Episode 12 【その後 3/3 ―不穏な知らせ― 】

******

 ――その頃、バーで瑠璃と別れた後の陽介たちはというと…――


陽「蟻に瓜にまりにユリ、ときました…――さぁ問題です。今、ユッキーは何を考えたでしょうか――?」


聖純「「〝襟っ!! 〞」」


雪「……何だそれ?」


陽「聖に純! 大正解だ! ユッキーのおごりに決定!」


雪「さっきの問題なんだよ?! 当たってねぇーよ!」


 ――すると三人から雪哉へと、疑いの眼差し……


陽「……仕方ねーな? じゃあもう一度決め直しな!」


 再び仕切り直し……――


陽「マリー、サリー、メリー…――ユッキーが次に連想したのは何でしょうか?」


聖純「「〝エリー!!〞」」


陽「聖に純! 大正解!」


雪「は?……」


 三人、失笑。イジられ続ける雪哉だった。


陽「可哀相なユッキーに、スペシャル問題だ! ――マリ、ユリ、エリ……――ユッキーが大好きなのは?!」


 じーーーー……―――


 言わせたくて仕方のない、意地悪な奴ら、三人組。


雪「なんだよ?」


陽「大好きなのだ~れだ!」


雪「……知らねーよ!」


 三人、再び失笑。


陽「ユッキー素直じゃないな!」


純「諦めろ雪哉! お前をイジるの、結構面白い」


****

━━━━【〝JYUNジュン〟Point of v視点iew 】━━━━


 ――何だか、面白れぇな。雪哉の奴、絵梨と何かあったみたいだ。恐らくそうだろう。


 ――コイツは本気で絵梨に惚れていたのか? 確かに今思えば、他の奴と扱いが違っていた気がするな。 やはり絵梨が本命か? ……


 ……絵梨はどうしたんだ? ……――自分で言うのも変な感じだか、俺は割りと、洞察力がある方なんだ。

 ――そう、絵梨はとにかく、“男に対して”ヒステリックなんだ。……――反対に、百合乃に対しては素直。


 絵梨の男と女の扱いの違い。……――まるで別人。言うなら、“女王様”と“妹”だ。


 そしてその中でも、絵梨の雪哉の扱いは、結構酷い。……俺ら三人の扱いと、また少し違う。――けれど、そんな事を思っていると、絵梨は不意に、雪哉にだけ優しいんだ。そこも俺ら三人の扱いとは違う。


 ――俺が思うに、絵梨は雪哉の事が好きなんじゃないか?


 ……だいたい、絵梨は男に髪を触られるだけで、すっごく嫌がる。嫌がるを通りこして、ヒステリックだ。

 ……――不思議な事に、絵梨は雪哉に触れられる事は嫌がらない。雪哉には、自分から触れたりもしている。

 なのにその違いに、おそらく雪哉は気が付いてない……

 だいたい、絵梨が他の男には髪も触れさせない事自体、雪哉は知らないんだろう。


 絵梨は素直じゃない……

 そして雪哉は、絵梨に対しては鈍いのか? 面倒臭い奴……


 ――だが、それも仕方がないか?


 ――“ヒステリックな態度”――


 ――“ときどき優しい”――


 ――“素直じゃない”――


 ――“まれに寄ってくる”――


 ――雪哉から見たら、気まぐれ女なのかもしれないな。

 百合乃に対しての絵梨の態度……――そっちが、本当の絵梨のような気がする。

 絵梨は無意識の、天然魔性って訳だ。残念な事に、女王様態度が自然と完成しちまっている。


 ……――雪哉の奴、絵梨に本気で惚れているのか? それとも、思い通りにならない絵梨を、ただ欲しくなるのか? ……――

 絵梨が雪哉を好きなのは、間違いないと思うんだけどな。


 ……――だいたい、絵梨を拾ってきたのは雪哉だ。

 喋れなかった絵梨が、いつの間にか雪哉と会話をしていた。

 その時点で雪哉は絵梨にとって、俺ら三人とは違うんだ。


 …………――それにしても、何かと“絵梨”にかこつけて、雪哉がイジられている。まぁ、俺もイジッているがな。

 あいつ、イジられキャラに昇格したのか? その前に、それって昇格か? それとも降格か?


 ……――依然、イジられ続けている雪哉の事を、何気なく眺めていた。 するとその時……――


―「もしかして、純さんですか?!」


「……? ……お前、誰だっけ?」


 いきなり、知らない奴に話しかけられた。それとも、誰だかを忘れているだけか? ……――コイツ誰??


「知らないのも、ムリないですよね~……」


 ガッカリとしたような表情で、そう言っている。

 ……――どうやらコイツは俺を知っていて、俺はコイツを知らない。そのパターンらしいな。


 ――するとこの男、今度は聖と雪哉と陽介を見て言う。


「聖さんに雪哉さんに、陽介さんですか?!」


「「「……お前、誰だ?」」」


「やっぱり、知らないですよね~……」


 なんだコイツ? 可哀相だな。

 あの三人、同時に言いやがった。

 余計にコイツが、可哀相に見えるじゃないかよ。……――で? コイツ誰?? ……


 ――すると男が言う。


「俺、BLACK MERMAIDのメンバーの一人です」


陽「へー……〝全く知らねー!〞お前、下っ端だな!」


「……はい」


 陽介の奴、悪気無しに結構酷い事を言ってやがる。……それ、傷つくぞ?


 店内には、この男の他にもBLACK MERMAIDの奴らが、15人くらいはいた。誰だかは、知らない。


純「今日は他の奴らはいないのか?」


「これから合流するつもりっス」


純「百合乃とも合流するのか?」


「そのつもりです」


 …――そう言えば、“百合乃が変だ”って、聖が言っていたな。

 RED ANGELの事もあるしな……その時点で百合乃の考えが分からねぇ。


 するとまた一人やって来て、俺らに言う。


「なぁ、純さんたちは戻って来ないのか!? ……」


 コイツは、BLACK MERMAIDの女だ。

 この女は、何故だか必死そうにそう言ったんだ。

 ――女が話しを続ける。


「百合乃さんは……アンタら四人が抜けてから、何だか違う……」


 すると、他の女も言い始める。


「男共は気が付いてないけど、アタシらには分かる! 百合乃さんが寂しそうだ……」


 ――…この女たちは百合乃のレディース時代、【黒人魚くろにんじょ】からの付き合いか?百合乃の事を、とても真剣に心配している感じだ。


 ――そう、俺らと百合乃は、元から仲間だった訳じゃねぇんだ。

 百合乃は元々、“黒人魚”っつーレディースの総長だった。

 そして俺たちは、“BLACK OCEAN”。元は男だけの族だ。


「どうして百合乃さんを一人にしたんだ! 気に食わねぇ!」


 ――黒人魚とBLACK OCEANは、手を組んだ。

 総長は百合乃。”BLACK MERMAID”に改名。

 男が総長になる世代の時は、“BLACK OCEAN”へと戻る。 そういう決まりになった。


「何とか言え!! BLACK OCEANの〝馬鹿四天王〞が!」


 ………――なっ何だど?! …馬鹿四天王だと!?


 この女は、何故こんなに態度がでかいんだ?!


 女の物言いに、俺たち四人は、唖然とするばかりだ。…――すると一緒にいた男が、焦り出す。……


「おっおい?! お前、何て事を言うんだっ?! ……

 ……――すみません! この女礼儀知らずで……」


 男たちは俺たちに、ペコペコと平謝り。――そして女たちは何故か、依然、態度がでかい。


「何だい?! 悪いか! 元々コイツらはBLACK OCEAN! アタシら女は黒人魚!」


を治めて、従わせたのは黒人魚の百合乃さんだ!」


「分かるか! 百合乃さんが総長って事は、黒人魚だったアタシらは、BLACK OCEANだった奴らよりも、優位なんだよ!」


 ……そういう事か……。それにしてもこの女たち、気が強い……


純「女たちは、いつもこんな態度なのか? ……」


「百合乃さんが総長な事を鼻にかけて、天狗なんです!」


「全く! 生意気な女共ですよね! 百合乃さんをいつも守っていたのは、純さんに聖さん、雪哉さんに陽介さんなのによ……!」


 男たちは元がBLACK OCEANだから、俺たちに頭が上がらない訳だ。


「アタシらは女だけで黒人魚やってりゃ、それでも良かったんだ!」


「納得したのは、百合乃さんが嬉しそうだったからだ!」


「百合乃さんを悲しませる奴は、許さないからな!鹿!!」


 ―カチン。

 ――“馬鹿四天王”――

 聞き捨てならねぇ……


陽「おいおいおい! この女共が?! 二度は聞き捨てならねぇーぞ!!」


雪「舐めた口利きやがって! 誰が馬鹿四天王だ!」


「アンタら以外、どこに四人組がいるんだい?」


「BLACK OCEANが! アタシらに平伏しな?!」


 陽介と雪哉が挑発に乗った。……その女たちを黙らせちまえ。


聖「百合乃……確かに変だった」


純「俺たちのせいなのか?……」


「百合乃さんが可哀相だ……」


 そして俺と聖は、少し冷静に話し合いだ。


聖「百合乃はどうしたっつーんだよ?」


「百合乃さんは………―――!? ……なっ何してるんだ?! ……―――」


聖「あ? ……何もしてねーよ? ……」


 『何もしてない』と言いながら、ガトーショコラに、ラム酒をかけ始めた聖。


「百合乃さん、とにかく変わった気がする…………――なぁ? 聞いてるのか?!」


聖「あ? ……聞いてんだろ?」


『聞いている』と言いながら、ガトーショコラにマリネサラダを盛り付ける聖。


「きっと、百合乃さんは寂しいんだ………――なぁ!!」


聖「何だよ?」


 マリネサラダに、チェリーを添える聖。


純「……聖は考え出すとこうなる! 真面目に考えている証拠だ!」


「そ……そうなのか? ………―それは何だ?!」


聖「あ? ……ソルトだ。……仕上げに振る…。」


 聖が無意識に、また変な食い物を作り出した。

 考えているといい、これじゃ頭なんて働かねー……


 ……――小さくため息を付いてから、俺は雪哉と陽介の方に、視線を向けてみる――


陽「コノっ! 可愛くもねー性悪女が!! もっと上品にしたらどうだ!!」


「何だと!? ハイテンション男が!! 鬱陶しいね! もっとクールに出来ないのかい?!」


雪「さっきから“馬鹿馬鹿”五月蝿い女だな?! 馬鹿の一つ覚えか?〝馬鹿女!〞」


「アタシのどこが馬鹿なんだ! 馬鹿男! 変態! 色事野郎!」


雪「へっ変態?! 色っ……??!」


陽「ユッキー怯むな!! ……――コノ出任せ女! 侵害な発言だぞ?!」


「うるせー!! 気に食わねーんだ! ――百合乃さんの可愛がる妹的存在! そしてアタシらの可愛い妹! “絵梨ちゃんに手ぇ出しやがって”!」


雪「エリチャンだとっ?!! 絵梨だと!? お前らの妹だと?!」


「この野郎ー! 呼び捨てするな!! アタシらの絵梨ちゃんだ!!」


陽「図々しいぞ! 絵梨はユッキーのだ!!」


「アタシらの妹だ! 素直でシャイで……あんなに可愛い絵梨ちゃんを、〝お前にあげたくねー!!〞」


雪「絵梨が素直でシャイだと?!……」


陽「黙れ! デリカシーのない女共! ユッキーに追い討ちをかける気か!!

 ユッキーーー?! ……――! 大丈夫かーーー!? ――」


 ――アイツらは一体、何をしているんだ……?

 何だか話が、逸れてないか? 百合乃の話じゃなかったのか?

 ……だいたいあの二人は、馬鹿にされて挑発に乗っただけか。……元からただの口喧嘩に成り下がってやがる。


陽「だいたいお前らなんて、顔も初めて見たぞ!! 下っ端女が?! 生意気だ!!」


「黙りな!!アンタらに地位があっても、元はBLACK OCEANじゃないか?! 百合乃さんの下って事は、黒人魚の下だ!」


雪「テメー?! 黙って聞いてりゃ散々に言いやがって!!…――何がだ?!馴れ馴れしい!!」


「どっちが馴れ馴れしいんだ!! 白っぽい名前しやがって! お前の行い、全く白くない! 詐欺だ!!」


雪「名前だと?! どうでもいいところに、ツッコミ入れやがったな!?」


陽「名前を侮辱だと?! 侵害な発言だぞ!!」


「ハイテンションオレンジ男が!! 何気にまともなこと言ってんじゃねーよ!!」


陽「言っちゃ悪いのか?!! 〝俺はだぁーー!!!〞」


「うるさい男だね!? 黙れ!」


 ―ドンッ!

 

 〝性悪女A〞に突き飛ばされる陽介。


「たらし男! 失せろ!」


 ―バシッ!


 〝辛口女B〞に平手打ちをされる雪哉。


 ……あの二人、言われ放題のやられ放題か……――なんて女だ?! ……引いてもいいか? ……


陽「いきなり何をしやがる?!暴力女!!」


雪「女だからって、やり返されねーと思ってんのか?!」


「思ってるけど?何か悪い?!」


「殴れるなら殴ってみやがれ!」


 女たちは依然、天狗様……

 意気揚々の、挑発的態度……


陽雪「「……………――」」


 “殴ってみやがれ!”……――女共の言葉を聞き、黙り込む二人。そして……――


雪「〝殴れるわけねぇ~だろ~~っ!!!!〞」


陽「〝俺らはっ!!! 優しい男だぁーーー~~っ!!!!〞」


 ―ガン!!

 ―バコン!!


 壁を殴る雪哉……

 椅子を蹴り跳ばす陽介……

 失笑中の、性悪女Aと辛口女B……


 何だこの光景?……

 つーかあの二人、負けやがったな?……

 “馬鹿四天王”とか言われて情けねーのに、汚名返上する前に、どうでもいい口喧嘩で、負けやがったな……? 失笑されてるじゃねーかよ……?!

 最近ではBLACK MERMAIDの女は全員、あんなのなのか? ……強烈だ。女共、調子に乗ってやがる。……


聖「なぁ純、毒味してくれ……」


 聖に話しかけられ、俺は視線を雪哉と陽介から、聖へと。

 振り返れば、聖が可笑しな事になったガトーショコラを、持っている……

 ガトーショコラにラム酒をかけて、on マリネサラダだ。ついでにチェリー……仕上げにソルト。

 この食べ物、ジャンルはなんだ? デザートか? サラダか? ……ついでに香辛料、振ってんじゃねーよ! 無意識のくせにどうしてお前は、香辛料までチョイスしてんだ?! 毒味とか言うな!


 俺はマリネサラダだけを食べて、聖にパス。すると聖……――


聖「香辛料が、きついな」


 ――振りすぎたのは、お前だろう?


聖「お前も食うか?」


「……チェリーだけ!」


 向こうの女より大人しめの此方の女が、チェリーだけを食べた。

 ――そしてその女が、性悪女Aにパス。


「なんだ?! この可笑しなケーキは?!」


「OCEANの聖が盛り付けた……」


「アタシはいらないよ! 食べるか?」


「えー、食べないよ! 何コレ? お前ら食え!」


 ガトーショコラをパス!


陽「いらねーよ!」


 ショコラをリターン!


「食え!」


 ショコラ再びパス!


雪「食わねー」


 ショコラ再びリターン!


「いらない! やる!」


 〝ショコラ FOR YOU 〞


陽「俺もいらない! やる!」


 〝ショコラ FOR YOU☆〞


「返しやがったな!?」


 〝ショコラをプレゼント 〞


雪「お前に返す」


 〝ショコラをPRESENT!〞


「受け取れっ!!」


陽「駄目だっ!!」


「お願いだっ!!」


雪「受け取れねぇっ!!」


 コイツらさっきから、何なんだ? バレンタインみたいだな。……


 ――ガトーショコラの変なやり取りを、おれは唖然と眺めていた。……――するとその時……


「おい!? すぐに百合乃さんたちと合流だ!!」


 焦った様子で、一人の男がそう叫んだ。


「……どうした?」


「理由は分からねーけどっ! 〝BLACK MERMAIDと白麟が、喧嘩になってる〟!!」


 BLACK MERMAIDと白麟が喧嘩だと?…――


 理由が分からないって、何だよ? いきなりって事か? 百合乃の奴、大丈夫かよ……


 BLACK MERMAIDのメンバーたちは全員一気に、雰囲気が変わった。目付きも何もかも。

 ――そして、他でもない、“俺ら四人も”……―― 

 結局俺らは、昔のままだ。昔と違うのは何だ……――? ……


「俺たちはすぐに、百合乃さんたちのところへ行きますっ!」


 初めに話しかけてきた男が、慌ただしく俺らに言って走り出した。


 ……――何言ってんだ?……


純「待てよ!」


「何スか……?」


 ――“BLACK MERMAID”――


 ――“BLACK OCEAN”―――


 誰のチームだと思っていやがる? 気に食わねぇ……―――


聖「ふざけるな。に決ってんだろう?」


「…………――」


陽「ボケッとすんなマヌケ面!」


雪「後ろ乗せろ! 何なら俺が前でも構わねぇ!」


 ――〝抜け出せない〟――


  結局どこかで、求める……掴み損ねた高みを――…


 執着心に変わって、留まりたがる。


 欲しかった……頂点を夢見てた……全てを見下ろすことの出来る〝頂点〟――それは、BLACK OCEANを見渡す事の出来る、ただ一つの、いただき………――――――



 月が欠けている。


 闇夜は濃厚に黒い。


 一度バイクに跨がり、夜空を仰いだ ……――


 夢見て、空虚感を味わう度に、あの星に笑われている気分になる。


 俺の空虚感は、綺麗なものじゃない。


 だからだ。……――純粋に輝くものがうとましい……


 エンジンをかけて、闇を裂く……――


 ―――“そのまま行け”―――


 頭の中の下らない理屈なんて、簡単に破壊される、闇夜に溶け込む刹那……――


 闇を裂いて


 漆黒の闇を射落とせ


 闇なんて全て、海に沈めろ


 後に残るのは、黒い海だけ


 いろんなもの、全て沈められる……


 不甲斐なさも何もかも


 昔から何一つ変わらず、俺の中にあるもの


 それは闇を沈めた


 黒い海


 俺はいつだって


 BLACK OCEAN………―――――



――――――

―――

 …………――百合乃の血筋は、全員族だった。

 “裏との関わりを家絡みで持っている”くらいに、その系統に染まっている。

 百合乃は元から、そういう家に生まれた。選択肢なんてない。そこで生きていくのが普通なんだ。それ以外の生き方も知らない。〝百合乃が自ら、族としての世界を望んだ訳でもない〟。最初からその世界で、呼吸をしている……


 ときどき思う事がある。〝百合乃は本当は族なんて、やりたくないんじゃないか?〟、ってな。

 …――もしもそうだったらなら百合乃、お前は何を慰めにしていたんだ……?


 族の世界では、誰もが一目置く、百合乃の家系。血統が持つ、絶対的な格と権力。

 ……――俺はお前のその血統が、羨ましかった。

 俺の一番欲しかったものを、簡単に掻っ攫った……お前の血が、羨ましい……

―――

――――――


 何処までも駆け抜けて


 風を感じて


 風になる


 この快感に病み付きになる……―――


 あの路地を右に曲がって、突き当たり……


 ……――ほらな? ……――俺からBLACK OCEANの頂を掻っ攫った女が、暴れていやがる。


 孤独の人魚……そんなに暴れるなよ。可哀相で、見てられねぇ……―――


―――――

―――――――――――

―――――――――――――――――――

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