Episode 4 【ありえない】
Episode 4 【ありえない】
次の日の朝、私は今日も仕事だ。
絵梨はやはり疲れているみたいで、あの後一度起きて、今度は私のベットに眠ってしまった。
私が家を出る時絵梨はまだ眠っていたから、朝食とメモ書きを残して家を出た――
****
――そう、近づくにつれ、ガヤガヤと騒がしくなっていく。……――私のお店があるショップ街に、何故か人だかり出来ている……
〝一体、なに?〟……――
――人と人の間を縫う様に進み、ショップ街を見渡す……
「?! ……」
私は目を見張った。……――
〝これは、何か……あったのでしょうか……?〟
街には私のお店も含めて、沢山のお店がズラリと建ち並んでいるのだが……いつもは綺麗なショップ街が……〝ズタボロなのは、何故でしょうか?…〟……
綺麗に一列に建ち並んでいるお店の、端から端まで、見事にガラスが割れている。
〝………。何? 何故? ……ショップ街に沿って、竜巻でも通った? 〟
“多分それは、ない”。
〝一体、何なの!?〟
中には、店内までグチャグチャに荒れたお店も何軒かあるようだ。
〝この光景は一体……?ありえないって……〟
妙な光景を眺めて歩きながら、自分のお店の前へと辿り着く。
周りのお店同様、私のお店のガラスも、派手に割れている……
お店の前ではただ呆然と、店長が変わり果てたお店を眺めていた。店長も開いた口が塞がらないようだ。
「店長、昨晩竜巻でも通ったんですか?」
「通ってない。……」
「……改築前の、破壊作業ですか?」
「そんな予定はない。……」
「………。」
〝他に何か理由ってありますか?〟
あと考えられるなら、何だろう? 頭を柔らかくして、考えてみる……―――まさか……――う、宇宙人ッ!? UFO襲来しましたか!? この広い地球の中で、まさかの日本に!?そしてまさかの私たちのショップ街に!?
考える。考えた。〝分からない〟。じゃあなんだ……――?別世界ってありですか?もう宇宙人のせいという事で……――とは、いきませんかね。
「……」
私のお店、私たちのショップ街……慣れ親しんだ街の傷だらけな光景を見るのは、すごく悲しかった。
〝この街は一体、どうしてしまったのだろう……?〟
ショップ街で働いている人たち、全員が自分のお店の中に入れなくて、道路に集まっている。異様な光景だ。
そしてその異様な光景は、警察官の整備によってなくなった。
ショップ街全体の被害だったので、それだけ警察の数も多めだったように感じる。
兎に角これでは、暫く仕事にならなそうだ。私は変わり果てたショップ街を、ただ歩いた。――こうして歩きながら、昨日の夜の事を思い出していた。
〝絵梨……また泣いたり、してないよね?……〟
「ハァー……」
思わずため息をつくと、私はショップ街の近くにあるベンチに、腰を下ろした。
人通りの多い街だ。今日この道を通る人は皆、目を見張り、ショップ街を眺めながら通過して行く。――……頭の中を整理しながら、街ゆく人を、眺めていた。すると……――
「なんの映画だよ! って感じだな!」
「SFだろ!? 」
「青春じゃね!?」
「ホラーだな!」
「宇宙だな!未知との遭遇したんじゃね!? 」
「「「「「しちゃった系ぃ~~~!!? 」」」」」
向こうで騒いでいるのは、高校生?うん。うるさい。うるさいとしか言いようがない。けれど行きつく先が“宇宙”だから…何となく親近感が……
――そして、尚も騒いでいる高校生たち。……
「カワイイね!」
「セクシィ~だね!!」
「オレ等と遊ぼうぜ!」
「彼氏いないの?だったらさッ…!」
「ダレが一番タイプ?!」
「「「「「オレだなッ!!」」」」」
………。即刻、立ち去る女の子たち。……――フラれたな。
「あ゛~~!!? 逃げたッ…切ねぇッ?!」
「きっと、お前の顔が恐いせいだぁ…」
「いや! お前のテンションがうざかったのかもしれねぇ……」
「いやいや! きっとオレ等の美顔が眩しすぎたんだ!!」
「つーことは! アレは“追いかけてほしい”ってアピールか?!!」
〝違うだろ!?自意識過剰すぎ!!〟
何故だか此方は、凄いものを目撃した気分だ……
(あっ! 警察の人が、うるさい高校生たちの方に行った……“路上で騒ぐな? とか? ナンパはほどほどに……とか? ”
あ~馬鹿な子たち……こんなっこんなっ……――! “警察官だらけの場所”で、騒がなければいいのにね……。あの子たち、何を言われるんだろう?……)
「何かお困りですか?」
ベンチに座りながら、何気なく高校生たちを眺めていたら、警察の人が私に話しかけてきた。
「いえ、ただ、私のお店も被害にあって……この街、何があったんですか?」
「……タチの悪い連中の揉め事、みたいなものです」
「タチの悪いって?」
「“やくざと暴走族が手を組んだ”、巨大な集団……」
そんな集団が、本当にいるものなんだな……表舞台には出でこない、言わば裏世界の住人の争い。表の世界にしか生きていない私にとっては、いないも同然だったのに……
どんな風に揉めれば、街中がズタボロになるんだろう?……私には全く予想がつかない。けれど、“宇宙人の襲来”よりは、余程現実的な答えだ……
「そんな人たち、本当にいるものなんですね」
そう言いながら私は、警察の人の方へと顔を向けた。
――警官と、バチッ・と……――
“目が合う”。
「…………。」
――そして私は一人、黙り込む……
――黙り込むと、先程の高校生たちの会話が、また聞こえてきた……――
――私は無表情のまま、また何気なく、高校生たちを眺める……――
「なんで警察!? オレたち、何も悪い事してねぇッスよ!」
「ただの健全な男子高校生ッスよ!」
「清く正しい僕らに何の用ですか!」
「あぁ~早くさっきの子たち追わないとッ!」
「女の子たちが泣き出す前にッ!」
彼らは立ち去った女の子たちの方しか、見ていなかった。 ――だが女の子たちの背中が完全に見えなくなると、仕方なく警察官へと顔を向ける。そして……――
「「「「「え゛ぇぇーー~~~~!!!」」」」」
〝叫んだ〟。
……――私も静かに、視線を戻す。
また、バチッ!と、目が合う。そして私も……―
「えぇェェ~~っ!!?」
〝叫んだ〟。
……――思わず叫んでしまった。唖然と呆ける。そうして言葉を失う。
――するとまた、高校生たちの方の話が聞こえてくる……――
「もしも追いかけたら、“変質者”ッつー事で、現行犯逮捕してやろーか?」
「「「「「あの時の銀髪ぅゥゥゥー~~っ!!??」」」」
……――何回か瞬きをしてから、ようやく私にも声が戻る。
「……誓?」
「やっと気が付いた?」
「…………」
「なかなか気づかないから、完全に忘れられたかと思った。……――思い出した?」
「わっ忘れてなんかないよッ!! まっまさか、……警察官だなんて、思ってもなかったからっ…」
すると誓は、『そうだよな』と言いながら、面白可笑しそうに笑った。
……――その頃、高校生たちの方では……
「警察ぅ!?」
「まっまさかな!!」
警察「俺は警察官だ」
「つーか夏祭の日、オレら喫煙に飲酒ぅ…」
警察「ついでに、俺に殴りかかった」
ギクッ……
「まっまさかな! 銀髪のニーチャンだぞ!?」
「“警官のコスプレ!?”」
警察「本物だ……!……」
***
瑠「じゃあ、もしかして向こうは、響?」
高校生たちの方を指差しながら聞いた。
誓が『あぁ』と短く答える。
やっぱりそうか。まさか響まで警察官だったなんて……あの夜、響を真面目に一瞬、“変態”だと思った自分が恥ずかしい……
けれど今は、もうそんな事はどうでも良くて……――“また会えた奇跡”に心が踊って、思考が置いてきぼりにされそうだ……
〝また会えた……本当に……――素直に、嬉しかった。そう。とても〟……――
何故だか嬉しすぎて、頭の中がぼ~っとしてしまっている。本当に思考が、置いてきぼり状態だ……――
「……あの子たちは? 知り合い?」
ぼんやりとした思考のまま、無意識に出た問い掛け。――けれど今の状態では、話しの内容なんて、頭に入ってこなそうだ……
「あぁ、あいつら? この間、知り合ったんだ」
「へぇ……――」
「まぁ、馬鹿とバカとばかとアホとマヌケ、みてぇなもんだ」
「詳しいのねぇ……――」
「まぁな。この間、酒と煙草もらったんだ」
「いい子ねぇ……――」
「あぁ。ライターも貸してもらった」
「おりこうねぇ……――」
「………。だからオレ、缶コーヒーあげたんだぜ?」
「優しいのねぇ……――」
「だろ?…――」
ぼんやりとした思考で、単純な返答だけを返す私だった。
誓と話していると、私の存在に気が付いた響が、此方へとやって来た。
「よォ、瑠璃! やっぱ、瑠璃の店もこのショップ街だったんだな」
「まぁねぇ……――」
「………こっちをチラ見してくるガキ共は、気にしなくても大丈夫だからな?」
「響も知り合いなの? ……――」
「前に一度、話したんだ」
「へぇ……――」
「あいつらは、ナスとピーマンとキュウリとトマトとゴーヤ、みてぇなもんだ」
「夏野菜ねぇ……――」
「そうだ。新鮮野菜だ。十代だからな」
「若いのねぇ……――」
「この間、言いたかった事、聞いてもらった」
「いい子ねぇ……――」
「だからオレ、あいつらの遊びに少し付き合ってあげた」
「面倒見いいのねぇ……――」
「まぁな!」
相変わらず、ぼんやりとした思考のままの返答だ。………――そして、少しするとだんだんに、頭のぼんやりとした思考が、もとに戻っていったのだった。
〝ん?……高校生たちが、こっちを見てくる……〟
五人で何かを話した後、此方を“チラッ”って見てくる……
〝何かしら?〟
……――すると、チラ見してくると思っていたら、今度は此方へと走ってきた――
――ビクッ!
彼らの走る勢いに、若干ビビる私。
「かわいいオネーサンだ?!」
「年下男子とかどうスか!?」
「友達誘って合コンでも?!」
一気に話す高校生たち。そしてやはり私は、その勢いにビビる……
響「大丈夫? ヤダね? こいつ等! 逮捕しようか??」
〝いえ、そこまでは……〟
誓「一言でも“セクハラ”って言われてみろ?お前ら全員……――」
――ジャラり……
手錠をチラ見せさせる誓だった。“脅しだ”。
「?! あの日の、茶髪のニーチャンまでいるじゃん?!」
「ありえねぇ……」
「つーかオネーサンは、どっちの女ですか!?」
「どっちが彼氏ですか!?」
「どっちもですかっ?!!」
「警官相手に二股っ!?」
「それってすげぇー!」
瑠「っ!!?」
(えっ!? 何でそうなるの?彼氏!? 私もこの間、会ったばかりですけど……何だか、恥ずかしい……顔、熱くなってきた……)
私は思わず顔を覆って、高校生たらから顔を反らした。
「あれ! オネーサン照れちゃったよ!」
「カワイイねー!」
(私、高校生にからかわれている……このテンション、苦手……。――“彼氏”だなんて……――そんなっそんなっっ……!!――)
「二人の男と上手く遊ぶのは、大変じゃないですか!?」
――ボソッ……
(………。どうして、そうなった…? そう言えばさっき、“どっちもですか?“って言ってたな……“彼氏”と言う言葉に過剰に反応しすぎて、否定するのを忘れていた……。)
――『そんなんじゃねぇよ』って言って、高校生たちは“ベシッ!”っと、響に軽く頭を叩かれていた。
――そして、そんな響たちを尻目に……
誓「……――なぁ後で、一緒にメシ行こうぜ?」
瑠「行く!」
私は笑顔で返した。――そして振り返った響も、『決まりだな』って言って、楽しそうに笑った。そして……――
「〝俺らも、御一緒致します〞!!!」
――ついてくるつもり満々の5人を、私たち3人は、全力で……――
〝スルーした〞のだった。
その後私たちは、『じゃあまた後で』と話をしてから、一度別れた。
***
私はもう一度、自分のお店へと戻る。やはり、中には入れないようになっている。
店長は相変わらず、お店を眺めていた。
店長と話をしたところ、『取り敢えず、今日は帰って大丈夫』だと、そう言う話だった。
異レギュラーな事態を前に、突然、仕事が休みになってしまった。何も、する事がない……とても暇である。
少しの間、ただポカンとしながら、勤め先のお店を眺めてしまった。
だが少しするとまた、私は歩き始めた。誓と響との約束の“また後で”の時間まで、街を散歩する事にしたのだ。
――街を歩きながらまた、考えを巡らせていた。
……――それにしても、誓と響が“警察官”だったなんて……。初めて会った時、どちらかと言うと、“危険な方”だと思った。
そう言えば、“危ない”って言って、二人は私を送ってくれた。
――あれは警察官としての、当たり前の優しさ? ……――そう思うと、何だか少し……寂しいじゃない……
あの夜、“また”って言ったけど、もう会えないと思っていた。
“本当に会えたら嬉しいね“って、あの日、思っていた。
別れぎわの、優しい笑顔を見た時、“もっと、話しておけば良かった”と、後悔をした……
――あれ? 私……アナタに惹かれてる…――?
***
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