Episode 3 【気持ち】

【気持ち 1/3 ─ 南 ─】

「見て見て! この服、超可愛いでしょ!」


 目をキラキラとさせながら、買ったばかりの服を袋から取り出す。


「私はこれ! ツヤツヤで綺麗でしょ?」


 またまた買ったばかりの靴を袋から取り出す女。


―「新色のグロスー♪」


―「ずっと欲しかった香水♪」


―「美白美容液!」


 嬉しそうにニコニコとご機嫌なのは、BLACK MERMAIDの女子軍だ。


「お前らさーー! 女子高校生じゃねーんだからよ! キャッキャッと騒ぐな!」


「どうして俺らが荷物持ちなんだ~~ー!」


「お前ら本当に族かよ?! 超女の子だな!」


 買い物に付き合わされ、荷物持ちをしているのは、BLACK MERMAIDの男子軍だ。


 ──BLACK MERMAIDの、いつもの賑やかなメンバーたち。


「アタシらは元から女の子だ! 何か可笑しいか!」


 相変わらず強気なのは、明美。

 ギロリと男共に睨みつける女たち。


「いえいえ! 何も可笑しくないッス! 皆さん相変わらず、可愛らしいお嬢さんで!」


 ──〝女には逆らわない方が得策〟。とりあえず、お世辞だ。


「分かればいい!」


「さすが明美さん♪ 男共、明美さんと南さんに頭が上がらないんだから♪ 笑っちゃいます!」


「……そう言えば今日、南さん、どうしたんですか?? ……」


 〝今日は、南がいなかった〟。今更ながらにそれを思い、皆不思議そうな顔をした。

 全員が明美に答えを求めて、明美の方を見た。


「南? ……『今日はいい』って、来なかった」


「へぇー……珍しいですね」


「いつもだったら来るのに~」


 何だかんだ会話をしているうちに、いつもの溜まり場へと着いていた。

 階段をあがり、女部屋の扉を開く。


 ―ガチャ……


 扉を開くと、ソファーに南が座っていた。扉の位置から見えるのは、窓の外へ体を向けて、こちらに背を向けて座っている、南の後ろ姿だった。


「ただいま~♪ 買い物たくさんしてきちゃった♪」


「南も来れば良かったのに~ー!」


 ……──だが、南からの返事はなかった。

 顔を見合わせて、首を傾げるメンバーたち。


「聞こえてない。……」


「南、どうしたわけ? ……」


「寝てるの? ……」


 ―チョコチョコチョコ! ……

 ―チラリ


 チョコチョコっと駆け寄って、チラっと南を覗いてみた。

 やはり、。ただ、何だか可笑しい……──視線を少し下に向けている。何かを考え込んでいるようにも見えた。

 テーブルには、一人分の紅茶がティーカップに注いであった。


「南? ……南ぃ~~?」


「………………。ぁ……おかえり。……」


 どうやら今気が付いたらしい南は、ぎこちなく返事をした。──再び首を傾げるメンバーたち。


「南、どうしたの? ……」


「何が……?」


「明らかに、いつもと違う」


「同じだよ」


「「「…………。」」」


「……今、皆の紅茶淹れるから、座ってて」


 南はゆっくりと立ち上がり、皆の紅茶を淹れ始めた。


「南の奴どうしたんだよ?! アイツ明らかに変だぞ!」


「その前にだ! ……俺らの紅茶も淹れろよな! 荷物持ちしてやったんだ!」


 男共から見ても、今日の南が不思議で仕方なかった。

 …──だがすると、男たちの声を聞いた南が、いきなり男たちの方へと振り返った。


「ぅわっ……何だよ?! いきなり振り返るな! 驚くだろ!」


 ──男たちをじっと見る南。ソワソワし出す男たち。南の行動の意味が分からず、ただ眺める女たち。


「何だ、アンタらか」


「酷くないか?! 悪かったな!!」


「誰なら良かったんだよ!!」


「…………誰ならなんて……そんなの……」


 口ごもる南。


 じぃ~~~~ーーー……

 勝手にドキドキハラハラとしながら、南をガン見するメンバーたち。


「誰が…………良かったんだよ? ……」


 じぃ~~~ーーーー……


「誰が……なんて……そんなこと―――………そんなことっ! 聞くな!!……悪いか!! ……」


 ──やけに、ムキになった。

 メンバーたちがハッとして、思わず口に手をあてた。


「みっ南! ……アンタ……」


「会いたかった人がいるの……?」


「マジかよ? ……」


「お前が会いたい奴! 明らかに男だろ!」


 ──すると、ハッとして南が口に手をあてる。


「ハッ……お前どれだけ女の子だよ!」


「はい? ……元から女の子ですけど……?」


 ─ギロリ……!!


「…………。今日は一段と可愛らしいね~……南チャン! ……」


 本日、二度目のお世辞である。


「にしても、お前ずいぶん考え込んでたな! いつもは態度デカイくせに、恋には奥手なのか?!」


「本当だよなー! 南だぞ! 南! 南が恋しちゃったぞ!」


「強暴な女に好かれたのはドコのドイツだ? 笑っちまうな!」


 女心が分からない男共は悪気なしに爆笑している。

 鬼の形相に変わっていく南。怒りのBLACKオーラが漂う──。


 ―ビクっ……!


「ぅおわ……ヤバい。南から黒いオーラが……!?」


「おっっそろしぃ~~ー……あれが本当に、恋する女の顔か?! ……」


「…………もういい!」


 南は不機嫌な表情のまま顔を背けた。


「ホラ! アンタたちのせいよ! 南に謝りな!」


「南ぃ……気にすんじゃないよ? かわいそうに……」


「……分かったよ! 南! 悪かったから、機嫌直せって!」


 表情は柔らかくなったが、南は男たちと目を合わせようとしない。…──真面目に焦りだす男たち。


「悪かった! ごめんな? 話し聞いてやるから! 機嫌直せよ」


「アンタたちなんかに、聞いてもらいたくない……」


 南の座っている向かい側のソファーに座る男たち。女たちは南の隣に座ったり、立っていたりする。


「そう言うなって! 男の意見なんて、重要だろ?」


「そうよ南! いっそコイツらに聞いてみなよ?」


 すると南は、ようやくコクんと頷いた。


「で! 一体ドコのドイツに惚れたんだ!」


「…………。」


「そんなことは聞かなくていいのよ! ただ南の話しを聞いて、意見を言ってあげて!」


「……だって知りてぇ……! ……じゃなくて! 相手が分かった方が、具体的なアドバイスが出来るだろ!」


「好奇心で知りたいのがバレバレよ!」


「……はい! すみませんでした! 真面目にご相談に乗ります!」


「よろしい!」


 ずる賢い好奇心は捨てて、真剣モードだ。

 と、そこに…………


 ―コンコン! ガシャ!!


「おっじゃましまーーーす!!! 百ぅ合乃ーーーー~!!!」


 いきなり扉が開き、一同ビックリである。


「ちょっと驚いたじゃない! いきなりすごいテンションで入ってこないでよ!」


「いきなりじゃない! ノックした!!」


「ノックしても返事する前に扉を開けないで!!」


「いちいち細かい女だなぁーー! ──百合乃いるか?」


「百合乃さん、ここにはいないっスよ。、百合乃さんに用ですか?」


 いきなり部屋へと飛び込んで来たのは、陽介だ。


「だってよ! 純と聖は話し相手になってくれねーし! いつも辛うじで話を聞いてくれるユッキーは寝てるしよ! “もう百合乃しかいねー”と思った!!!」


「……


「百合乃まで俺を放置する気かよ! 皆少しは俺をいたわれよ! お前らはお前らで集まっちまって、随分楽しそうだな!!」


 ──目で訴える陽介。〝俺も仲間に入れてくれ!!〞

 無言の訴えをヒシヒシと感じているメンバー。


「……南、アイツいても平気? 嫌なら追い返すけど?」


「何だ何だ?! どうして南に確認取るんだ?! どうしたんだよ!! 元気ねーな! もしかして! お悩み相談か?!!」


「……相変わらずうるさい奴……」


 話しに加わる気満々の陽介だった。


「お悩み相談なら俺に任せろ! 俺ほどの男になれば、人助けなんて呼吸のように容易いぜ!」


 勝手に堂々と部屋に入りこむ陽介は、ただの暇人である。


「どいたどいた! 〝ここ、俺の席!〞」


「すみません。……どうぞ」


 ソファーに座っていた男共を立たせると、陽介は南の真ん前の席をゲットした。


「実は南の奴、あれッスよ! アレ!」


「アレッてなんだよ?!」


「あれっスよ! 女の子みたいな悩みです!」


「何だよ!」


「惚れてる男がいるらしいんですよ! 陽介さん! 男目線からいいアドバイスしてやって下さいよ!」


 唖然と南を見る陽介。


「なっ何だよ! 見るな!! お前までそんな顔しやがって!! アタシに好きな奴がいるのが、そんなに可笑しいか!!」


 陽介の反応を見て、南は気を荒げた。


「いや、可笑しくねー! 普通だろ! そうだったのかよ! 早くそれを言えよな?」


 嫌味のない笑顔で笑う陽介に、南も落ち着いた表情になった。


「……誰だか、聞かないのか? 教える気ないけど」


「聞かねーよ! 相談のるのに名前なんて、それ程重要じゃないだろ!!」


「……まぁな」


「その前にさー……南! お前ヤバイな!」


「何がヤバイんだ?!」


「ヤバイだろ! 相談してるだけなのにソワソワしすぎだ! お前、超女の子だな!」


「ソワソワなんてしてない!」


 確かに南は、ソワソワと落ち着かない様子だった。

 目をパチパチしながら、南を観察するメンバーたち。


「何だか顔赤いぞ! 相談ごときでそんな赤面してたら…──本人を目の前にした時、どうやって恥ずかしがるんだよ?! お前ブッ倒れるぞ?!」


「せ……赤面なんて! してない!!」


 確かに、南はかなり赤面していた。

 そしてメンバーたちは、その様子を見て、ギョッとした。


「いや赤面しすぎだろ……。 相談相手と目も合わせられない程、恥ずかしいか?!」


 確かに南は、陽介の目を見ていなかった。

 メンバーたちは、ギョッとしたまま、思わず口に手をあてた。……そしてメンバーたちは、南が好きな人物が誰なのかに気がついた。


「お前って顔に出やすいタイプだろ? その男は気が付かないのか? 〝どこの馬鹿だ〞って感じだな!」


 思わず、笑い出しそうになるメンバーたち。

 そして陽介は相談に乗っているつもりで、一人で話しを進めてく──


「本当に大丈夫か? 南って実は純情なタイプだろ? 騙されないように気を付けろ」


「騙される?」


「そうだ! 悪い男はたくさんいるからな! 絶対に、遊びの女にだけはなるなよ?」


「……うん」


「言っとくけどな! 色仕掛けだけは止めとけ! そんなことしたら遊び決定だからな!」


「そんなことしない」


「本命と遊びは全くの別物だぞ? ……──例え、ソイツに構ってもらいたくても、軽いことは絶対するな! 遊びじゃなくて本命を狙えよな!」


「……分かってる」


 この異様な光景を、ハラハラしながら眺めるメンバーたち……


―「待て待て……?! 南の奴?……誰に惚れたのかと思ったら……!?」


─「まさかの……s――」


―「アンタら声が大きい!」


 そしてメンバーたちは、意を決して、陽介へと問う。


「例えばですよ! 例えば! 陽介さんは、どんな子がいいですか?!」


「……俺か? ……やっぱりさ、ユッキーに聞いた方がいい意見あるかもしれない! ユッキーのこと連れてくるか!」


「いいですよ! 呼ばなくて平気です!!」


「そうだ! お前の意見でいい! 余計なのは連れてくるな!!」


 皆の物言いに、複雑な表情になる陽介。


「全員で全面否定か?! うわ~……ユッキー可哀相!」


「いえいえ!?……別に、“雪哉さんが嫌い”、とかじゃないですからね?!」


「で! 陽介さんはどんな子が好きなんですか!」


 ドキドキとしているメンバーたち。

 不安そうに陽介を見る南 ……──


「俺はぁ…………どっちかというと可愛い系のが好きだ!」


「ねぇねぇ! 南って可愛い系だと思わない?」


 明美が自然な流れで、話しを持ち掛ける。

 南をじっっと、見始めた陽介。

 南はわざと横を向いて、目が合わないようにした。


「う~ーーん……南は……何系だろうな? ……」


 じっくりと悩み始めた陽介……―─だが何やら、横から重苦しい威圧感を感じる。……威圧感の方向に目を向けると……──


「……!? ……俺、何かしたか?! ……」


 ──明美が、無言の威圧感を放っていた! その目が言っている。〝可愛い系と答えろ!!!〞と……


「何だよ何だよ?! 何だその目っ! 俺に何しろって……!?」


 明美は依然、目で訴える。〝可愛い系だと言え!〞

 ──アイコンタクトを読み取るのに必死な陽介。


「…………綺麗系? ……」


 すると、威圧感が増す。……〝可愛いと言え!!〞


「えっ? ……違う? ……小悪魔系? 妹系? ……お嬢様系? お姉様! ……!!」


 南がピクリと、少しだけ反応した。


「南は、可愛い系? ……」


 小さくガッツポーズを作る明美だった。『……無理矢理だな?! 本当に大丈夫なのかよ!?』と、男たちが小さくツッコミを入れている。

 そして南は……──


「どこら辺が……可愛い系だ?」


 自分から陽介へと聞き返した。

 ……威圧感で言わせただけなので、若干焦る明美とその他メンバーたち……


「チビなところ」


 だが明美たちの不安とは裏腹に、陽介はすんなりと“可愛い系だと思う理由”を答えた。


「……チビ?」


「お前チビだ。南、立て」


 南を立たせて、頭の上に片手を置いた。


「ホラな? お前こんだけしか背がない。チビだ」


「……もっと身長欲しかった」


 スッとした背の高いスタイルの女性を想像しながら、南はシュンとする……──


「身長? 南はこれでいい」


「本当か?」


「これでいい!」


 陽介が言い切ると、南は嬉しそうに笑った。


「チビで華奢だから、きっとソイツも可愛いと思ってくれる! 自信持てよ!」


 けれど陽介が快く応援してくれるから、ちょっぴり寂しい気もしていた。

 快く応援してくれるのは、“自分には気がない”という証明と同じだから。


 メンバーたちも、少しモヤモヤとした気持ちで二人を眺めた。


―「陽介さん優しいから……」


―「友達止まりにならなければいいけど……」


―「優しいのも残酷?」


―「何言ってんのよ! これから、いくらでも変わっていく」


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