Chapter 2 【それぞれの物語】

Episode 7 【花火】

Episode 7 【花火】

*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*


 少しだけ首を傾けて…――そのまま、狙いを定めるように、片目をつぶる。その口元は、得意げに笑ってる。


「運が悪かったな? 後悔しろ」


 緊張が走る――


 引き金が・引かれる……――――


*―*―*―*―*―*―*―*―*―*


――――――

――――――――

――――――――――――


「わー! ありがとう! オニーちゃん♪」


 幼稚園児くらいの小さな女の子が、無邪気に笑う。

 その周りには、同じく幼稚園児くらいの男の子や、女の子が何人かいて、皆、おもちゃやぬいぐるみを持って、嬉しそうに笑っている。

 女の子にうさぎのぬいぐるみを渡すと、嬉しそうな表情はより一層強いものになった。


「兄チャン、すげぇーな?! 何者だ!? 昔ゲーセンにでも通ってただろ!?」

「でもよぉ、勘弁してくんねぇか? 俺ら赤字になっちまうもんでよ?」

「あぁ。やめときます。もうガキには取ってあげましたし。……運悪いっスね? オレに頼んだ事、後悔してますか?」

「ハハハッ!! そりゃ後悔したわ! 兄チャンに全部あてられるとは思ってなかったもんでな!」


 屋台のおじさんが、豪快に笑った。


 そうこの間、誓は言った。 『また会わないか?』って、 そうあの日、私と誓はまた会う約束をしたんだ。誓と一緒に、花火大会に来た。


……――あの時の……“誓と抱き合った時”の事は、よく分からない。私も何も言わないし、誓も何も言わなかった。

 どうしてあの時、誓は私の事を抱き締めたんだろう?……――

 誓の気持ちは分からなかったけれど、また会う約束が出来て、こうして会えて、確かに嬉しいのだ。――そして今日が、約束の花火大会の日。


……――ここで少し、先程の事の成り行きを簡単に説明しよう――

―――

――――――

 花火大会に来た私と誓は、花火が上がる時間になるまで、屋台を見てまわっていた。するとその時、子供が駄々をこねるような声が聞こえてきた。


―「お姉ちゃんお姉ちゃん、あれがほしいよぉ。可愛いくまさん…ほしいよほしいよぉ」


 見ると、射的の屋台のところに幼い姉妹がいた。幼稚園児と、小学校低学年くらいの子だった。


 妹は射的の景品のくまのぬいぐるみを気に入ってしまったようで、駄々をこねていた。


―「だめ、だめー! だめなの。だってお金はらうんだよ。ないもん!」

―「ヤダー!」

―「お金はらわないとダメなのー! 泥棒さんになっちゃう」


 その時、射的の屋台のおじさんが私たちに話しかけてきた。


「おいおい、そこの兄チャン姉チャン!」


 屋台のオジさんが、私たちを手招きする。

 私たちは一度二人で顔を見合わせてから、屋台の方へと行った。


「兄チャンどーだ? なかなか、こういうの得意そうな顔してんじゃねーか! 可哀相だと思わねぇ? この子たちに取ってやってくれよ??」


 もう一人の屋台の人も『うん、うん』と頷きながら私たちを見た。

 すると誓は答えた。


「あぁ。任せて下さい。結構得意です」


 私この時、ちゃんと思い出した。“誓は、警察官だ”って。

 そうか!確かに、誓の言った通り、なのかもしれない。

 そうして、“慣れている”とも言えるような手つきで、玩具の銃を持つ誓……――

 何だか格好良くて、一瞬ドキッとした。


―バンッ!


 放たれた玩具の弾は、見事に狙いのぬいぐるみに命中した。


「すごーい! 誓、なんだね!」

「まぁな」


 興奮して笑顔になる私。 ――けれど、だんだんに“結構ではない”、ということが明らかになっていく――


「くまさんだ! ありがとー♪」


 女の子は嬉しそうに、ぬいぐるみを受け取る。

 そして、この子のお姉ちゃんにも向き直り、誓は問い掛ける。


「キミは? 何が欲しいんだ?」


 誓はお姉ちゃんにも、景品を取ってあげるつもりだ。


「わー! あたしにもくれるのー! わーい!」


 お姉ちゃんも、とても喜んでくれている。

 猫のぬいぐるみを取ってあげると、ぬいぐるみを抱き締めながら、嬉しそうに笑っていた。

 笑顔へと変わった姉妹の事を、私と誓は微笑ましく思いながら眺めていた。するとそこへ……――


―「あっ! ゆーちゃんといっちゃんだー!」

―「あっ! ずるーい! お兄ちゃん、なっちゃんにもちょーだい?」


 何処からか、この姉妹の友達らしき二人がやって来た。この子たちも玩具が欲しいのだ。


「ちょっと待ってろよ?」


 誓は、その子たちにも優しく笑いかけた。


「今、取ってやるから」


 この子たちを見る、誓の瞳が澄んでる。優しくて、とても綺麗な瞳――。子ども、好きなのかも。けれど……――


―「おもちゃおもちゃ♪」

―「ボクもいるー!」

―「わんわん取ってー?」


なんだか、増えた。……――


―「ねぇねぇ! お兄ちゃんがねぇ! おもちゃくれるよー」


なんだか、呼んだ。……――


―「えー! くれるのー?♪」

―「わーい♪」


――何なんだ? この、ちびっ子たちの連鎖は……?


―〝わー!!!おもちゃー!!!〞


 玩具を貰える事を鋭く察知した、ちびっ子たちの連鎖反応だ。……

 あれ? 誓? ちびっ子たちが増える度に、随分、疲労感のある顔をするようになったね?……

――そうして後はもう、誓が疲労感たっぷりの表情で撃つから……何て言うか、銃撃戦のようだった。……


―バン! バン! バン! バン!


―わー!お兄ちゃんすごーい♪


―バン! バン! バン! バン!


―わー! おもちゃだー♪


 あぁ。この人、“結構”じゃない。だ…!

 残酷なまでに元気なちびっ子たちを見ながら、私はそう思っていたのだった。


 そして、だんだんと屋台のおじさんたちの表情が、焦ってきた……険しくなってきた……あぁ、何だか気まずい。……屋台のおじさんたちと、気まずい。

 ……すみません。赤字ですね? “営業妨害ではありません”。 ただ単純に、良心が生み出した、この結果です。

 “良心と見せかけた”、“実は営業妨害”だなんて……――そんな回りくどい嫌がらせでも、ありません。

 なので、そんなに険しい顔をしながら、“無言の圧力”を飛ばしてくるのは、止めて下さい……

 そしてその無言の圧力に、薄々と気が付き始めた誓。銃を構えながら、屋台のおじさんたちに一言……――


「運が悪かったな? 後悔しろ」


 あれ、誓? 挑発的な口調だね? ケンカ売った?!……けど、気のせいよね? この人、警察官だし。そうね! きっと気のせいだわ…!

―――――

―――――――――

 ……とまぁ、事の成り行きは、こういう事だったのだ。


―「わーい♪ 可愛いぬいぐるみさん♪」

―「赤い車ー♪ かっこいいだろー♪」


 皆で嬉しそうにはしゃぐ子どもたち、可愛らしいな……


「子どもたち可愛いらしいね。誓のおかげだよ?」

「……何だが、すげぇ疲れたけどな……まぁ良かったよ。……――なぁ、子ども好きなのか?」

「うん。好きかも。……――私むかし、妹の事すごく可愛がってたんだよ。その名残かな」

「瑠璃は妹がいるのか?」

「うん。やっぱり今でも、“可愛い”って思うよ」「仲いいんだな。……――オレには弟がいる」

「誓は弟がいるんだ! 何だか見てみたい!」


 私たち、お姉ちゃんとお兄ちゃんだったんだね。――誓の弟かぁ、どんな人なんだろう?

 ワクワクとした気持ちで、私は誓の方を振り返った。けれど、そしたら……――


「……あいつ、何処にいるのか分からねーんだ」


誓は弟を心配する兄の顔で、そう言っていた。表情はあまり変わらない……――けれどその瞳は、確かに悲しそうだった。


 数秒の沈黙……――


 〝私、まずい事を言ってしまった? 何て言葉を返せば、良いだろうか……〟――そう思い、私は焦っていたけれど……――


「瑠璃? …どうかしたか?」


 誓はすぐにいつも通りに戻っていて、黙り込んでしまった私の事を、不思議そうに見ていた。


 “あぁ、良かった……”


 私はホッと胸を撫で下ろした。


 私にも、妹がいるからだろうか?それとも、誓の弟の事が、絵梨と重なって感じたからだろうか?それとも、私が誓に惹かれているからだろうか?…――


――“心配だよね”――


 胸が痛くなった。自分の事のように……――そうして思う。“私も、妹が心配だ”と。

 結局絵梨は、理由は何も話してくれないのだ。ただ、“辛い”、“嫌だ”とか、感情を口にする。

 負の感情を自分の中に閉じ込めておく事は、堪らなく苦しいだろう。それらを自分の中だけで、全て昇華するのは大変だ。まして絵梨のように、感情的になっていると、昇華する事はおそらく難しい。

 だから理由なんて、まずは、どうでもいい。吐き出す事を吐き出して、気持ちが軽くなるならいいって・そう思っていた。

 けれどそれだけでは、やってやれる事は限られる……

 “理由”を、聞いた方がいいのだろうか?聞かれる事、嫌じゃないかな?けど、もしも聞いて、助けてあげる事が出来るなら……――


「弟、心配なんだね」

「……少しだけな。大した事でもない」

「私も、妹が心配なんだ……辛そうに、ずっと泣いてた……“嫌だ”って泣いてた」

「……――瑠璃は、いい姉貴だな」


 そう言うと誓は、何処か哀愁を帯びた……――けれど優しい目をしながら、私の頭を撫でてくれた。

 頭の上に置かれた手へと、視線を向ける……――そうしてからまた、誓へと視線を戻した。

 自分が哀しそうな瞳をしているのに、あなたは私に、優しさをくれる。


 ……“ねぇ私、どうしたらいい?”私はあなたに、どうしてあげたら良かったのだろうか?

 ……ごめんね。私はやっぱり……あなたから見たら、子どもなのかな……


 頭を撫でてくれる優しい手が嬉しいけれど、自分の事が少しだけ、不甲斐なかった。


―バァーン――…!


 夏の夜空に、華が咲く……咲く……――


 幻のように美しく輝いては、散り散りになって、消えてゆくけど……―――


――花火の音と共に、浮かんでくる。記憶の中でも、夜空に華が咲く……――あの夜空に見とれて、あなたを、見つけた……


――夜空を眺めるあなたの、横顔を見つめる。頬は熱を帯びて、また、自分が分からなくなる……

 これは、夏がくれた、幻だろうか?……――


「なぁ、妹、どうかしたのか?」


 横顔に見とれていると、そう言って誓が振り向いた。


「うん……」


 考え込むようにただ頷いてから、 咄嗟に私はまた、空を見る……――


 夏の夜空に、たくさんの光たちが放たれる。こんなに綺麗なのに……――


「瑠璃」

「何?」


――どうして……――散ってしまうの?……


「辛そうな顔するなよ?」


……――ずっと、咲いていれば、いいのに……――


「瑠璃はただ、妹の味方でいてやればいい」


――なくならなければ、いいのに。……


――夏が終わっても、消えないで……―――


「ありがとう。……――ねぇ、誓は大丈夫?」


 気持ちを落ち着かせて、もう一度、誓の方へと向き直る。


「何がだ?」


 すると誓もまた、夜空から私へと視線を戻した。


「弟のこと……」


 夏の夜、夜空の華の下で、向かい合う……―――


「あいつは……―――」


―バァーン…――


 その時一番の大きな華が開き、私たちはまたふと、夜空へと視線を戻した……――――

 言葉も忘れて、大輪の華へと釘付けになる――


――あなたは一体、何を話そうとしていただろう…?――


――あの華へと見とれて、私たちは口をつぐんだまま…――




*―――*―――*―――*―――*―――*


――儚いと知りながら、どうして、夏の夜空に咲きたがる?……――どうして、夜空に恋をした?――


*―――*―――*―――*―――*―――*




……――光の降る夜空の下で、顔を見合わせて微笑み合った。今だけ不安から逃れて、故に意図して言葉を忘れたまま……――


―――――――――――――――――

―――――――――――

――――――



━━━━【〝■■■???〟Point of v視点iew】━━━━


 薄暗い部屋に、煙草の煙りがたち込める……

 黒いカーテンは半開きになっていて、月の青白い光が、怪しげに部屋に差し込んでいた――


「で?…あいつら、どーすんだ?」


 一人の男が言う。この男の他にも、部屋にはあと二人の男がいる。


「どーもしねぇ。出来ねぇだろ?」

「……一度手ぇ組んだんだ。尚更、疎遠なんて無理だろ」

「出来たなら、その時は……――」


――『その時は』と話し、一人の男は手を銃の形にした。そうして、いたずらっぽく言う……――


の餌食になった時だろう…――?」


――手で作った銃の形を、初めに話を切り出した男に向ける。“コイツ”というのはの事だろう……

 手の銃を向けられた男は、その脅しに顔を真っ青にさせている。


「お前、嫌な事言うな。……――どう思う? なぁ、“聖”?」


 男は話題を別の者へと…――“聖”へと振る。


聖「あいつらは、裏切る奴に容赦しねぇ。……俺らに隠れて、相当な事してるらしいからな」

「口止めにも、相当意欲的って訳だ」

「んだよ!? 二人揃って! 冷静ぶりやがって! なぁなぁ! “ユキ”はどう思う?!」


 部屋を見渡す男……――


「ユッユキ!? あれ? ユキどこだ?!」

「いねぇーよ。今頃気が付いたのか?」

「はっ?! 何で!? ユキどこ? ユキどこ?! “雪哉”くんどこですか?!」


――そう。雪哉がいない……――


「うるせーな、だいたい予想つくだろう?」

「……そうか!? ユキの奴っ! また俺に黙って女か!?」

聖「……お前に言う必要ねーだろ」

「ユキの奴! 新しいの見つける気か?! それとも定番か?! それとも“ブロンドのネコ”か?! ユキの女ったらしっ! そのうち殴られるぞ!」

聖「うるせぇーな。お前も雪哉の女にでもなっちまえ」

「ひっ聖!? 冗談きついっ!」


 雪哉は一体、何処へ行ったというのか……――


*******


━━━━【 〝ERI〟Point of viewエリ視点】━━━━


 どうやら、今日は花火大会らしい。さっきから大きい音が響いてきていて、夜空がチカチカと光っている。


 今、私といるのは、雪哉な訳だけど……コイツって、本当に意味が分からない。……――と言うか、まずコイツ、何だか不機嫌……

 怒りたいのはこっち。この間だって、最悪。私は『聖がいる』って言ってるのに、止める気ないの。――他の人がいる前で、嫌に決まってるじゃない?

 止める気ないから突き飛ばして、『大嫌い』って、言ってあげた。


「なぁ、絵梨」

「何よ?」

「オレはお前が…………」

「……――。何よ? 早く言いなさい?」


 平気で人を傷付けるし、女たらしだし……コイツって、本当に最低よね。


「……――」


 何も、言わない。……どうしちゃったの? 私の目も見ようとしないの。……失礼な奴だわ。

 するとふと、額の傷が目に付く……――そう言えば、額の傷、随分と良くなってきた。


「良くなってきたわね」


 私は額の傷を、そっと撫でた。

――こんな奴でも、私、一応心配してあげたんだから。痛々しくて、可哀相なんだもん……?


 すると雪哉は、額を撫でる私の手を掴んだ。そしてようやく、私へと視線を向けた。


「オレはお前がっ……!」

「…………――?……」


〝だから、何で止まるのよ! 鬱陶しい!〞


 〝何よ?…〟と言わんばかりに、雪哉を睨み付ける私――。……――


「……え……」


 ……な、何? 何だか、いつもと違う……――!!? ……――……まっまさかね。雪哉が真剣そうだから、つい、その言葉の次を、勝手に連想してしまった……


――〝オレはお前が……〟――その次、何? ……。まさかね? この女好きの口から、そんな、出るわけない……よね?……


「オレはお前が……――」

「――……」

「――…… って、思ってる」


 ……………はい?!この人真面目に、何なんですか? と言うか、聖のチョイスって、どんな流れですか?!……もうホント、意味……分からない。…


 私は雪哉の事を、目を丸く見開きながら見ていた。視線が絡む……――


 アンタ、何て顔、してるのよ……どうして……そんなに………―――


「もう、お前とは遊んでやらねぇ」

「…………は?」


〝は? 〞何コイツ? 一瞬、一瞬だけ……、したと思ったら……いきなり、俺様になりやがった……。むかつく奴……口が、意地悪に笑っている。……


「何……? どっちが、遊ばれてるのよ?」


――あ、また、一瞬だけ……して……――可哀相になっちゃうから、やめてよ……


「遊ぶ女、お前じゃない奴、いるし」


 …………。ホラね……この男、最悪。……

 知ってる。私ってコイツの中の、都合のいい女の一人? アンタは私が、いろんな男と遊んでいると思っているでしょう…? 生憎、私……本当そんなに、軽い女じゃない……


「偉そうな事、言うのね」


何よ、コイツ……


「偉いつもりだ」


 いきなり、そんな事言うの……――


 喧嘩に女遊び……最悪。俺様な態度、むかつく。……


 遊ばれているのはどっち? 遊ばれたのはどっち?


 未だ、傷を撫でた私の手を、雪哉は掴んだままだ。どうして掴んでるの? 早く放してよ……バカ……


「放しなさい?」


 そう言うと、雪哉は何故だか、私の手を一度、強く握った。

 そして、ゆっくりと、私たちの手は離れた。

 その時に、 何かを、掴み損ねたような空虚感を、一瞬、感じた。


〝もっと、握っていてほしかった〟気がした…


――何?この気持ち……


“触れていたかった……”


――ねぇ、私たち、何度、体を重ねた?そこには愛は、なかったけどね……


――心は何度、重なった……――?


――ねぇ、雪哉……?


「雪哉……」


 雪哉の胸に片手をあてて、 もう片方の手で、頬に触れた。――唇と唇の触れる直前で、顔を近づけるのを止める……――“瞳は決して絡めない”。


「アンタみたいな男、好きじゃない」


――私の口が、意地悪に笑う……


〝意味のない意地の張り合い〟。心を壊すだけ壊して、私たちは何をしたいの……? ――


「さようなら、雪哉」


 静かに体を離すと私は雪哉に背を向け、ヒールの音をたてながら歩き出した……――


―バァーン


 遠くで響く花火の音が、スタートの合図……――


 角を曲がった瞬間、私の足が、勝手に走り出す……―――


 何これ? ……私、焦ってる。嫌だ。どうすればいいの?


 私、さっき何て言った? さっき、どんな気持ちだった? 雪哉……――私、今すごく怖いよ……私と一緒にいてよ…?


――嗚呼、今まで一緒にいて、体を重ねてきて、どうして今頃だろう?……――


――“これは私の、あまりにも遅い、片思いの始まりだった”……――

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