第30話
彼女と彼に、お礼を言って、お店を出た。
払おうとしたコーヒー代は、『今日はいらないわ。また、来てね』
やさしく拒否をされた。
スーツケースひとつでふらふらと歩いていた、オンナに。
「旅行、かしら?」
「…あ、いえ…、引っ越して、来たんです…」
そんな会話だけ、で。
それ以上、詳しいことは聞かずに。
ゆっくりとコーヒーを飲ませてくれた。
ドアを開けたら、来たときと同じ、ドアベルがカラカラと鳴って。
なんだか。
なんだかそれだけで、『大丈夫』な、気がしている。
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