第5話

 私は父様や母様に全く、顔が似ていない。

 むしろ、宗明の伯父上の若かりし頃にそっくりらしい。

 自分で言うのも、何だけれど、周囲からは竹取物語のかぐや姫もいかにと噂されるほどの美人だと見なされている。

 鏡を見ても、大したことはないと思うのだけれど。

「…菊子殿から、そのような丁寧な挨拶をしていただけるとは。今日は運が良いようだ。いとこという間柄に、感謝しないといけませんね」

 私は歯が浮くようなことを言われて、あらと声をあげた。

 それを仏頂面で見届ける規久殿の視線は、冷ややかだ。

「父君と同じようなことを言うのですね。俺の父上だったら、そんな甘ったるいことは口になさらないですが」

 それを聞いた頼忠殿は、むっと眉をしかめて、黙り込んでしまった。

「あの、お二人とも。喧嘩はなさらないでくださいね。私もなるべくであれば、仲よくしていただきたいのです」

 咳払いしながら、注意をした。

 すると、頼忠殿は苦笑しながら、これは申し訳ないと謝ってきた。

 私は仲がよいのやら、悪いのやら、わからない二人だと思った。

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