第36話

「…あの…、」



言いかけたコトバは、空中で、止まる。



「どうして、追いかけてきたかっ、て?」



その通りだけれど。



『追いかけてきた』なんて、自惚れているみたいで、コトバにすることは出来ない。



「気になったからー。あなたの、こと」



じゃ、ダメっすかー?



間延びした口調は、激しくからかわれている気がして。



羞恥心のあまり、頬が赤くなるのが自分でもわかって。



黙って、握られている右手を振り切って、スーツケースを彼の手から奪い取って、足早で歩き出す。




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