Episode 2 【手の平の中】
Episode 2 【手の平の中】
──耳を疑った。
とっさに走り出す。階段を駆け上がり、息を切らせて、扉を開く──
──〝頭、壊れそうなくらい、怒りが込み上げた〟──
「テメーどういうつもりだ!!」
怒りをぶつける対象人物の、胸倉を掴んだ。
今は──……立場とかはどうでもいい。……
「何とか言え!! どうしてだ!! どうして!……──瑠璃を巻き込んだんだよ!!」
誓が松村に言った。
松村は眉間にシワを寄せただけで、いたって冷静だった。
「俺が気に食わねーからって、嫌がらせのつもりか!?」
「そんな
「なら、どうしてだ!!」
松村が胸倉を掴む誓の手を、叩き落とした。
「手段は選ばない。なにも、無理矢理じゃない」
「そんなわけねーだろ!!」
「あの子の立場は、“お前の恋人”という立場だけではない。あの子の妹が巻き込まれている。協力するのは、妹を助けたいという、あの子自身の意志だ」
「妹だと……?! ──」
誓の中に、一度だけ顔を合わせたことがある絵梨の姿が浮かんだ。
「あの子の妹は、BLACK MERMAIDの総長、幹部たちと親しい」
「総長と幹部だと?! ……」
「そうだ。知らない筈はないだろう? 幹部っていうのは、お前の弟のことだ」
松村は冷静な表情で椅子に腰掛けた。
「そう怒らなくともいいだろう。警察と繋がった分は、あの子の安全確保とでも思え。 ──RED ANGELを手中に収めてやる。騙し合いは、もう始まっているんだ」
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──〝騙し合い〟──
敵の手中に収まるのは、一体どっちだ? ―――
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「奴らの手玉に取られるつもりはない」
松村は勝ち誇ったような笑みで、笑った──
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コーヒーの空き缶が、宙を舞う。
―カラン……
空き缶のごみ箱から外れて、地面に缶が落ちた。
「投げるな! コノ不良警官が!」
「うるせー! 悪かったな!」
地面に落ちた空き缶を拾い、ごみ箱へと入れる誓。
「悪態つくわりに素直だな!」
響が目をパチパチとさせながら、誓を見た。
──午後の公園。
気分とは反対に、眩しすぎるくらいの快晴。
「うわ~~……何だよ、誓? ……真面目に
「凹んでねーよ。ただ頭が可笑しくなりそうだ」
「大差ない。──らしくねー。何凹んでんだよ?」
「当たり前だろ!」
「やっぱり凹んでんのか?!」
「……うるせ」
「うわっ……誓が凹んでやがる。こんな誓、なかなか見れないぞ。……──聖に見せてやりてーな!」
“聖の名”を聞くと、明らかに不機嫌になる誓。
「何で聖なんだよ!」
ムキになる誓を見て、可笑しそうに笑う響。
「笑うな!」
「悪ぃ、面白くて」
「瑠璃が心配なんだよ! 当然だろう!」
響は可笑しそうに笑うのを止めて、変わりに口元だけでニッと笑ってみせる。
「心配なのは分かる。けど、その目は心配より嫉妬が勝ってる。──RED ANGELの幹部に、本気で瑠璃を取られそうで怖いのか?」
身も心も、離れてしまうだろうか?
身も心も、奪われてしまうだろうか?
「怖いとかじゃねーよ」
響が溜息をついた。
「相変わらず素直じゃない。不思議だよな……」
「何がだ?」
「──はっきり言って、聖の方が協調性と柔軟性がある」
「……──何が言いたい?」
「そのままだ。誓も協調性と柔軟性を養えよ? それで冷静になれ! 瑠璃が心配なら、いちいち凹んでる暇なんてねーよ!」
━━━━【〝
響の言ってること、間違ってない。
瑠璃が大切だ。心配なんだ。
瑠璃がRED ANGELの奴らと一緒にいると思うと、頭が痛くなる……
──どうしてだよ? 危険すぎる。有り得ねーよ。
瑠璃、お前は馬鹿だ。危ないことなんてするなよ。あんな奴らと一緒にいたら、何されるか分からねーだろ。
どうして辛い道なんて選んだ……──妹のためかよ? 自己犠牲なんて、俺が許さないぞ。
俺の立場って一体何なんだ。妹の為だからって、一人で突っ走りやがって……妹のためなら、俺に相談もしないのかよ? 〝お前は本当、いい姉貴だな〟。哀しいくらいに。……──馬鹿、瑠璃。
「凹んでる暇あるのかって聞いてるんだ!」
〝ない〟。もう分かったから。
「ヘタレ兄貴! 弟に笑われるぞ!」
………。この銀髪のインチキ警官、さっきから一言二言多い。 そろそろ黙ってろ。
コイツ、何かと聖を引っ張り出してきやがる。嫌がらせか?
確かに、なぜか聖には負けたくねー。俺がヘタレだと? 聖の間違えじゃねーの?
──俺がヘタレで聖に笑われるんじゃない。〝聖がヘタレで俺が笑う〟。
……今気が付いた。何だこの対抗心? 俺は聖に負けたくねー。
俺にとって、聖の存在は不思議なんだ。
〝罪悪感が残ってる〟。俺が連れ戻さないとって思ってる。
──聖、さっさと戻ってこいよ。苛つくけどな……なぜだか、お前には負けたくねーよ。意味の分からねー対抗心だ。
──よく分からないけど、つまり、俺はお前のことも大切だ。
「ヘタレ狼! 飼い犬に成り下がったか! 悔しかったらワン! って鳴いてみろ!!」
………。最早、何の話なのかも分からない。
コノ銀髪、面倒なキャラだ。うるさいから、そろそろ無視はやめておく。
「誰がヘタレだ? 分かってる。──松村が勝手に瑠璃を巻き込んだなら、こっちだって勝手に動けばいい」
俺の言葉を聞いて、響はようやく満足げな表情に変わった。
──瑠璃、勝手なことしやがって……早く俺の所に帰って来い。
うさぎみたいなくせに…… 俺がいなくて、寂しくねーのかよ?
……俺にはもう、お前が必要だ。
例えば、お前の手の平の中でなら、転がされてみても構わない……
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