魔法使い達の魔法芸術論

箒星新華

第0話 夜空を裂く光

 ——ある時僕は、何も考えずに夜空を見上げていた。

満月が夜空に現れ、宝石の様な輝きを放つ宇宙の星々が紺碧の一枚絵を彩っている。


 ——少し冷たく、少し鋭い風が吹き抜け、辺りの草木をなびかせている。


 ——満月の夜に、その出来事は突然訪れた——


 遥か遠くの夜空の下、一筋の閃光が放たれた。


 距離で言えば相当離れている。それでもその威力は伝わる位に大きな音を立てて、夜空を切り裂いては消えて行った。一瞬の主張だが、その印象は強烈な物だった。


 ——閃光の正体は、『光撃魔法』——


 この世界には『魔法』と言う種の力が存在している。極めて少数の『魔法使い』によって現代でも尚発展を続け、科学主義と対立する力となった、この世界で二番目に支持を集める力だ。


 ——支持を集める理由は、その圧倒的汎用性と破壊力——


 先程放たれた攻撃魔法も、何かに当たれば周囲は焼け野原になっていただろう。


 「……まったく……最近の新参魔法使いは困るものですわ」


 ——その光景を共に見ていた僕の師匠『月夜遥華』のその声に、僕は小さく首を縦に振った。


 「……新華。貴方は魔法の使い方を誤らない様にするのですよ」


 「分かっております。……遥華様の教え、無駄には致しません」


 ——僕の名前は『箒星新華』。月夜遥華を師匠とする『新星・魔法使い』だ。

新星・魔法使いとは魔法使いの特権称号であり、『新・星魔法』を得意とする魔法使いにのみ与えられる。現在その称号を得ているのは新華のみだ。


 ——特権称号を得ている事もあり、新華は最上位の魔法使いでもある。戦いも雑用も全ての魔法系統に置いて上位クラスの実力を持ち、その実力を超えるのは容易ではあらずと言う。——絶対不動の最強とも言われる位の魔法使いだ。


 「……それにしても遥華様。先程の魔法は一体何でしょうか」


 「……恐らく……只者では無いでしょう。……軽度の条件で発動している様に窺えますが、そこにあれ程の効果を見出すのは無理がありますわ」


 「……そろそろ僕も最強を譲る時が来そうですね」


 新華が新星・魔法使いの称号を得たのは、五年前の出来事になる。そこからずっと最強の座を持ち続けたのは、魔法使いの間でも極めて稀な事だ。


 「……そうなれば、私もそろそろ座を譲るのも近いですわね」


 「遥華様は最上位で在り続けられると思うのですが……」


 「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色……続きは?」


 「……盛者必衰の理をあらはす……」


 「よく出来ました。……これで魔法使いとしての覚悟を持てるでしょう」


 「一体何の関係があるのですか?」


 「……一時代に大きな力を得たとしても、何れは衰える時が来るのです。私も貴方も、今は最強とその師で在りますが、全然超えられる時が訪れるのは必然ですわ」


 「……負ける覚悟は必要だと言う事ですか?」


 「……まさにその通りです。貴方の力も超えられる時は来るのです。それが貴方が生きている間にか、それとも後の出来事か……それは誰にも知る事はありません。……ただ、それを受け入れる事も、時には必要ですわよ??」


 「……言われてみれば仰る通りで御座います」


 ——最強は負けない訳では無い。だったら、盛者必衰も成り行きと言う訳だ。


 「……ただ、貴方が負けるとは思いませんわ。そこは安心するのですよ」


 「……ご期待に沿える様、今後とも魔法使いで在り続けます。遥華様」


 「……では、そろそろ戻る事にしましょう。新華、行きますわよ」


 「はい。遥華様」


 ——新華達は、月の飾られた一枚絵に背を向けて、歩き出した——

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魔法使い達の魔法芸術論 箒星新華 @Houkiboshi-Shika

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