Episode 12【その後 】
Episode 12 【その後 1/3 ―想い合う者たち― 】
*****
店を出たその後の事。家への道を歩いていると、スマートフォンが鳴った。――バックからスマートフォンを取り出して、直ぐに通話を始める。
「どうしたの……――?」
……――電話の向こう側の貴方。何かいつもと、様子や声の調子が違う気がした。……――気のせいかな?
「うん。……――えぇ。平気だよ。………――うん。分かった」
短い会話……――すぐに通話を終える。私の二言返事だったから。
いきなり、どうしたんだろう?―――“今から会えないか? ”、だって。
私もちょうど、貴方に会いたくなっていたの。誓……――
******
私は待ち合わせの場所へとやって来た。
誓はもう、来ているみたい。私が来た事に気が付くと、誓が私の方へと歩を進める。
「……いきなり、ごめんな」
誓は目を泳がせながら、申し訳なさそうに言ってきた。
……――そんな事、別にいいのにね? 私だって、貴方に会いたかったの。
「大丈夫よ」
貴方は何故だか、疲れた表情をしていた………――一体、どうしたんだろう?
「誓、大丈夫?」
私は問い掛けた。けれど誓は、私の言葉の意味が分からなかったみたい。“何が? ”と、そう問い掛けるように、私を眺め返す。
「なんだか疲れた表情、してるよ……?」
「そうか?」
「うん」
「……――。まぁそうかもな。何だか少しだけ、疲れた」
やっぱりそうだ。……見れば分かるよ。
「だから、瑠璃に会いたくなった」
そう言って誓は疲れた表情のまま、小さく笑った。
“疲れたから、私に会いたい”って、そう思ってくれたの? 何? その理由……嬉し過ぎるよ……
私の頭に、先程の事が思い出される。……――全く知らない、自分とは無縁な空間に少しの間いた。
それだけなのに、何だか私も、疲れたみたい。
私も会いたかった。誓に会って、安心出来た。
「私も会いたかった」
自然と溢れる笑み。――そう、会いたかった。“貴方に”。
すると誓は、何も言わずに私を抱き締めた。それを私も、しっかりと抱き締め返す。
「……何かあったの…?」
問い掛けると誓は、私を抱き締める力を強めた。
「……BLACK MERMAIDの事を、調べてた」
……――私は何も答えずに、もっときつく誓を抱き締める……
誓、ごめんね……弟、探してるんでしょう……私は―――
「……ごめんね」
「……どうして、謝るんだ……?」
「…………―――分からない……」
私は、何も答えない。まだ、言えずにいる。
――“絵梨なら、聖の居場所を知っている筈”なのに……――
ただ、抱き締める。
世界で一番、抱き締めていたい人を……――
世界で一番、抱き締めていてほしい人を……――
そんな、愛しい人をただ、抱き締めていた……――
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━━━━【〝
瑠璃に会いたかったんだ。そう、どうしようもないくらいに。
さっきは何だか、すごく気疲れをした。
――女総長、あの女の目が、頭から離れない。光が入っていない、深く黒い瞳……まるで、瞳の中を蛇が渦巻いているような……――
“瞳の色が黒色”だとか、そんな話をしている訳じゃねぇんだ。
“目に見える色”じゃない。“目には見えない、重いイメージ”の色の話……――
――その瞳の闇の、濃く深い事……――
見る者の背筋を凍らせる、瞳に渦巻く憎悪の塊のような、執念深い、蛇のような……――
…――黒人魚の女か………――瞳の中に馬鹿デカイ海蛇でも飼ってるってところか?……それも、うんと執念深そうなヤツをだ。……――
RED ANGELの前に、あの女が問題なんじゃないか?……――
馬鹿弟、アイツ大丈夫か? あの女にどうにか、されちまうんじゃねぇのか? ……――アイツ、馬鹿だからな。何も気が付いてねぇ可能性がありそうだ……
厄介な黒人魚だ……――まだ泣いている時の瞳は、マシだった……
ヤバイ目をするのは、感情を自分の中だけに留めている時だ……――
――狂った女を宥めるのに、神経を使いすぎたんだ。
瑠璃に会えば、落ち着けると思った。癒されると思った。
抱き締めると、瑠璃も腕を回してくれた。
何だよコイツ? 可愛い奴……心が浄化されていく………――
離したくねぇし、離れたくもねぇ。もっともっと、お前に近付きたい。
瑠璃は何故だか、いきなり俺に謝ってきたけれど、理由はよく分からない。
……――けれどそんな事は、今はどうでも良いんだ。
とにかく、今は強く、抱き締めていたい。俺はそうしていたい。
……――けどよ? 瑠璃は平気か? 抱き合いすぎて、もしかしたら、苦しかったりしてな……
俺は一度力を緩めた。
すると瑠璃は、俺の胸板から少し顔を離して、俺の事を見上げた。
俺の腕の中で、ちょこんと然り気無く、こっちを見てる……――コイツ可愛い……何なんだ? うさぎみたいだ。
「苦しくなかったか?」
「…平気」
しかも少しだけ、はにかんでいる。……――すぐに恥ずかしがるよな? お前、うさぎだ。
“うさぎだ”とか考えながら、俺は内心、可笑しく感じて笑っていたんだ。だが、すると……
「キスして」
なんだと? この間、俺が『キスしていいか?』って言った時には、あんなに真っ赤になっていたくせに……いつの間にそんなに、すんなりと言うようになったんだ?
あぁ、瑠璃はうさぎはうさぎでも、積極的なうさぎだったな。忘れていた。
しかもこのうさぎ……――そそる表情してやがる。
綺麗に手入れされて、綺麗にグロスつけて……――瑠璃が言うなら、遠慮なしだな? …――その手入れの行き届いたお前の唇、俺にくれ。
唇を重ねて、舌を絡めて、体はもっと近くへと引き寄せる。
角度を変えて、絡め方を変えて……何度も、何度も……―――――
――――
―――――――
俺の弟の名前を呼んで、哀しい瞳をした、黒人魚……
不意に重なった、あの赤色の口づけ……――
―――――――
――――
瑠璃とキスをしてる時に、黒人魚とのキスが、脳裏に浮かんだ。
――覚えた鉄の味と、鉄の臭い。
忘れろ。せめてこの時は影を潜めろ。
深く熱を帯びて絡まって、 何処までも瑠璃とのキスで、埋め尽くせ……―――
頭の中を瑠璃だけにして、 しっかりと瑠璃に酔いしれる。
漏れた吐息が、気分を煽る。
密着した体がもどかしい。
キスは欲しいんだな?
他に欲しいものないのか?
何ならくれるんだ……?
――……酔いしれながら、こうしてキスをしていると、止めたくなくなる。
何だよ……? 俺、また外で止めたくない衝動に駆られている。
この間しっかりと、学習しておけば良かったな? 俺は馬鹿か…――?
―――〝くれよ〟―――
くれないなら、お前を奪ってしまいたい。奪ってもいいか?……――
唇を解放して、密着していた体を少し離した。
瑠璃の長い髪は、全て背中の方に流れていた。……――白くて綺麗な首が、良く見える。
触れたくなる。――触れたら本気で、止められそうにないけれど。
その首に触れて、キスをして……印を付けて……全てを奪って………――――
そのとき瑠璃の手が、俺の手をそっと握った。
それに反応して、俺は瑠璃の顔を覗き見る。
嬉しそうに笑っていて、けれど、恥ずかしそうに瞳は下を向けたまま……――ほんのりと頬染めて、俺の手を握っている。…――それがすごく無垢に見えて、俺の頭は冷静になる。
「……瑠璃、悪かった……」
何故か、謝ってしまったんだ。
瑠璃はきょとんとした顔で、俺を見た。
…――だよな。謝らなきゃいけない事なんて、俺もした覚えはない。“まだ、無い”。
「なんで謝ったの……?」
きょとんとしながら、首を傾げて、安心しきった表情。……――自然すぎて、無防備だ。
何度も俺の思考を持て遊ぶ。
もう一度抱き寄せて、結局その首に唇を当てる。
いきなりで驚いたのか、それともくすぐったいのか、瑠璃は少しだけ反応した。
――頬に唇を移して、そっと囁いた。
「瑠璃を抱きたい」
きつく抱き締めても、きつく抱き締められても、きつく抱き締め合っても、“足りない”。
もっと深く、お前を求めている。
キスしてても、舌を絡めても、酔っても酔われても、求め切れてねぇ。
――“俺はお前が良い”――
瑠璃を見ると、今までにない程に目が泳いでいた。
泳いでいた目が、やっと俺を見る。 ……そしてすぐに、逸らされた。そしてまた、俺を見た。逸らした。……うさぎになっている……。――コイツはホント、可愛い奴だな……
「目が泳いでるぞ……?」
「誓っ………」
……――? 顔を覗き込みながら言ったら、また恥ずかしかったのか、 瑠璃は俺の名前を言いながら、俺の胸板に顔を埋めてきた。
俺はそんな瑠璃の頭を撫でていた。
瑠璃がうさぎになっちまった。……――わざわざ確認を取ったのが悪かったか?
………―――けれど顔を上げた時の瑠璃の表情が、やたらと色気あって、 俺も少しドキっとした。
「嫌か……?」
「……そんな筈、ないじゃん……」
「いいのか?……」
「誓なのに…私が嫌がる訳ないよ……」
瑠璃はしっかりと俺の目を見ながら、そう言ってくれた。途切れ途切れな言葉だけど、しっかりと言ってくれた。
そうしっかりと断言してくれるとまでは、思ってなかったよ。
“嫌がる訳ない”か、その言い方、スゲェ嬉しい。
男と女って、感覚、違っていたりするだろう?
……――確かに少しだけ、俺も不安だったんだからな。 お前の事を、俺は好きだからこそ。
見とれて、惹かれて、触れたくなって……――
言葉を交わすごとに、いろんな表情を見る度に、心の中、見せてくれる度に、 どんどん欲しくなって、たまらねぇ。
いくらでも壊したい、“俺が壊したい”―――……
そして腕の中で、いくらでも可愛がってやりたい。
――“守ってやりたい”――
可愛いと思って、綺麗すぎて見とれて……――
愛しすぎて、心で思って、体はその表現の表れ――
――“俺はお前に溺れている”――
「誓ならいいよ……抱いて――」
俺の胸板に顔を埋めたままの瑠璃――儚く見えて、愛しすぎる……
今すぐに壊したい。けれど可愛いお前を、当然こんな場所で乱したりはしねぇ。だから安心しろ。 俺らだけの空間で、お前を抱いてやるから。
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━━━━【〝
触れる素肌と素肌の温かさに、幸せを感じる。
落ち着く体温。……――安心する。
体の全てが、貴方で満たされていく感覚……
ホテルの一室で、私たちは体を重ね合う。
誰にも邪魔をされたりしない、世間を気にかける必要もない……――
お互いがお互いだけを想って、愛し合える。
――“私たちだけの時間”――
体を重ねながら、貴方は私の首筋に、顔を埋める。
誓の呼吸をする声が、聞こえる……
首筋に吸い付く音。
私は誓の首の辺りを抱き締めて、その髪を撫でる。
髪を撫でるの、好きなの……
誓は大人だよね。魅力的……
いつも得意げに笑っていて、何だか余裕そうだよね? 余裕があって、格好いい……
貴方の綺麗な瞳に、見とれてしまう……――
取り乱した時の表情、ツボだよ……
私の首筋に吸い付いちゃって……何だか、可愛い……髪、撫でたくなるの。
誓って格好いい。格好いい誓って、何だか、可愛い……
「……髪撫でるの、好きなのか?」
私の首から顔を離して、綺麗な瞳を私に向けながら、誓が私に問いかける。
「うん……」
私はまた手を伸ばして、誓の髪に触れた。
「「………――――」」
今度は真正面から、頭を撫で撫で。いい子いい子……
すると……――私の手から、誓が若干、逃げた。……
嫌なのかな? やっぱり男の人って、頭、撫でられるの嫌い?誓の場合、嫌がる方の人かもしれない。
「……逃げないで」
……あ、逃げなくなった。
誓は何だか、視線を少し逸らしている。
もしかして、恥ずかしいの!? 可愛いわ……
格好いい誓が可愛いくなる事がツボな私、今回こそ、早くも勝った気分だ。
「……可愛い」
けれど、つい、口から本音が漏れた。すると……
「可愛がってやるよ……」
誓は私の上で、笑みを浮かべた。
……――あ、もしかしてまた、この間と同じみたいに――…
――すぐにキスが落とされる。
片手は私の胸に触れている。
その手が体をなぞり、私を乱していく……――
「あ……――」
口に舌が入ってきて、溢していた声が途切れる……――
舌を絡ませながら、やはりその手が、私の体を撫でていく……――
「上手に舌が絡まねぇ……鳴きたいのか?……――」
言いながら誓は、口角を上げている。
意地悪な表情だね。けど、好き……――
貴方に乱されて、壊されて、関係のない事なんて、全てが消え去る。
壊されて、心は満たされる。
不思議な感覚だね……
――きっと皆、同じかな? その相手が、愛しい人なら……―――
─チュ…─―
一瞬だけ音が立つような、短いKiss─―
そのキスの後に、誓はすぐに、私の瞳を見た。
「脚、いいか?」
優しい声の囁き……――
承諾の意を込めて、貴方に微笑み返した。
その微笑みの意味は、 恋心に、愛しさに……――今この瞬間も、貴方に酔っているから……
貴方に捧げたい。奪ってほしい。――恋してる。〝愛している〟……――――――
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