第32話

「…しっかり、聞こえてますけどー。舌打ちー」



後ろから、ふいにかかった、声。



同時に、握っていたスーツケースの持ち手が、ふわり、と、持ち上がって。



あの細い指さきが、ほんの一瞬、私の指に触れる。



…きゃ…ッ…!



思いがけない感触に、まるで灼熱の鉄を触ってしまったような感覚に襲われて。



瞬時に手を引っ込める。



同時に、傘を握っていた左手まで離してしまって。



気がついたら、舗道に尻もちをついている。



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