Episode 9 【百合乃】
Episode 9 【百合乃】
夜の街の、ある店での事……
「……百合乃の奴まだかよぉ、呼んだくせに遅刻かー?」
オレンジ色の髪の男が、待ちくたびれたように呟く。男の名前は“
「お前さっきからそればっかだな。うるせー」
それに答えた黒髪は、“
「…百合乃が時間通りに来る訳ねーだろ」
そう言ったのは聖。
陽「そうだけどよ、待ち時間とか退屈なんだよ」
嫌そうな顔をしながら、陽介がぼやく。
陽「純ー、オレ、待つの嫌いだ」
純「知ってる」
陽「聖ー、オレ、暇なの嫌いだ」
聖「知ってる……」
陽「雪哉ー、オレ、つまらねぇ」
しんと、静寂が広がる……――――
陽「あ? ……あっあれ!? ユキどこだ?! 純! 聖! ユキがいねぇー!!?」
「「まだ来てねーよ!! 」」
一瞬止まる陽介、そして……――
陽「ユキの奴! もしかしてまた、オレに黙って女か!?」
純「……お前に言う必要はねぇだろう?」
陽「ユキの奴ずりぃーー!! 女の子紹介しろー!!」
聖「……うるせーよ」
陽「よし! 暇だから、ユキにメッセージ送りまくって、電話かけまくるか!」
純「……やめとけ、アイツ怒るぞ」
陽「それとも! 居場所をつきとめて、BEST TIMINGで乱入するか! ――そして、ユキの女遊びの真実を女の子暴露するだろ? そしたら女の子がユキを睨みつける! そんで、ユキは女の長い爪で引っ掻かれて……――平手打ちされるじゃん!? そして、俺はユキの代わりにだ! 女の子と一夜を過ごす!……ヤベー、完璧だ……」
聖「何だよそのシナリオ……」
陽「よし! そうと決まれば、さっそくユキの居場所を……――! ――純! 聖! 楽しみにしてろ! 明日のユキの顔、女の爪痕だらけだぞ!」
「「…………――」」
真顔無言の聖と純。それを“何だよコイツ等、ノリ悪ぃ”みたいな表情で眺める陽介。
なぜ無言の真顔かって? そんな事は……――
―「は? 俺が何だよ?」
ついさっき、〝本人が来た〞からに決まっている。
陽「ユッユッユキーー!!? いつの間に!?? なっなっ何だよ!? ユッキー? 遅ぇーんだよ!! ただの暇潰しの冗談だ! 乱入する気なんてねーって! 悪かったよ……〝ユキなんて引っ掻かれちまえ!! 〞なんて思ってねーよぉ……」
雪「……何の話だ……?……」
陽「へっ!!? えっ? ユキぃ聞いてたんじゃ……――いっいや! 何でもねぇ!!」
勝手に陽介が暴露した。自滅行為である。
雪哉は店内を見渡す……――
雪「百合乃はどうした?」
陽「まだだ! アイツはどれだけルーズなんだ!!!」
―ガンッ!!
イライラとした陽介が、近くにあった椅子を蹴った。………――するとその椅子が、近くにいた違うグループの男の足に、ぶつかった。
―「おい、今これ蹴ったのはお前か?!!」
向き直った男は、怒って陽介に掴みかかった。
陽「あ゛? だったら何なんだ?……――」
陽介が睨みつけながら、男に返す。
―「何だと!テメー!!!」
陽介の態度を前に、男は当然もっと怒った。
男は陽介を殴ろうと、拳を構えようとする。……――だがその手には、吸いかけの煙草がある。〝邪魔だ〟。
男は陽介を殴る為に、持っていたタバコを苛立ちながら、乱暴に投げ捨てる。…――
すると、その投げ捨てられたタバコは……――
―ジュッ!
聖が飲んでいた、酒の中に入った。
そして不機嫌になった聖はその酒を、タバコを投げた男の、“連れたち”にブッかけてやった。
……――酒でビショ濡れになりながら、その連れの男が舌を打つ。苛立ったその男は、聖に向かって、メニュー表を投げつける……――
―シュッ!☆
だが聖は、それをサッとかわした。だがそうしたら……
―バサッ……!!
聖の後ろにいた純に、ぶつかってしまう。
ぶつかってきたメニュー表を純は床に投げ付ける。更に苛立ちをぶつけるように、テーブルを拳で殴った。……――
―ゴンッ!!★
――するとその衝撃で……――テーブルに置いてあったスプーンが飛んでいく……
―ピョ~~ーーン!!
そしてそのスプーンは……――
―コツンッ!!☆
雪哉にぶつかった。
「「「「……………―――――」」」」
一気にいろいろな事が起こり、一瞬この場は、不気味に静まり返った。――だが数秒後、各々が、怒りに目を血走らせながら、顔を上げる。そして……――――
聖「〝オレの酒っどうしてくれんだ!!!!〞」
―「〝テメーぶっかけやがったな!!!!〞」
―「〝許さねぇーー!!〞」
純「〝メニュー表投げた奴っ誰だ?!!!〞」
―「〝俺だ!!!!〞」
雪「〝純!スプーン跳ばしやがったな!!!〞」
全員が、キレ始める。
そして単細胞な彼らは……――乱闘に突入するのであった……――
夜のバーに、拳が飛び交う…――
―ガンッ!
陽介が男の顔面を殴り付ける。……――相手を小馬鹿にするように、フッと笑ってやった。“お次はこちら! ”と……――陽介は他の男の胸倉を引き寄せる……――
「!? ッ! 放……―っ!!」
拳を構える……――――
この男の顔面にも、一発くれてやった……―――――くれてやったの、だが……―――――――
―ガシッ!!
吹っ飛び際に、しっかりと腕を掴まれた。
陽「へっ?!! ……――」
そして……
―ガッシャーーン!!!
殴った男と一緒、ガラスへと突っ込む羽目に。
陽「痛゛ってぇェ~~ーーっ!!! テメー!! なに俺を巻き添いにしてんだーっ! 放せやっ!」
「誰が放すかっ! コノオレンジ野郎ーー!!」
吹っ飛び際に掴まれて、男と一緒にガラスへとダイブしてしまった。
……――派手に店のガラスを破壊した。ダイブした先に、外の空気が広がっている。
散らばるガラスの欠片……―――夜の風………
――“ふん。またやってる”。――と、気にせずグラスを磨く、店のマスター。
この店にとって、こんな光景は珍しくも何ともない。特に止めもしない。
そしてマスターが磨いたグラスを満足げに眺めている頃、陽介は……―――掴まれたまま、馬乗りにされ中だ。
―ドカッ!!
「う゛っ!!」
そして陽介の危機に、その男を横から蹴り飛ばしたのは、雪哉である。
陽「Thank you☆ユッキ~♪ 格好いいー♪」
雪哉に抱き着く陽介……――
雪「気持ち悪りぃーー!!」
―ドン!
陽「ユッキィ冷てぇ~~!」
即刻、陽介を振り払った雪哉…――
―ドカン!!
そして振り払われた陽介がぶつかった相手は……―――例の、メニュー表を投げた奴。そしてソイツは現在、純と取っ組み合い中である。
「ウオッ!?」
―ツルンッ!
―ズザザザザ!!!
男は吹っ飛んできた陽介とぶつかり、その衝撃で足が滑ったのか、床へとダイブだ。
純「よぉ! 吹っ飛び所が完璧だったな、陽介!」
陽介を褒める純。
陽「〝当たり前だ! 〞」
吹っ飛んできたくせに、格好をつける陽介。
そして、滑っていった奴は……――
―ドカ!
―ドカ!
「へッ!!?」
自分の仲間にぶつかった。そしてソイツも、あと一人の仲間にぶつかった。
聖「あ! ドミノ!」
そしてその、ドミノ倒しの奴らの目の前にいたのは……――“聖だ”。
そしてソイツの倒れ際……――その男の持っていたオシャレな赤ワインを……――
―パシッ!
聖「あ? サンキュー」
聖がしっかりと、〝キャッチ〞した。
―ドッカーーン!!!
―♪♪☆♪♪*…*
そうしてドミノになった野郎共がステレオへと突っ込み……――
―♪*♪*♪♪―♪
いい感じの音楽、再生中……―――――
そしてそこに――
―「みんな元気してたー?」
聖「久しぶりだな!
〝百合乃が登場した〟。
―**☆…♪♪*♪
音楽が響く―――
片手には赤ワイン―――
聖「百合乃、いいワインがちょうど、手に入ったところだ! 今夜はパーティーだな!」
―♪♪―*―♪♪*
百「素敵ね」
得意げに笑う聖。微笑み返す百合乃。――〝これってShall We dance?〟 ……――
―*♪♪―**♪…
―*――♪――♪*
――♪――――*――――♪――*―……
素敵な音楽、差し出される赤ワイン……――百合乃の気分は最高だった。……――だが、床を見ると……
百「…床で伸びてる男共はなに?」
聖「………………分からねぇ! いつの間にか伸びやがった!」
百「へぇー、邪魔! 」
―ドカッ!
百合乃が床に倒れている男を蹴った。蹴られた男が、低く唸る……
そうして男を放っておき、話しを切り出す百合乃――
百「私がアンタたちを呼んだ理由、わかる?」
椅子に脚を組んで座る百合乃。その脚は、倒れている男を踏みつけている。
「RED ANGEL」
百合乃は四人の事を見ずに、ただ静かに頷いた。
百「……巻き込んで悪かったって思ってるわ」
雪「謝んなよ」
純「オレらだって、他人事だとは思えねーよ」
そう言うと百合乃は、微かに笑みを作った。……――その笑い方は、単純に喜んでいるようにも、何かを企んでいるようにも見える。
――〝……何だ? 〟――
全員が、その違和感を感じた。 違和感を抱きながらも、話は進んでいく……――
純「けどよ、どうしてRED ANGELなんかと……」
純が怪訝そうに問い掛ける。それは全員が思っている事だった。
百「そんなこと……――」
一度瞳を泳がせてから、百合乃は言葉につまる……百合乃の表情は暗い。……――
その時……――
―カラン
店のドアが開く音が響いた。店へと入ってきたのは、何人かの若い男だった。
百合乃、聖、雪哉、陽介、純、五人全員が入ってきた男たちへと視線を向ける。
入ってきた男たちは何故か、唖然とした表情をしていたのだ……―――
―「何だよこれ?!」
一人の男が、何かに驚いた様に言っている。
そしてそんな様子の男たちを、何気なく眺める五人…――
―雪「何でアイツら入ってくるなり、あんな表情なんだ?」
―陽「さーな! 気が滅入ってるんだろう!」
―純「……野郎共が集まって、全員で滅入ってるのか!? 」
―聖「なんか面白ぇな」
―百「誰か話しかけてみなさいよ!」
―雪「話しかける必要なくね?」
―陽「ユッキー、慰めてやれよ!」
―純「…雪哉が慰めるのか!?」
―聖「なんだか面白ぇ!」
皆でコソコソと話していると、男たちが此方を向いた。
陽「こっち見てるぞ!? 慰めてやれよ!」
……すると男たちの表情が、一気に怒りの表情へと変わった。
雪「見ろよ? 怒ってんだろ! オレじゃ不満らしい!」
純「慰めるつもりだったのか!!?」
すると、声を掛けられる……――
「おい! ソイツらやったのは、お前らか??」
男が百合乃の脚を指差して言った。正しくは、百合乃が踏みつけている男を指差して言った。
……――全員の視線が、百合乃の脚に集まる。……
百「なに見てるのよー?」
何故か、嬉しそうに言う百合乃。すると…――
「テメーの脚はどうでもいい!!!」
さっきの男が、すごい形相で返してきた。
百「あぁ~、コッチ?」
不機嫌そうに笑って言う百合乃……――踏み付けている男の背を、靴の先で突っつく。
百「私は知らないわよ! この男ら、四人に聞きな!」
男たちの視線が、聖、雪哉、陽介、純の四人へと移る。
「テメーらがやったのか!!!」
男が四人を怒鳴った。
…………――。
…普通はここで、喧嘩になるところだが……――“え?”と言ったように、目をパチパチとさせる四人……
――〝オレたち、それほどの事したか?!〟 ――
考えを巡らす四人――
(あれ? どうして喧嘩になったんだ? 陽介が蹴った椅子が、アイツにぶつかって……陽介とアイツ、ガラスに突っ込んで……雪哉が蹴り飛ばして……陽介が抱き着いて……雪哉が振り払って……陽介吹っ飛んできて……陽介がヤツにぶつかって… …ヤツは床に沈んで……純が陽介を褒めて……ヤツはアレにぶつかり、アレはソイツにぶつかり……ソイツは聖に、〝赤ワインをあげた!〞)
〝なんだ! 丸くおさまってんじゃねーか!〞(思い違い)
聖「俺らの中でもう話は済んでる。だから、お前らと喧嘩する理由はねぇ」
勝手に話が済んでいると思い込んでいる四人。当たり前のような顔で聖が言った。
だがその時…――
―「う゛……コノヤロォ……許さねぇ! ……」
倒れてた男の一人が、意識を取り戻した。
――“許さねぇ! ”――
許さねぇ?
ゆるさない?…
「話、済んでねェーじゃねーか!!!!」
「コイツらやっちまえーー!!!!」
四人「「「「っ?!! ……」」」」
――〝えー…… 何故こうなる!? 〟――
――こうして、第2ラウンドが始まったのだった。…――
―――――
━━━【〝
なぁ、ガラスにダイブ……――結構痛かった!
――オレ、今日はもう、大人しくしとこうと思ってたんだぜ? ……――なのによ? 〝どうして再び乱闘突入!? 〟ふざけてやがる!
―ちっ!
舌を鳴らす俺……――
「舌打ちしてんじゃねー!!」
男が殴り掛かってくる……――オレはうまく避ける。そして……――避けられて前のめりになった、コイツの……――
―ドス!
〝腹に一発〟。
男は低く唸った。
〝わー! オレすげぇー! しかもCOOLに決まった!! 一発だ!!〞
〝ユキ、聖、純、百合乃! どうだ!? 〞
自慢したいオレは、辺りを見渡す……
〝ユキーーー! オレの活躍見たかー?〞
オレはユキの方に振り向く。
―ドカッ!!
ユキが殴って、相手の奴が吹っ飛んだ。ゆっくりと、その男へと近づくユキ……――
相手の男は少し体勢を立て直して、鼻血出しながら、ユキを睨んでる。
「あ? なんだその目」
……――冷めた目で言う。悪役のような雰囲気を醸し出すユキ……つーかこれ、どっちが悪役なんだ!? もしかして! オレたちが悪役か!?
ユキは相手の男の胸倉を掴んで、引き寄せる。そいつの目を見て一言。……――
「お前じゃ相手にならねぇ――」
口元は怪しげに笑っている。……ユッユキ……お前悪役だな!……
つーか、ユキ全くオレの活躍見てない!
もういい! 純に褒めてもらうか! ……――続いて、純を見るオレ。
あっ! 純が相手を馬乗りにしてる!
――……やっぱりな? こいつらじゃ、オレたちの相手にならねぇ 。
「どうした、終わりか? ……――あ? 何とか言えや」
…………。
第三者の目として見てみて、オレは知った。〝ユッキーも純も、まるで悪役だ!〞オレらって悪い奴だったんだな!
あ~あ、コイツら弱ぇし、何だかつまらねー! 〝誰かこの喧嘩を盛り上げろ!!〞オレがそう思い至った瞬間……――
〝Wow!!☆〞
オレの視界に聖が、とび蹴りで登場!
〝いいぞ聖! 盛り上げろ!〞
澄ました顔をしながらも、聖が派手で暴れている。そして……――
「あ?」
気配を感じ、純が振り返った。見るなり絶句だ。……――
「ハァ!? おい待て……っ…来るなっ! 」
聖ぃ~?? やってるな~!! 相手に飛び蹴り食らわして、宙を飛ぶ……――!!
そしてその飛び蹴りにまさに今、純が巻き込まれる直前だ!☆
〝既にもう、避けられっこねぇ距離だ!☆〞
―ドッカーーン!!!!
「ぅおわ~ーーーー!? 聖っテメーー!!」
―ズザザザザザザザザザ!!!!
聖が相手の奴を飛び蹴りし……――巻き込まれて、〝一緒に純も吹っ飛んだ〞。
―トン!
聖は無事に着地だ。
「あ? やべぇ、純、巻き込んじまった……」
そして聖が振り返った先で、純がフラフラと立ち上がる。
「ヒジリィ……テメー! 誰を飛び蹴りしてやがる!!」
純が、物凄くキレている……
「悪ぃな。久しぶりで脚が鈍っててよ」
――すると純が、聖へと提案する。
「おい聖、丁度いい機会だ! テメーとオレ、どっちが上かはっきりさせようぜ!」
?!……――なんだコノ展開?!
けど……――すげぇ面白そう!!
陽「なぁユキ!オレらも参加しようぜ!」
雪「…オレもそう思ってた」
ワクワクとしてきた俺は、笑顔でユキの方を振り返って言った。
やはりユキも、考えている事は同じだ。
ユキとオレ、顔を見合わせてニッと笑い合ってから、聖と純の方へと駆け出した――
―――――
━━━【 〝
私ずっと、頬杖を突きながら、黙って傍観をしている。 何だか退屈。……
あいつらは、今度は仲間内紛争を始めるみたい。
………――私、眠くなっちゃった。私は目をとじる……―――音だけが聞こえてくる………
―ガシャン!!
―バコッ!!
陽「いっでぇェェ~~っ!!!」
雪「いちいち声がでけぇ!」
―ガッ!!
―ドン!!
―ゴク…
純「なに酒飲んでんだー!」
聖「あ? …一口だけだろー!」
―ドッカーーん!
陽「痛っ…」
―*♪♪♪♪♪♪*♪♪
純「歌再生したの誰だー!」
聖「〝オレだー!〞」
雪「バカかー!」
―ガンッ!☆
―ドス!☆
―バコ!★
―♪♪♪♪♪♪♪♪♪*
陽「あぁーー!! 〝意味分からねぇーーー!!!〞」
………私はゆっくりと、目を開ける。〝あぁ~うるさくて眠れない!!〟
誰が音楽かけた? とか、酒飲むな、とか……変な会話をしながら四人で、喧嘩している。いや、子供みたいに、遊んでいるだけ……
なんだ……私と一緒に族やってた頃と、何も変わってないじゃない? それが何だか、無性に嬉しかった。
百「アンタたち、そろそろ大人しくしな!」
一瞬にして動きを止めて、四人が私の事を見た。
聖「……百合乃が言うなら、やめるか……」
すると一度顔を見合わせてから、全員が素直に頷く。
――私は、コイツらがまだ族をやっていた時の、BLACK MERMAIDの総長だ。
そして私は今でも、BLACK MERMAIDの総長を務めている。
――――もう族は辞めたくせに、今でも私の言う事、素直に聞いてくれるのね……
四人揃って辞めちゃってさ? ……アンタたちに私の気持ち、 分かる? ……―――
―――――――
―――――――――――――――
――…さておき仲間内紛争もおさまり、この場は仕切り直しだ。…――そう思い、全員が椅子に座ろうとした。だが、そこで彼らは気が付いた。
陽「椅子がねぇぞ!?」
暴れすぎて、椅子が破損している。もちろん、テーブルもだ。
そして、辺りを見渡してみる彼ら……――ズタボロの店を見て絶句している。
……――店のガラスが、派手に割れている。
そして、初めに喧嘩相手であった男たちは……――仲間内紛争に巻き込まれたのであろう、ぶっ倒れていたり、隅の方で顔を青くしながらブルブルと震えていたりと、そのような感じだった。
百「今夜はパーティーじゃなかったわけ? ……アンタたち、会場を破壊しすぎよ!!」
「「「「すみませんでした……」」」」
百「せっかくの再会が台無しね!!」
「「「「すみませんでした……」」」」
当然百合乃から、説教タイムだ。
百「場所を移すわ」
彼らは今夜の集いの場所を移す事に。
因みに飲んだ分は、しっかりと支払う。――『弁償代?……――あぁ、“彼らへ”!』――全く、理不尽極まりない四人組である。
喧嘩で破壊した店内の弁償代は、負けた側が払うという暗黙のルールが存在しているのだった。仲間内紛争の分は、シレッとしながら内緒である。
場所を移す事にした五人は、ズタボロの店を出て行く…――。そしてその、移動中の時のこと……
陽介は一人で走り出す。彼が一番先頭だ。そしてその後ろに雪哉と純がおり、それぞれの距離は、そこそこ離れている。…――そして一番後ろには、百合乃と聖が一緒に歩いていた。
「……――どうしてRED ANGELなんかと、仲間になった?」
そう、先程は突如喧嘩が始まってしまった為、結局その答えを、百合乃の口から聞いていなかったのだ。
聖は怪訝そうな表情を、百合乃へと向けている。
そんな聖の表情を見て、百合乃は躊躇うように、目を泳がせた。
黙っていると、再び聖が言葉を続ける……――
「総長のお前に、決定権があったんじゃないのか?」
「仕方、ないじゃない……」
「何がだ? 誰かに脅されでもしたのか?」
「…………違う」
「なら、どうしてだよ!」
聖が強めの口調で言う。
…――聖の不機嫌そうな声……――それを隣で聞いた百合乃は一瞬、瞳を見開き、表情を無くしていた。……――その一瞬が過ぎ去り、百合乃に不機嫌な表情が浮かぶ。不機嫌な瞳を、聖へと向けた。
「分からない」
「何が分からないんだ」
「違う」
「あ?」
「“分からない? ”って、聖に聞いてるの」
「……何をだよ?」
「……――分からないよね」
百合乃は何を言いたいのか、百合乃が何を思って、こんな事を言うのか、聖には分からなかった。
聖は困ったような顔をしながら、少しの間、百合乃の言葉について考えていた。結局何も、答えは浮かばないのだけれど……――
そして百合乃も黙り込んでしまって、何も言わないのだ。
妙な沈黙が続いたまま、暫く二人、隣同士で歩き続けた。この沈黙の意味も分からぬまま、聖はただ、歩いていた。すると……――
「ねぇ」
百合乃が再び、声を掛けてきた。
「何だよ」
聖はぶっきら棒に答えて、隣を歩く百合乃へと、視線を向けた。
……―――聖は目を見張った。
「聖ぃ、戻ってきてよ」
百合乃の表情が、泣き崩れそうだったから……―――――――
――――――――――
――――――
*―――*―――*――――*――――*―――*
海を失っては、生きていけない人魚は
その命を繋ぐため……
自らの涙で
ソノ身を・潤す……――
*―――*―――*――――*――――*―――*
――――――
――――――――――
――――――――――
――――――
━━━【〝
「ねぇ、戻ってきてよ」
繰り返された言葉。今度は酷く冷たい目をしながら、百合乃は言った。
その目には、感情がこもっていないように見えた。けれど逆にその目は、感情を通り越した果ての、“黒いモノ”を映している気もした。
……――その目が、ショックだった。その目を見た時、鳥肌が立った……――
「ねぇ聞いてるの? 聖?…――」
黒い人魚がオレの目の前で、不気味に口角を吊り上げる……――オレの中でその百合乃の瞳が焼き付いて、消えてくれなかった。……
百合乃、お前はその瞳の奥で、何を渇望している……―――――――
―――――――――
――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――
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