第5話「試練」

[エーコク王座柱塔門最上部]にて


「六大冒険者様へ伝令に参りました!!」



「伝令?珍しいな、サンキュー」



 モノクルと小さな帽子を身に着けている男はそう言う、名前はクックだ。

(クック様に返事された....!感激......!!!)



「てかオオダイはー!?数十年くらいに大体一度の六大冒険者大集合の命令なのに居ねーじゃん!!」



 傷面スカーフェイスの巨漢はそう言う、名前はアルコ。

(アルコ様今日もかっこいい...!!)



「オオダイは今魔王と闘っている。さっき空中でヤリ合ってんの見えた。 それに、オオダイはトノの命令で息子も連れてきたっぽい」



 髭が携え、薄毛の頭、威厳とスーツに身を包んだ男はそう言う、名前はレーノン。

(レーノン様、カリスマすぎる....!!!)



「なるほどな、トノ様は例の子供も駒にする気か」



 赤髪の好青年はそう言った、名前はオキクルミ。

(オキクルミ様...イケメン過ぎる!!)



「.......探さないと――――!!」



 茶髪の女はそう呟いた、名前はアッカムイ。

(アッカムイ様の横顔 ...高嶺の花過ぎる!!)


 ――六大冒険者の彼らは、ただただ塔の屋根上に鎮座していた。 各々おのおの其々おのおの思惑おもわくを持ち、其処には一片の油断と驕りは無い。プロの鑑とも言えるだろう。

(六大冒険者様、滅茶苦茶かっけェ〜〜〜〜ッ!)



「おい、今見えたのはトノ様か?

それに強い魔力反応が四体、あれは四魔界か!?」



 四魔界とは魔王直属の幹部であり、一体一体が六大冒険者に匹敵するレベルの強さを持つ。 魔王とは違って度々目撃情報があり、確認された所はいずれも甚大な被害が出ている。

 辺りを見回せば、街は炎の海で赤く輝き、黒く濁った蒼い空は独特な匂いがする。 波を立たせて過ぎ去る夜風は肌を冷淡れいたんに撫でる。

 街を見下ろす彼らはやがて動き出す。


「うし、決めたっ」

「じゃあ俺とクックがトノの加勢、レーノンとアッカムイ、オキクルミがオオダイの加勢な。 あと、隠のお前もオオダイの加勢で」

「(えぇ!?俺もォ〜〜〜〜〜!?)」


「――よし、それじゃあ」



「「「「「解散!!!」」」」」



 ―――茶髪で十百神の女、"アッカムイ"は焦燥を感じていた。 彼女は『ユートグリラ』で主に活動しており、無論オオダイ・アガリとも何度か会っていた。 その度に幼き頃のアガリ・エールマと触れ合ったり修行を手伝ったりしたものだ、彼の母親とも最期の時まで仲が良かった。

 オオダイ・アガリに六大冒険者集合の令を送ろうとトノに提案したのも彼女、アガリ・エールマも招待しようと提案したのも彼女だ。

 アッカムイはエールマとの長い触れ合いの中で、密かに弟子の様に思う様になっていた。 エールマをかつての"オオダイ・アガリ"や"ギュウトウ・ミツル"の様に修行させようと胸を躍らせたものだ。

 彼女は身勝手だった、長い人生を長いと思えない十百神独特の時間感覚は彼女に精神的成長を促すことは無かった。

 彼女は人生において二度、弟子を亡くしている。

『二度弟子を亡くしている』そんな事実に目を背け、彼女は身勝手で無責任な人生を謳歌する。

 深層心理はいつも、"試練を与えよ"と囁くのに。





「(まただ...また幻聴が)」


 アッカムイは私の様な、云わば『試練』の一つをいつも、いつも、いつもいつもいつも、言葉巧みに言い訳をして言い換えをして、やがて忘れ去る。 

 精神的成長を逃し無視し、自分を変えるチャンスを無くしてきたのは"十百神の時間感覚"だとか"長い人生に別れは有る物"なんていうバイアスじみたジレンマの運命などでは無く、全ての責任と原因は他でもない自分に有るのだ。

 彼女はある日、私の言葉に対して何の理論も立てれずに"愛"なんていう偶像で全てを片付けた。

しかしその愛という言葉もまた、彼女の人生を言い訳する、云うなれば偽る為の便利な道具なのだ。

 試練を乗り越えようと意識すらしない者の言葉など、自分にすら響かないのだ。

 現に彼女は

『アガリ・エールマを見逃しかけている』


「....ッ!」


「――う、うわぁ!何言ってんのか分かんねェ!」

 

 あれはエールマ君の声...!凄い!!対峙している十百神に綺麗な飛び蹴りが決まった!!! やっぱり、ああいう金の卵は私の様なベテランお姉さんが丁寧に孵化させて上げないといけないわよね! 

 ―――それが、冒険者の務めだもの。


「――お前...何をした!!」


 ...やっぱり、吸ってはいけないガスだったのね。

普通に助けてもいいけど、どうせだから今"あの子"を呼ぼうかしら。


「私、急ぎの用があるの。

前々から気になってたもんね、イケる?」


「う、うん!アッカムイさん!」


「またいつか会おうね、"アペ"ちゃん」


 ――さて、私は今直ぐにでもオオダイの加勢に行かなければならない。 最短で行くには、これを使うのが一番よね。


「『御正斬みしょうざん』!!」

 この槍は空気を操るッ!!それを意味する事はつまり、『空中浮遊エアサンポ』!!!



――ズアーーーーーーッッッッッ!!!



「1000m! 800m!! 300m!!! 50m!!!!」


 何かがおかしい...目的地から魔力の反応が無い。


「着い...なッ!?」


レンガのジャングルから抜け、目に飛び込んだ光景は瓦礫の山、そして傷だらけで立ち尽くすレーノンとオキクルミ、後は死体となった魔帝伏魔殿まていふくまでんに、



―――オオダイ・アガリだった。




 [To Be Continued....]

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