第7話「鎮火」

「短くも極めてギリギリの戦いだったわ、上手く炎を吸収出来たからこそ炎矢えんやによる全力の攻撃が可能だったわけだし。

 エールマもグルルも私が盾となったから無傷。

あなたは生命力オーラを全て使ったから防御も出来ずに、私の攻撃えんやをまともに受け、治癒も出来ない。 まぐれもまぐれの完全勝利」


「そんな長々と説明しなくても分かるよ、

もう"詰み"だ、『山賊王である所以ロイヤルビクトリー』の規模的に加勢も直ぐにやってくるだろう。 捕まって処刑なんてのはゴメンだ、俺は自害する。

山賊の魂は永遠だ、後継ぎがすぐリベンジするぜ」



――そう言い遺しポトポトは自ら首を断ち切った。



「ごめんなアペカムイ、君に助けられてばかりだ」


「エールマ君と契約していなければ許容量以上の炎だった。 この賭けは君が居ないと勝てなかった、というより賭けすらしなかったと思う」


「...そうか」




 いやぁそれにしても疲れ――――




 染みの様に盲点から広がる真っ暗な視界、それが疲労と安堵と共に我が身を支配してくる。 

 あれから何時間...いや何日経ったのかも分からない、目を覚ましたはずなのにまだ視界が暗い。

 ボヤけた目を慣らす為に何度か眼球や瞼を忙しなく動かす内、やがて目の前の世界が広がり始める。


「―――お、起きたのぉ」


「だ、どちら様でしょうか...」


「寝ぼけているのか?トノじゃよトノ」


「あ、あぁ...トノさんですか」


「お主、丸々3週間寝てたぞ」


「えェ!!??」


 そんな事実を聞き、思わず"ガバッ"という擬音でも付きそうな程に飛び起きてしまった。

 待ち伏せた様に、窓から差している夕日が黄金色こがねいろに視界を突き刺し、せっかく開けた眼界も今度は光という闇に包まれてしまう。

 そんな僕を見て笑うトノさんにムカッ腹を立たせながら、辺りを見渡すとそこにはトノさんの他にグルル君も居た。


「まぁなんだ、多分魔力を一気に使われ過ぎたのが祟ったんじゃろ。 お主の上で寝てる炎娘に魔力の請求でもするんじゃな」


 言われてみれば、妙な重みを毛布を通じて脚に感じる。 初めて認識した重みに、脚も痺れ始めた。

 猫のように丸まって僕の上に寝ているのは他でも無いアペカムイ、彼女を見ているとエーコクに来て初めての平和を享受した事を実感出来る。


「あはは、十百神の寝方って変わってますね」

「それはアペちゃんだけじゃろう」


「エールマさん!僕ずっと心配してたんですよ!

 もうこのまま永遠に目を覚まさないのかと...!」


 数秒の沈黙をチャンスと言わんばかりに、グルルは会話に挟まる。 彼の目をしっかりと見るのは思えば初めて、想像よりもずっと純朴な少年の眼だ。

 彼の手は赤く染まっており、その内には濡れたタオルがしっかり握られている。


「...もしかして俺って熱出してました?」


「そうじゃよ、魔力切れってのは人によっては深刻な症状じゃからな。 そりゃ熱も出るじゃろう」


「そうなんですか...ありがとな、グルル。 俺の事看病してくれてたんだろ?」


「か、看病って程じゃないですよ!僕のやった事はアペカムイさんの手伝い程度で...」

「それならアペカムイとグルルの両方にお礼しなきゃな!」


 ――もうすっかり目は覚めて、

グルルの含羞を含んだ横顔や、トノの老獪さをよく抱え持つ髭、アペカムイの無邪気な寝顔。 それらの全てが鮮明に見える。

 しかし...視界が鮮明になる度、主に三週間前の出来事に関する良くない杞憂もはっきりと表れた。

 そんな僕の思考を読んでいるかの様な、暗く重い声色や表情と共に口を開く。


「さて本題に入ろう、悪いニュースと、良いニュースと、お主次第で良いニュースがあるんじゃ。

 まずは悪いニュースから」


 あまりにも単刀直入な話の切り出しで唖然としてしまう。 返答も出来ない内に、というより一瞬も待たずにトノさんは話し始める。


「お主の父、そして六大冒険者である『オオダイ・アガリ』は魔王まおうシューベルの強襲により、激闘の末死亡した」


「......ッ!?」


「次に良いニュースじゃ、魔王軍の特攻隊長軍団である魔帝伏魔殿まていふくまでんは全滅。

そして魔王シューベル及び、その側近である四魔界よんまかい六大冒険者ろくだいぼうけんしゃ達の死闘により、瀕死の状態まで追いやられて撤退した。 まぁしばらく此方の世界には顔を出さないじゃろうな。 無論、魔王・魔帝伏魔殿戦のMVPはオオダイじゃよ」


「...そうですか―――」


「次はお主の捉え方にもよるが...

梟の十百神イソサンケカムイというエーコク直属の十百神カムイが居てな。そやつの密告により、エーコクここから北西1300km先にある海湖デビルマウスという巨大な火山湖に住む敵性十百神ウェンカムイ共がエーコクに攻め入る計画を立てていると分かったんじゃ」


「――!そんなッ...!!」


「こういう案件は上位冒険者が行く物じゃが、儂や六大冒険者らは魔王の痕跡を追わなければならない、住処が分かるかも知れんからのォ。

だから儂と六大冒険者の上位七人が、一人五人ずつ推薦した計三十五人で先に攻めてしまおうってわけじゃ、それに海湖の十百神れんちゅう海拷殿かいごうでんという人類に好意的な十百神組織と抗争中でもあるしな」


「......で、それがなんなんですか....?」


 僕は八つ当たりの様な口振りで言ってしまう。


「儂、お主を推薦しようと思っとるんじゃ。

あの山賊の長を討ち取った期待の新人だしな」


「そんな言葉で俺が喜ぶと思わないでください」


「それにグルル君も儂の推薦した班にるんじゃぞ、お主を看病してる間ずっと一緒に冒険したいって言っといた。」


「ッ....!」

 なんて卑怯な爺さんだ、と思った。

そしてグルルの方を見ると、足元を見て恥ずかしがっていた。


「まぁ、出発まで期限は三日ある。

じっくり考えるんじゃぞ!」


 僕は様々な思いで目が眩んだ。


 [To Be Continued....]

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