第5話
手伝った後でいとこがご褒美と言って、馬のいる厩舎の中に入らせてくれて。実際に馬の近くまで行かせていろいろと知識を教えてもらった。馬具を着けていない状態で背中に乗せてもらった事もある。直に触れた馬の感触と温もりは今でも覚えているのだ。
ただ、乗馬はさせてもらえなかったけど。
そんな事をツラツラと考えていたら、アルさんが訝しげに声をかけてきた。
「…ミヅキ。何を考えている?」
「な、何でもありません!」
首を横に振るとアルさんはそうかとだけ言って馬に乗るのを手伝ってくれた。
彼も馬の背に跨ると手綱を持って走り出した。
アルさんのお腹のあたりに両腕を回してしがみ付く。当然ながら、アルさんは何も言わない。ただ、不機嫌そうに眉をしかめたけど。
「…はっ!!」
そう声をかけて、馬の腹を蹴る。ひひんと馬が嘶(いなな)いて走り出した。
あたしは両手に力を入れた。周囲の景色が流れて見えるのが何とも言えなくてあたしはただ、無言でいたのであった。
それから、アルさんはひたすら馬を走らせた。王宮にたどり着くのも後少しだと告げられてあたしはほうと息を吐いた。
「…ミヅキ。疲れただろう。水だ、飲むといい」
そう言って水の入った皮袋を手渡してくれた。あたしは言葉に甘えて受け取る。
蓋は開けてあり、そのまま、ごくごくと飲んだ。アルさんはその光景をじっとみていたらしい。
あたしにもういいだろうと言って皮袋を取り上げてきた。驚いたけど、飲み過ぎだと指摘されて言い返せなかった。
「うう。ごめんなさい」
「まあいい。今度からは気をつけろ」
「…はい」
そんなやりとりをした後、再び馬に乗る。
夜道を走り、しばらくして王宮とおぼしき建物が見えてきた。
アルさんはあたしに馬に乗ったままでいるように言うと自分だけ降りた。
どうしたのだろうと思ったら、大きな石造りらしい門が見えたのだ。
そこの前に甲冑だろうか、頭から爪先までフルアーマーの二人組が佇んでいた。
あたしはその異様さに怯んでしまったがアルさんは平然として声をかけたのだ。
「…いつも、ご苦労な事だ。久方ぶりに妖魔狩りから戻れてな。侍従や侍女、父上達に私が戻った事を伝えてほしい。何、アルブレヒトが帰還したとでも一言伝えれば分かることだしな」
「…あっ。第二王子殿下であられましたか。わかりました、陛下や王妃様にお伝えして参ります。少し、お待ちを」
フルアーマーの一人が敬礼をしてそのまま、王宮の中へと走って行ってしまったのを見送った。
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