第31話

傘まで貸してもらっちゃったな。



絶対にまた、お礼も兼ねて来ないと。



ビニール傘の柄に付いているボタンを押したら、ポン、と気持ちが明るくなるような音がして、勢いよく、傘が開いた。



向こうの空は明るくなっている。



その方向へ向かって、大股で歩き出す。



がらがらと音をたてる、スーツケース。



勢いをつけて、ひたすらに、スーツケースを転がす。


大丈夫、きっと、大丈夫。



自分に、言い聞かせて。



それなのに。



舗道のコンクリートに開いている、小さな穴にタイヤが引っ掛かってしまって、思わずちいさく、舌打ち。




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