第54話
ふっ、と、視線を少し下げた、伊織くん。
その仕草だけでまた、この廊下の時間が動き出す。
「…入んないんす、か…?」
ドアを指差す、から。
「…あ…、入り、ます…」
ちいさくつぶやいて、ドアについている鍵穴に、カギを差し込んだ。
がちゃり、と、思いの外、大きな音が鳴って。
思わず、びくん、と、両肩をあげる。
「…ふふ、コソドロ、みてー」
ふわり、笑う伊織くん、に。
俯瞰で考えたら、その通りだ、と思い当たって。
「ほんとだねー」
私も笑って、返した。
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