Episode 16 【RED ANGEL 2/3 ― 赤狼 ―】
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―――――――
今日はいつものメンバーと、喫茶店で楽しい時間を過ごし、そして、誓といろいろな話をした。今日も一日が終わろうとしている。
そんな日の、帰り道のこと……――
「こんばんは。君に用があるんだ。少しだけ、時間をもらえないかな? ……――」
「……アナタは、誰ですか?」
帰る途中、突然見知らぬ男に話しかけられた。
少しだけ長めのサラサラとした髪に、細身で長身の男だった。
男は穏やかに口角をあげながら、私に話しかけてきた。
この男は私に用があるらしいけれど、この男と私は初対面だ。
一体私に何の話しがあると言うのか、検討もつかない。
「……――誰だと思う? 君と会うのは初めてだね。けれど君は少なくとも、僕と無関係ではない」
“無関係ではない”、随分と回りくどい言い方をしながら、一応説明のつもりだろうか。……――結局誰なのかは、分からない。
私の困った表情に気が付いたのか、男は口角を上げながら言った。
「ごめんね。さっきのじゃ、“答えになってない”って顔だね?」
そう。分かっているじゃない。答えになってないよ。 ……――この男は誰?
何か、嫌な胸騒ぎがする。……
私はその男を警戒するように、見据えていた。
…………――その時不意に、視界の中に鮮やかな色が映った。
それはヒラリヒラリと、宙を舞う。鮮やかな、赤色。
その赤色が、私の足元へと舞い落ちた。
足元に目を向けて、その赤色の正体を知る。
「赤い、花びら……」
それはどこからか舞い落ちた、赤い花びらだった。
……――一瞬気を取られ、私は“その赤”に、釘付けになった。
そうしていると、男が口を開く。
「“赤”が表すものは、情熱や愛情。そして多くの人が連想するものは、“身体の原動力となる血液”……――」
「何の、話しですか?」
「……――君は赤が好きかい?」
―――“赤が好きか”―――
素朴な質問。目の前にいる、この男の目的は……――
その質問に貴方は、一体どんな返答を期待する?
「嫌いでは、ないです」
私の返答を聞くと、男の瞳が少しだけ笑ったように見えた。
……――風が吹いて、足元の花びらが再び宙を舞う……
無意識に私の目が、その花びらを追う。
目線を花びらから正面へと戻す。するといつの間にか、先程よりも男との距離が近くなっていた。
「赤が嫌いな奴なんて、いると思う? ──…」
男はソッと手を伸ばす。その手が、私の頬を撫でた……――
私は反射的に、身体を強張らせる。
「僕はいないと思っている。 赤色は動物からは、決して切り離せない色。……――今君の身体に熱が通っているのも、その色のおかげだ」
この男の赤色への執着は、一体どこから来ている? ……――
「僕らは全員、血の通う身体を愛しく思う」
するとまた、男が動く。
……――ソッと近付く、その唇。
一瞬に感じて、意外に長い時間……――
強張った身体のまま、近づいた唇を唖然と見つめた。
そう、意外と長く感じる、口づけまでの距離……―――
「……ちょっ……いきなり何?! ……」
麻痺したような感覚だった脳が硬直を解いて、強張った身体に自由が戻った。
私は咄嗟に、男の体を両手で突き離して、その口づけを防いだ。
――安心したのも、束の間だった。
あるものを見て、私の感覚はまた麻痺したように固まる。
男の両肩を、両手で押して突き離した。その時に男の着るシャツが乱れて、そこから“それ”を、垣間見た。ちょうど、鎖骨の下の辺りだった。そこには、赤色をしたタトゥー。
……――羽の生えた、女の人。……天使?……――
赤い天使のタトゥー? ──────……
男の体に刻まれていたのは、赤い色をした、天使のタトゥー。
それを見て、自然と私の頭が連想する。
―――“赤い天使”―――
……――体がゾクゾクとするのを感じた。自分が、とても嫌な汗をかいている事に気が付く。
咄嗟に男から離れて、距離を取った。
「アナタ……そのタトゥーは……」
男は私の目の前で、クスリと笑う。
「これの事かい? ……――これは“赤い天使”のタトゥー」
「アナタは何者?」
すると男は、自分のタトゥーを指差していったのだ。
「何者かって? ……――このタトゥーのままだよ。このタトゥー、何だと思う?」
「……赤い天使」
「分かってるじゃないか。 その言葉が答えだ」
―――“その言葉が答え” ―――
―――“赤い天使”―――
頭の中で響く言葉……――
―――“RED ANGEL”―――
――“何も知らなかった”。ただ間接的に知っていた、“RED ANGEL”の存在。それは知らないながらも、確かに私が恐れている存在には違いない。
彼ら赤い天使の、何を知っているかって? それは“危険”だという事だけ。
――私に何の用なの? ……
緊張が解けないまま、思わず後ずさる。
この男と、もっと距離を取りたい。
「脅えなくてもいいよ。……――危害を加えるつもりなんてない。今日はただの交渉だ」
男が歩を進めて、距離が近づく。
私は片手を前に伸ばし、開いた手の平を見せ、男の動きを制止する。
「待って。近づく事は許さない。手の届く位置には近づけない」
“危害を加えない”なんて、信じきってはいけない。
手の届く位置に、コイツを入れてはいけない。
「何の話しだかは知らないけど、この距離を保ったままでしか、話しは聞かない」
「へぇー。条件を出すなんて、君は随分と賢いみたいだね。……――良いだろう。ただし、そのかわりに君には話しを聞いてもらう。そして質問に答えてもらう」
……一体、何なの? この男は、どうして私の元に来た? ……いや、“どうして私の事を、知っているの”?
質問ってなに? 私に分かる事なの? 答えていい事なの? ……――何を質問されても、おそらく迂闊な返答はしない方がいい。
「まず最初の質問だ。君にとって妹はどんな存在?」
何を聞かれるのかと思い、警戒をしていたけれど、出された質問は素朴なものだった。
……――そう、何の当たり障りもない。素朴な質問。
「大切に決まっているじゃない。妹なんだから」
何だ……質問って、こんな簡単なもの。
どうして、そんなに当たり前の事を、わざわざ質問してくるのかは分からないけれど、私は確かに、いくらか安心したのだ。……――
男は冷静に、澄ました表情を浮かべている。
「次はBLACK MERMAIDについての質問だ」
BLACK MERMAIDについての質問に、私が答えられる筈がない。私はBLACK MERMAIDの事を、ほとんど何も知らない。
「私は何も知らない。質問になんて答えられない」
「そんなに難しい質問をするつもりなんてない。分からなければ、君は素直に”NO”と言えばいい」
質問と言っておきながら、どうやらこの男には、質問の答えを問いただす気はないらしい。――答えないのなら、質問をしても意味がないのに。
ならどうして、わざわざ質問をする? 私にはそれが分からない。 けれど、“NO”と答えて良いのなら、私にとっては好都合。
「BLACK MERMAIDの総長、
総長の“クニオカ ユリノ”?
そう言えば、BLACK MERMAIDの総長は女の人だって、前に誓と響が言っていた。 名前すら知らなかった。
――答えは“NO”。
「知らない」
「これからも何問か、その人物を知っているか、知らないかの質問をする」
男の言葉に私は、意図が分からないまま頷いた。
「
タカハシ ジュン。またしても、全く覚えのない名前だ。 その人も、BLACK MERMAIDのメンバーの名前なのかな?
「知らない」
するとまた、男が続けて言う。
「
ホシ ヨウスケ。その人も知らない。……――けれどなぜか、聞き覚えがある気がした。もしかして、知り合いに同じ名前の人とかいた?
………いや、待って。知り合いではないけれど、この間バーで話しをした人の名前が、“ヨウスケ”だった筈。
あの人は結局、私にBLACK MERMAIDの事を、何も話さなかった。――……それともあの人は、本当に何も知らなかったの?
……いや、どっちにしろこんな事、考えても仕方がない。だって、偶然“名前が同じ”ってだけの話だろうし。
「知らない」
「
シラタニ ユキヤ……
―――“ユキヤ”―――
まれに、絵梨が口にする名前だ。
今、この男が質問しているのは、BLACK MERMAIDの事。BLACK MERMAIDで“ユキヤ”と言うなら、十中八九、絵梨の言っている人と同一人物だろう。――おそらく、絵梨の大切な人。
なんて答えるか? ――きっと、余計な事は言わない方が得策。そう、“NO”と言えばいい。
嘘ではない。実際、私とは面識のない相手なんだから。
「知らない」
「
イナバ ヒジリ。
―――“聖”―――
コイツの言っているのは、正真正銘、誓の弟の聖の事だ。
今まで“知らない”と答えてきたけれど、面識はないだけで、聖は誓の弟だ。“知ってる”。だって聖は、誓の弟だから。
……――そして私は、知っている人物を問われて、初めて気が付いた。
そう、私は“知っている人物”を問われても、“知らない”と答えたい。
だってこの男は、私や絵梨の恐れる“RED ANGEL”のメンバーだから。この男は危険だから。
……迂闊な事は言いたくない。自分の情報や、知り合いの情報などを提供したくない。コイツに知られるのが、怖い。
「知らない」
嘘って難しい。……けど、コイツに知られたくない。
嘘だと気が付かれないように、出来るだけ冷静に、落ち着いた声で返した。
……――そして、自分が慎重になってみて、気が付いた事がある。そう、コイツは……――私に質問をしながら“見ている”。私の目の動きや口、仕草、口調を。
私はここまで質問をされて、ようやく気が付いた。この男は元から、私の答えなどに期待していなかった。私がどう答えようと、嘘をつこうと、コイツからしたら、答えの意味は関係ない。
コイツは私の反応を見て、探っているのだから。だからコイツは初めから、“知らないならいい“って、そう言ったんだ。
“私が正直に話す訳がない”と、コイツには分かっていたから。
「BLACK MERMAIDの質問は、これで終わりだ」
“その人物を知っているか、知らないか”、この質問で判断出来る事は、対人関係。
コイツは私が誰と面識があり、誰とより関わりがあるのかを探っているのだろう。
けれどはっきり言って、BLACK MERMAIDのメンバーと私は関わりなどない。
コイツは私の反応を、一体どう探っただろうか?
これでBLACK MERMAIDについての質問は終わり。……――なら次は、何を聞かれる?
――男の口が開いて、私に問い掛ける。
「この人の事は知っているかい? ……──稲葉 誓」
―――“悟られたくない”―――
「知らない」
悟られたくない気持ちが強くて、すぐに口をついて言葉が出た。返答までの間がない。……不自然なくらいに。まさに即答をしてしまった。
悟られたくない人の事を問われた時ほど、知っている人の事を問われた時ほど、焦り、即答をする。
そして自然と、私は男の目を見られなくなった。
私は今、動揺している。“知らない”と答えれば、何も情報を与えた事にならないと思っていた。けれど、この男の方が
一体私はこの男に、どんな情報を提供してしまったのだろうか。
「分かるかい? 君の存在はBLACK MERMAIDと警察を繋ぐ。君の存在は重要だ。だからこそ、君に交渉を求めに来た」
BLACK MERMAIDには絵梨。警察には誓。この二人は私にとって、重要な人。大切な人。
私だって気が付いていた。 譲れない二人が、全く別の世界にいるという事を。
絵梨の事を、誓に話せてない。誓が警察って事を、絵梨に話せてない。
改めて気付かされてしまった。自分の危うい立ち位置に。
そして今“そこ”に、私は付け込まれようとしているのだろう。
―――“真逆の世界にいる、譲れない二人。そして、その二人の間に立つ自分”―――
――思ってもいなかった。私の立ち位置が、この男を引き寄せてしまう原因になったなんて。
「君はどちらにも転べる立ち位置にいる。繋ぐことも裏切りも、自由自在。君は要注意人物。……――けれど君を取り込めば、それが逆転する」
コイツは何を企んでいるの?
……どちらかを裏切るとか、そんな世界じゃない。私が見ている世界は、“そんなもの”じゃないの………
「BLACK MERMAIDの事を、信用し切ってなんてない。 疑ってかかるのが得策。……――もちろん警察は邪魔。だから君を取り込みたい。 これが交渉だ」
「アナタと仲間になんて、ならないに決まってる。そんな交渉、上手くいくと思うの……?」
「上手くいかないなら、上手くいくように正せばいい。僕には今すぐ交渉を止めて、君を脅す事が出来る。 君が逃げても、捕まえる自信がある」
「最初に条件を出した筈……手の届く位置に近づけさせない。紳士的にいけば、アナタは私を捕まえられない」
「なら、君の条件は甘かった。 手の届く位置にいなくとも……――君は射程内にいる」
“射程内”…────
すると男は、薄手の上着の下から、ほんの少しだけ、銃を覗かせて見せた。
そう、それは手が届かなくとも、私を捕まえる事の出来る手段だ。
身体が硬直するように、動かなくなる。
今のコイツには、簡単に私を射抜く事が出来る。
例え脅しだとしても、頷かせるのには十分な権力。
――やっぱり、コイツは危険だ。
男が上着から覗かせていた銃を取り出す。
次に銃口が、こちらを向いた。
「“射程内”。……――抵抗の手段を持たない君はどうする? 媚びるか・服従か・それとも今この場で、何も分からないようにしてあげようか?」
――雲の切れ間から、顔を覗かせた月。
男の眼光に、月の光が重なる。
不気味なくらいに青白い、今宵の月を…………───
銃口から目を反らせない。
“終わり”さえ、覚悟しかけたけれど……――
「……――なんてね」
男は銃を上着の下に隠して、おどけたように笑みを見せた。
「そんなに固まらなくてもいいのにな。”危害を加える気はない“って言っただろ? ……――それに、今日は予告みたいなものだ」
緊張が切れた私は、足の力が抜けて、その場にへたり込んだ。
地面に膝を付けながら、嫌味たらしく男を睨み付けてやった。
……――怒りの
「じゃあ、真剣に考えておいてほしい。近いうちにまた、会いに行く」
……――そして男の足音は、地面にへたり込んだ私を残して、遠ざかっていった。
時間を与えられた筈なのに、まるで、心臓を鷲掴みされているような気分だった。
…………―――すると、遠く離れていく男の足音とは逆に、今度は此方へと近づいて来る足音が、徐々に聞こえ始める。……今度は誰……?
警戒が解けないまま、近づいて来るその足音を、ただ聞いていた……
すると少しして、私の目の前で、その足音が止まった。
地面にへたり込んだまま、私はその人を見上げる。
「立てるか?」
目の前で止まったその人は、私に手を差しのべた。
私は恐る恐るその手を握ると、ゆっくりと立ち上がる。
見たところ、その人はだいたい四、五十代くらいの男の人だった。
「……ありがとう、ございます」
「話は聞かせてもらった」
――話? ……――話しと言うのは、さっきのRED ANGELの男の交渉の事だろうか。この人はずっと、あの話しを聞いていたって事? “偶然聞こえた”、という訳でもなさそうだ……だとしたら、この男の人は何者? ……
「安心しろ。……――少なくとも、さっきの男よりは、俺の方がタチは良い」
「あなたは何者ですか?」
すると男の人は慣れた手つきで、ある物を取り出した。私はそれを、食い入るように見る。……――
「警察……?」
見せられた物は、警察手帳だった。
男の人が身分証明の手帳をしまうと、私に言う。
「場所を移してから、君に大切な話しをしたい」
RED ANGELの次は警察? そしてまた“話”。今日はもう、頭がパンク寸前だ……
――――――――
――――
「大切な話、ですか…?」
“大切な話”、そう言われて場所を移した。
連れて来られた場所は、ひんやりとしたコンクリート造りの建物の中だ。清潔な部屋だけど、全く生活感のない部屋だった。よくテレビで見る、警察の取調室みたいな雰囲気の部屋。そのせいで此方はまるで、逮捕されたような気分だ。 ……
「先に自己紹介をしておく。俺はRED ANGE捜査部隊の最高指揮官を務める“
「私は瑠璃……です。ショップ店員をしています。 夢は、特にない……」
松村さんの、RED ANGEL逮捕にかける思いに圧倒される。圧倒されるあまりに、ぎこちない自己紹介になってしまった。
自己紹介が済むと、続けて松村さんが話す。
「君に一つ提案がある。そして、協力をしてほしい」
「……私に、出来る事なんですか? ……」
「寧ろ、君にしか出来ない。君は先程、RED ANGELに交渉を求められた。言わば、スパイに誘われたんだ」
スパイ? ――
私は松村さんに言われて初めて、あの男の交渉の目的を理解できた。
あの男は、ただ私を取り込みたい訳ではない。私をBLACK MERMAIDと警察への、スパイにしたかったんだ。
「奴らの作戦を逆手に取りたい。逆に君にスパイとして、RED ANGELに潜り込んでもらいたい」
要するに、RED ANGELの交渉をのんだように見せかけて、本当は警察からのスパイ。スパイの役をするスパイ。 “二重スパイ”。
……――そんな事を言われても、私には躊躇いしかない。
ちょっと待って。この人は私を、何だと思っているの? 私はただの、大勢の国民のうちの一人。――スパイだなんて、出来る筈がない。
RED ANGELの奴に脅された時は、絶望した。警察の松村さんに会って、安心した。なのに私は、警察に保護をしてもらえる訳ではないの?
これでは私は、どっちにしろ“スパイ”だ。”警察の方のスパイ“に変わって、いくらかマシになったくらいの話だ。
私の人生を壊すつもりですか? ……
「いきなり無茶を言わないで下さい。……保護してくれないんですか? 私、あの男に脅されているんです」
「悪いが俺は、RED ANGELを捕まえる為になら、手段を選ばない。君には悪いが、保護より先に協力を頼みたい」
そんな事を言われても、私にスパイが出来ると思う? 素人にいきなり、無理がある。
「RED ANGELは重罪人だ。……――奴らは、国家を揺るがす“暗殺集団”。 大切な妹を重罪人の仲間にしたくないなら、協力をする事だ」
松村さんの話し方は、まるで脅しのようだ。……――だが、確かに否定だらけだった思考に、変化が生まれた。
絵梨を、早く助けてあげないと。RED ANGELと関わりを持てば、絵梨の人生に悪い影響を及ぼす。
それに、BLACK MERMAIDもこのままじゃいけない。絵梨が悲しむ。
それに私は、聖の事も助けないといけないんだ。誓の弟だから、大切なの。
誓は、何年も何年も自分を責めてきた。聖が荒れ始めた原因を、誓は自分のせいだと言った。それが全てではないだろうけど、事実、誓はそう思っている。 聖を助ける事は、誓を助ける事なんだ。
素人だからとか、どうして私が、とか、そんな問題じゃなかった。
――もしもこのまま、絵梨が本当に、RED ANGELに引き込まれてしまったら、どうするの? そしてもしも、警察に追われるような立場にでも、なったとしたら? ……
―――“妹を重罪人の仲間にしたくなかったら”―――
現状、松村さんは絵梨がBLACK MERMAIDと関わっている事を知っている。それを知っている上で、私に“協力をしてほしい”と言っている。
――なら、そうだ。今ならまだ、間に合う。今ならまだ、絵梨を助けられると言う事だろう。
今ならまだ、絵梨はRED ANGELの仲間と言う訳ではない。今ならまだ、警察に追われるような立場ではない。
―――“助けたいなら、今しかない”―――
大切な人たちが、巻き込まれている。
私だって、大切な人たちを守りたい。
……そうだ。私は何を躊躇っていた? ……
“助けたい”、“助け方が分からない”と、悩んでいたんだ。
松村さんが現れて、私に“助け方”を提案してくれている。助け方を教えてくれている。
……――自分に言い聞かせる。“大丈夫。だって、警察が味方をしてくれている”……
そう、大切な人たちを、自分で守らないと………───
「分かりました」
私の答えを聞くと、松村さんは満足げな表情を浮かべた。RED ANGELを捕まえる為の、足掛かりを手にしたと言うような、そんな表情だ。
私がやる。これは“私にしか、出来ない事”なんだ。
……松村さんは何も、ランダムにスパイ役を選んだ訳ではない。RED ANGELのあの男に交渉されたのが、私だったから、だから松村さんは、“私を選んだ”んだ。
―――“私にしか出来ない事を、私がやってみせる”―――
──誓、私が聖を連れ戻してみせるからね。だから安心して。誓が辛いなら、私がその原因をなくしてあげるから……────
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ねぇ……まだ、知る由もなかったよ……
────“あの冬の、寒さを”────
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