第21話

そんな約束してない!


言い返そうとしたら、口を開けさせまいとするためか。香月雅の人差し指が、私の口を押さえた。


さらに顔を近づけ、二人にしか聞こえない声で話す。



「あぁ、そうか。キスに夢中だったから、聞き逃しちゃったんだ?」


「っ!」


「じゃあ今日の帰りは一緒に帰ろうね。約束だよ、仁奈」



私の口から離した手を、自分の唇にちょんと当てる。その仕草に、周りの女子が「ほぅ」と。生ぬるいため息をついた。



「おーす雅。なにやってんの」


「可愛い子に挨拶してただけ」


「また?朝からよく疲れねーな」


「むしろ逆。俺が癒されてんの」



その後、疾風のごとく香月雅は下駄箱を去った。公開告白を受け、固まった私のことは置いてけぼりにして。



「小里さん!あの香月くんに告白されたの!?」

「雅くんは告白しないって噂で有名なのに!」

「どうやって仲良くなったの!?」


「仲良くなんてなってない!ただ、キ――」



キスをしただけ!なんて。


危うく口にしそうになった言葉を、慌てて呑み込んだ。

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