Episode 5 【気になる人】

Episode 5 【気になる人】

――*


響「で、なんでお前らまでいるんだよ?」


 約束の時間になって、私たちは今、少しお洒落なお店にいる訳だけど…――“私、誓、響”・あれ? “ハイテンションBOYS・FIVE”までいるわ。


「誘ってくれたじゃないですか?」

響「お前らは誘ってない」


 『誘ってない』と言われるとBOYSは“あ~すみません、気づきませんでした”と、確信犯の笑みを浮かべながら言った。


「そろそろ、オレらの名前とか聞きたくありませんか?」

誓「興味ねぇ」


 〝興味ねぇ〟軽く、切り捨てられているBOYSたち。――それでもBOYSたちは、名乗りたくて仕方がないようだ……


「「「「「俺の名前はっ*☆□!w▼!◎♂★➰!!!♪」」」」」

誓「あ゛っ?? 何だって?」


 一気に話すものだから、聞き取れはしないだろう。

 聞き取れないので、ご説明。


 金髪BOY・隼人ハヤト

 黒髪BOY・リョウ

 赤茶髪BOY・ヒカル

 金メッシュBOY・ミサキ

 編み込みBOY・千晴チハル


誓「悪い…一つ聞いたら、一つ忘れちまった……」(本気で)

「「「「「!!?」」」」」


 一つ聞いたら一つずつ忘れていったが、この様な調子で、何故がBOYSたちとも一緒に食事が始まった。


 そして私瑠璃は、注文した“シーフードドリア゛をただもくもくと食べながら、考えを巡らしていた――


(私は、惹かれているのだろうか? いや、勘違いかもしれない……)


岬「僕らの中で、誰が1番モテると思いますか?」

瑠「誰かしらねぇ…」


―もくもく……


(今のうちなら、セーブをかける事も出来る。“気になる”、それくらいかもしれない……)


千「瑠璃さんは、どんなヤツが好みですか!?」

瑠「“あの人よぉ”…」


―もくもく……


5人「“どの人ですか”!?」

瑠「“あの人ねぇ”…」


―もくもく……


5人「“どの人ですか”!?」


(好きになるか、友人止まりか……――それって、重要じゃない?)


岬「海と空、どっちが似合ってほしい派ですか!?」

瑠「さぁねぇ…」


――もくもく……


(気になる人が出来たら、女ってその事ばっかし? 私って、どうなのかな……)


千「月と太陽、どっちが似合ってほしい派ですか!?」

瑠「さぁねぇ…」


――もくもく……もく。


(あっ食べ終わっちゃった。……考えても仕方がないか。なるようになる――…)


隼「じゃあ、何が似合う派がいいですか!?」

瑠「えっ・?」

「「「「「!!?」」」」」


***


 食事も終わり、そろそろ解散かなと、私がちょうど、そう考えていた時だった。


響「お前ら、早く帰れ。メシ代は払っとく、だから、そろそろ帰れ!」


 やたらと、BOYSを帰らせるのに必死な響。


光「響さん、ずいぶん必死に俺らを帰らせようとしますね!」

亮「軽く傷付きますよ!?」

千「俺らの事が可愛くないって言うんですか!?」

響「あっ!店の外にお前好みの女の子!」


 明らかに、テキトーにお店の外を指差して言った響。


千「!!? ほっホントですか!」

光「どこどこ!」

亮「オレも見る!」

隼「今度こそ!」

岬「あっ!“ホントだぁ”!」


 響はテキトーに言っただけだったのに、“好みの女の子”が本当にいたらしいのだ。響自身も“え?”っと言ったように、呆けている。

 そもそもBOYSたち……――いや、“隼人たち”?は、さっきから、女にガっつきすぎだだろう。 そして……――


隼「よし!行こうぜ!」


――ガシッ


響「って!? おっ俺も!?」


(きょっ響が!? BOYS FIVEに捕まった!?連れ拐われた!?あの輪の中に響が?!)


 響は掴まれて引っ張られるまま、BOYSたちと一緒に、店の外へと行ってしまった。


(……かわいそうな響。もはや別次元なBOYSの輪の中なんて……なんていうか、もう、次元を越えた誘拐だよね……?)


 複雑な表情でBOYS + 響が出て行った扉を眺めている私と誓だった。


「あいつっ……気の毒だな」


(共感です…)


じぃ~~ーー……


 誓がずっと、扉を見ているのをいい事に……


(はっ!? ガン見してしまった!……)


 綺麗な、茶色の髪、綺麗な横顔……――落ち着いているとも、言い切れない。クールって言葉も、何処か違う。……兎に角、何かが上手うわてな、大人の雰囲気。――それなのに、軟骨にまで輝くピアスが、少し危ない雰囲気を漂わせていて……――その二つの雰囲気が私を魅了して、私を、虜にしてしまいそう……


「んっ?」


―クルッ


(はっ!? )


―クルルッ!!


「「…………。」」

「瑠璃……」

「んっ?」

「何でお前そんなに、……“んだ?」

「…………」


―クルリ


「“のけぞってない”よ?」

「「…………――。」」


 誓が、いきなり“クルッ”って振り返るから、“はっ!”っとして、“クルルッ!”って違う方向を向いたら、と言われたので、“クルリ”っと振り返り、と冷静に言い張ったら……―――ただ今、沈黙しているところです……。


(どうしよう……見てたの、気が付かれたかな? 思わず“のけぞってない”って、言い張っちゃったよ……私、絶対変な子だ……)


―チラッ


(こっち見てる!?)


………――私はすぐに、目を反らした。


(無理。……目、見れない。歳、いくつ違う?……きっと、離れてても2、3歳?……“なのに、無理だ”。自分がすごく、子供に感じる。私なんて、子供扱いされる気がする。――好きになっても、きっと相手にされない。……駄目だ。誓は、ダメ。“好きに、ならない方がいい”)


「瑠璃」

「何っ!」


 横を向いたまま答える。


「こっち向けよ」

「なんで?」

「なんでって……」

「…………」


(……また、沈黙。やだ。変に意識しちゃって会話にならない。……話しずらい子って、思われたくないのに。言葉が出てこない。―― 私って昔からこんな子だった?……)


「瑠璃?」


 誓が席を詰めて、私に傍へと寄った。……―――そして私の頬に、誓の手が触れる。

 いきなりの事に驚いて、誓を見る……――


 黄金色にも見える、誓の瞳。綺麗すぎて……――吸い込まれてしまいそう……

 私に触れたその手は、頬から髪に移り、私の髪を撫でた。


――心臓が、大きく脈打つのが分かる……この雰囲気、なに?……――もっと、この雰囲気のまま、委ねたくなる。

――髪を撫でて……――その次、どうしたい……――?自然と唇に、視線を落とす……――少し開いた唇、首筋から胸元までが、やけに色っぽい……

――絡んだ視線。引き寄せられるように、また、距離が縮まる。

 誓の手が、私の顎を、軽く上を向かせる……――



―――*“ねぇ、誓・私、アナタに惹かれる気持ちの芽を、摘んでしまおうとしたのに……

いきなり私を誘惑して、どういうつもり?

……アナタ年上だし、すごく大人っぽいし……好きになるのが、不安なの。

……――ただの気まぐれとか言ったら、責任取ってもらいますけど?”*―――



*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*


━━━【〝HAYATO〟Point of viewハヤト視点】━━━


 目の前には、クルクルと髪を巻いた子と、髪をアップにした子、そして、黒髪ロングストレートヘア……――俺の一番の狙いは、“黒髪の小悪魔”。

 甘い言葉をかけるオレ、俺様、俺様こと、金髪の似合う男・隼人様だ!

 口紅で色っぽく紅く染まった唇が、緩い弧を描く――

 彼女は満更でもなさそうだ。“これ、貰った”な?――


 “あの女”に“さよなら”と、手打ちをされた屈辱的な日から約二ヶ月…――〝俺はこの時を待っていた! 脱・独り身!〞

 彼女は恥ずかしそうに、俺を見る……――

 あ゛ん? 見ている筈なのに、俺と視線が絡まないのは、どうしてだ?……俺は疑問に思った、そして考えた……――そして俺は、後ろを振り返った。


〝ワオッ?!俺の後ろに、響さんいるじゃん! 〞


 よく見ると女共の目線は全部、響さんだ。……

 響さんを無理に引っ張ってきた事を、後悔した俺ら5人……


〝なんて不平等なんだ!?〞


亮「みんな響さんかよ!?」

光「響さん! 誰か女の子紹介して下さいよ!」

岬「響さんは何人女いるんですか!」

響「バカか? “何人”って、可笑しいだろう」

岬「とぼけないで下さい!」

響「オレ警察だぞ?!」

千「そのネタはもういいです!」

響「ネタじゃねぇよ!」

隼「ありえねぇ…オレは戻る! そんで飲み物でも飲む!」


******


―ガシャ

―カランカランッ!!


隼「聞ーて下さいよ! 誓さん、瑠璃さん、女共がッ……――!!?」


 ガシャリと店の扉を開いたオレ。呼び鈴が鳴る。

 オレ、屈辱の念を誓さんと瑠璃さんに聞いてもらおうとした。なのによ……

 オレを一瞬見た瑠璃さん、でも、すぐに恥ずかしそうに顔を下に向けた 。

 瑠璃さん、顔、赤かった。 すみません、瑠璃さん。俺が、絶妙なタイミングで帰って来たからですか? それとも、その茶髪のピアス野郎のせいですか?

 誓さんは、真顔で俺を見るし……ホントすみません。勘弁して下さい。

 ……――でもよ、この茶髪の警官、昼間からこんな公共の場で、年下の女の子に何してんだ?

 確かに店内、ガラガラだけどよ……


〝響さ~ん! 響さんの茶髪の同僚、逮捕しちゃって下さ~い!〞


*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*


━━━━【〝RURI〟Point of viewルリ視点】━━━━


 まさかの隼人の登場だ。いろんな意味で、ムリ……

 隼人は一瞬固まっていたけど、すぐにまた店を出て行った。


 私はどうしちゃったの?というか……早く、離れた方がいいのだろうか?……ほぼ密着している体、心臓もたない……


〝!? わっ私、いつの間にっ?!〞


 自分が誓の首に腕を回していた事に、今更動揺する。


 いつから!?だってさっきは、止められなかった。誓に酔ってしまって、頭がクラクラしてきて、もう、余計なこと、何も考えられなかった……。


 兎に角、回していた腕を解く。そして、私たちはすんなりと離れた。


「瑠璃……悪りぃ、嫌だったか?」

「あっあの……なんて言うか……」


 どうしよう。なんて言えばいい? ぜんぜん嫌じゃなかった。寧ろ、酔いしれてしまった。なのに、“嫌じゃない”って、言えなかった。


「……大丈夫」


 “大丈夫”なんて、どっち付かずの言葉しか、言えなかった。答えになっていない答え。 素直に、受け入れる言葉を言えなかった。

 “私なんて、子供扱いされる”って・そう、思っちゃうんだもん。……だから、少しだけ強がっちゃったのかも……


「――なぁ、今度また会わないか?」

「うん」


――私、何を考えてる?この人の事、好きになっちゃっていいの?……


 “不安がない”と言えば嘘になる。けれど私と誓は、また会う約束をした。


***


 時間は流れて、隼人たちとも誓と響とも、今日はお別れだ。手を振って、皆と笑顔で別れる。

――私は誓とだけ、こっそりと目配せを交わし合った。“また今度”って、そう言う意味。

 別れ際、誓は優しく口元を綻ばしていた。

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