【招待状 ─ 2/2 ─】
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━━━━【〝
「〝決まりだな〟」
満足げにウルフは口角を吊り上げた。
絵梨と連絡が取れない以上、仕方がない。そう、パーティーに出席するしかない……でも、やられた……きっとこの人、悪知恵が働くタイプだ。
「連絡手段を奪って、“行く”と言わせるなんて、随分と手がこんでるじゃない?」
嫌味っぽく言っちゃた。……だって、腹立たしいし。……
「やはり、君は賢いな」
ウルフの瞳が、フッと冷たいものへと変わった気がする。
私はとっさに、ウルフの瞳を見ないようにした。
「僕を挑発しない方がいい。賢いなら、それくらい分かるだろ?」
威圧的。……瞳を見れない。やっぱり、ウルフは危険だ。……
「誰のおかげで、そんな呑気な顔、してられると思っているんだ? ……──」
何これ? 何だか、マズイ空気……私、そんなに癇に触るような事言った? ……
私は控えめにいくらか顔を上げ、ウルフの目を見てみた。
その瞳の冷たさに、冷や汗をかく……──氷のような眼差し……
見ていられずに、また目を反らした。
でも、どうにもこうにも、落ち着けなかった。
今度は逆に、ウルフを視界に入れていない方が、危険な気さえもした。
するとまた、不機嫌な声で囁かれる……──
「手枷、足枷、必要だったか……――?」
──威圧感を纏ったその声色に、その脅しに、私は後退りした。
ヤバい……この人、やっぱし危険だよ。……今度こそ本当に、監禁されるかも……――
もう帰りたいよ。早く帰りたい……きっと絵梨も心配してくれてる……だから、帰らなきゃ……帰らなきゃ……早く、帰らなきゃいけないの、だから、そんな目をしないでよ、ウルフ……――
早く会いたいよ、誓……――
手枷足枷なんて、嫌だ……そんな仕打ち、屈辱的で堪えられないって……――
もう無理。
頭が真っ白になる、寸前。
ウルフとの距離が近くなってきて、壁まで追い詰められる。
恐怖で、あまりたくさんの事を考えられなくなってきた。
──ウルフの身に刻まれた、赤い天使の紋章、服の下から少しだけ覗かせている、それだけを意味もなく、眺めている……
天使って言ったら、白色じゃない? どうして、真っ赤なの……――? ──
―ガタン……
恐怖に支配される頭の片隅で、そんなことを考えていたのだけど、そんな時、部屋に鈍い音が響いた。その音が頭に響き、停止寸前だった思考がもとへと戻る──
「…………え? ……」
恐怖で俯いていた視線を上げると、ウルフが壁に片手をついて、前のめりに額を壁にあてていた。それが、鈍い音の正体。
ウルフは肩で呼吸をして、とても苦しそうだった。
「……ウルフ? ……どうしたの――……? ……」
ウルフは苦しそうに、“ハァハァ”と呼吸をしていて、何も答えなかった。
そのうちに片手を口にあてながら、フラフラと水道の所まで歩いて、苦しそうに、吐いた。
「ちょっと……ウルフ?! ……」
とっさに駆け寄った。
どうしてこうなったのか、分からない。
ウルフはすごく苦しそう。……
背中に片手をあてた。さすってあげようとして。それなのに、ウルフは私のことを睨みつけた──……顔色が悪い。
「……さわるな……――!!」
ウルフ、震えてる。立っているのに精一杯って感じだ。
「さわるな……!」
…………“やっぱり、持ってた”。震えるその手で、銃を私に向けてくる。
これは、持っているだけだ。引き金に指もあてられていない。
私はそっとウルフの手を掴んでから、あと片方の手で、その銃を掴んだ。──銃は簡単に、ウルフの手から離れた。
―ガシャ……――
銃が音を立てて、床へと落ちる。
背中をさすってあげることしか出来ない。誰かに手をかしてもらいたい。私一人じゃどうにも出来ない。
扉は開かない筈だし、どうすればいい?
開かないと知りながらも、扉を見た。すると、扉が少しだけ開いてる……──そうだ。ウルフがこの部屋に来た時に開けたんだ。
「誰か……呼んでくるから」
「…………必要ない」
扉に向かおうとした私の手を、ウルフが掴んで制止させた。
この状況で、どうして、助けを必要としないのかが分からない。自分じゃどうも出来ないのに……
掴まれた手から、振動が伝わってくる。やっぱり震えている。ガタガタのくせに、鋭い瞳を私に向けている。
──その瞳、まるで、深手を負った、本物の狼みたいだよ――…………
「どうして……? 今のアナタには、助けが必要なはず。……」
「いちいち……呼ぶ必要なんて、ない。こんなのは、……いつも……そのうち治る……――」
一瞬、耳を疑った。いつも? いつもって、どういう意味……? いつも、こうってこと……?
そしてウルフはついに、床にしゃがみ込んでしまった。
私もそのまま、ウルフの目の前にしゃがみ込んで、背中をさすった。
「ねぇ気持ち悪いの……? どこか痛いの……?」
荒い吐息が聞こえるだけで、返答はない。いや、“返答、出来ない”。
「ねぇウルフ……? ……」
……駄目だ。頭が混乱する。ねぇどうすればいいの? 放っておいても治ったりなんて、しないよ……
「ウルフ……やっぱり、呼んでくるよ。待ってて……」
──私は立ち上がると、急いで扉へと走った。
扉が開く。扉の外、初めて見た。──白いコンクリートの廊下。壁に一定の感覚で、赤い花が飾られている……──
誰か助けて。私にはどうすることも出来ない。ウルフが、苦しそうなんだよ……
しばらく長い廊下を走った。すると、一人の女の子がいた。
この女の子も、ウルフたちの仲間なの? 少し疑問ではあるが、きっと仲間だろう。
まるで、人形のような女の子だった。話しかけると、その女の子はにっこりと笑った。……──でも、ウルフのことを言ったら、女の子もあたふたと落ち着かない様子になった。
「お友達呼んでくるね」
女の子もあたふたとした結果、他の仲間を呼びに行くようだった。
私は先にウルフの元へ戻った。
現状は何も変わっていない。苦しそうだ。
私は最初てっきり、風邪とかで体調が悪いのかと思っていた。でも、ウルフは“いつも”と言っていた。これは、風邪なんかじゃないってことだ。
私は再び、背中をさすった。
「あなた病気なの……?」
私の問いに、ウルフは小さく首を横に振った。
ウルフは否定するけど、強がっているようにしか、見えなかった。
しばらくすると、足音が聞こえてきて、部屋の扉が開いた。
眼鏡の男の人と、女の人、一番後ろには、不安な表情をしたさっきの女の子がいた。
「……言ったではありませんか……? ……寝ていた方が良いと」
眼鏡の男の人も表情を濁して、ウルフの身を案じている。女の人も、何とも言えないようだ。表情を濁している。
そして眼鏡の男の人が、ウルフの元に歩いてきた。
「ウルフ、立てますか?」
──荒い呼吸。瞳が虚ろだ。
眼鏡の男の人の声が、聞こえているのかも分からない。
男の人は見兼ねて、返答を待たずにウルフに肩を貸した。
「ウルフのことは、俺が寝室へ連れて行きますから、安心して下さい」
眼鏡の男の人は私にそう言ってから、ウルフに肩を貸しながら部屋を出て行った。
ウルフは半分引きずられるようにしながら、肩を借りていた。
「あ~あ。ようやく体調マシになったかと思ったのに。きっと二日くらいは起きてこないね」
腕を組ながら、女の人が言った。
「ドール、ウルフに寝ててって言ったのに……」
女の人の話に答えるように言ったのは、先程の女の子だ。その子は自分のことを“ドール”と言った。女の子は残念がるように眉を下げていた。
──“二日くらいは起きてこない”──
私はその時、“少し待ってて”と言いながら、ウルフが、丸二日戻って来なかったことを思い出した。きっとあれは、体調が悪かったからだったんだ。
女の人は私を見て、怪しげに口角をあげる。
「でも、まぁ……アンタからしたら、ウルフが体調悪くてラッキーだったね?」
「え……」
体調が悪くてラッキーだった……? もしかしたら、そうだったのかもしれないけど、さっきのウルフを見ていたら、“ラッキー”だなんて感じられなかった。
「何その顔? 違うの? 言っとくけどね、ウルフの体調さえ良ければ、アンタなんてとっくに、ウルフに喰われてたところよ?」
「…………」
「アイツ“僕”なんて言って冷静ぶってるけど、あんなの、化けの皮なんだから?──」
女の人は口角をあげて、目つきを鋭くしながら話し続ける。
「本当のウルフは、あんなんじゃないよ。──“僕”って使うのは、つまり、自分を冷静に保たせている時。普段、自分を制御している証拠ね」
確かに、ウルフは自分のことを“僕”と呼ぶ。
簡単に言えば、従業員が客に対して“俺”ではなく、“わたくし”に変えて話しをするみたいな感じだろうか?
「でも本当に制御なのかしら……? ……体調がよくないのも、大人しい理由かしらね? きっとどっちもね──」
女の人は自分を納得させるように話している。
「……ウルフは病気なんですか?」
私が問うと、部屋に沈黙が走った。
「病気? ……知らないわよ。ただ、よく寝込んでるけどね」
「ウルフはきっと、元から体が強くないんじゃないの? ……」
女の人も、ドールと言う女の子も、詳しいことは知らない様子だった。
「分からないの……? だって、ウルフはいつから……――」
「結構前から、あんなんよ。でも、吐いたのは今回が初めてかも……」
「それって、病気なんじゃないの? 病院に行かないと……」
この二人の話し方からすると、おそらく病院にも行っていない。
「別に、本人が言い出さないんだから、病院なんて必要ないわ」
「駄目よ……! 早く病院に連れて行かないと……」
だがすると、女の人は目を泳がせた。口ごもりながら、女の人は話す。
「……──そんなこと言っても、病院なんて行ける筈がないじゃない。そんな所に行ったら、正体がバレちゃうわ。──そもそも私たち、病院になんて行かないのよ。組織のお抱え医師ってのがいるんだから」
「?! なら……──」
「──知らないわよ。そのお抱え医師ってのに診てもらうつもりがないのは、ウルフ自身よ。きっと、組織の連中に“弱ってる”って事を隠したいのよ。だから“お抱えの医師の世話にはなりたくない”。……──うちにも派閥があるからねぇ……──」
女の人は冷たい目をしながらそう話した。
……──私は嫌な悪寒がしたのを感じた。体がゾクゾクとする。
〝派閥がある〟から〝組織のお抱え医師に診てもらうつもりがない〟──組織お抱えの医師にかかったなら、つまり“体調が悪い”ってことを、他の派閥の人たちに知られてしまうからって……──女の人が言ったのはそういう意味だ。
──嫌な悪寒がした。同じ組織同士の人にも“弱っている事を知られたくない”って……──それってどんな組織よ……例えば弱っていたら、ここぞとばかりに狙われるとでも、言いたいの……? ……
「……ならやっぱし、お抱え医師には頼らずに、病院に行くべきよ」
「だから、そんなところ行ける筈ないでしょう! 万一ウルフが警察に尻尾を掴まれたなら、こっちだって迷惑なんだから!」
女の人はそう言い張っている。だがドールという女の子は、不安げな眼差しを女の人へと向けている。
「病院に行かないと、ウルフはどうなっちゃうのぉ?」
「私に分かる筈ないじゃん。知らない。どうせ病院なんて行けないわよ」
だがすると、女の子が泣きべそをかき始めた……──
「ヤダ……キャット~そんなこと言わないで……ウルフはどうなっちゃうの~? ドールは病院に行きたいよぉ……」
キャットと呼ばれた女の人は、困ったように、ドールという女の子を見ていた。
「私だって、ウルフがどうなってもいい訳じゃないんだから……でも、私たちが病院に行くなんて、無理なのよ……!」
キャットの言葉を聞くと、ドールは私の方を向いた。 涙目になっている。
「お姉ちゃん……どうしたらいいの? ……」
そんなことを言われても… …病院には行けないだなんて……無茶苦茶だ。……でも、こんな涙目になられると、“知らない”なんて、言えない。──何か方法はないの……? そうだ……──
「やぶ……?」
──あれ? なんて言うんだっけ? 名前が出てこない。
言い
なんだっけ……? 私が言いたいのはつまり、裏社会の医者みたいなやつ。
「えっと…………やぶ医者? ……」
やぶ医者?? 自分で言っておきながら、何か違う気がする。……
ドールは首を傾げている。 そしてキャットは、ハッと顔を青くした……
「やぶ医者ですってぇ~ー?! アンタ、心配してるフリしてっ……──ウルフをやぶ医者に連れて行くのが狙いだったのね?! なんて女なの?! 意外にやるわね……! でも、そうはいかないわよ!!」
あっ間違った。闇医者の間違いです。
「違う……! 闇医者!」
──普通なら〝闇医者に診てもらおう〟だなんて言わないけれど、闇医者ってようは、表社会のルールに沿わないから、表社会からは闇医者って呼ばれる訳で……──裏社会の人たちからしたなら、闇医者こそが〝受診可能な病院〟って訳なんじゃないの? ……探せば、案外まともな闇医者だっているんじゃ──……
すると、声を荒げていたキャットが、きょとんとした目で私を見た。
「闇医者……」
そしてキャットは少し考えると、納得したように頷いた──
「……闇医者探しね」
「やぶ医者じゃない闇医者を探さないとね!」
「そうね。アクアに、良い闇医者探してもらいましょう?」
『うん♪』と答えて、ドールが嬉しそうに頷いた──
*****
こうして、ウルフの仲間たちによる医者探しが始まった。
“アクア”というさっきの眼鏡の男の人がPCを使って、医者についての情報収集を始めた。先程から熱心にPCの画面を眺めている。
C「まだぁ? ……どれだけ時間かかってんの?」
A「情報収集は肝心です。ウルフのことを、ヤブ医者なんかに診せるわけにはいきませんから」
C「ホント忠実ね」
さっきまでは軟禁状態だったが、今はあの部屋から出て、三人と一緒にいる。
ウルフの近くにいるってことは、この三人も幹部なのかもしれない。
(略称:キャット(C)・アクア(A)・ドール(D)・ウルフ(W)※略称がないと誰の言葉だかの判断が出来ない場合のみ、略称を用いています。)
椅子に座っていると、ドールがチョコチョコと、こちらへやって来た。手にはジュースの入ったコップを持っていた。
「お姉ちゃん。ジュースあげるぅ♪」
どうやらドールは私に持ってきてくれたみたいだ。
「ありがとう」
ドールの持ってきてくれたジュースを、笑顔で受け取った。
「お礼なんていいんだよ。 だってお姉ちゃんは、お客さんだもん」
ドールは、私がお客さんだから、飲み物を出してくれたらしい。 子供なのに、しっかりとしてるところがある。
あれ? その前に、私はお客さんなの? さっきまでは、軟禁されてたんだけど……なんだかよく分からないな……
ドールはニコニコしながら私の隣に座った。そしてなぜかドールは、様子を伺うようにチラチラと私を見てくる。なんでだろう?
私はドールがくれたジュースを何口か飲んで、テーブルに置いた。するとそれを確認してから、ドールは口を開いた。
「ねぇお姉ちゃん! ドールと一緒に来て! ……」
ドールは小声でそう言った。
「どこに行くの?」
ドールは私と手を繋いで、引っ張った。
「いいから、来て……!」
疑問に思いつつ、ドールに引かれて歩き始める。さっきまでいた部屋から、白い廊下へ出た。
──そのまま、ドールは慣れた足取りで進んでいく。そして、ある扉の前で足を止めた。
「お姉ちゃん、ここだよ」
どうやら、目的の場所へとたどり着いたらしい。
ドールは静かにその扉を開いた。
「この部屋がどうしたの? 真っ暗で何も見えない」
私が喋ると、ドールはさっきよりも小声で言った。
「お姉ちゃん……! 静かに!」
「はい……」
何が何だか分からないけど、ドールが必死そうだから、私も小声で返事をした。
するとドールはそっと、フロアランプだけをつけた。
部屋がほんのりと明るくなる。
部屋を一通り見渡してみる。
「この部屋……」
「お姉ちゃん……部屋の物には触れないでね? バレたら、怒られるから……!」
「なら……戻ろうよ。私も絶対、この人には怒られたくない」
──ここは、ウルフの部屋だ。
ウルフは澄ました表情で眠っていた。苦しそうじゃなくて、良かった。
どうしてウルフの部屋に、私を連れて来たんだろう?
ドールは足音を立てないように、そっとそっと、ウルフに近づいて行った。
「早く……こっちに来て!」
そしてなぜか、私を呼ぶ。……あまりウルフに、近づかない方がいい気がするのに……だって、起きたらどうしよう? ……ヒヤヒヤする。……
仕方なく、私もそっとドールの後を追って、ウルフの方へと歩いた。
「お姉ちゃん、ウルフを見て」
ドールは一体、何をしたいのだろう? 訳が分からないまま、言われた通りにウルフを見た。
私、何してんだろう? ヒヤヒヤする。ハラハラドキドキする……何だか悪いことをしている気分だ。
「ねぇお姉ちゃん、ウルフのこと、どう思う?」
どう思う――……? 何を聞くかと思ったら、その質問はどういう意味?
「どうって? ……」
「ドールはね、お姉ちゃんに、ウルフの傍にいてほしいの」
そう話しながらドールは、悲しそうな目をした。
「どうして、いきなりそんなことを言うの……?」
「理由は言えないよ。もしウルフにバレたら、怒られちゃうから……ただドールは、ウルフの傍に誰かがいてくれれば……って、いつも思うの」
「……そんな、駄目よ」
ドールには悪いけど、〝それは出来ない〟。
ドールはまた悲しそうな表情をした。
「ウルフを見て。 本当のウルフは怖い人なんかじゃないよ。このウルフを見て、悪い人に見える……?」
眠っているウルフには、威圧感も威厳もない。冷酷にも見えない。そうまるで、罪のない少年のような寝顔だった……──
ドールは私に、このウルフを見せたかったんだ。
「悪い人に見えない」
私の言葉を聞くと、ドールの表情が明るくなった。
「……でも私は、ドールが思うみたいに、ウルフの傍にはいられない」
「どうして……?」
私の話を聞き、ドールはまた悲しそうな表情になった。
「私には、傍にいたい人がいる。その人はウルフじゃない。全く、違う人」
私は、誓の傍にいたい。私がウルフの傍にいるところなんて、全く予想がつかない。──ドールには悪いけど……〝ウルフとの世界は違いすぎる〟。
それに、純粋そうなドールを見ていると、複雑な気分になるけど、私は、警察と繋がっている。
〝私は平凡な世界の住人なんだ〟。だから、警察とRED ANGEL、どちらを信用しているか、と聞かれれば、当然、“警察”と答える。
それに、警察側には誓がいる。私が警察側を信用する理由に、これ以上の理由はないだろう。
──言わば、私はRED ANGELと〝心を通わすつもりはない〟。
確かに、ウルフが苦しそうだった時、私はウルフを心配した。助けてあげたいと思った。 でも、それはRED ANGELに心を許したわけではない。 〝反射のようなものだった〟。 それは、いきなり目の前の人が苦しそうにし始めたら、“助けなきゃ”と思う。あの時、RED ANGELとかは何にもなくて、一人の人間としてウルフを見た。
──人間って厄介な生き物だ。
私にとって、RED ANGELが敵なら、ウルフの心配なんて、しなければ良かったじゃん。
目の前で、あんなに呼吸を荒げられたら、心配しちゃうよ。“当たり前だよ”。
厄介だよね。敵って言い切って、冷酷に接することが出来たら、簡単なのにね。
──今隣にいるドールに、冷酷に出来る? 無理に決まってる。
この時私は、〝この人たちとは、心の中で一線を引いておかないといけない〟ということに、気が付いた。
だって、彼女や彼らの事を、個人的に毛嫌いする理由はない。“嫌じゃないもん”。……一線を引いておかないと、きっと仲良くなってしまう。──難しいね。
「お姉ちゃん、ごめんね? ドールが無理言ったから、お姉ちゃん、困った顔してる……」
今の私は、困っているように見えるらしい。
ドールは本当に、しっかりとしているところがある。
「ごめんね」
ドールは悲しそうな表情で少し笑ってから、テクテクと扉の外へ歩いて行った。
──どれが真実? 何を信じて進む? ……きっと、見失ってはいけない。
私みたいな中途半端な人間は、気をつけないといけない。そうじゃないと、罪悪感に呑まれる日が、きっと来る。
──大丈夫。私は誓から離れたりしない。どれだけドールが、純粋に笑顔を作っても、私は、少し意地悪に笑う、誓の笑顔の方が好きだ。
ドールも部屋から出て行ってしまったことだし、私も早くこの部屋を出よう。
よく分からないけど、もう、こんなウルフの寝顔を、見ていてはいけない気がした。
──手に持った招待状を開く。 パーティーは一週間後。
そこで、誰と出会う? 見えてくる真実は、あるのだろうか? ──
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