第2話

 そんなラフ過ぎる格好であたしはどこかに飛ばされた。ていう事はいわゆる巷で有名なトリップなるものをしたのだろうか。

 だが、こう真っ暗では見当のつけようがない。そして、歩き続けてしばらく経った。

 ぐるると低い何かの唸り声が聞こえてきて、現実にはあり得ない光景を目の当たりにした。

 真っ赤な目に黒い毛の大きなモノがあたしの前に佇んでいた。

 運悪く、月の光が雲の切れ間から差し込んできたらしく、それの姿がはっきりと見えた。

『…ミツケタ。ツキノミコ』

 それは低い声でそう言った。そいつの手元を見てあたしは脳がフリーズしそうになった。

 鋭いかぎ爪が指先から伸びていてあれに引っ掻かれたら、ひとたまりもなさそうだと思う。

 バクバクと心臓が鳴って本能が逃げろと告げていた。あたしは後ろに下がった。

 だが、奴も一歩、じりとこちらに近づいた。

『うまそうだ。魔王の贄に丁度いい。だが、くれてやるには惜しい』

 そう言いながら、奴はかぎ爪をいきなり、振り上げた。

 もう、これであたしは死ぬと思った。だが、どんと何かの強い力で突き飛ばされて地面に転がった。

「…太陽神よ。今、我、光の神子が請う。力を!」

 目を開けたら、眩い光が辺りに広がっていてとっさに、両腕で顔を庇った。

 そうでもしないと眩しくて目を開けていられなかったからだ。

『…ぎゃあ!!』

 断末魔の叫びが聞こえて光は徐々に収まったらしい。

 おそるおそるもう一度、目を開けてみると先程の化け物の姿が見えなかった。

 あたしは目の前に佇んでいる人影に驚いて悲鳴をあげそうになる。

「……先程は危なかったな。こんな夜中に若い娘がフラフラと出歩くなんて狙ってくれと言っているようなものだぞ」

 低い声でその人が男性だとわかる。

 言葉がちゃんと聞こえて理解できるという事はここは日本のどこかなのだろうか。

 そう思いながら、あたしは口を開いた。

「あの。助けて頂いてありがとうございます。あたし、さっきまで家にいたんですけど。大きな穴に落ちてしまって。気がついたら、ここにいたんですけど。ちなみにここはどこなんでしょうか?」

「……ここがどこかも分からずに彷徨っていたのか。見たところ、そなたは妙な格好をしているな。もしや、遠方から来たのか?

 」

 遠方と聞いてあたしはとりあえず、住んでいた町の名前を言った。

「…えっと。三浦町という所から来たんですけど」

「ミウラ?すまないが、ここにはそのような町はない。ここはアルシンという村だ」

 アルシンという言葉を聞いてここが日本ではないらしいという先程、思った事が当たっていたことに愕然とした。

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