Episode 11【捜査】

Episode 11【捜査 1/2】

 あの夜、絵梨から“RED ANGEL”の事を聞いた。

 そして 絵梨は、“警察には言わないでほしい”と言った。

  言った事がバレたら、どうなるか……――絵梨はそれを恐れている。そして、私も自身もだ。

 震えながら、顔を真っ青にしていた絵梨の姿が、目に焼き付いている……


――“何でもする”――


――“殺める、とか”――


 ――私は固く目をつぶった……――震えながらそう言った絵梨の言葉が、頭に鮮明に甦ったから。


 こんな事ってないわよ……どうして……――? どうして、私の妹が……

 ――そして誓の弟、“聖”……――誓に話す事も出来ずにいるから、余計に私の頭は痛くなっていく……

 どうしたらいい……――?


 絵梨の見てる世界って、どんなものなの……――?

 私にはそれすら、分からない。

 ――……悔しかった。絵梨の見てる世界を、少しでも見てみたい……――そうすれば私に、何かが分かるのかな? ……絵梨を助け出す方法を、見つける事が出来るのかな……?

 ……――混乱する頭に、危ない考えが浮かぶ……

 ……――そして私は悩んだ挙げ句、仕事が終わった後に、ある店へと足を運んだ。


 “ある店”……――一見、普通のバー。普通ではないのは、“客層”だ。この店、族とか、危ない人たちがよく来るって、私は聞いた事があったのだ。当然わたしは今まで、この店に来た事なんてなかったけど……

 そこに行ったからって、どうとかではない……

問題を解決出来るとも、当然、思っていない。

 けれど、そういう裏の世界が、私にとっては遠すぎて、絵梨が遠く感じるんだ……

 私は、そんな不甲斐なさから、この店に行く事にしたのだ。漠然とした“何かを”、垣間見る為に……―――


 店の前まで来て、一度、足を止めた。

 生唾を飲み込む……――噂はきっと本当だ。既にヤンキーの集団が、店の前にたまっていたのだ……


 どどど、どうしよう?!

 無理……危険な雰囲気が、漂っている……けど、せっかく来たんだから……


 私は近くからその店を眺めて、一人でそわそわとしている。


 恐る恐る、店へと近付いていく……


 ヤンキーの集団が私を見ている。見るの、止めて下さい……


 そしてヤンキーの集団は、私をネタに話しを始めた。


―「……――随分、可愛らしいお嬢さんが来たな?」


―「あんな子が此処に、何の用だ?」


―「誰かの女か……?」


―「誰の女だ?……」


 不思議そうに会話するヤンキーの集団。


 どうやら私はあまりにも、この店に不似合いらしい。 当たり前だけれど……

 そして彼らは、イコールは“誰かの女”、という答えを出したらしいのだ。


 私は彼らを無視して、横を通過する……――


 すると……


―「おい?」


 ギクリ……


 案の定、絡まれる。

 ――やはりただでは、通してもらえないのだろうか?……


「…………何の……用でしょうか?」


 引きつる私の笑顔……


「誰の女だ?」


「はい?」


「だから、誰の女だ?」


「………誰の女だと、思いますか?」


 “誰の女でもありません”と言うのは、恐らく危険だ。私は適当に、話をはぐらかす……

 …――すると、私をじっと見るヤンキー集団。


「わっ私を、誰の女だと思ってるのよ!」


 とっさに強気に言い張ってみる。……“地位がある”と、思いこませる作戦? すると……


「だっ誰の女ですか?」


 強気な私の態度に、ヤンキーが敬語になる。

 私は必死の演技だ。


「なっ何よ! まさか、私の事、知らないって言うの??」


 上から目線な発言。…――私は冷たい目をヤンキーたちに向けて、口を尖らせる。……演技に必死です。


 すると、私の演技を前に、ヤンキーの集団が焦り始める。


「そっそんな訳ないじゃないですか! 知ってます! 当たり前じゃないですか!」


 あっ、ヤンキーが焦りながら、胡麻すりだ。

 “知ってる”訳ありません。“当たり前”じゃないです。私にヤンキーの世界での地位など、ありませんから……。


「分かればいいわ! さっさと道を開けなさい?……――」


「はっはい! すみませんでした! ごゆっくりー!」


 腕を組みながら、堂々と入り口へと進む。

 私、なりきってきた……


 こうして私はどうにか、来店を果たした。

 店内を見渡す。やはり、普通のバーだ。だがそう、普通でないのは、客層だ。

 噂通り、ヤンキーみたいな人ばかり。ここは、ヤンキーの溜まり場になっているバーだ。


 ……タバコの煙りが渦巻いていて、気持ち悪い。

 私は所在無さげに、隅っこのカウンター席に座った。

 それに、タバコの煙りが嫌だったから、窓が近い隅っこの場所が良かったのだ。


 こんな場所に来てみたけど、どうしようかな……


 私はまず、BLACK MERMAIDの知識にも、RED ANGELの知識にも欠けている。

 ――“知りたい……”――

 絵梨をその世界から取り返すには、無知じゃ何も出来ない。まず、〝知りたい〟……

 BLACK MERMAIDを知って、RED ANGELを知って、そういう世界を知る必要がある。

 すると……――


「ご注文の方は……?」


「カクテル」


 バーテンダーがカウンターの中から、私に問い掛けてくれた。私は適当に即答をしておいた。頭の中は、注文どころではない。


 ――どうする私? 情報収集? してみる?

 話しかけるの?! 私にとってはリスクが高い。……


 チラチラと、小さく店内を見渡す……――


 カクテルの種類を私に見せるバーテンダー。

 ……なんて、優しい……恐らく私が明らかに、場違いな空間に迷い来んでしまった人だと……――彼にはそう見えているのだろう。恐らく、気を使ってくれている。

 ありがたい。だがやはり……――それどころではない。私は少々混乱しながら、適当に即答だ。


「カラー的には白っぽいやつで! レモンみたいな爽やかなのと、ピーチみたいに甘い感じのやつ! かな? ……――いいえ……何でもいいです……」


 適当に自分の好みを散々に言ってから、冷静になり“何でもいい”と言い張る。

 すみません。私、かなり焦っているものでして、少し可笑しな感じになっています。


 ……――少しすると、私の前にカクテルが出される。

 カラーベースは白。どうやら私の要望に答えてくれたらしい。

 バーテンダーは“レモンとピーチをベースとして、少しカシスを加えて……”とか、いろいろと言っていたけど、私の頭には残念ながら今は入ってこない。


 自分を落ち着かせる為に、一口飲んだ。

 けれど落ち着かないので、二口、飲んだ。

 そしたら私、結構飲み始めました。


「オッオススメ下さい……」


 はまり出した。私はちゃっかりオススメを注文。

 出されたのは、ピンクの色のカクテル。“ストロベリーとオレンジがどうとか、こうとか”とバーテンダーは言っていたと思う。


 ……――ほろ酔いな感じで、だいぶ緊張がほぐれてきた。

 私、友達から言われた事がある。“瑠璃って飲み始めると、結構飲むよね”って。私はいつも、“そんなに飲まないよ~? ”って、笑って返していた。

 ――けれどもしかしたら私は、飲む人だったのかしら?

 私、はまってる。考えごとをしながら、いつの間にか飲んでいるタイプだ。


「カクテルじゃないの下さい! ……洋酒が好き」


お次は白ワイン。私は赤派です……


「……どこの国の?」


「フランス産です」


 “フランス産”、やっぱりワインは、本場が好き。

 自分の中に、こだわりがある事に気が付いた……  わっ私って、お酒好きだったんだ!?


 一人でワインに酔いしれる。白も悪くないと…――一人で飲みに来た、訳ありな女に見えますか?……――どう思われようと、気にしません。

 所在無さげだったのに、そんな気分でもなくなってきた。完全に自分だけの世界だ。


 うーん。あれも美味しそう……

 けど、あんまり飲みすぎないようにしなきゃ……

 うーん。どうしようかなぁ?……


―「ねぇねぇ! オネーさん! 何で一人で飲んでんの?」


「ん?」


 一人で飲んでいたら、誰かに話しかけられた。知らない男に。……


「隣り座っていい?」


 その男はそう言いながら、私の隣りに座った。

 ……“いい”って言ってませんけど? “座っていい?” って聞きながら、座らないで下さい。

 しかも何故かその男は、私の方に体を向けて座ってきた。

 私を見ないで下さい。前を向いて下さい……。


「ねぇねぇ、誰かの事、待ってるの?」


 その男はなんだか、やたらニコニコとしながら話し掛けてくる。


「……別に」


 絡まれたくないし……適当に返事をした。


「えっ! じゃあ一人なの!」


 そしたら何だか、この男、目をキラキラとさせながら喋っている。

 “待ってる”って、嘘を言えば良かった……


「一人なんだね!」


 更に目をキラキラとさせながら、再確認をされた……

 ここで“一人”って言ったら、絶対に絡まれ続ける……――嘘ついちゃえ!


「〝二人です!〟」


 “二人”と、適当に嘘を言った。けれど……

 しっしまった! “待ち合わせ”とか言えば良かった。明らかに私の周りには誰もいない……嘘を付いたのがバレる!

 そう思って私は焦っていた。そうしたら……


「……そっそうだね! 俺達二人っきりだ!」


 ………はい? そう、解釈しますか……?


 目をキラキラとさせながら、結構なテンションで、“二人っきり発言”をしてくる……をしたこの男、一体何ですか?間違った解釈は、止めてほしい。


「……なっなんつーか……君、大胆に“二人”とか言うから……オレ……」


 はい? 何だかこのオレンジ髪の方、いきなり顔を赤くした!?

 と言うか、私が“大胆発言をした人”、みたいになっているし!?


「……そっそんな!? 私一人です!」


「恥ずかしがらなくても大丈夫!」


 ……違います。


「あー……ホント君可愛い~。モロタイプだ……超ドツボだ! 一緒に飲もうか!」


「……止めときます」


「えーー! いきなり突き離す気か?! ――ねぇねぇー、遊ぼうよ!」


―ガシ!


「…………」


 何だか、手を握られました……。

 目をキラキラとさせながら、キャンキャンと騒いでいる……何だか、子犬みたいな奴……。

 ………――するとそこに、最初に会ったヤンキーの集団がやって来く。

 ヤンキーの集団が、その男に話しかける……――


「その子、の……」


 私を指差しながら、そう言うヤンキー集団……

 陽介ってコイツの名前? と言うか、コイツは“さん”付けされるような立場の奴なのか!? このキャンキャンとしている奴が?!


「あ?……俺のなんだよ……?」


“その子、陽介さんの……”


 あっ嫌な予感が………


「その子、ですよね!」


 やっぱり、言いやがった……


 すると陽介は、少し笑みを浮かべながら、その男たちに返した。


「……そう見えるか?」


 否定しましょうか……?


「お似合いです!」


 似合ってないです。この胡麻すりヤンキーめ……余計なお世辞言いやがった。……


 余計な言葉を一言、二言と言って、ヤンキー集団は去って行った。


「なぁなぁ! 聞いたか!」


 私の方を振り返った陽介。遊んでもらいたい、子犬みたいな目だ……


「俺達、お似合いだってよ!」


「似合ってないです」


「えーー! 冷てぇー……」


 陽介は少しだけ、シュンとした。その陽介は何だか、遊んでもらえない犬みたいで、少しだけ可哀相に見える。何だか、私が酷い人みたいだ。


 そして、絡まれるのは嫌だったけれど、そこで私は、思った。“そうだ、どうせなら、この人にBLACK MERMAIDとかの事、聞いてみようかな”と。――もしかしたら、何かを知っていたりして……――

「……ねぇ、BLACK MERMAID、知ってる?」


 そう言うと陽介は、一瞬、表情を変えた。……――けれどすぐに、最初のテンションに戻って、私へと返す。


「BLACK MERMAIDー? へー、どうしてオネーさんはそんなこと聞くの?」


「……少し、調べている事が……」


「それってどんな事なの? どうしよーかなー……」


「何か知ってるの……?」


 陽介は何も言わずに笑ってるだけだ。何も、答えない。


「何も知らないなら、いいけど……」


「じゃあ、“知らない”って言う事にしとく!」


 その言い方、何だろう? 本当は知ってる? それとも、適当に言っただけ?


「なら、いい。……」


 私は飲みかけのワインを飲んだ。一気に飲んだ。なんだか、不甲斐ないんだもん。


「赤もちょうだい!」


 勢いで、赤ワインを注文だ。……――そして、飲み干した。


「……君、結構飲むね!」


 陽介にツッコまれた。飲みますけど? すみませんね……? 悪いですか……?

 ……けれどやっぱり、飲みすぎた。……少しずつ、酔ってくる………


 ――するとそんな私の事を、陽介は頬杖をつきながら見て言った。


「飲み過ぎ……―顔赤くなってきたよ? 可愛らしいねぇ? ……」


 するとその時……


―「陽介、何やってんだよ?」


 また、誰か来た? 陽介の友達かな?


陽「っ……何もしてねぇーよ!」


 何故か陽介は一瞬、話しかけてきた知り合いに対して、口篭った。

 私は後から来た陽介の知り合いを、何気なく見た。三人いる。

 私がその三人を見ていると、何故か陽介が私を若干、隠した。行動の意味が、全く分からない。……


陽「お前ら横取りすんなよ! この子、俺のお気に入り!」


 ……はい? またこの人は勝手な事を……


「は? 誰も取らねーよ?」


陽「いやいや! お前たち絶対危険だ!」


 私はまた、その三人を見てみた。

 ……何だか、威圧感を放ってる気がします。ヤッヤンキーだ……!!……無理無理…。

 その前に、この店にいる人は、全員こんな感じだ。

 陽介がキャンキャンだから、つい、警戒するのを忘れていた……


 黒髪に赤茶髪に、金髪………――

 …………!? えっ?……この金髪、誰かに似てる………――


 私はその金髪を、じっと見る………すると――

 ん?何だか……視線を感じる気がする……

 視線の先を見て見ると……――

 なっ何だか赤茶髪が、こっちを見てるっ……私が何かした!? 怖いから、見ないでほしい……


陽「ユッキーー! 何見てんだよ!? 俺はユッキーを一番警戒してんだ!!」


 ……ユッキー? それはこの、赤茶髪の事ですか?


「何だよ警戒って? ……見てただけだろ?」


陽「見てんだろ! ユッキーたらしだから危険!」


「お前の俺に対する印象、そればっかしだよな……

俺を何だと思ってんだよ?」


 すると、陽介と黒髪と金髪が答えた。


「女遊び好きな奴!」


「女あさり趣味な奴」


「……肉食獣!」


 それって、類義語ですね……?

 三人の類義語発言に、目をパチパチとさせている赤茶髪ユッキー……哀れだわ。

 いや、三人とも言うなら、事実なのかもしれない。………――そこで、軽くシスコンな私は、思ったのだ…――


 〝やっぱりそういう男もいるよね……絵梨の事が、余計心配になっちゃう。もしも私の可愛い妹が悪い男に引っかかったら、シスコンな私は、絶対にその男を殴ってやりたい勢いだ! 〟


 ………―――さておきまた、私は金髪を見る。するとユッキーも、私を見る……


「「似てる……」」


 えっ? 今、ユッキーと私、言葉かぶった? いきなり何故か、謎にユッキーとの言葉のかぶり。何なんでしょうか?

 私の事を見て、“似てる”って言ったの? ……―――それって、誰に?……


 私は考え込んでいたが……――その時………


 ―ガシッ!!!


 ―why!?


陽「見たってダメだからな! 俺のお気に入りだ!」


 なんだか陽介に、後ろから首あたりに抱き着かれた……


瑠「ちょっ……離れて」


陽「ヤダー!」


 コイツはガキか??


 飲み過ぎた……力、入らなくて、振り払えない……

 不覚にも……――“チッ○”に抱き付かれた“デ○ル”のような状態に陥る私……。〝○ップに抱き付かれたデー○のような状態〟に。


「離してやれよ……花に虫食いだ!」


「月とスッポンだ!」


「〝ガチャ○ンとムッ○だ!〞」


陽「失礼だな!ミッキ○とミ○ーだ!」


 ガチャピ○と○ックだけ、何だか違くありません?? 因みに、例の金髪くんの発言だ。 ……何だがこの金髪、どこか抜けてるな……

 ……けれど今は、そんな事、さておき……――とにかく、瞼が重くて……うぅ~……ヤバイ。飲み過ぎ……眠くなってきた……ウトウトする……


「「「「……? 」」」」


「なっなんかウトウトしてるぞ?」


「どうする……?」


「どうするって何だよ…」


陽 「ヤッヤバイ……リアルに離れたくねー………」


―――(*数分の間*)―――


陽「……なっなんか……髪からイイ香りがする!……ヤバイ!……ヤバイ……」


「そっそれってどんな香りだ!?」


陽「なっなんかフワッと……」


「きっきつすぎないってヤツか……」


陽 「……ちょうどいい」


―――(*数分の間*)―――


「ほっホントだ! ちょうどいい……」


「この香りの女は悪くねぇ…!」


陽「なっ何だその言い方!?」


「………香りで、だいたい分かる…!」


「「「〝何をだ!? 〟」」」


―――(*数分の間*)―――


「……寝てるのか!?」


「寝たのか!?」


「………なんて奴だ!」


 ―つんつん……


瑠「ん……――」


「「「「!?」」」」


陽「……離したくねー……マヂでヤバイ、ヤバイ……理性ブッ飛びそうだ……ダメだ……可哀相になって、何も出来ねぇーよ……」


―――――――

――――

 うぅ…もう完全に…眠っちゃいそう。

 いろいろな会話が聞こえてきた気がしたけと、よく分からない……

 何だか、熱ったかい……この腕……誰だっけ?……

 寝い…――ん?誓……?

 あれ、違った。金髪だ……貴方は誰? ……――

 う~……もうダメ。おやすみ………―――


***

――――──

――――――――――───

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