Episode 5 【パーティーまでの一週間】

【パーティーまでの一週間 1/2 ─ 宣戦布告 ─】

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──『なるべく、RED ANGELには接触させたくないんだ』──


──『アイツらは、逃がしてやらないとな』──


 ── いつも通りの風景。まるで女子高校生のように、オシャレに没頭する女たち。わがままに付き合わされている男たち。楽しそうにバイクをいじったり、酒飲んだり、いつも通りの光景を眺めながら、聖たち四人は考え込んでいた。


──『同盟パーティーで顔合わせしちまったら、もう後には引けない。部下を巻き込みたくないなら、顔合わせする前に逃がすのがいい』──


──『BLACK MERMAIDとRED ANGELの同盟じゃなくて……あくまで、俺ら四人と百合乃だけだ』──


( 〝OCEANでもない〟〝MERMAIDでもない〟〝俺らは、RED ANGELになるのか?〟──呑まれて消えるのか? ── )


 ──拳を握りしめた。屈辱感に劣等感、黒く染まった気持ちが、目つきをきつく変える。〝見えない何かを睨みつけた〟。


──『消えたりしねぇ……アイツらブっ潰して、取り返してやる。MERMAIDを……違う。……取り返すのは、BLACK OCEAN──』──


 OCEANの消えた日。──

 MERMAIDの生まれた日。──

──どうしてMERMAIDまで、消えようとする――――……?


純「パーティーの前に、部下を逃がす。それを交渉したいんだ。雪哉、あの女キャットに言って、交渉の場を設けてくれないか?」


 純の問いに雪哉が承諾した。


 するとそこに、明美たちがやって来る──


明「四人で浮かない顔じゃない? 一体どうしたんだ?」


聖「何でもねぇ……俺らの話だ」


明「つれない連中だね? アタシらには教えてくれないのか?」


聖「そのうち、教えてやる」


 そうそのうち、メンバーにはこのことを話さなくてはいけない。


 そうこう話していると、明美の後ろから、南がちょこんと顔を出した。


純「……お前いたのか? チビのくせに後ろにいるから、全く気が付かなかった」


雪「ホントちびだな。近所のガキと見間違えたぞ」


聖「……近所にガキなんていたか?」


 そして陽介はポカンとしながら南を見た後に、快い笑顔を作った。


陽「南! なんだよお前、また俺に相談でもしに来たか?」


 笑顔の陽介へと、南も微笑んで返した。どうやら純たち三人のどうでもいい話は、完全にスルーのようだ。

 南は照れ臭そうにハミカミながら、歩を進めて陽介の前へ移動した。


南「この間はありがとうな」


陽「気にするなって! 何でも話し聞いてやるからな!」


 ──“一体いつ、こんなに仲良くなったのか? ”と、仲が良さげな二人を傍観している三人だった。


純「照れてないか? 照れてるな。照れるよな。、照れるな」


 くどい発言をする純。〝実は気が付いてる〟。


雪「照れてるな。照れるよな。 どうせ、やたらとハッピーな髪色してる奴のこと、好きなんだろ?」


 回りくどい言い方をする雪哉。〝実は気が付いてる〟。


 純と雪哉の発言を聞いた明美が、ハッとする──


明「余計なこと言うな……! なぁ聖さん、この二人に言ってやって下さいよ!」


 純と雪哉の発言に敏感に反応した明美は、聖にすがってみるが……──


聖「さっきから、何の話だ? やたらとハッピーな髪色って何色だ? ……ピンク??」


 どうやら聖だけは、〝全く気が付いていない〟ようだ。


純「聖に言っても無駄だぞ」


雪「さっきの会話だけで、聖が気が付ける筈がない」


 本当に何も気が付いていない様子である聖を眺めながら、ポカンとしている明美であった。


雪「ハッピーな頭の奴は、真面目に気が付いてないのか? アイツ、自分のことに鈍感だな」


 陽介を見ながら、雪哉はそう言っている。 だが一度雪哉を見てから、純が何気なく呟く……


純「お前が言うかよ……?」


雪「……何がだ?」


純「何でもねぇよ」


 純の言葉の意味が分からない雪哉であった…──



 ──皆で何気ない会話をしながら、いつも通り時間は流れる。心地好いくらいに、柔らかい日差しの中で……──


 そして、同時に減っていく。BLACK MERMAIDの時間が――……


 〝海がないと、人魚は生きていけない〟。


 OCEANが消えた時点で、MERMAIDの運命も決まっていたのか?──今更になってから、そう思えて仕方なかった……──



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 ──〝交渉の場を設けたい〟──


 純にそう頼まれた雪哉は、キャットへと会いに行った。


 二人で歩きながら、話をした。


「お前らRED ANGELに話がある。話す時間、くれないか?」


「うん。別にいいわよ」


「パーティーの日より前に、その話をしたい──」


 初めは簡単に承諾したキャットだったが、“パーティーの日より前”という言葉を聞いて、難しい表情になった。そして、キャットは言う──



「……どうしても無理か?」


「無理ね。一週間以内だなんて、無理」


 キャットはかたくなに“無理”としか言わないけれど、何が無理なのか……──それが疑問だった。


「そっちも何か、理由があるんだろうけど、ね。──はっきり言って、BLACK MERMAID関係の話については、私は勝手に進められないしね」


「……誰なら進められるんだ? そいつと話したい」


「〝そいつが無理なのよ〟」


「どういう意味だ?」


「うーん……言っていいのかなぁ……」


 キャットは目を泳がせ、何かを考え始める。……──だが、しばらくすると、ケロッとした表情で笑った。──


「言っちゃおうかな。だって、無理なのよ。ソイツ、寝込んじゃった。 話しなんて、してられないじゃない?──」


「寝込んだ?」


「そう。医者探してるのよ。病気なんじゃないかって話」


「ずいぶん気楽そうに話すな? 心配じゃないのか?」


 その問いを聞くと、キャットからフッと表情が消える。キャットは無表情になって黙り込んだ──……


「……アイツの心配なんて、簡単にしてあげない」


 キャットはそう、冷たく言い放ったのだ。


 キャットが何故そんなことを言うのかは分からないが、 雪哉にはそれを追究する気もなかった。


「そんな顔すんな。いいから、行くぞ」


 足を止めていたキャットに、手招きをする雪哉。

 キャットは小走りで雪哉の元にへ行った。


「どこに行くの?」


「どこも行かない。歩いてるだけだ」


「えー! つまらな~い!」


「悪かったな! ……散歩だ!」


「ねぇ雪哉? なら、もっと向こうに行こうよ?」


 キャットが指差したのは、海だった。


 海沿いの歩道から、キャットは海を見ている。


「向こうには、行かねぇよ」


 行きたくなかった。手を引いて、浜辺を歩いた、あの日を思い出すから。

 初めて聞いた、可愛らしい声。

 〝海が好きだ〟、と――……大きく頷いた笑顔を、思い出した──


「雪哉って意外とケチ?! 行こうよ!」


 雪哉は乗り気でない。

 口を尖らせて雪哉を見るキャット。

 するとその時、キャットの視界に雪哉のネックレスが映った。いつも通りの、羽根の形をしたネックレス……──


、いつも付けてるね」


「……コレか?」


 雪哉は羽根のペンダントトップを、指で掴んで見せた。


「いつも付けてるよね。大切なもの?」


「……大切にしてる」


 まじまじとネックレスを眺めるキャット。


「貸して?」


「やだ」


「お願い……!」


 雪哉は“やだ”と答えながらも、結局は渋々とネックレスを外した。

 キャットは貸してもらったネックレスを手に持ちながら、やはりそれを、まじまじと眺めている。──そして、ニカッと笑った。


「も~らった!」


 キャットは手にネックレスを持ったまま、海の方へと走った。


「あのネコ――……っ!? 待て!」


 雪哉も慌ててキャットを追った。


 ──浜辺を走る音がする。


 キャットを追いかけながら、浜辺を走る音を聞いていた。


 ──……頭の中で同時に、浜辺を歩く音が聞こえる――……


 ──ザザーーーーーーン……


 ──ザザーーーーーーーーン――…………


 波の音……――


「キャット……!!」


 波辺で振り返ったキャットが、意地悪に笑った。ネックレスを雪哉に見せびらかすようにかざす。


「取り返してみれば?」


「返せ」


「どーしようかな~? ……」


 キャットはどこかイジけているように、口を尖らせている。不機嫌だ。


「だいたい、何怒ってんだ?」


「だって……!」


 キャットは何か言葉を言いかけた後に、黙り込んだ──


***


━━━━【〝CATキャット〟point of v視点iew 】━━━━


 ──〝だって、つまらないんだもん〟。


 こんな近くなんだから、海くらいいいじゃん……


 結局、雪哉が大切にしてるネックレスを持ったまま、浜辺へと走った。


 そうしたら、やっぱり、追ってきた。


 ようやく願望通り、海に来れたわけだけど、なんだか、モヤモヤする。


 “行かない”って言ってたのに、あっさり追いかけて来たじゃん。


 ──なに、このネックレス、そんなに大切なの?


 雪哉に大切にしているモノがあるのが、


 ウルフが言ってた。“雪哉にはのめり込むな”って──


 雪哉がいろんな女と遊んでるって噂は知ってる。


 でも、ウルフがそう言った理由は、そんなことじゃない。


 ──“組織の情報を与えるな” ──


 ウルフがそう言った理由、なんとなく理解した。


 ……──そうと分かれば、……だと思っていたのに……!


 ……今日の雪哉、何だか違う。 つまらない……──


「早く返せ」


 ネックレスを持ってる私に、片手を出す雪哉。


 私が返さないから、困ってる?


 どうして、このネックレスを大切そうに見るの?


 海を見た時だってそう……──


 どうして……海を、そんなに愛おしそうに……眺めるの……――?


 そんな顔をされたら、つまらない。宣戦布告のつもりが、拍子抜け。


 私には、欲しい物はあるけど……大切なモノなんて、ない。 本気で愛おしいモノも、


 私と雪哉は、似ていると思ったのに……──雪哉には、それ愛おしいモノがあるのかと思うと、嫉妬する。


 ──どうしてそんな顔するの?


  いつもみたいに、抱きしめてよ。女慣れした手つきで、私を虜にして。冷酷な瞳をしたまま、夢を見させてよ──


 今の雪哉の瞳、嫌い。


 どうせ、私を愛したりしないでしょ?


 なら、誰を見て……そんな愛おしそうな瞳をするのよ?


 海を見ながら、誰を思い出したの?


 自分には向けられないなら、そんな瞳、一瞬もしてもらいたくなかった。


 〝本当の愛が見つからないから〟、娯楽に、最上級の遊びが欲しい――……


 誰のことも愛していないような、冷たい冷たい瞳をしながら、キスをして――……


***


━━━━【〝YUKIYAユキヤ〟point of v視点iew 】━━━━


 キャットは不機嫌にネックレスを持ったまま。──何がしたいんだ?


 海は来たく、なかったのによ……――


 海を見ると、どうしても絵梨を思い出す。だから、来たくなかった。


 仕事がしずらい……調子狂う。


 そして何より、絵梨に会いたくなっちまうから……


「取り返してみなよ?」


「取り返すも何も、俺のだ」


「キスしてくれたら、返してあげる」


 何だそのルール?


「キスなんて、いつもしてんだろ?」


「いつもねぇ……じゃあ、今日は?」


 ──今日? 今日キャットに会った時から、思い返してみた。〝キス、してない〟。


 ……だから、海は行かないって言っただろ? 無意識に、いつも通りの行動が取れなくなってる。


 駄目だ。集中……


 絵梨に会ってからは、俺のこの役目が、難しく感じるようになった。


 絵梨ばっかし頭に浮かんで、相手が絵梨じゃないと認識するたびに、心が痛んだ。自分にも、相手に対しても……──それは紛れもなく、絵梨が俺の世界を変えてくれた、証拠なんだろう。


 〝これは俺の役目〟。 キャットを繋ぎ止めておかないといけない。


 冷酷になれ……冷酷になれば、不快感も罪悪感も感じない。


 切り替えろ……冷静に冷静に……自分の思考は無視しろ。


 私情は捨てて、“役目を果たすこと”だけを考えて動け──


「こっち来い」


 呼ばれるがままに、キャットは歩き出した。俺のの前で、立ち止まる……──


***

━━━━【〝CATキャット〟point of v視点iew 】━━━━


 ──そうだ、〝その瞳〟……私が好きなのは、だ。


 冷たい瞳をしたまま、雪哉は私にキスした。


 もっと深く絡めて……何もかも、忘れられるくらい、深く深く唇を奪って──


 あぁ―――……コレだ。少し苦しいくらいの、深さ。


 身体から少し力が抜ける。 身体は支えられている。


 このままもっと力を抜いて、楽になってしまおう……――そうしたらホラ、もっとしっかりと、支えてくれるから──


 ある程度力を抜いて、身体を委ねると、慣れているのがよく分かる。


 ……──腕の回し方に、手の位置、身体の引き寄せ方……“慣れてる”。


 有無を言わせず、流れに身を任せてしまう。


 この感覚が心地好くてたまらない。


 唇を離して、私の身体を支えたまま、視線が絡んだ。


「満足か?」


 ──いいよ。ネックレスは、返してあげる。


 コクんと頷いてから、雪哉にネックレスを返した。


 雪哉はまた、大切そうにソレを首から下げてる。


 雪哉は海の方へ視線を向けた。


 〝まだ、よそ見は許さない〟。


 私は横から、雪哉の頬に短いキスをした。


 再び、雪哉の視界から海が消えて、私の方を向く。


 ――その瞳だ。の雪哉となら、張り合い甲斐がある──


 ──だね──


「雪哉……アンタは本当に、 いい男だね……――」


 この綺麗な顔立ちと、慣れた手つきに、女は皆、虜になるわけだ――……


 ──私は得意げに口角をつり上げた。


「ねぇ対立チームから女寝取って、一体何個、族潰したの? ――……」


 雪哉の耳元に唇を近づけて、囁いた。


「悪い男だね? ――……」


「……大した女だな? ──」


 すると振り向いた雪哉も、そっと口角をつり上げた。


「そっちがそのつもりなら、“宣戦布告”よ? ──面白いじゃない! 逆に私がアンタを利用して、MERMAIDを潰してあげる」


「お前がその気なら、俺も罪悪感なしに役目を果たせる。好都合だ。面白ぇ……」


 宣戦布告の、成立だ。


 闘志を燃やして見つめ合う。


 勝負の熱と恋愛の熱が、混同する。


「惚れたら負けだぞ?」


「惚れたら負けよ?」


 そのまま、深い深いキスに、溺れる―――


 ――……〝溺れる〟……――


 本当の愛は、どこにある……?


 溺れるけれど、きっと、本気で愛したりしない……


 キスしてもキスしても、きっと、違うモノを見てるよ。


 ただ、気まぐれな愛を私にちょうだい……―─


 私と勝負だ。雪哉──


 遊ばれちゃうのは、どっちだろうね? ──


 〝今に見てな〟。


 〝アンタを私の虜にさせてあげる〟。


 ……そして、今までアンタがしてきたみたいに、利用してあげるから──



 長くて深いキス・心の穴埋めだよ──……


 アンタとの勝負も、──


 〝愉しくて仕方がないね〟。



 ――――…………


 ──ザザーーーーーン……


 ──ザザーーーーーーーーーーン……――



 寄せては返して、何度でも連れ去って──


 引き返せなくなっても、構わない――……



 ──ザザーーーーーン



 きっとこの音が、全てを隠すさ……――――



 ──ザザーーーーーーーーーーン



───────────―――

――――――───

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━━━【〝YOUSUKEヨウスケ〟Point of v視点iew 】━━━


 今日も一日が終わろうとしてる。


 ユキはまだ帰ってこないし、連絡もない。


 聖は、白ワインとラム酒、という究極の選択に悩んでいるらしい。さっきから二本持ったまま、真顔で悩みまくってる。 面倒な奴だな。どっちも飲んじまえ!


 白ワインを置いた……ラム酒を見た……ラム酒を見ている……〝決まりだな!〞……と思ったら、ラム酒を置いた?!


 何だか、何かを決心したような顔をしているぞ?! 何を決心したんだ?! もしかして断酒か?! ……どこからかを取り出したぞ?!


 そんなのありかよ?! 二択じゃなくて、三択だったなんて初耳だぞ?!


 どうやら聖は悩みまくった結果、第一第二候補の白とラムを切り捨てて、第三候補の赤ワインに決定したらしい。赤ワインとドライいちじくだ。その組み合わせ、悪くない!


 ──そんなことで、聖は赤ワインだが、今晩の俺は酒じゃない。今晩の俺はレモングラスのハーブティーだ!


 ……夜にハーブティー? 目が冴えそうだか、まぁ良しとしよう! (どうやら目を冴えさせるモノではないらしい)


 そう、南がくれた! どうやら、レモングラスのハーブティーには、リラックス効果があるらしい。


「夜にお茶? ……目が冴えるぞ」


 うるせー聖! 分かってる! 天然聖に指摘されてしまった……! 夜にハーブで何が悪い! 悪くはない! (〝どうやら目を冴えさせるモノではないらしい〞)

 ──つーことで、夜ハーブティーを一口飲んでみるわけだ。


 ……この味、悪くない。どうやら、これは南のイチ押しらしい。美味い。


 南の奴、やたらと張り切ってたから、しっかりと感想を伝えてあげないとな! 『美味い』って言ったら、南が嬉しそうにするのが、目に浮かぶ!


 アイツ、あんなにニコニコする奴だったんだな? 最近の南は、いつもニコニコしてる気がする。

 恋していると、あんなに変わるものなのか?! 全く純情な奴だ!

 あんなにニコニコされると、悲しむ顔は見たくないものだ……! 相談に乗ったからには、どうにか南の恋愛を成就させてやりたいぜ! さすが俺! 人情深い!


 ……にしても南の奴、女の子だな。誰が好きなんだろうな? とか思いはするが、無理に聞くつもりはない。少し気になるけどな ……


 ─―チラ……


 ──ワインを飲んでる聖を見てみる俺……──もしかして聖とか? ……いや、ねーな! なんだか噛み合わない気がする!

 ユキもないな! ユキには絵梨がいる! 南もそれを知ってるから、ユキはない。


 ─―ガチャ……


 扉を開けて入ってきたのは、純だ。

 南の好きな奴か~誰だろうな? ……


 ─―チラ……


 部屋に入ってきた純を見る俺。

 出た! 純のお決まりアイテム! ──知ってたか? 純は夜になると、眼鏡男子になるんだぜ?

 何でだと思う? ──〝目が悪いからだ!〞当たり前な話だな。夜になって風呂入ったから、コンタクトを外しただけだ!


 眼鏡男子に大変身だ……それが悔しいことに、妙に似合ってるんだ……眼鏡男子が好きな奴には、うってつけなルックスだ……


 ──南、もしかして眼鏡男子が好きなのか……?! 〝純情南は毒舌眼鏡男子の純が好きなのか?!〞


 でも、純が眼鏡かけてるところなんて、南はきっと見たことないな。そうなると、


 ……?! ……ここで俺は、純の様子がいつもと、違うということに気が付いた。 さっきからやたらと目をパチパチしてる。……そして、なぜか立ち尽くしている……! 片手で無意識っぽく髪触ってる……なんかそのまま、地味に首を傾げた……! もしかして、何か考え込んでるのか? ……


「おいおい! そこの眼鏡男子! さっきからパチパチしてどーした?! 考え事か?!」


「考え事だ……意味、分からねぇんだ」


「相当困ってんな?! 何が分からねぇんだ?」


 純に注目する俺。すると聖も純を見た。


「雪哉から連絡があったんだけどよ……意味分からねぇ……『猫が鳥のネックレスを持って海に突っ走ってそしたら宣戦布告した!』って、言ってた。何の話しだよ? 意味分からねぇ……アイツ語彙力ごいりょく養えよ……」


「「…………」」


 ユキ! 何の話しだ?!


「猫と鳥ってなんなんだ……とか……猫と鳥ってどっちが主役だ? ……とか……だいたい、そんなおとぎ話、興味ねーよ……とか……どうでもいい疑問が、頭から離れねぇんだ……」


「「…………」」


 真面目に純が悩んでる……?! ユキ! お願いだから語彙力を養ってくれ……! 純が考えすぎて、ノイローゼになったら大変だ……!


聖「……とにかく、交渉の場は設けられたのか?」


純「それが、


 部屋に少しの沈黙が走る。 交渉が無理なら、どうするか? ……


聖「なら、どうするんだ……? 部下はパーティーに参加させたくない」


純「……」


聖「理由は……?」


陽「〝風邪ひきました!〞」


純「…… 全員か? ……」


陽「……〝集団感染しました!〞」


「「「………………」」」


 再び沈黙?! どうするんだ?!

 聖はウトウトしてる……!

 純はまた『猫と鳥ぃ……』とか呟きだした?! ノイローゼ?!

 ユキはまだ帰ってこない!

 おい?! どうするんだよ?!

 聖は寝た?! 純ノイローゼ?! ユキ帰ってこねー?! ……

 交渉は無理?! 〝俺らッどうするんだぁ~ーー~~~ーー……!!? 〞――……


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