第6話
馬に乗せられたまま、門を開けてもらい、奥に入る。アルさんはあたしに何も言わない。
こちらもいい加減、疲れていたから何も言わずに進むがままにしていた。
そうして、しばらくすると煉瓦造りの建築物が見えてくる。煉瓦の色は見えない。
アルさんはふと、こちらを振り向いた。
「…ミヅキ。後少しで厩舎に着く。馬の背から降りてくれないか」
「あ、そうですね。わかりました」
頷いてから、アルさんに助けてもらいながら馬から降りた。厩舎に近い所で降ろしてもらってあたしはキョロキョロと辺りを見回してみた。
暗くはあるが堅固で見上げるほどに高い塔や煉瓦造りの建物が所狭しと並んでいる。明るい中で見てみたらもっと、印象が違ったんだろうなと思う。
しばらくして、アルさんが戻ってきた。
「とりあえず、付いて来い。私付きの侍女に訳を話しておく。もう、時間的に遅いからな。空いている客室があるはずだからそこに案内する」
「…ありがとうございます」
礼を言うとアルさんは頷いてくれた。
そして、そのまま黙って歩き出した。あたしは付いて行ったのであった。
「…ここが国外からの賓客などを泊める客室だ。通称を「白薔薇の間」という。明日になったら、父上にそなたを紹介する。それまではここで待て」
「…はあ。自由に使ってもいいんですか?」
「まあ、かまわん。そなたは異界から来た客人だろうからな。事後通告になるが父上や宰相たちからは許可を取っておく。その間、部屋から出なければ好きに使うといい」
「わかりました。いろいろとご迷惑をおかけします。じゃあ、早速寝てもいいでしょうか?」
あたしが尋ねてみるとアルさんはくすりと笑った。
表情が柔和なものになってしかめっ面でずっといた彼の雰囲気がごく自然なものになった気がする。
驚いて見つめていたら、アルさんは咳払いをしながら眉をしかめてしまう。
「…ああ、その。笑って悪い。休みたいのだったら、左側の扉が寝室に繋がっている。後、ここは応接間だ。向かって右側に洗面所、奥が厠(かわや)と浴室がある。真ん中は書斎になるからな。もし、覚えきれなかったらこれからつかわす侍女に聞くように。教えてくれるはずだ」
「…わかりました。左側が寝室で真ん中が書斎ですね。右が浴室や洗面所で。あの、カワヤって何ですか?」
あたしは訳がわからずに尋ねてみた。けど、アルさんは答えにくいのか目線を泳がせて黙りこんでしまう。
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