀相にぃ……こっちへおいで!!」


 両手を広げて、抱きしめる準備万端の岬。

 絵梨、当然無視。


千「あっ?! 岬てめぇ! ずるいぞ!」


 なんと、絵梨に抱き着く千晴。


「「あぁーー~ぁあ゛っ!?」」


 岬と光が、思わず叫ぶ。


絵「ぃい~嫌っ……男ヤダっ……離れろっ……! 嫌ぁーーーー~~!! ……」


 〝絵梨、絶叫〞。


岬「この野郎~! 千晴! 許さねぇー!!」


光「絵梨ちゃんっ……! 大丈夫?! 早く絵梨ちゃんを助けないと……!」


亮「拒絶ハンパないな」


隼「極端」


絵「男嫌ぁ~~ー!! 離れなさいよっっ……」


千「“男嫌”って……絵梨ちゃん……知ってた? ……雪哉さんって、男だよ……!」


 ─―ベシ!!


「「「「当たり前だ!!」」」」


絵「当たり前よ……!」


 一斉に千晴に一発入れてやった四人であった。


岬「さっさと離れろ! 千晴ぅ~~ーー!!」


 岬と光が、どうにか千晴を絵梨から引きずりはがした。


絵「ぅう~……」


 相当嫌だったらしい絵梨は、警戒の眼差しで千春をみている。


千「メッチャ警戒してる! なんかうなってる!」


亮「人間を怖がる小動物みたい!」


隼 「大変だっ誰かパフェでもおごってやれ!」


岬「お姉さーー~ん!! 至急フルーツパフェ1つ下さーー~い!!」


光「絵梨ちゃん待っててね! ……今っ今すぐ! パフェあげるから!!」


 数分後、届いたフルーツパフェを、絵梨に差し出す五人。 警戒しつつ、フルーツパフェはしっかりと貰っておく絵梨。

 そうして絵梨の警戒もほぐれてきたところで、隼人が話題を切り出す……


隼「絵梨ちゃんが元気ない理由、BLACK MERMAID関係のこと?」


 ゆっくりとスプーンでパフェをすくいながら、絵梨は小さく頷いた。俯くその表情が暗い……


亮「そうか。……あれから、何か動きがあったの?」


絵「パーティーがあるの……」


隼「パーティー?」


絵「同盟パーティー……でもそんなのは、取りあえずどうでもよくて……」


 絵梨は一層深刻な顔をして、深く俯いた。


絵「お姉ちゃんが……帰って来なくなっちゃったのっ……電話したら知らない女の人が出て……『パーティーに参加すれば会える』って……! ……」


隼「ちょっと待ってよ?! パーティーって……てことは、瑠璃さんがいなくなったのは、“RED ANGEL”が関係してるってことか?!」


 絵梨は混乱したまま頷いた。五人も衝撃を受けたようだった。──一体、この短期間のうちに、“何があったというのか”と……──


絵「どうしよう……お姉ちゃんが……警察には言うなって脅されたっ……どうしたらいいのか、分からないの……」


亮「じゃあ、警察に言ってないの? ……」


絵「言えない! ……お姉ちゃんが危険だよ……」


 五人も困惑して黙り込んだ。もしも〝平気だよ〟だなんて言って、警察に行ったとして……──そのせいで、瑠璃に良からぬ事が起きでもしたら……──

 六人には重い沈黙が走っていた。だがそれから間もなくして、初めに口を開いたのは隼人だった──


隼「警察には言えないのに、俺らにはどうして話した?」


 絵梨は戸惑った。“どうして”ってそんな事──


絵「どうしてって……一人じゃ何も分からなくて、誰かに相談したかったの……」


 絵梨は余計に気分が落ち込み、絶望するのを感じた。隼人の言葉の意味を、“言われても困る”と、そのような意味に感じていたから……──


隼「そんなシュンとしないでくれよ? ……別に責めてないから」


 いくらか安心した絵梨は、うつ向いていた視線を隼人へ戻した。


隼「絵梨ちゃんが俺らに話してくれたのは、俺らがだからだろ?」


絵「うん。……」


隼人「なら、俺もこのこと、知り合いに相談してみる」


 他の四人は、隼人が何を思いついたのか、それを察したようだった。


絵「知り合い…?」


隼「言い触らす訳じゃないから安心して? こういう話、得意そうな知り合いがいるから」


絵「……得意って……その知り合い、何者なの?」


 不思議そうに聞き返す絵梨に対して、隼人は誤魔化すような笑みを使った。


隼「知り合いとしか言いようがない。……一つ言うなら、──」


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 ──その日は刻々と迫っている。


 偽りの舞踏会で、誰と躍って、誰に踊らされてみる……? ――


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